この記事の要点
- 面談名簿の抽出、質問の下書き、面談記録の項目別整形はAIに渡せます。
- 対応するかどうか、派遣先へ伝える範囲、記録の確定はコーディネーターと支店長が持ちます。
- 本メディアでは、離職の予測ではなく抽出と記録から始めるべきだと判断します。
定義対象は、派遣コーディネーターが配属後のスタッフに対して回す定期フォローの一連の業務です。
面談の予定が組まれないまま、月が終わるスタッフが出る。派遣元の支店で起きるこの抜けは、コーディネーターの怠慢ではありません。配属日の一覧、前回の面談日、勤怠データが別々の場所にあり、名簿を作る段階で手が止まるからです。
AIを入れる前に要るのは、フォローを工程に割ることです。割らないまま「定着フォローをAIで」と決めると、話は離職の予測へ流れます。予測をもとに更新の可否を決めた瞬間、派遣労働者の待遇について説明がつかなくなります。
配属後のフォローは支店のどこで発生しているか?
対象は、派遣コーディネーターが配属後のスタッフに対して回す定期フォローの一連の業務です。面談する相手を決めるところから、記録を残し、対応が必要なスタッフを拾い上げ、派遣先と調整するところまでを扱います。就業条件そのものの取り決めと、次の就業先の求人整理は後工程なので、ここでは触れません。
棚卸しの単位で並べると、こうなります。起点は配属からの経過日数、契約更新の時期、スタッフからの相談の3つで、月次の面談だけでは動きません。担当はコーディネーターで、紹介予定派遣の案件ではCAが担います。成果物は面談記録、相談対応の記録、注意が必要なスタッフの一覧です。使うのは派遣管理システムまたは採用管理システム、面談記録の様式、勤怠データ、チャットと電話です。
例外は先に挙がります。就業初日に欠勤があったスタッフ、派遣先から先に連絡が入った案件、体調や家庭の事情に関わる相談は、月次の名簿を待たずに動きます。担当スタッフ数は支店ごとに違うため、件数も時間も置かず、表には測る単位だけを示します。

名簿づくりから次の提案まで、7工程に割る
定期フォローは「面談をする仕事」ではありません。着手から完了までを時系列に並べると、担当も帳票も違う7つの工程が並びます。まず担当・帳票・量・詰まる点を見ます。
| 工程 | 担当 | 使う帳票・システム | 量・時間(測る単位) | 詰まる点 |
|---|---|---|---|---|
| 1 面談名簿を洗い出す | コーディネーター | 配属日の一覧、前回の面談日、契約更新日 | 担当スタッフ数 | 配属日と面談履歴が別ファイル |
| 2 面談の日程を組む | コーディネーター | スタッフのシフト、派遣先の繁忙、カレンダー | 往復回数 | 派遣先の都合で組み直しになる |
| 3 聞く項目を決める | コーディネーター | 前回の面談記録、勤怠データ | 1件あたりの準備分 | 前回の記録が短く思い出せない |
| 4 面談する | コーディネーター | 面談記録の様式、電話・チャット | 面談1件の時間 | 就業時間中は本人が出られない |
| 5 面談記録を残す | コーディネーター | 派遣管理システムの自由記述欄 | 面談から記録までの日数 | 後回しになり内容が薄くなる |
| 6 対応が必要な人を拾う | コーディネーター・支店長 | 面談記録、勤怠の変化、相談記録 | 週1回の確認分 | 項目が担当ごとに違い横並びで見られない |
| 7 派遣先と調整し更新につなぐ | コーディネーター・CA | 相談記録、派遣先の意向、公開中の求人 | 更新月に集中 | 伝える範囲の判断で止まる |
同じ7工程を、AIと人の受け持ちで見直したのが次の表です。空欄はありません。AIを入れない工程には、その旨を書いています。
| 工程 | AIが解決すること | 人が決めること | 失敗したときの損失 |
|---|---|---|---|
| 1 | 配属日・前回面談日・更新日から今月の対象者を一覧にする | 抽出の条件と、名簿に漏れがないか | 面談されないスタッフが月をまたぐ |
