属人化業務をAIで標準化する3ステップ|建設業の積算事例で解説
「あの人がいないと仕事が回らない」——中小企業の経営者なら、一度はこの恐怖を感じたことがあるのではないでしょうか。特に建設業の積算や、製造業の品質管理など、長年の経験と勘に依存した業務は、ベテラン社員の退職と同時に「会社の資産」が消えてしまいます。
実はこの問題、生成AIを使えば解決の糸口が見えます。ただし「AIツールを入れれば解決」ではありません。本記事では、生成AI顧問として中小企業の現場を見てきた筆者が、属人化業務をAIで標準化する具体的な3ステップを、建設業の積算業務の事例を交えて解説します。
目次
属人化業務とは?中小企業が直面するリスク
【結論】属人化とは特定の社員しか遂行できない業務状態のこと。中小企業では「仕組みがない」ことが根本原因であり、ベテラン退職時に業務停止リスクを抱える。
属人化が起きる構造的な原因
属人化業務とは、特定の社員の経験・知識・判断力に依存し、その人がいなければ業務が遂行できない状態を指します。中小企業で属人化が起きるのは、社員個人の問題ではありません。業務を標準化する「仕組み」が組織に存在しないことが根本原因です。
日々の業務に追われ、マニュアル作成やナレッジ共有に時間を割けない。結果として、ベテラン社員の頭の中にだけノウハウが蓄積されていく。この悪循環が、中小企業の属人化問題の本質です。
ベテラン退職で業務が止まる現実
属人化の最大のリスクは、キーパーソンの退職・休職時に業務が完全に停止することです。中小企業では一人の社員が複数の重要業務を兼務しているケースが多く、その一人が抜けるだけで連鎖的に業務が滞ります。
人手不足が深刻化する2026年現在、「代わりの人材を採用すればいい」という選択肢はもはや現実的ではありません。新たに採用できたとしても、ベテランが10年・20年かけて蓄積した暗黙知を短期間で引き継ぐことは不可能です。だからこそ、人に依存しない仕組みづくりが急務なのです。
なぜ生成AIが属人化解消の切り札になるのか
【結論】従来のマニュアル化は「作って終わり」で形骸化しやすい。生成AIのRAG技術を使えば、蓄積したデータに誰でも質問して回答を得られる「生きたナレッジ基盤」が構築できる。
従来の「マニュアル化」が失敗する理由
「属人化を防ぐためにマニュアルを作ろう」。この取り組み自体は正しいのですが、多くの中小企業で失敗に終わっています。その理由は明確で、マニュアルは「作った瞬間から陳腐化する」からです。
100ページのマニュアルを作っても、必要な情報がどこに書いてあるか探すだけで時間がかかる。結局「ベテランに聞いた方が早い」となり、マニュアルは棚の奥で埃をかぶります。問題は情報の存在ではなく、必要な情報に瞬時にアクセスできるかどうかなのです。
RAGとNotebookLMが変えるナレッジ共有
ここで注目すべきが、生成AIの「RAG(Retrieval-Augmented Generation:検索拡張生成)」という技術です。RAGとは、社内に蓄積したドキュメントやデータをAIが参照し、質問に対して根拠のある回答を返す仕組みです。
GoogleのNotebookLMはこのRAG技術を手軽に活用できるツールの一つです。社内のマニュアルや議事録、過去の見積書などをNotebookLMに読み込ませれば、誰でも自然言語で質問するだけで、そのデータの中から回答を得られます。つまり「ベテランの頭の中にある知識」を、データとして誰もがアクセスできる状態にできるのです。
「属人化解消の本質は”AIツールを入れること”ではありません。ベテランの知識をデータ化し、誰でもアクセスできる仕組みを作ること。AIはその仕組みを動かすエンジンにすぎないのです」
— 生成AI顧問の視点
生成AI顧問がどのような支援を行うのか、詳しくは生成AI顧問サービスとはをご覧ください。
属人化業務をAIで標準化する3ステップ
