医療の記録・文書作成の負担、AIの下書きは診断書・紹介状の転記欄から
診断書や紹介状の交付の遅れを患者や保険会社から問われている、診療所・中小病院の院長と事務長、医事課長
受付が「診断書はいつできますか」と聞かれて交付予定日を答えられないのは、依頼が院長の机に積まれたまま、どの文書が何日待っているかを院内で誰も数えていないからです。ひと月分の依頼を数える表と、診断書・紹介状・主治医意見書・退院時サマリーの欄を下準備と医師の記載に分けた表を使い、最初に下書きへ回す文書を1種類に絞ります。

先に結論
休診日に院長の机へ残る診断書・紹介状・主治医意見書の束で、AIの下書きに回せるのは、氏名・日付・既往歴・処方・検査値のようにカルテから写す欄です。所見・病名・医学的な意見の欄と、最終確認・署名は医師が持ちます。厚生労働省は平成19年の通知で、医師が最終的に確認し署名することを条件に事務職員の記載代行を認めており、AIの下書きも医療事務の下準備と同じ側に置けます。
最初に試す文書は、院長が事務長と、ひと月分の依頼を種類・件数・交付までの日数・転記で埋まる欄の数で並べて1種類選びます。所見や意見が本文の大半を占める文書と、初診直後で記録の少ない患者の文書は下書きに回しません。下書きにカルテに無い記載が入っていたら、医師が消して下準備の担当へ戻します。
文書作成の負担は、転記の多い文書に集まるから
診断書や紹介状を書く時間のうち、AIの下書きで短くできるのは、氏名・入退院日・既往歴・処方・検査値のようにカルテから写す欄を埋める作業です。所見・病名・医学的な意見を書く時間と、最終確認・署名の時間は医師に残ります。
図の要点:文書の依頼から交付までを6つの作業に分けた流れ図。依頼の受付と交付・控えの保管は医療事務、様式の転記欄の下準備はAIと医療事務・補助者、カルテとの照合の印付けは医療事務・補助者、所見・病名・医学的な意見の記載と最終確認・署名は医師が行う。
文書の依頼から交付までの6つの作業のうち、医師が持つのは記載と署名
-
文書の依頼を受け付ける
受付票に依頼日・提出先・様式を書く
医療事務
-
様式の転記欄を埋める
氏名・日付・既往歴・処方・検査値をカルテから
AI・医療事務
-
カルテと照合して印を付ける
合わない値やカルテに無い記載の行に印
医療事務・補助者
-
所見・病名・意見を書く
印の付いた行から読み、空欄を埋める
医師
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最終確認と署名
電子署名で代える場合も医師本人
医師
-
交付と控えの保管
交付日を受付票に書き、控えを残す
医療事務
図の6つの作業のうち、医師でなければできないのは4つ目と5つ目だけです。医療事務の手が足りず、2つ目と3つ目まで院長が休診日にカルテを開いて行っていると、依頼はそこで止まり、交付が遅れます。
診断書・紹介状・主治医意見書の様式は、提出先ごとに違います。それでもどの様式にも、氏名・生年月日・初診日・入退院日・既往歴・処方・検査値のように、カルテを見れば決まる欄が並びます。医師が考えて書く欄は、傷病名、所見、今後の見通し、紹介の目的といった一部です。こうした転記の欄は、医師の判断がなくても埋められる欄です。
医師の時間外・休日労働には2024年4月から上限規制がかかり、A水準の上限は年960時間です。厚生労働省は医療機関内の取り組みとしてタスク・シフト/シェアを挙げています。文書の転記を医師の机から外すことは、この上限を守るための手段の1つにもなります。
休診日まで残る文書を、種類と待ち日数で数える
文書の種類ごとに、月の件数、依頼から交付までの日数、カルテからの転記で埋まる欄の数を数えると、どの文書に偏っているかが分かります。件数だけでは、待たせている文書が見えません。
ここからは仮の場面です。水曜午後の休診日、院長の机に保険会社の診断書、紹介状、主治医意見書のファイルが積まれています。受付には「診断書はいつできますか」という電話が続き、事務長は受付票に交付予定日を書けません。医療事務の人数が足りず、様式の氏名や日付の欄まで院長がカルテを開いて写しています。
この状態を変える最初の作業は、ひと月分の依頼を1行1件で書き出すことです。受付票や文書依頼の控えに依頼日と交付日が残っていれば、新しく記録を始めなくても先月分から数えられます。
依頼の受付から交付までの流れは文書作成(診断書・紹介状)の業務ページに、記録の業務全体は診療記録の業務ページにあります。数えるのは、次の表の4項目です。
| 数える項目 | 記録のしかた | 見えること |
|---|---|---|
| 文書の種類 | 受付票の様式名で分ける | どの文書の依頼が多いか |
| 月の件数 | 種類ごとに依頼を数える | 下準備を回す量 |
| 交付までの日数 | 依頼日から交付日まで | 催促が来る文書 |
