決算書の転記と稟議書の下書き、AIに任せる4欄と融資担当が書く所見・可否
生成AIは転記候補と事実の4欄を下書きし、科目の読み替えと返済能力の所見・可否は融資担当が書く
生成AIは転記候補と、原本で照らせる4欄の下書きまで。所見・可否と読み替えの確定は融資担当が書き、支店では最初に試す欄と下書きを止める条件を決められる。

30秒でわかること
何が問題か
財務入力の委託が終わると決算書3期分の転記が融資担当に戻り、科目の読み替えで止まって財務推移の欄を書き始められない。
何を見れば判断できるか
原本と照らせる欄は取引経緯・財務推移・資金使途・保全の現況の4つ。所見と可否には照らす原本が無く、下書きに回さない。
誰が何をすれば解決するか
読み替えの確定と所見・可否は融資担当、回付前の点検は融資課長。生成AIは転記候補と4欄の下書きまでを受け持つ。
稟議書は原本と照らせる事実の欄だけをAIに下書きさせる
生成AIに下書きさせてよいのは、財務入力表・前回の稟議書・担保評価の記録と1行ずつ照らせる欄です。決算書の受領から審査部への回付までを、7つの工程に並べます。
図の要点:生成AI・融資担当・融資課長の3レーンで、決算書の受領から審査部への回付までの7工程を並べた図。生成AIが決算書3期分の科目と数字を財務入力表の候補として置き、融資担当が「要確認」の科目を内訳明細書で読み替えて表を確定する。生成AIは確定した表から財務推移を、前回の稟議書などから取引経緯・資金使途・保全の現況を書く。融資担当が下書きの数字を表と照合し、所見と可否を空欄から書く。融資課長が回付前に事実の欄へ判断の言い回しが紛れていないかを見る。
原本と照らせる欄だけをAIに回し、読み替え・所見・回付前の点検は人が持つ
生成AI
融資担当
融資課長
- 生成AI
決算書3期分の科目と数字を、財務入力表の欄に候補として置く
元の科目名と原本のページを添える
- 融資担当
「要確認」の科目を内訳明細書で読み替え、財務入力表を確定する
戻す内訳書が無ければ取引先へ追加で依頼
- 生成AI
確定した財務入力表だけから、財務推移の欄を増減の事実で書く
増減の理由は書かせない
- 生成AI
取引経緯・資金使途・保全の現況の3欄を書く
前回の稟議書・借入申込書・担保評価の記録を渡す
- 融資担当
下書きの数字を、財務入力表と1行ずつ照合する
戻す合わない段落は捨てて書き直す
- 融資担当
面談の記録をもとに、返済能力の評価・所見・可否を空欄から書く
受注の見通しなど資料に無い情報が入る
- 融資課長
事実の欄に判断の言い回しが紛れていないかを、回付前に見る
戻す判断の文は融資担当へ、数字の食い違いは財務入力表へ
財務推移の下書きに決算書のPDFをそのまま渡すと、確定前の読み替えが稟議書に紛れ込みます。材料にするのは、融資担当が確定した後の財務入力表だけです。
決算期から半年以上たっている先なら、直近の試算表も財務推移の材料になります。試算表は決算で確定した数字ではないため、下書きでは決算の数字と試算表の数字を分けて書かせます。新規の取引先なら前回の稟議書が無く、取引経緯の欄はAIに回せません。
決算書の転記は勘定科目の読み替えで止まる
転記で時間を取られるのは、数字を写す所ではありません。決算書の科目を、財務入力表のどの欄に置くかを決める所です。置き場所を誤ると、数字が合っていても自己資本比率や債務償還年数が変わります。
手が止まる所は三つあります。原本はPDF・紙のコピー・FAXと、届く形がそろいません。人件費や減価償却費は製造原価報告書と販売費及び一般管理費に分かれ、合算して初めて欄が埋まります。役員借入金や仮払金の中身は、勘定科目内訳明細書を開くまで分かりません。
読み取りの機械化は、すでに広がっています。金融庁の2024年11月の実態調査では、回答先の半数以上が書類のテキスト化(OCR)を導入済みでした。例に挙がったのが、取引先から手交やFAXで受け取った決算書のデータ化です。読み取りが機械になっても、科目をどの欄に置くかの判断は支店に残ります。
委託先は、この読み替えを行の基準でそろえていました。支店に戻ると、基準を知る人と知らない人で確定する欄が変わります。その違いは、審査部からの差し戻しとして表に出ます。
役員借入金や雑収入は、担当者が内訳明細書で確かめる