【結論】属人化解消は「業務棚卸し→データ化→AI実装」の順序が鉄則。AIツール導入を先にしても失敗する。データの質が成果の8割を決める。
業務の棚卸しと可視化
どの業務が、誰に、どの程度依存しているかを洗い出す
ナレッジのデータ化・マニュアル化
ベテランの暗黙知をドキュメント・データとして言語化する
AI(RAG・NotebookLM)の実装
データをAIに読み込ませ、誰でも情報にアクセスできる状態を作る
ステップ1:業務の棚卸しと可視化
最初にやるべきことは、AIツールを選ぶことではありません。自社のどの業務が、どの社員に依存しているのかを「棚卸し」することです。
具体的には、以下の観点で業務を洗い出します。
この棚卸しを行うだけで「思っていた以上に特定の社員に依存していた」と気づく経営者がほとんどです。まずは現状を正しく把握すること。それが属人化解消の出発点になります。
ステップ2:ナレッジのデータ化・マニュアル化
棚卸しの次は、ベテラン社員の頭の中にある暗黙知を「データ」として言語化する工程です。ここが属人化解消の最重要フェーズであり、成果の8割はこのステップの質で決まります。
ポイント
データ化とは、ベテランに「なぜその判断をしたのか」をインタビューし、判断基準・例外対応・過去事例をドキュメントに落とし込むことです。単なる手順書ではなく「判断の根拠」まで記録することが重要です。
データ化の具体的な方法としては、ベテランへのヒアリング(録音→文字起こし→整理)、過去の成果物の収集(見積書、報告書、議事録など)、判断基準のフローチャート化が有効です。ChatGPTやClaudeを使えば、録音データの文字起こしや、ヒアリング内容の構造化も効率的に行えます。
この段階で「不要な業務」も見えてきます。棚卸し→データ化の過程で「実はこの作業、やらなくてもよかった」という業務が必ず出てくる。不要な業務を削った上で、残った業務をAIで標準化する。この順番を守ることが重要です。
ステップ3:AI(RAG・NotebookLM)の実装
データ化が完了したら、いよいよ生成AIの実装です。ここでの目標は「データに対して、誰でも質問したら回答が返ってくる状態」を作ることです。
具体的なツールとして、Google NotebookLMが中小企業には使いやすい選択肢です。NotebookLMにマニュアル、過去の見積書、ヒアリング記録などをアップロードすると、そのデータを元にAIが質問に回答してくれます。たとえば「この条件の場合、過去にどう対応したか」と質問すれば、アップロードしたデータの中から根拠付きで回答が返ってきます。
より高度な実装が必要な場合は、ChatGPTのカスタムGPTs機能や、Claudeのプロジェクト機能を活用したRAG構築も有効です。いずれの場合も、AIの精度はインプットするデータの質に依存します。だからこそステップ2のデータ化が最重要なのです。
注意
生成AIにはハルシネーション(事実と異なる内容を生成する現象)のリスクがあります。業務判断に使う場合は必ずRAG技術を活用し、社内データに基づいた回答を返す仕組みにしましょう。また、企業の機密情報を扱う場合はChatGPT、Gemini、Claude等の有料版を使用し、データが学習に利用されない設定を確認してください。
AI導入の進め方について専門家のサポートが必要な方は、生成AIコンサルティングもご参考ください。
建設業・積算業務での活用事例
【結論】建設業の積算業務は属人化の典型例。過去の見積データと判断基準をAIに集約することで、ベテラン不在でも積算業務の精度を維持できる。
属人化が顕著に表れる業種の一つが建設業です。特に積算業務——工事にかかる費用を算出する業務——は、ベテランの経験と勘に大きく依存しています。
積算では、図面を読み解き、材料費・労務費・外注費を一つひとつ積み上げていきます。しかし「この工法ならこのくらいの費用感」「この地域の相場はこれくらい」「この協力会社との過去の実績ではこうだった」といった判断は、すべてベテラン積算担当者の頭の中にあります。
