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診療記録

クリニックの電子カルテ音声入力は、診察中より診察直後の口述から試す

クリニックの電子カルテ音声入力は、診察中より診察直後の口述から試す

編集 BoostX編集部10分で読めます

診療記録の記事一覧公開 2026.09.27最終確認 2026.09.27

この記事の要点

クリニックの電子カルテ音声入力は、診察中より診察直後の口述から試す

たとえば午後の外来が終わった19時過ぎ、院長が診察室で付箋を1枚ずつめくりながら、その日の患者の所見を電子カルテのSOAP欄に埋めている。こうした閉院後の入力を音声入力で減らすなら、家族の同席や説明の長い診察では、患者の退室直後に医師が要点を口述する方式から始めます。1対1で会話の短い診察なら、診察中の会話記録も選べます。どちらの方式でも、音声から作った文章は下書きで、医師が読み直して署名するまで診療録にはなりません。

  • 家族や看護師が同席する診察、説明が長い診察は、退室直後の口述から始める
  • 1対1で会話が短く、マイクを机の定位置に置ける診察室なら、診察中の会話記録も選べる
  • 下書きに任せるのは文字起こしとSOAP欄への振り分けまでで、所見・診断名・処方・方針は医師が確かめて署名する
  • 確認で目を留める語は、薬剤名・用量と日数・左右と部位・「ある」と「ない」
  • 患者の音声を院外のサーバーで処理する方式は、送る範囲・学習に使うかどうか・委託先の監督を契約の前に決める
  • 導入前にひと月、閉院後の記録時間と翌日に持ち越した件数を控えておく
クリニックの電子カルテ音声入力は、診察中より診察直後の口述から試す(業務の現場のイメージ写真)

クリニックの音声入力は診察中と診察直後のどちらで使う?

同席者が多い診察や会話の長い診察なら診察直後の口述から、1対1で短い診察なら診察中の会話記録も選べます。分かれ目は、できあがった下書きから所見に要る部分を拾い直す手間が、どちらの方式で小さく済むかです。

診察室の条件 診察中の会話記録 診察直後の口述 始める方式
家族や看護師が同席する 複数の声が混ざる 医師の声だけが残る 口述
説明や生活指導が長い 下書きが長くなる 要点だけを話せる 口述
1対1で会話が短い再診 会話がほぼ所見になる 話し直す手間が残る 会話記録も可
空調音や隣の声が入る 聞き違いが増える マイクの近くで話せる 口述
検査結果の説明が中心 説明の文が混ざる 結果と方針だけ話す 口述

会話記録の強みは、患者の言い回しをそのまま残せることです。初診の主訴を患者の言葉で残したい場面では、口述より情報が多く残ります。その代わり、下書きには患者や家族の発話、医師の説明、雑談まで入る。医師はS欄に入れる文とそうでない文を読み分けることになります。説明の長い診察で会話を全部拾わせると、下書きが長くなり、読み分けのほうが口述で話し直すより時間を食います。

迷ったら口述から始め、再診で「前回と同じ薬を続ける」だけの枠に限って会話記録を試すのが順当です。口述なら患者への告知や同席者への断りが要らず、診察の進め方を変えずに始められるからです。

閉院後にカルテ入力が残るクリニックの記録の流れ

閉院後に残るのは、診察中に後回しにした所見と経過の記述です。処方・病名・算定の入力は、会計を待つ患者がいるため診察中に済ませる。後ろにずれるのは、急がなくても会計が止まらない自由記述の欄、つまりSOAPのSとOとAです。

着手から完了までの流れ。色の付いた工程はAIが担える部分があり、「人」はその工程で人が決めることが残る工程です。
  1. 1診察・処置AIと人
  2. 2処方と会計の入力AIと人
  3. 3所見を付箋に残すAIと人
  4. 4閉院後に所見を書くAIと人
  5. 5確認・署名AIと人
  6. 6保存・転記AIと人