行の審査基準で扱いが分かれる科目は、AIに「要確認」の印を付けさせます。置き場所は、融資担当が勘定科目内訳明細書と照らして決めます。
| 決算書の科目 | 財務入力表で決める点 | 照らす原本 |
|---|---|---|
| 役員借入金 | 借入金とするか、自己資本に近い扱いにするか | 借入金及び支払利子の内訳書 |
| 製造原価の労務費・減価償却費 | 販管費の同じ科目と合算するか | 製造原価報告書と販管費の内訳 |
| 雑収入・雑損失 | 本業の収益か、一過性のものか | 雑益、雑損失等の内訳書 |
| 役員への仮払金・貸付金 | 資産から差し引くか | 仮払金(前渡金)の内訳書、貸付金及び受取利息の内訳書 |
表のどの科目も、正しい置き場所は銀行ごとの審査基準で決まり、決算書の表面だけでは判断できません。AIには置き場所を選ばせず、印を付けるところで止めます。
AIに渡すのは、決算書3期分のPDF、勘定科目内訳明細書、財務入力表の項目一覧、行内の読み替えの手引きです。返ってくる候補には、欄ごとに元の科目名と原本のページを並べさせます。
「要確認」の印は、融資担当が原本を開く順番を決める材料です。印の無い行も、財務入力表を確定する前に、欄と数字を原本と突き合わせます。
読み替えの基準がベテランの頭の中にしか無い支店は、そのままでは生成AIの下書きに向きません。先に手引きの文書化が要ります。基準が書かれていないまま候補を出させると、人ごとに違う読み替えで確定されます。その結果、審査部での差し戻しは減りません。
所見と可否の欄は空欄のまま返させる
返済能力の評価・所見・可否の欄は、叩き台も作らせずに空欄のまま返させます。所見には、融資担当が社長と話して得た受注の見通しや後継の話が入ります。どの資料にも載っていない情報です。
叩き台があると、融資担当はそれを直す側に回ります。自分の見立てを一から書かなくなり、所見が下書きの言い回しに寄っていきます。審査部が所見から読み取りたいのは、取引先を見てきた融資担当の判断です。
事実と判断の境目は、文の途中にあります。「増収だが利益率は下がった」までは、財務入力表と照らせる事実です。「一過性のため返済に支障はない」と続けた時点で、融資担当の判断に変わります。
金融庁のAIディスカッションペーパー第1.1版(2026年3月)では、過去の稟議書などを参考に稟議書をドラフトする使い方が、複数の金融機関等から挙がっています。そのうえで、稟議書は融資判断など顧客に重要な影響を及ぼしうるとして、人の関与を必須とする運用が大半と整理しています。所見と可否を人の欄として残すのは、この運用と同じ向きの分け方です。
同じ2024年の調査で、要約や翻訳のような汎用の使い方は7割超の金融機関等が導入済みでした。稟議書で決めるべきなのは、生成AIを使うかどうかより、どの欄を人が書くかです。近くの他行が稟議を速めていると聞いても、比べる相手は下書きの有無ではなく、取引先へ回答するまでの日数です。
審査部の照会で、財務推移の文と財務入力表の食い違いが続くことがあります。その場合は、下書きの指示より先に、渡している資料を疑います。確定前の財務入力表を渡していた、という取り違えが起きやすいからです。
顧客の決算書を生成AIに入れる前に、送る資料の範囲を決める
外部の生成AIサービスに決算書を入れる前に、行内で送ってよい資料の範囲を決めます。法人の決算書は法人の情報ですが、勘定科目内訳明細書には役員借入金の借入先など個人の氏名・住所が載ります。代表者の個人保証の資料や個人事業主の確定申告書は、そもそも個人の情報です。
銀行法施行規則第13条の6の5は、個人の顧客の情報について、安全管理・従業者の監督・委託先の監督の措置を銀行に義務づけています。第13条の6の6は、信用情報機関から得た個人の資金需要者の返済能力の情報を、返済能力の調査以外に使わない措置を求める規定です。信用情報の照会結果を下書きの材料に混ぜるなら、この措置と合うかをコンプライアンス担当と先に確かめます。
個人情報保護法の側では、第17条が利用目的の特定を、第23条が個人データの漏えいを防ぐ安全管理措置を、事業者に求めています。個人データの扱いを行外の事業者に預ける形になれば、預け先を監督する義務も付きます(第25条)。
入力の扱いは、サービスの契約が委託かどうかで分かれる