ある建設会社では、この積算業務の属人化をAIで解消するプロジェクトを進めました。取り組みの流れは以下の通りです。
このプロジェクトの最大の成果は「若手社員が、ベテランがいなくても過去の判断基準にアクセスできるようになった」ことです。NotebookLMに「過去に同じ工法で積算した案件はあるか」と質問すれば、該当するデータが根拠付きで返ってくる。これがRAGによるナレッジ共有の威力です。
「多くの企業が”AIで何ができるか”から考えますが、順番が逆です。まず”どの業務のどの判断が人に依存しているか”を特定し、そのデータを整備してからAIを入れる。この順番を守るだけで、成功確率は格段に上がります」
— 生成AI顧問の視点
属人化解消を成功させるためのポイント
【結論】属人化解消は技術の問題ではなく、経営判断と組織の問題。トップのコミットメント、小さく始める姿勢、継続的な改善サイクルの3つが成功を分ける。
3ステップの方法論を理解しても、実際の導入で失敗する企業は少なくありません。成功と失敗を分ける要因は、ツールの選定ではなく、組織としての取り組み方にあります。
1つ目は、経営者のコミットメントです。属人化解消は現場任せでは進みません。経営者が「これは経営課題だ」と認識し、予算と時間を確保する必要があります。特にベテラン社員のヒアリングには相当な工数がかかるため、通常業務と並行して進められる体制を経営判断で整えることが不可欠です。
2つ目は、スモールスタートの姿勢です。全業務を一度にAI化しようとすると、確実に頓挫します。まずは1つの業務、1つの部署から始めて小さな成功事例を作る。その成功を横展開していくアプローチが、中小企業には最も適しています。
3つ目は、継続的な改善です。AIに投入するデータは一度作って終わりではありません。新しい案件や判断事例が発生するたびにデータを追加し、AIの回答精度を継続的に向上させていく。このPDCAサイクルを回し続けることが、属人化を再発させないための仕組みになります。
BoostXが多くの中小企業に選ばれている理由について、詳しくは選ばれる理由をご覧ください。
よくある質問(FAQ)
まとめ
属人化は「人の問題」ではなく「仕組みの問題」です。そして今、生成AIの進化により、中小企業でも手の届くコストでナレッジ共有の仕組みを構築できるようになりました。
ただし、AIツールを導入すれば解決するわけではありません。業務の棚卸し→データ化→AI実装という順序を守り、データの質にこだわること。それが属人化解消を成功させる鉄則です。
「うちの会社でも属人化を解消できるのか」「何から始めればいいのか分からない」という方は、まず無料相談の流れをご確認ください。売り込みは一切ありません。現状の課題整理と、最初の一歩を一緒に考える場としてご活用いただけます。
この記事のまとめ
- 属人化は「仕組みがない」ことが根本原因。人の問題ではなく組織の問題として捉える
- 属人化解消の3ステップは「業務棚卸し→データ化→AI(RAG)実装」。この順番が鉄則
- 成果の8割はデータ化の質で決まる。AIツール選定より先にデータ整備に注力すべき
- NotebookLMやChatGPTのRAG機能を使えば、誰でもナレッジにアクセスできる仕組みが作れる
- 経営者のコミットメント、スモールスタート、継続的改善の3要素が成功を左右する
生成AI伴走顧問サービスの詳細は生成AI伴走顧問のページでもご確認いただけます。
執筆者
吉元大輝(よしもとひろき)
株式会社BoostX 代表取締役社長
中小企業の生成AI導入を支援する「生成AI伴走顧問」サービスを提供。業務可視化から定着支援まで、一気通貫で企業のAI活用を推進している。
※本記事の情報は2026年2月時点のものです。
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