| 2 | AIを入れない工程。シフトと派遣先の繁忙は人が押さえる | 誰から先に会うかの順番 | 相談が出ている人が後ろに回る |
| 3 | 前回の懸念と勤怠の変化を並べ、確認する質問を下書きする | 聞く内容と、聞かない事項 | 同じ質問を繰り返し面談が形だけになる |
| 4 | AIを入れない工程。会話そのものはコーディネーターが行う | その場の受け答えと録音の可否 | 本人の同意なく録音してしまう |
| 5 | メモや音声を決めた項目に振り分け、話していない項目は空欄で残す | 記録の確定と、書かない範囲 | 事実と違う要約が台帳に残る |
| 6 | 決めた条件に当たるスタッフと、当たった理由を並べる | 対応するか様子を見るかの判断 | 一覧が処遇の根拠にすり替わる |
| 7 | 相談記録から調整の論点を整理し、連絡文を下書きする | 派遣先へ伝える範囲と伝え方 | 同意のない事情が派遣先に伝わる |
図の見方は、色枠がAIの担う工程、灰色がコーディネーターや支店長が確定する工程、二重枠がその両方です。右上の小さな三角は、失敗が起きやすい工程を指しています。
AIで消える工程は1です。配属日の一覧と面談履歴を突き合わせる名簿づくりが、担当の手から離れます。
短くなる工程は3・5・7です。質問案、記録の下書き、調整の論点が先に用意され、コーディネーターは直す側に回ります。
新しく増える確認工程は6です。一覧に載った理由を原本で当てる確認が、対応を決める前に必ず入ります。
どの工程をAIに渡し、どこでコーディネーターに戻すか?
工程に割ると、渡してよい仕事の性質が見えます。拾う・写す・並べる・下書きするは作業なのでAIへ、確定する・対応すると決めるは判断なので人に残ります。この線を先に引いておくと、出てきた一覧をどこまで信じるかで迷いません。
境目で効くのは工程6です。条件に当たったという事実と、対応が要るかどうかは別物です。AIができるのは、勤怠の変化や相談の分類を並べて「この条件に当たりました」と示すところまでです。背景の事情は面談でしか分からないため、対応の決定はコーディネーターが持ち、支店長が週に一度突き合わせます。
工程7も同じ構造です。労働者派遣法は派遣労働者の待遇に関する規律を定めており、スタッフの扱いには説明できる根拠が要ります。一覧に載ったことを理由に更新を見送る運用は、説明の筋が通りません。用途を抽出に限ると社内で文字にし、対応した内容と日時を記録に残します。
相談の内容には体調や家庭の事情が混じります。これらは個人情報保護法の要配慮個人情報にあたり得るため、取得にも共有にも本人の同意が要ります。勤怠の増減は労働基準法に関わる事実として扱い、数字の動きだけで本人の状態を決めつけません。
着手する1工程は面談記録の整形を選ぶ
着手先は3つの問いで選びます。判断か作業か、データが電子で揃っているか、失敗したときの損失がどれくらいか。この3つを当てると工程5が残ります。
工程5は作業です。面談のメモという入力が担当の手元にあり、誤っても本人に確かめれば戻せます。損失は要約のずれに留まり、確定の前に気づけます。反対に工程6は失敗がスタッフの処遇に直結するため、条件と承認の置き方を決めてから手を付けます。
商工中金の「中小企業の生成AIの利用にかかる調査(2026年1月調査)」では、導入以前からの課題として「具体的な活用場面が不明」が35.6%です。この詰まり方は、工程に割らないまま全社にツールを配ったときに出ます。工程5という着手先を先に決めておけば、「どこに使うのか」を社内で議論し直さずに回せます。
2週間の試行で見るのは3つの数字だけ
試行は5つの段で足ります。長い手順書は要りません。
- 支店を1つ選び、導入前のひと月分を測ります。面談の実施率、前回面談からの間隔、相談から対応までの日数の3つです。
- 面談記録の項目を4つに決めます。希望条件、懸念点、就業先での状況、次回に確認することの4つで足ります。