生成AIサービスへの入力の扱いは、サービス側が入力の中身を取り扱う契約かどうかで3つに分かれます。サービス側が個人データを取り扱わない旨を契約で定め、アクセスも適切に制限していれば、そもそも個人データの提供に当たりません。入力がサーバに保存されても、この判断は変わりません(個人情報保護委員会のQ&A 7-53)。
サービス側が中身を取り扱い、利用目的の達成に必要な範囲で取扱いを任せる契約なら、委託に当たります。本人の同意は要りませんが、委託先を監督する義務が銀行に残ります(個人情報保護法第27条第5項第1号・第25条)。どちらにも当たらなければ第三者提供で、第27条第1項により本人の同意を前もって得ることが必要です。
サービスを運営するのが国外の事業者なら、委託の形でも第28条(外国にある第三者への提供)の本人の同意が要るかを確かめます(Q&A 12-1)。同等の水準にあると認められた国の事業者や、基準に適合する体制を整えた事業者は、この同意の対象から外れます。どれに当たるかは、コンプライアンス担当と先に決めます。
預け先の監督として、契約と管理画面で確かめておく点があります。
- 入力したデータを保存するか、保存期間はどれだけか、学習に使うか
- 契約が終わったとき、入力データが消されるか
- 再委託先はどこか、データの保存場所は国外か
- 行内で誰が触れるかというアクセス権限と、操作ログが残るか
- 漏えいが起きたとき、いつ誰に連絡が来るか
これらは法が項目として並べているものではなく、委託先の監督を行内で確かめるための点です。確認が済むまでは、個人の情報を含む資料は入れません。代表者の氏名と住所、保証人の欄は、AIに渡す前に消す欄として手引きに書いておきます。
委託・OCR・生成AIは、読み替えを確定する人で比べる
三つの進め方の違いは、誰が転記し、誰が読み替えを確定するかです。OCRと生成AIの下書きを選べば、読み替えの確定は融資担当に戻ります。
| 進め方 | 読み替えを確定する人 | 合う支店の条件 |
|---|---|---|
| 財務入力の外部委託 | 委託先が行の基準で確定し、融資担当は結果を見る | 転記の件数が多く、委託費が支店の工数より安い |
| OCR入力 | 融資担当が科目の置き場所を決める | 決算書の様式がそろい、手間の中心が数字の入力にある |
| 生成AIの下書き | 融資担当が「要確認」の行を原本で確定する | 読み替えの手引きがあり、稟議書の事実の欄も下書きに回したい |
選ぶ前に確かめるのは、年間の転記件数と、読み替えの手引きが文書になっているかの2点です。転記の件数が少なく、1件ごとに読み替えの論点が違う先ばかりの支店なら、転記は融資担当の手入力のまま残し、稟議書の事実の欄だけを下書きに回す組み合わせも選べます。
申込書類の不備の洗い出しのように、稟議の前に来る審査事務は審査・査定資料の業務一覧から工程ごとにたどれます。面談記録など支店のほかの業務は、金融・保険の業務別の記事一覧から探せます。
財務推移の欄から試し、審査部の照会で止め時を見る
財務推移の欄は、確定した財務入力表だけを材料にする欄で、下書きの誤りは表と1行ずつ突き合わせれば見つかります。稟議書の欄のうち、誤りを最も拾いやすいこの1欄から試します。試す取引先に向くのは、長い取引があって前回の稟議書がそろい、製造原価報告書も付く製造業の先です。
止め時の目安は、財務推移について審査部から受けた照会の件数と、下書きを捨てて融資担当が書き直した段落の数です。融資課長が稟議書1件ごとにこの2つを数えて控えておけば、下書きを使う前の稟議と同じ物差しで比べられます。
照会が使う前より増えたときに疑う順番は、AIに渡した財務入力表の版が先で、読み替えの手引きの該当する行が次です。どちらかを直すまで財務推移の下書きは止め、直した後は同じ取引先で再開します。
明日から始める3ステップ
前回の稟議書がそろい製造原価報告書も付く製造業の取引先を1社選び、確定済みの財務入力表だけを渡して財務推移の欄を下書きさせる
- 担当
- 融資担当
- 次へ進む目安
- 下書きの数字を財務入力表と1行ずつ照合し、合わない段落を書き直した稟議書が1件できた