| 転記で埋まる欄の数 | 様式の欄に印を付けて数える | 医師以外で埋まる量 |
表の4項目がそろうと、件数が多い文書と、待たせている文書が別だと分かることがあります。【説明用の架空の数字】ひと月で保険会社の診断書が20件・交付まで平均9日、紹介状が14件・平均3日、主治医意見書が5件・平均16日だったとします。件数なら診断書、待ち日数なら主治医意見書が先頭です。どちらを先にするかは、次の2つの節で見る転記の欄の多さで決めます。
診断書の交付の求めは、医師法第19条第2項で、正当の事由がなければ拒めないと定められています。この条文が禁じているのは交付を拒むことで、交付までの日数は定めていません。それでも遅れは、催促の電話として受付に返ってきます。件数が少なくても待ち日数の長い文書は、候補の上位に置きます。
診断書の下準備はAIと補助者、署名は医師が持つ
厚生労働省の平成19年の医政局長通知は、診断書と主治医意見書について、事務職員が医師の補助者として記載を代行できるとしています。条件は、医師が最終的に確認し署名することです。作成の責任は医師が負うことも、同じ箇所に書かれています。
署名を条件に代行を認めるこの線を、AIの下書きにもそのまま引きます。医療事務や医師事務作業補助者が様式に写すのも、AIが電子カルテの記録から様式に並べるのも、医師が確かめて署名するまでは下準備です。令和元年のタスク・シフト/シェアの検討会資料も、医師事務作業補助者が特に進めるべき業務に、診断書や入退院サマリーの代行入力を挙げています。
下準備の側に置くのは、カルテに書かれている事実を様式の欄へ移すこと、様式の書式に合わせること、入院中の検査値や処方の推移を並べることです。AIに渡すのは、対象の文書の様式と、その患者の診療録・検査結果・処方歴で、出力は欄が埋まった様式と、カルテで見つからなかった欄の一覧です。見つからない欄は空けたまま「カルテに記載なし」と返させ、推測で埋めさせません。
医師の側に残るのは、傷病名、所見、診断の根拠、今後の見通し、紹介の目的、医学的な意見です。医師法第20条は、自ら診察しないで診断書を交付することを禁じています。下書きがどれだけ整っていても、診察した医師がその内容を自分の判断として確かめるまでは文書になりません。
下準備した版は、3つ目の作業で医療事務がカルテと照合し、合わない値に印を付けてから医師に回します。医師は印のある行を先に読み、空けてある欄を書いてから署名します。診療録そのものをAIに下書きさせるときの欄ごとの分担は、診療録の下書きをSOAPの欄ごとに分ける記事にまとめています。
下書きを最初に試すのは、定型で転記の多い文書
保険会社の診断書や紹介状は転記の欄が多く下準備に向き、医学的な意見の記述が中心の文書は医師が書く部分が多いため、下準備で短くなる時間が小さくなります。最初の1種類は、件数と待ち日数の上位から、写す欄の多い方を選びます。
| 文書 | 下準備で埋まる欄 | 医師に残る欄 |
|---|---|---|
| 保険会社の診断書 | 入退院日・手術日・通院日 | 傷病名・診断の根拠 |
| 診療情報提供書(紹介状) | 既往歴・処方・直近の検査値 | 紹介の目的・現在の所見 |
| 主治医意見書 | 基本情報・最終診察日・処方 | 診断名と経過・心身の状態 |
| 退院時サマリー | 入退院日・検査値と処置の推移 | 経過の評価・退院後の方針 |
紹介状では、既往歴・処方・直近の検査値が電子カルテからの転記で埋まり、医師が書くのは紹介の目的と所見の数行だけ、という形になりやすい文書です。前の節の架空の数字なら、件数の多い保険会社の診断書と、待ち日数の長い主治医意見書を比べ、様式に「カルテから写す」の印が多く付いた方から始めます。
選んだ文書は、ひと月続けて同じ種類の交付までの日数を数えます。医師1件あたりの作成時間も、医師が始めと終わりの時刻を受付票に書けば取れます。交付までの日数が先月より縮まず、医師がカルテに無い記載を消す件数も減らなければ、その文書はAIの下書きをやめ、医療事務の転記だけに戻します。
日数が縮まない文書が署名待ちで止まっているなら院内の人手の問題で、転記の欄が埋まらずに止まっているなら電子カルテの設定の問題です。
所見や意見が中心の文書は、下書きに回さない
下書きに回さないのは、本文が主に所見・診断の根拠・医学的な意見で書かれる文書と、初診直後で記録の少ない患者の文書です。前者は下準備で埋まる欄がほとんど無く、後者はカルテに写す材料がそもそもありません。
就労や復職の可否について医師の意見を求める書類のように、様式の欄が主に自由記述の意見欄でできている文書は、医師が最初から書く方が早く終わります。記録の少ない患者の文書でAIに下書きをさせると、空けておくべき欄をもっともらしい文で埋めることがあります。