- 抽出の条件を支店長が定め、変更したときは履歴を残します。条件を担当ごとに変えると、一覧が横並びで見られません。
- 工程1・3・5をAIに下書きさせ、コーディネーターが工程6で全件を原本に当ててから対応を決めます。
- 2週間後に同じ3つの数字を並べ、支店長が続けるか止めるかを決めます。合否の線は開始前に引いておきます。
測る3つは、時間・誤り・発見時期に対応します。前回面談からの間隔が時間、記録の項目の埋まり具合が誤り、相談から対応までの日数が発見の早さです。早期離職の件数は就業先と職種の影響が大きいため、単独の指標には使いません。
本番運用で先に決めるのは承認と記録と例外
承認は、工程6でコーディネーターが対応を決め、支店長が週に一度一覧と対応結果を突き合わせる形から動かしません。抽出の条件を広げるのは、確認で食い違いが出ない状態がひと月続いてからです。広げる範囲は支店か職種で区切り、全件を一度に開放しません。
記録は6つ残します。面談のメモ、記録の下書き、確定した記録、抽出された理由、対応した内容、確認者です。確定した記録だけでは、面談から記録までの日数も直した理由も後から追えません。
例外は文字で決めます。就業初日の欠勤、派遣先から先に連絡が入った案件、体調や家庭の事情に関わる相談は、名簿の抽出を待たずコーディネーターが直接動きます。該当する条件を一覧にしておかないと、急ぐべき相談が月次の型に流れます。
抽出した一覧を処遇に使うと何が壊れるか?
起きやすい失敗は、一覧に載ったスタッフを離職しそうな人として扱い、更新の可否や就業先の割り当てに反映することです。原因は、抽出の用途を文字にせず、対応した内容を記録に残さなかったためです。防ぎ方は、用途を候補の提示に限ると明文化し、対応の決定と理由を人の名前で残すことです。
もう一つは、質問の下書きをそのまま読み上げる面談です。前回の記録から作った質問には、体調や家庭の事情に踏み込む問いが混じることがあります。聞かない事項をコーディネーターが外す工程を残します。
本メディアでは、定着フォローのAI化は予測ではなく抽出と記録に留めるべきだと判断します。理由は、予測の外れが本人の不利益になり、説明の責任を事業者が負うからです。前提は、面談記録が項目ごとに残っていることです。記録が担当の手帳にしかない会社では前提が外れるため、書式を決めるところからになります。
本メディアでは、記録の項目を決めずに文字起こしと要約だけを先に入れるのは勧めません。理由は、出力の形が担当ごとに変わり、効果を測る土台が作れないからです。前提は、支店長が一覧を横並びで見たいことです。面談記録を担当個人の備忘録として使う方針なら、項目を決めずに使う選択もあり得ます。
定着フォローにAIを入れない方がよい会社
面談記録が担当の手帳にしか無いなら、AIより先に書式づくりです。勤怠データを月次でしか見られないなら、一覧に載った理由を当てる材料が揃いません。抽出された一覧を処遇の判断に使う運用を止められないなら、入れない方が安全です。
この3つが揃わない状態で足すと、工程6の確認だけが増えて面談の質は変わりません。総務省「令和8年版 情報通信白書」では、自社の何らかの業務で生成AIを利用している割合は日本で86.4%と示されています。使っている会社が珍しくないからこそ、使い始める順番の差がそのまま結果の差になります。
出典
- 労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律(昭和60年法律第88号)e-Gov法令検索 e-Gov法令検索 確認日 2026.09.22
- 個人情報の保護に関する法律(平成15年法律第57号)e-Gov法令検索 e-Gov法令検索 確認日 2026.09.22
- 労働基準法(昭和22年法律第49号)e-Gov法令検索 e-Gov法令検索 確認日 2026.09.22
- 総務省「令和8年版 情報通信白書」生成AIの業務利用状況 総務省 確認日 2026.09.22


