この記事の要点
- ツール選定は、料金と規約の転記、業務一覧との突合、試用の集計をAIに渡せます。
- 標準にするツール、有料IDの範囲、履歴書を入力してよいかの線引きは人が決めます。
- 本メディアでは、部門別の業務一覧と入力可否表が無い会社は、比較より先にその2枚を作るべきだと判断します。
定義生成AIツールの選定は、経営者が導入を検討すると決めた時点で起きる業務です。
この業務は人材・派遣の会社のどこにあるか?
生成AIツールの選定は、経営者が導入を検討すると決めた時点で起きる業務です。担当は経営者と、総務や経理を兼ねる情報システム担当になります。入力は候補ツールの一覧、RA・CA・派遣管理の各部門の業務一覧、情報管理規程に沿ったセキュリティ要件の三つです。出力は選定比較表と利用ルール案で、標準にするツールと有料IDの範囲を決めて終わります。
この記事は製品ごとの優劣を決めません。自社の求人票やスカウト文面に当てはめて比べる進め方と、比べるときに見る項目を書きます。読む人は、経営者、事業部長、RA・CAの責任者、派遣コーディネーターの責任者です。RA(リクルーティングアドバイザー)は求人企業を担当し、CA(キャリアアドバイザー)は求職者を担当します。
選定を先送りすると、会社の数字は三方向で動きます。時間は、求人票の作成、スカウト文面、面談記録、就業条件明示書の下書きが毎日発生し、決まらない間も担当者が手で書き続けます。金は、有料IDが人数分で積み上がる形のため、配る範囲を決めずに試用を広げると月額が先に増えます。リスクは、ルールを決める前に現場が使い始め、履歴書や面談記録が個人のアカウントから外部へ出ることです。
総務省「令和8年版 情報通信白書」の生成AIの業務利用状況によると、自社の何らかの業務で生成AIを利用していると回答した割合は日本で86.4%です。業務類型別に活用している割合をみると、「議事録・メール作成補助」が約7割で最も高く、「営業・販売」が約6割、「社内ヘルプデスク」が約5割と続きます。導入効果を実感すると回答した割合は別の設問で、「議事録・メール作成補助」が約7割となり、他の類型に比べて顕著に高い結果です。活用している割合が高い類型でも、効果を実感した割合が同じとはかぎりません。人材・派遣に限った値ではありませんが、この記事は製品比較ではなく自社の業務一覧へ当てはめる順番を取ります。
この記事は、候補ツール4つ、利用部門3つ、比較項目12を前提として置きます。試用は1業務で2週間、スカウト文面は1人1日5通とします。出典はありません。自社の規模や通数が違えば、以降の日数と件数は当てはまりません。

着手から承認まで、選定を7工程に割る
選定を「比較表を作る」の一語で扱うと、どこをAIに渡せるかが見えません。着手から承認まで7つの工程に割ると、写す仕事と決める仕事が分かれます。下の表は、工程ごとに担当と帳票、前提として置いた量、詰まる点を並べたものです。さらにAIが解決すること、人が決めること、失敗したときの損失を続けます。
- 1部門別の業務一覧を作るAIと人
- 2帳票ごとの入力可否表を作るAIと人
- 3料金と規約を比較表に写すAIと人
- 4業務との適合を一次評価するAIと人
- 5媒体規約と連携可否を確認するAIと人
- 6スカウト文面で2週間試すAIと人
- 7標準ツールと利用ルールを承認するAIと人
AIが担える人が決める
1
部門別の業務一覧を作る
担当: 経営者・情報システム担当(RA・CA責任者に確認) / 使うもの: 部門別業務一覧(Excel)、求人票のひな形、スカウト送信履歴、派遣元管理台帳 / 量・時間: 3部門・30業務・半日×2回
- AIが解決すること
- 担当者が書き出した作業メモを、頻度・入力・出力・判断の有無の4列に整理して一覧の素案にする
- 人が決めること
- 一覧に載せる業務の範囲と、書かない業務
- 詰まるところ
- 毎日やっている作業が担当者の頭にしかなく、一覧に出てこない
- 失敗したときの損失
- 比較の基準が機能の多さになり、選んだ後に現場が使わない
2
帳票ごとの入力可否表を作る
担当: コンプライアンス担当・情報システム担当 / 使うもの: 履歴書、職務経歴書、面談記録、就業条件明示書、派遣元管理台帳、情報管理規程 / 量・時間: 帳票20種・1日
- AIが解決すること
