診療録の下書きはどこまでAIに任せる?SOAPの欄ごとの分担と確定の条件
生成AIで作る診療録の下書きを使い始めたものの、確定のしかたが医師ごとに違う診療所・病院の院長、診療部長、医師事務作業補助者が読み手です。
AIの下書きをほぼそのまま確定する医師と、全部を打ち直す医師が同じ院内にいると、確定済みの診療録を後から開いても、どの欄を医師が確かめたのかが分かりません。S・O・A・Pの欄ごとにAIへ任せる範囲、確定の前に照合すること、運用管理規程と電子カルテの設定に書く項目を、医師法と代行入力の通知、安全管理ガイドライン第7.0版に沿って決めていきます。

先に結論
電子カルテのS・O・A・Pのうち、AIの下書きを受け取るのはS(訴えと経過)とO(所見・検査値・バイタル)の欄で、AIの仕事は文と数字の整形までです。A(評価・診断名)とP(処方・検査・治療方針)は空欄のまま、診察した医師が自分で書きます。
確定操作は、内容と対象患者を医師本人が確かめてから行い、一定時間で記録が確定する設定はAIの下書きにはかけません。録音やメモに無い所見、薬剤名や用量、左右や数値が入った行と、患者の取り違えが疑われる下書きは、元の録音か検査結果と照合し終えるまで確定しません。
下書きは代行入力と同じく、医師の確定で記録になる
AIが作った診療録の下書きは、診察した医師が内容を確かめて確定操作をするまで、確定した記録ではありません。診療録の記載は医師法24条1項が定める医師の義務で、診療のあと「遅滞なく」書くことになっています。保険診療では、療養担当規則22条が保険医に同じく遅滞のない記載を課す形です。
医師以外の手が入る記載には、平成19年の医政局長通知(医政発第1228001号)がすでに条件を示しています。診断書・診療録・処方せんは診察した医師が作成責任を負う書類で、医師が最終的に確認し署名することを条件に、事務職員が補助者として記載を代行できます。
電子カルテの運用面では、厚生労働省が医療機関向けに出している医療情報システムの安全管理のガイドラインが、第7.0版まで改定されています。そのQ&Aも、代行入力で作った記録であっても、確定操作をすれば確定者が確定したことになると説明しています。
この通知とガイドラインは、生成AIの下書きを名指ししてはいません。そこで院内では、AIの下書きを医師事務作業補助者の代行入力と同じ考え方で扱い、下書きを入力した側と、確定する医師を分けて記録します。
| 比べる点 | 補助者の代行入力 | AIの下書き |
|---|---|---|
| 下書きの元 | 医師の指示と口頭の内容 | 口述・メモ・問診・検査結果 |
| 入力者として残すもの | 補助者のID | 下書きの仕組みと操作した職員 |
| 確定する人 | 診察した医師 | 診察した医師 |
| 確定操作の意味 | 医師が内容を保証する | 医師が内容を保証する |
入力の行だけが違い、確定の行が同じなのは、確定操作の重みが下書きの作り手で変わらないからです。医師が下書きを読まずに確定ボタンを押しても、記録の上では医師がその内容を保証したことになります。AIに任せる範囲を欄ごとに決めるのは、確定の前に医師が読む量を、外来の合間に読み切れる量に抑えるためです。
S・Oの整形はAI、A・Pの診断名と処方は医師が書く
次の表は、電子カルテのSOAPの欄を1行ずつ取り、AIへ渡す作業と医師の手に残る作業を並べたものです。AIの作業が「書かせない」になっている行が、医師が一から書く欄になります。
| 欄 | AIに任せる作業 | 医師が書く・確かめること |
|---|---|---|
| S 訴え・経過 | 口述と問診を時系列に要約 | 患者の言葉が別の症状に変わっていないか |
| O 検査値・バイタル | 当日の結果を所定の欄へ転記 | 単位・測定日・基準値外の印 |
| O 診察所見 | 医師が言った所見を文に整える | 言っていない所見が足されていないか |
| A 評価・診断名 | 書かせない | 評価と診断名を医師が書く |
| P 処方・検査・方針 | 書かせない | 処方と方針を書き、オーダと合わせる |
Oの診察所見は、文の整形をAIに任せても、内容は医師が確かめる欄です。ガイドラインのQ&Aは、カルテに記述する所見の確定者を「実際に診察を行った医師」としています。
A・PをAIに書かせないのは、診断と治療の判断が医師の仕事だからというだけではありません。もっともらしい診断名や処方の案が並ぶと、読み比べて直す手間が自分で書く手間を上回ることがあり、読まずに確定する運用を招きます。
AIへ渡す入力と指示は、院内で1つの形にそろえます。入力は、診察直後の医師の口述かメモ、問診サマリー、当日の検査結果の3つです。指示には「A・Pの欄は空欄で返す」「入力に無い所見・薬剤名・数値は書かない」「聞き取れない語は【未確認】と残す」を入れます。
下書きは電子カルテの未確定の記録としてS・Oの欄に入ります。医師事務作業補助者がいる院では、患者IDと受診日、検査値の転記が合っているかを補助者が先に照合し、合わない行に印を付けておくと、医師は印の付いた行から読み始められます。ただし印の無い行も、確定の前にすべて読むことが前提です。