AIが担える人が決める

  1. 1

    診察・処置

    担当: 医師・看護師 / 使うもの: 問診票・Web問診 / 量・時間: 患者1人ごと

    AIが解決すること
    会話の文字起こし
    人が決めること
    診断と方針
    詰まるところ
    説明と問診が長い
    失敗したときの損失
    聞き漏らした訴え
  2. 2

    処方と会計の入力

    担当: 医師 / 使うもの: 処方・病名・算定の欄 / 量・時間: 患者1人ごと

    AIが解決すること
    対象にしない
    人が決めること
    処方と病名の登録
    詰まるところ
    会計待ちで急ぐ
    失敗したときの損失
    会計とレセプトの誤り
  3. 3

    所見を付箋に残す

    担当: 医師 / 使うもの: 付箋・空欄のSOAP / 量・時間: 外来の合間

    AIが解決すること
    口述で付箋を置き換える
    人が決めること
    何を残すか
    詰まるところ
    本人しか読めない
    失敗したときの損失
    所見の書き漏れ
  4. 4

    閉院後に所見を書く

    担当: 医師 / 使うもの: 電子カルテのSOAP欄 / 量・時間: その日の患者数ぶん

    AIが解決すること
    下書きを欄へ並べる
    人が決めること
    所見と経過の中身
    詰まるところ
    記憶が薄れる
    失敗したときの損失
    事実と違う記載
  5. 5

    確認・署名

    担当: 医師 / 使うもの: 電子カルテの確定操作 / 量・時間: 閉院後にまとめて

    AIが解決すること
    見るべき語に印を付ける
    人が決めること
    確定するかどうか
    詰まるところ
    疲れて読み飛ばす
    失敗したときの損失
    誤りが診療録に残る
  6. 6

    保存・転記

    担当: 医師・医療クラーク / 使うもの: 紹介状・看護記録 / 量・時間: 必要な患者だけ

    AIが解決すること
    経過の要約案
    人が決めること
    文書に書く中身
    詰まるところ
    記録待ちで遅れる
    失敗したときの損失
    紹介先への誤った経過

時間が溜まるのは工程3と4の間です。付箋に書いた数語から、閉院後に所見の文章を起こし直している。音声入力が効くのはここで、付箋の代わりに退室直後の声を残せば、閉院後に「思い出して書く」作業が「読んで直す」作業に変わります。工程2は対象にしません。処方と病名は選択式の欄で入れるほうが速く、文字起こしを挟むと会計が遅れるからです。

診療記録の中でも、この遅れは法令と勤務の両方にかかわります。医師法第24条第1項は、医師が診療をしたときは遅滞なく診療録に記載するよう定めている。翌日に持ち越す日が増えるほど、この「遅滞なく」との距離は開きます。勤務医を雇うクリニックでは、閉院後の記録は時間外労働として数える時間で、2024年4月からA水準の医師には年960時間の上限がかかっています。

診察中の会話を音声入力で記録できる診察室の条件

診察中の会話記録が向くのは、医師と患者の1対1で、会話の大半がそのまま所見や経過になる診察です。高血圧や脂質異常症で定期処方を続ける再診の枠が当てはまりやすい。

診察室の側で確かめたいのは、マイクを机の上の同じ位置に置けるか、空調や隣の診察室の声が入らないか、看護師が出入りしても声を拾いすぎないかです。マスク越しの声は聞き取りが落ちやすいので、試す前に医師がマスクをしたまま数日分の再診を録り、下書きを読み比べておくと向き不向きが見えます。

患者への伝え方も先に決めます。受付の掲示とWeb問診の画面で、診察の会話を記録の下書きに使うことを知らせ、診察の最初に医師が一言添える。断られたら、その患者だけ口述に切り替えれば済みます。小児科で親が同席する診察や、介護者と一緒に来る高齢の患者の診察は、声が重なるので最初から口述の枠に入れておく。

会話記録を入れないほうがよいのは、心療内科や婦人科の相談のように、記録されていると思うだけで患者が話しにくくなる診察です。下書きが楽になっても、問診で聞けることが減れば記録の中身が痩せます。