- 帳票ごとに含まれる項目を並べ、氏名・生年月日・連絡先・健康状態など個人が特定される項目を抜き出して可否表の素案にする
- 人が決めること
- 外部へ送ってよい項目、送らない項目、例外時の承認者
- 詰まるところ
- 病歴などの要配慮個人情報が混じる面談記録の扱いが決まらない
- 失敗したときの損失
- 個人のアカウントで履歴書が入力され、どの情報がどこへ送られたか会社として説明できない
3
料金と規約を比較表に写す
担当: 情報システム担当 / 使うもの: 各社の公式料金ページ、利用規約、セキュリティ資料、比較表(Excel) / 量・時間: 候補4つ×12項目=48セル・1日
- AIが解決すること
- 公開されている料金ページと規約の該当箇所を項目ごとに同じ言葉へ直し、参照したページ名を併記して比較表のセルを埋める
- 人が決めること
- 比較の基準にする項目(学習利用の停止、管理者によるID管理、ログの保存)
- 詰まるところ
- 規約の版が変わり、プランごとに学習利用の扱いも違う
- 失敗したときの損失
- 学習利用の設定を読み違えたまま候補者情報を入力する
4
業務との適合を一次評価する
担当: 情報システム担当・RA・CA責任者 / 使うもの: 業務一覧、比較表、スカウト文面のテンプレート、求人票のひな形 / 量・時間: 30業務×4候補
- AIが解決すること
- 業務一覧の各行が下書き・要約・抽出・照合のどれに当たるかを割り当て、候補ごとに向き不向きと理由を並べる
- 人が決めること
- 一次評価のうち、実際に試す業務を3つに絞ること
- 詰まるところ
- どの候補も全部できそうに見えて差がつかない
- 失敗したときの損失
- 評価が机上で終わり、試す業務が決まらないまま数か月が過ぎる
5
媒体規約と連携可否を確認する
担当: RA・CA責任者・情報システム担当 / 使うもの: スカウト媒体の利用規約、採用管理システム(ATS)・派遣管理システムの提供元回答、書き出し形式 / 量・時間: 媒体3社・システム2つ
- AIが解決すること
- 媒体ごとの規約から、AIが作った文面の送信と一括送信に関する記述を抜き出し、媒体名と条項の見出しを並べた一覧にする
- 人が決めること
- 触れる線をどこへ引くか、生成と送信を分けるか
- 詰まるところ
- 自動送信とAI生成文の扱いが媒体ごとに違う
- 失敗したときの損失
- アカウントの利用制限や媒体からの警告で、スカウト送信そのものが止まる
6
スカウト文面で2週間試す
担当: CA・RA各1名・情報システム担当 / 使うもの: スカウト文面の下書き、送信履歴、作成時間の記録表 / 量・時間: 1人1日5通・2週間・50通
- AIが解決すること
- 候補者の公開プロフィールと求人要件から件名と本文の案を複数出し、担当者が直した箇所を記録に残す
- 人が決めること
- 送信する対象、最終文面、送るかどうか
- 詰まるところ
- 導入前の作成時間を測っておらず、差が出せない
- 失敗したときの損失
- 案のまま送って返信率が落ち、ツールの性能が原因だと結論づける
7
標準ツールと利用ルールを承認する
担当: 経営者 / 使うもの: 選定比較表、利用ルール案、情報管理規程、承認記録 / 量・時間: 経営会議1回
- AIが解決すること
- 試用で記録した時間・通数・修正回数を集計し、比較表の該当行に導入前との差分を書き込んだ要約を作る
- 人が決めること
- 標準にするツール、有料IDの範囲、入力してよい情報、見直しの時期
- 詰まるところ
- 有料IDを誰に配るかで止まる
- 失敗したときの損失
- 決まらないまま各自が別のツールを使い、入力範囲の統制ができない
次の図は、業務一覧づくりからスカウト文面の試用までを左から並べたものです。色枠がAIの担う工程、灰色が人の確定する工程、二重枠が両方で回す工程、箱の右上の印が失敗の起きやすい工程です。
AIで消える工程は、3段目の料金と規約の転記と、4段目の一次評価を手で書く作業です。短くなる工程は、1段目の業務一覧づくり、2段目の入力可否表、6段目の文面の下書き、7段目の集計です。新しく増える確認工程は三つです。比較表のセルを規約の原文と照合する確認、媒体規約の一覧を責任者が見る確認、送信前にCAが最終文面を確定する確認です。
どこまでAIに渡し、どこで人に戻すか?