【説明用の架空の記入例】S:3日前から咳。夜間に増悪。発熱は本人申告でなし/O:体温36.8℃(受付で測定)、咽頭発赤あり(口述)/A:(空欄。医師が記入)/P:(空欄。医師が記入)
電子カルテに未確定の下書きを置く機能が無く、確定前の照合に充てる時間を外来の日に取れない院では、AIの下書きを入れず、定型文の整備から始めます。
改定で算定要件になった記載の漏れを、書いている時点の下書きとの照合で見つける方法はカルテの記載漏れを確認表とテンプレートで防ぐ記事で扱っています。看護記録や経過の要約も含めた記録の業務は診療記録の記事一覧に、予約・問診・レセプトまでの全体は医療AI活用ジャーナルのトップに並べています。
自動確定を切り、入力者と確定者を分けて残す
電子カルテの側で決めるのは、自動確定を使わないこと、入力者と確定者を分けて記録すること、確定後の訂正を更新履歴で残すことの3つです。
図の要点:AIの下書きが確定した診療録になるまでの5つの工程。AIが口述・メモ・検査結果からS・Oの下書きを作り、医師事務作業補助者が患者IDと検査値の転記を照合して合わない行に印を付ける。医師がA・Pを書いてS・Oを元の記録と照合し、確定操作(承認)を行い、確定後の誤りは更新履歴が残る訂正で直す。
AIが作るのはS・Oの下書きまでで、確定操作と訂正は診察した医師が行う
-
S・Oの下書きを作る
口述・メモ・検査結果から。入力者は仕組みと操作者
AI
-
患者IDと検査値の転記を照合
合わない行に印を付け、A・Pは空欄のまま
医師事務作業補助者
-
A・Pを書き、S・Oを元の記録と照合
印の付いた行から読む
医師
-
確定操作(承認)
確定者は診察した医師本人
医師
-
確定後の誤りを訂正
更新前後と順序が履歴に残る
医師
AIが受け持つのは最初の工程だけです。2つ目の照合は、補助者のいない院では医師が行います。確定と訂正は、規程で定めた代替確定の場合を除き、診察した医師が行います。
ガイドライン第7.0版システム運用編の14章遵守事項⑨は、電子カルテの識別情報の記録について、決まった機能があることの確認を求めています。確定する記録に入力者と確定者の識別情報と作成日時を含められること、「記録の確定」に当たって内容を十分に確認できること、などです。図の工程は、この機能に対応させた並びです。代行入力の記録については、内容の確認を行わずに確定操作を行ってはならないとも定めています。
自動確定は、一定時間がたつと記録が確定する設定です。遵守事項⑨(1)(e)は、この運用をするなら入力者と確定者を特定する明確なルールを運用管理規程に定めるよう求めています。AIの下書きにこの設定をかけると、医師が開いていない下書きまで医師の確定として残るので、使いません。
企画管理編13章の遵守事項⑧は、入力者と確定者の識別、記録の確定手順、更新履歴の保存、代行入力を認める業務と依頼者・実施者を規程に含めるよう求めています。運用管理規程のこの項に、AIの下書きの扱いを足します。説明用の文の例は次のとおりです。
- 生成AIによる下書きは代行入力に準じて扱い、作成した仕組みと操作者を入力者として記録する
- 下書きの確定操作は診察した医師が行い、内容と対象患者を確認せずに確定しない。生成AIの下書きには自動確定を設定しない
- 確定後の訂正は更新履歴が残る方法で行う。確定者が確定できないときの代替確定は、条件・実施者・事後確認を別に定める
代替確定の3項目は、Q&Aが運用管理規程に定めるよう求めている内容です。保険診療の診療録は療養担当規則9条で完結の日から5年間保存するので、訂正の履歴もその期間読み出せるかを電子カルテの事業者に確かめておきます。
録音にない所見や薬の取り違えを、確定前に止める
確定前の照合は、患者、A・Pとの整合、Oの文、薬剤名と用量の順に行います。ガイドラインのQ&Aが求めているのは、確定の前に内容と対象患者が正しいことを確かめることです。システム運用編14.3も、患者を取り違えた記録を「混同」と呼び、防ぐべきものに挙げています。
患者
下書きの患者IDと受診日が、開いているカルテと同じか。録音やメモが別の患者のものでないかA・Pとの整合
医師が書いた評価や処方と食い違うS・Oの文がないかOの文
「圧痛なし」「雑音なし」のように、診察で触れていない所見が文として足されていないか薬剤名・用量・左右・数値
口述やメモ、検査結果の画面と一字ずつ合うか
仮の業務例を置きます。午後の外来が終わり、医師が未確定の下書きを開くと、咳で再診した患者のOの欄に「腹部平坦・軟、圧痛なし」と入っていました。この日は腹部を診ておらず、口述にも無い文です。医師は録音を聞き直して行を消し、A・Pを書いてから確定しました。読み流していれば、行っていない診察の結果が医師の確定で診療録に残るところでした。