使う生成AIサービスの契約と管理画面で、入力の保存と学習への利用、再委託、保存場所を確かめ、渡してよい資料と消す欄を読み替えの手引きに書く
- 担当
- コンプライアンス担当
- 次へ進む目安
- 代表者の氏名・住所と保証人の欄を消す手順が手引きに載り、個人の情報を含む資料は入れない決まりが支店に配られた
稟議書1件ごとに、書き直した段落の数と、財務推移について審査部から受けた照会の件数を控え、下書きを使う前の稟議10件の同じ数と並べる
- 担当
- 融資課長
- 次へ進む目安
- 下書きを使った稟議が、融資課長が区切りに置いた10件に達し、照会が使う前の10件より多くなければ、取引経緯の欄の下書きへ進む
この記事の見方を、自社に当てはめる
- 得られるもの
- 代理店・営業拠点のいまの段階と、面談記録の下書き・保険金請求の書類の案内・申込書の記載の点検など6候補から最初に任せる1工程、その理由、人が確かめる所と止める条件、2週間の試し方が出る
- 所要時間
- 約1分(6問)
- 登録
- 結果を見るまで登録は要りません
- 押した後
- 答えるとその場で、最初にAIへ任せる1工程と、人が確かめる所、2週間の試し方が出ます。資料として受け取るときだけ、会社名・お名前・メール・役職を入力します。
出典・参考資料4件
- AIディスカッションペーパー(第1.1版)金融分野におけるAIの健全な利活用の促進に向けた初期的な論点整理Ⅲ-2 生成AIの主なユースケース(ドラフト作成・組織の意思決定関連)・Ⅲ-1 従来型AIの主なユースケース(2024年実態調査)① 業務効率化・Ⅲ-2 生成AIの導入状況と主なユースケース(2024年実態調査)金融庁 確認日 2026.09.29
- 銀行法施行規則(昭和57年大蔵省令第10号)第13条の6の5(個人顧客情報の安全管理措置等)・第13条の6の6(返済能力情報の取扱い)e-Gov法令検索(デジタル庁) 確認日 2026.09.30
- 個人情報の保護に関する法律(平成15年法律第57号)第17条(利用目的の特定)・第23条(安全管理措置)・第25条(委託先の監督)・第27条第1項(第三者提供の制限)・第27条第5項第1号(委託に伴う提供)・第28条第1項(外国にある第三者への提供の制限)e-Gov法令検索(デジタル庁) 確認日 2026.09.30
- 個人情報保護委員会「「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン」に関するQ&A」Q7-53(クラウドサービスの利用)・Q12-1(外国にある第三者への委託)個人情報保護委員会 確認日 2026.09.29
編集・監修体制BoostX編集部
BoostX編集部(株式会社BoostX)が、官公庁・業界団体などの一次情報を原典で確かめて書いています。下書きにはAIを使い、編集担当者が内容と出典を確認してから公開しています。
更新履歴
最終更新
銀行法施行規則第13条の6の5・第13条の6の6と、個人情報保護法の引用条文をe-Govの現行版で照らし直しました。生成AIへの入力の区分を小見出しに分け、契約と管理画面の確認をコンプライアンス担当の手順に加えました。財務推移の下書きの止め時は、照会が増えたときに疑う順番から書き直しました。記事の上の要約と重なっていた書き出しの段落を外し、進め方を比べる節の見出しを短くしました
すべての更新履歴3件
- 銀行法施行規則第13条の6の5・第13条の6の6と、個人情報保護法の引用条文をe-Govの現行版で照らし直しました。生成AIへの入力の区分を小見出しに分け、契約と管理画面の確認をコンプライアンス担当の手順に加えました。財務推移の下書きの止め時は、照会が増えたときに疑う順番から書き直しました。記事の上の要約と重なっていた書き出しの段落を外し、進め方を比べる節の見出しを短くしました
- 旧タイトル「決算書の転記と稟議書の事実部分はAIで下書き、融資の判断は担当者が書く」から改題しました。融資課長が回付前に見る工程と、要確認の印が無い行も原本と突き合わせる手順を加え、委託と外国の事業者への提供に関する個人情報保護法の条文を確かめ直しました
- 転記から回付までの流れを、AIが下書きする欄と担当が確定する欄に分けて示す図に改めました。直近の試算表の扱い、所見を空欄で返す理由、最初に試す欄と記録する数を加えました