渡せるのは、写す、突き合わせる、下書きする、集計するの四つです。戻すのは、求人票やスカウト文面を確定する、承認する、線を引くの三つです。この分け方は製品の性能ではなく、責任の所在で決まります。次の図は、選定の全工程を左右に並べ直したものです。
法令の側から見ると、戻す場所はさらにはっきりします。職業安定法は、求人等に関する情報の的確な表示と、業務の目的の範囲内での個人情報の収集を定めています。AIが求人票やスカウト文面の案を出しても、表示した内容の責任は事業者に残ります。労働者派遣法は、労働者派遣契約の記載事項、就業条件の明示、派遣元管理台帳、事業所単位と個人単位の期間制限を定めています。
個人情報の保護に関する法律は、病歴などの要配慮個人情報の取得に原則として本人の同意を求めています。履歴書と面談記録はいずれも個人情報で、面談記録には健康状態や家庭の事情が混じります。だからこそ、選定の2段目に入力可否表を置き、比較表より先に作ります。
本メディアでは、部門別の業務一覧と入力可否表が無い会社は、候補の比較より先にその2枚を作るべきだと判断します。理由は、この2枚が無いと比較の基準が機能の多さに寄り、選定後に誰が何へ使うかが残らないからです。前提は、求人票とスカウト文面と面談記録が日々発生している会社です。情報管理規程にAI利用の条項があり、帳票ごとの入力可否がすでに書かれている会社は、この判断から外れます。
最初に試す1工程はどう選ぶか?
最初の1業務は三つの問いで決めます。判断を含むか、データがそろっているか、失敗したときの損失がどこで出るか、の三つです。判断を含む業務は案の提示までに止め、求人票や面談記録が電子で残っていない業務は整備を先に置きます。損失が月次締めの後に出る業務は後回しにします。
スカウト文面の作成は、この三つを通ります。判断は送信対象と最終文面にあり、案の提示までなら担当者の確定が残ります。データは候補者の公開プロフィールと求人票にあり、毎日発生するため2週間で50通の記録が取れます。
損失は返信が来ないことに限られ、請求や給与へ波及しません。前提として置いたスカウトの通数が1日5通より少ない会社は、試用の期間を延ばして通数をそろえます。
分岐はこう置きます。求人票と候補者情報がメール本文やWordに散らばっているなら、比較より先に採用管理システムへの一元登録を進めます。採用管理システムが外部との連携に対応していないなら、書き出し形式で代替できるかを試用の前に確かめます。
スカウト媒体の規約でAIが作った文面の一括送信が制限されているなら、生成と送信を別の工程に分けます。面談記録に要配慮個人情報が含まれるなら、その記録は外部送信の対象から外します。導入前の作成時間を測っていないなら、試用の開始を1週間遅らせ、先に1週間分を測ります。
本メディアでは、派遣の勤怠回収から請求・給与データを作る業務を最初の試用先にすることは勧めません。理由は、タイムシートの読み取り誤りが月次締めの後に見つかり、請求と給与の両方へ波及するからです。前提は、差異の確認を人が行う工程がまだ決まっていない会社です。差異の一覧を人が承認してから請求データを作る順序がすでにある会社は、この限りではありません。
2週間の試用で測る3つの指標
進め方は6段です。会社としての進め方だけを書き、画面の操作には触れません。
- 経営者が承認者と期限を決め、対象をスカウト文面の1業務に固定します。
- CAとRAの各1名を担当に決め、導入前1週間の作成時間と通数を先に記録します。
- 入力可否表に沿って、送ってよい項目だけで案を出す形に整えます。
- 2週間の間、案を出して担当者が直し、直した箇所を記録に残します。
- 情報システム担当が時間・通数・修正回数を集計し、比較表の該当行へ書き込みます。
- 経営者が継続、中止、対象の入れ替えのいずれかを決めます。
測る指標は三つに絞ります。1通あたりの作成時間、担当者が直した箇所の数、返信率と面談化率です。合否の基準は開始前に決めます。作成時間が導入前を下回らない場合や、直した箇所が案の半分を超える場合は、文面のテンプレートと求人票の書き方を先に直します。
試用の間に記録しないものも決めます。候補者の氏名と連絡先は記録表に残さず、通数と時間だけを残します。媒体の送信画面での操作は試用の対象に含めず、送信は従来どおり担当者が行います。
本番にするときに決める承認・記録・例外