診察直後の口述で診療録の下書きを作る段取り

口述は、患者が退室してから次の患者を呼ぶまでの間に、医師が要点をSOAPの順で吹き込む方式です。下書きの確認は昼休みと閉院時にまとめて行うと、外来の流れを止めずに回せます。

  1. 患者が退室したら、次の患者を呼ぶ前に電子カルテでその患者を開いたまま、SOAPの順に話す。「S、数日前からの咳、夜に強くなる。O、聴診で雑音なし、咽頭の発赤あり。A、急性上気道炎。P、去痰薬を処方、続くなら再診」の粒度で足りる。
  2. 下書きがSOAP欄に並ぶ。電子カルテの音声入力機能で直接入れる形でも、別の仕組みで作った文を貼る形でもよい。検査所見のように毎回同じ文が並ぶ部分は定型文テンプレートに任せ、口述は患者ごとに違う部分に絞る。
  3. 昼休みと閉院時に、医師が未確定の下書きを一覧で開き、薬剤名・用量と日数・左右・否定語を確かめてから署名する。
  4. 直した箇所があれば、何をどう直したかを1行ずつ控える。この控えが、辞書に足す語と、話し方を変える点の手がかりになる。

口述では、患者の氏名や生年月日を話しません。電子カルテで患者を開いた状態で話しているので、氏名は画面の側で紐づいています。

試す範囲は、医師1人の午前の再診枠で2週間から始めます。そこで下書きの直しが減っていくなら、午後の枠、初診、非常勤の医師の順に広げる。非常勤の医師を最後にするのは、口述の癖や略語が医師ごとに違い、辞書と定型文を常勤の医師の分で整えてからのほうが立ち上がりが早いからです。

音声入力の下書きに任せる範囲と医師が署名する範囲

音声入力で作った文章は、医師が確認して署名するまで診療録ではなく下書きです。医師法第24条第1項が診療録への記載を求めている相手は医師で、下書きに誤りが残ったまま署名すれば、記載した医師の記録として残ります。

記録の部分 下書きに任せてよいこと 医師が確定すること
主訴・経過 口述や会話の文字起こし 患者の訴えと合っているか
SOAPの振り分け 各欄への並べ替え 欄の入れ違いの修正
所見 口述どおりの文字化 所見の有無と程度
診断名 口述した病名の文字化 病名の確定と登録
処方・方針 口述した内容の文字化 薬剤・用量・日数と方針
紹介状の経過欄 経過の要約案 紹介先に伝える中身

下書きの病名を確かめずに病名欄へ登録すると、その病名はレセプトにもそのまま載ります。月初のレセプト点検で病名の指摘が出たときに医事課と医師のどちらが直すかは、レセプト点検のAI指摘の振り分け方と同じ筋で考えられます。

保存の面では、同じ条の第2項が、病院や診療所に勤務する医師の診療録を管理者が5年間保存するよう定めています。保存の対象は署名した診療録で、元の音声や途中の下書きをどこまで残すかは院内規程で決めておく。残さないと決めるなら、処理が終わった音声を消す時期を事業者との取り決めに入れます。

薬剤名や左右の聞き違いがカルテに残る型

聞き違いで危ないのは、文章としては自然に読めるのに意味が変わる語です。誤字なら目に留まりますが、「右膝」が「左膝」になった文は、疲れた目には正しい文に見えます。

仮の場面で追ってみます。夕方の再診で院長が「右膝の腫れは引いてきた」と口述し、下書きには「左膝」と入った。閉院後に一覧を流し読みして署名した。2週間後、非常勤の医師が左膝の経過として読んで診察を始め、患者に「右です」と言われて気づく。直すときは電子カルテの訂正機能を使い、元の記載が履歴に残る形にします。

防ぎ方は、確認で目を留める語を絞ることです。

  • 薬剤名:名前の似た別の薬に置き換わっていないか
  • 用量と日数:数字と単位が口述どおりか
  • 左右と部位:左右、上下、指の番号
  • 「ある」と「ない」:「発熱なし」が「発熱あり」になっていないか