1〜4のどれかで合わない行があり、元の録音・メモ・検査結果で確かめられないうちは、その下書きを確定しません。患者の取り違えが疑われる下書きは、行を直して使うのではなく、下書きごと外して医師が書き直します。
未確定の下書きが翌日まで残ると、代診の医師が開いて確定しかけることもあります(仮の場面)。本人が確定できない事情があるなら、規程で定めた代替確定の手順に回します。
続けるかどうかの材料は、確定後の訂正の件数と理由です。電子カルテの更新履歴から医師ごとに数え、たとえば4週分を見ても言っていない所見や薬剤名の訂正が減らない医師の分は、診療部長が判断して口述からの手入力に戻します。
音声やメモを院外のサーバへ送って処理する製品では、送る範囲と契約の確認が先に要ります。Q&Aは、生成AIサービスに医療情報を入力する場合について答えています。入力した情報が学習等のために保存されないことが契約等で担保されていれば、サーバが国内法の適用を受けていることは必須ではない、という内容です。
これはサーバの所在についての回答で、患者の情報を院外へ出してよいか、委託として扱うかの判断は別に要ります。要配慮個人情報としての扱いと事業者に確かめる項目は、口述と会話記録の選び方と、院外へ音声を送る前の確認を扱った記事にまとめています。
確定設定と代行入力の権限を院内で変えられるか
電子カルテの管理画面で自動確定を切り、下書きを入れる職員に代行入力の権限を付けられるなら、設定の作業は事務長の手で終わります。残るのは運用管理規程の記録の確定の項の書き換えで、改訂を受け持つ担当者が院内にいれば文案を作り、院長が承認して施行します。
権限や確定の設定を変えるたびに事業者への依頼が要る電子カルテでは、院内の作業だけで入力者と確定者を分けられません。AIの下書きを別の画面で作り、コピーして貼る運用も同じです。貼り付けた時点で入力者として残るのは貼った人のIDで、AIが書いた行と医師が書いた行の区別は記録から消えるからです。
下書きを未確定の記録として取り込む方法を事業者と組み直す設計は、電子カルテの仕様と医療情報の安全管理の両方に通じた外部の手を借りる場面になります。規程の文だけを先に直しても、電子カルテが入力者を分けて記録できない限り、結果は変わりません。医師が確定した診療録には、AIが書いた行も医師が自分で入力した行として残ります。
明日から始める3ステップ
担当 事務長
AIの下書きが入る電子カルテの欄、一定時間で記録が確定する設定の有無、下書きの入力者と確定者がどう表示されるかを、電子カルテの事業者に文面で尋ねる
次へ進む目安3項目の回答が文面でそろい、AIの下書きに自動確定がかからないことを院長が画面で確かめた
担当 院長と診療部長
運用管理規程の記録の確定の項に、AIの下書きを代行入力に準じて扱うこと、A・Pを空欄で受け取ること、確定前に照合する順番、代替確定の条件・実施者・事後確認を書き足す
次へ進む目安改訂した規程を常勤・非常勤の医師全員が読み、施行日が決まった
担当 医師事務作業補助者
最初に試す医師1人の外来について、下書きの作成から確定までの時間と、確定後に訂正した件数と理由を、電子カルテの更新履歴から週ごとに書き出す
次へ進む目安4週分の数が表になり、続けるか口述からの手入力に戻すかを診療部長が決めた
無料相談(オンライン)
BoostXは、クリニック・病院の記録・予約・請求事務へのAI導入を支援しています
01無料相談
カルテの入力・予約受付・レセプト点検から、最初の1業務を決める
02進め方の提案
規模に合う進め方を提案する
03作って試す
一緒に作り、現場で試して直す
04定着まで伴走
毎月1テーマずつ積み上げる
作って試す・定着までAIエージェント開発AI顧問生成AI研修
出典
- 医師法(昭和23年法律第201号)(第24条第1項) e-Gov法令検索(デジタル庁) 確認日 2026.10.28
- 保険医療機関及び保険医療養担当規則(昭和32年厚生省令第15号)(第22条・第9条ただし書) e-Gov法令検索(デジタル庁) 確認日 2026.10.28
- 医師及び医療関係職と事務職員等との間等での役割分担の推進について(医政発第1228001号)記 2(1)1)① 厚生労働省医政局長 確認日 2026.10.28
- 医療情報システムの安全管理に関するガイドライン 第7.0版 システム運用編14章 遵守事項⑨(1)(a)〜(c)・14章 遵守事項⑨(1)(e)・14章 遵守事項⑨(6)・14章 遵守事項⑨(3)(4)・14.3(真正性) 厚生労働省 確認日 2026.10.28
- 医療情報システムの安全管理に関するガイドライン 第7.0版 企画管理編(13章 遵守事項⑧) 厚生労働省 確認日 2026.10.28
- 医療情報システムの安全管理に関するガイドライン 第7.0版 Q&A(システム運用編 Q36・システム運用編 Q38・システム運用編 Q39・システム運用編 Q40・企画管理編 Q18) 厚生労働省 確認日 2026.10.28
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