本番化は、承認、記録、例外、利用ルールの四つを決めて始まります。利用ルールは、情報管理規程の付属文書として綴じます。下の表は、選定から効果測定までを8段に並べ、誰が、何を、どこへ残すかを書いたものです。
| 段 | 誰が | 何を | どこに |
|---|---|---|---|
| トリガー | 経営者 | 導入検討の開始を決め、候補を4つに絞る | 選定の起票メモ |
| 元データ | 情報システム担当・RA・CA責任者 | 業務一覧、公式の料金ページ、情報管理規程をそろえる | 選定フォルダ |
| AIの作業 | 候補ツール1つ | 料金と規約の転記、業務との一次評価、利用ルール案の下書き | 比較表(Excel) |
| 検証 | 情報システム担当 | 比較表の各セルを規約の原文と照合し、確認日を書く | 比較表の確認日列 |
| 例外 | CA・RA責任者 | 入力禁止項目の送信、媒体規約に触れる送信は試用を止めて報告 | 例外の報告記録 |
| 人の承認 | 経営者 | 標準ツール、有料IDの範囲、利用ルール案を承認する | 承認記録 |
| 記録先 | コンプライアンス担当 | 選定結果と利用ルールを規程へ綴じ、周知する | 情報管理規程の付属文書 |
| 効果測定 | 事業部長 | スカウト文面の作成時間と返信率を導入前後で比べる | 月次の会議資料 |
例外の経路は先に決めます。候補者から情報の扱いを尋ねられた場合、媒体から警告が届いた場合、面談記録に想定外の情報が入った場合の三つです。いずれも担当者の判断で止め、責任者へ回します。記録に残すのは、入力した項目の範囲、出力を直した箇所、確認した人の名前の三つです。
失敗は、選定のどの工程で起きるか?
一つ目は5段目です。生成した文面を媒体の機能で一括送信し、アカウントの利用制限や警告を受けて送信が止まります。原因は、媒体ごとに自動送信とAI利用の扱いが違うことを確かめずに、文面の生成と送信を同じ工程として束ねたことです。防ぎ方は、生成を社内に置き、送信対象と最終文面を担当者が確定する運用にして、媒体ごとの規約を一覧にすることです。
二つ目は2段目です。入力可否表を作る前に現場が便利さから使い始め、履歴書と面談記録が個人のアカウントから外部サービスへ入ります。防ぎ方は、業務ごとの入力可否表と外部送信の項目一覧を先に作り、学習利用の有無を契約と設定で確かめてから利用を認めることです。
三つ目は6段目です。面談記録の項目を決めないまま生成を始めると、担当者ごとに項目も長さも違う記録が残り、推薦文への転用も引き継ぎもできません。防ぎ方は、希望条件、懸念点、強みという記録の項目を先に決め、その書式に沿って生成する形にすることです。
選定を始めない方がよい会社もあります。月次の締めで勤怠回収と請求が動いている時期なら、その月に試用は始めません。承認者が決まっていない会社は、比較表を作っても標準が決まらないため、承認者を決めるまで着手を待ちます。
次に広げる業務をどう決めるか?
次の1業務は、同じデータで隣り合う業務から選びます。スカウト文面の次は、返信の分類と追客、面談日程の調整、面談記録の作成へと続きます。いずれも候補者の情報を使い、入力可否表をそのまま流用できます。
広げる条件は数字で決めます。スカウト文面の3指標が導入前を2か月続けて下回らないことが一つ目です。例外の報告が月に数件で収まること、比較表の確認日が最新であることが残りの二つです。条件を満たさないうちに求人票の作成や派遣契約書の下書きへ広げると、確認工程が人手を超えます。
派遣管理へ広げるときは、順番を変えます。契約期間と抵触日の管理は、期限の抽出と通知の下書きから入り、抵触日の判断と就業条件明示書の記載は人が確定します。記載内容と期間制限の責任は事業者に残るためです。
出典
- 総務省「令和8年版 情報通信白書」生成AIの業務利用状況 総務省 確認日 2026.09.22
- 職業安定法(昭和22年法律第141号)e-Gov法令検索 e-Gov法令検索 確認日 2026.09.22
- 労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律(昭和60年法律第88号)e-Gov法令検索 e-Gov法令検索 確認日 2026.09.22
- 個人情報の保護に関する法律(平成15年法律第57号)e-Gov法令検索 e-Gov法令検索 確認日 2026.09.22