薬剤名の聞き違いを根元から減らすなら、口述で薬剤名を言わない手があります。処方は処方欄から選んで入れ、口述のP欄は「処方は処方欄のとおり、続くなら再診」と方針だけにする。自院でよく出す薬剤名や略語は、電子カルテや音声入力の辞書に登録しておくと、聞き違いの出る語が回を追って減っていきます。

診察の音声を外部サーバーに送る前に決めること

病歴は個人情報保護法第2条第3項が定める要配慮個人情報で、診察の音声や口述にはそれがそのまま入ります。音声を院外のサーバーで文字にする方式なら、契約の前に取り扱いを決めておきます。

事業者に確かめるのは、音声と文字を処理して置く場所、患者の音声を学習用に回すか、処理後の音声を消す時期、再委託の有無、契約終了時の消去です。事業者に音声の処理を任せる形が委託に当たるなら、同法第25条により、医療機関は委託先の安全管理を監督する側に立ちます。答えを契約書か覚書の形で受け取っておけば、監督の中身として残ります。

院内の決まりも1枚にまとめます。音声入力に使ってよいのは院内の端末だけにし、医師の私物のスマートフォンは使わない。口述に氏名を入れない。署名前の下書きを誰が見られるか。事務長がこの紙を作り、院長が承認してから試行に入ると、非常勤の医師に広げるときにも同じ紙を渡せます。

事業者が学習利用の有無や保存場所を契約の文面で答えられないなら、患者の音声を院外に送る方式は見送り、院内の端末で完結する音声入力か、定型文テンプレートの整備にとどめます。

電子カルテ導入前の診療所で音声入力を始める順番

医療施設調査で見ると、令和5年、電子カルテシステム導入済みの一般診療所は55.0%、一般病院は65.6%です。紙のカルテで診ている医院には、音声の下書きを入れる先がまだありません。

紙カルテのまま口述の下書きを印刷して貼る運用は、紙と電子の二重管理になり、どちらが正本かが曖昧になります。紙カルテで診ている医院なら、先に所見の定型文やスタンプを整えて書く量そのものを減らし、電子カルテを入れる時期に、音声入力の機能と未確定の下書きを一覧で確かめられるかを選ぶ条件に加えるほうが筋がよい。

電子カルテを使っていても更新が1年以内に迫っているなら、今の電子カルテに音声入力を足すより、更新先の機能で試すほうが、辞書や定型文を二度作らずに済みます。

音声入力の導入前後でカルテ入力の時間を比べる

効果は、導入前ひと月の閉院後の記録時間と、導入後の同じ時間の差で見ます。閉院時刻と、その日最後に署名した時刻は電子カルテの確定の時刻から拾えるので、医師の記憶に頼らずに測れます。

測る項目 自院の値
閉院から最後の署名までの時間(1日平均)
翌日に持ち越した診療録の件数(ひと月)
下書きを直した件数(1日あたり)
医師の記録にかかった時間外(ひと月)

導入直後の2週間は、辞書が育っていないぶん直す件数が多く出ます。続けるかどうかは、ひと月たってから決めます。閉院後の時間が減り、直した件数も下がっていくなら、試した枠から午後と初診へ広げる。直す件数が減らず、下書きを読むほうが自分で打つより長い医師がいるなら、その医師は口述をやめて定型文テンプレートの整備に戻すほうが、閉院後の時間は早く縮みます。

口述を入れた後の外来で消えるのは付箋を書く手間で、代わりに昼と閉院時の確認と署名が工程として立ちます。確認の時間を外来の予定に入れておかないと、下書きが未確定のまま溜まり、閉院後に読む量がまた膨らみます。

出典

  1. 医師法(昭和23年法律第201号)第24条 e-Gov法令検索(デジタル庁) 確認日 2026.09.27
  2. 個人情報の保護に関する法律(平成15年法律第57号)第2条第3項・第25条 e-Gov法令検索(デジタル庁) 確認日 2026.09.27
  3. 厚生労働省「電子カルテシステム等の普及状況の推移」(出典は医療施設調査) 厚生労働省 確認日 2026.09.27
  4. 厚生労働省「医師の働き方改革概要」 厚生労働省 確認日 2026.09.27

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