下準備した版にカルテに無い記載が入っていたら、医師はその記載を消し、どの欄だったかを受付票に書いて、下準備の担当へ戻します。同じ欄で何度も戻るなら、その欄は様式の「カルテから写す」の印を外し、医師が書く欄に移します。
院外の生成AIに様式と診療録を送るなら、その前に院内の送信ルールを決めます。サービス側が患者の情報を取り扱わない形なのか、個人データの取扱いの委託なのか、第三者提供なのかは、契約と設定を読まないと決まりません。委託なら個人情報保護法第25条で委託先の監督が要り、第三者提供なら第27条で原則として本人の同意が要ります。
電子カルテとつなぐ運用で守る基準は、厚生労働省が医療情報システム向けに定めた安全管理ガイドラインで、現行は令和8年6月の第7.0版です。入れてよい患者情報の範囲は、生成AIに入れる患者情報を3段階で決める記事を先に読んでください。
様式の転記設定と照合を、誰が持ち続けるか
AIの下書きを入れても、3つ目の照合の作業と、受付票で署名待ちの文書を管理する作業は人が持ちます。院内でこの2つを持てる医療事務か医師事務作業補助者がいるなら、外部に頼まずに始められます。
平成19年の通知は、記載を代行する事務職員について、2つの点を望ましいとしています。雇用契約に守秘義務と同じ趣旨の規定を設けることと、関係する業務に一定の知識を持つ人が行うことです。文書の下準備を新しく任せるときは、雇用契約の規定と、様式ごとに写す欄を記した手順書の2つをそろえてから始めます。
外部に頼むのが向いているのは、電子カルテの文書作成機能に、様式ごとの転記の設定を作る作業です。設定を変えられる職員が院内にいない場合や、院外の生成AIを使うために契約と送信範囲を確かめる人がいない場合は、その部分を外部に頼みます。
保険会社の診断書は、提出先の会社ごとに様式が違い、様式が改められることもあります。転記の設定を作っても、様式が変わるたびに写す欄を直す手間が続くので、提出先の数が多い院ほど、その直しを院内の誰が持つかを先に決めておく必要があります。
明日から始める3ステップ
担当 事務長(書き出しは医療事務)
受付票と文書依頼の控えから先月分を1行1件で書き出し、文書の種類・提出先・依頼日・交付日を表に入れる
次へ進む目安先月の依頼が全件入り、まだ交付していない行には「未交付」と書かれている
担当 院長と事務長
件数と交付までの日数が上位の2種類について、様式の各欄に「カルテから写す」「医師が書く」の印を付け、写す欄の多い方を最初の1種類に選ぶ
次へ進む目安選んだ1種類の様式に欄ごとの印が付き、選んだ理由が1行で書かれている
担当 医療事務(直した欄の記入は医師)
選んだ文書は次の依頼から下準備した版を医師に回し、1件ごとに交付日と、医師が直した欄・消した記載を記録する
次へ進む目安ひと月分の交付までの日数が先月の同じ種類と並び、カルテに無い記載を医師が消した件数が書かれている
無料相談(オンライン)
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01無料相談
カルテの入力・予約受付・レセプト点検から、最初の1業務を決める
02進め方の提案
規模に合う進め方を提案する
03作って試す
一緒に作り、現場で試して直す
04定着まで伴走
毎月1テーマずつ積み上げる
作って試す・定着までAIエージェント開発AI顧問生成AI研修
出典
- 厚生労働省医政局長通知「医師及び医療関係職と事務職員等との間等での役割分担の推進について」(医政発第1228001号)2.(1)1)① 診断書、診療録及び処方せんの作成・2.(1)1)② 主治医意見書の作成・2.(1)1) 書類作成等 厚生労働省 確認日 2026.11.04
- 第3回 医師の働き方改革を進めるためのタスク・シフト/シェアの推進に関する検討会 資料5「医師の働き方改革に向けて特に進めるべき業務について」(1枚目 医師事務作業補助者) 厚生労働省 確認日 2026.11.04
- 医師法(昭和23年法律第201号)(第19条第2項・第20条・第24条第1項) e-Gov法令検索(デジタル庁) 確認日 2026.11.04
- 厚生労働省「医師の働き方改革概要」(1枚目 勤務医の上限規制) 厚生労働省 確認日 2026.11.04
- 厚生労働省「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン 第7.0版」(案内ページの表題) 厚生労働省 確認日 2026.11.04
- 個人情報の保護に関する法律(平成15年法律第57号)第25条(委託先の監督)・第27条第1項(第三者提供の制限) e-Gov法令検索(デジタル庁) 確認日 2026.11.04
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