製造の在庫の滞留と欠品、AIで安全在庫を置き直す品目と決める人
この記事は、滞留品と欠品が同じ月に増えて部材の安全在庫を置き直したい、製造の工場長・生産管理課長・資材担当の責任者向けです。
品目マスタの安全在庫の欄には数字が入っていても、その数字を誰がいつ、どの期間の使用実績から決めたのかは、記録に残っていないことがあります。棚に残る部材と足りなくなる部材が同じ月に出ている工場に向けて、AIの集計に任せてよい作業、数字を確定する担当者、最初に置き直す品目を、在庫・倉庫の業務の流れに沿って示します。

先に結論
滞留品と欠品が同じ倉庫で同時に出ているなら、先に直すのは需要の予測ではなく、品目ごとの安全在庫の数字と、それを決めた根拠の記録です。出庫実績からの使用量のばらつきと、入荷実績からの調達期間の集計、見直す候補の一覧づくりまでは、AIが受け持てます。
安全在庫の数字を確定するのは資材担当の責任者と生産管理課長で、どの品目の欠品をどこまで許すか、滞留品を処分するか転用するかは工場長が決めます。置き直しは全品目からではなく、直近に欠品しかけた品目と滞留の長い品目の上位から始めます。棚卸で帳簿と現物の差が大きい品目、入出庫の履歴が欠けた品目、設計変更や生産終了が決まった品目は、AIの集計を使わずに担当者が現物と履歴で確かめます。
在庫の滞留と欠品が同時に起きるのは、安全在庫が古いから
製造業の倉庫で滞留と欠品が同時に起きるのは、品目ごとの安全在庫が、使用量や仕入先の納期の変化に合わせて直されていないからです。使用が減った品目は余り、使用が増えた品目や納期が延びた品目は足りなくなります。ずれる向きが品目ごとに逆なので、在庫金額の合計だけを見ていると気づけません。
安全在庫が実態と合わなくなるきっかけは、次の3つです。
図の要点:出庫実績・入荷実績・品目マスタの登録値をAIに渡し、AIが品目ごとの使用量のばらつきと発注から入荷までの日数、見直し候補の一覧を作る。資材担当が候補を現物と入出庫の履歴で照合し、棚卸差異の大きい品目や設計変更の品目は集計から外す。安全在庫の数字は資材担当の責任者と生産管理課長が確定し、欠品の許し方は工場長が決め、決めた人・日付・根拠を設定記録に残す流れの図。
使用量の変化
使用が減った部材は同じ数だけ補充されて滞留し、使用が増えた部材は欠品に出ます。調達期間の変化
仕入先の納期が延びた品目は、発注点で発注しても入荷前に在庫が尽きます。設計変更による切替
使わなくなった旧部材も、品目マスタに発注点と安全在庫が残る限り補充されます。
仮の業務例で言うと、次のような月です。月末の在庫一覧で、設計変更で使わなくなった旧型の部材が安全在庫の数だけ毎月補充されて棚に残っています。同じ週、仕入先の納期が延びた樹脂材は発注点で発注したのに入荷前に在庫が尽きかけ、資材担当が仕入先に前倒しを頼み込みます。どちらの数字も、誰がいつ品目マスタに入れたのかを資材の誰も答えられません。
ここで取り上げるのは、自社の部材の使用実績と仕入先からの入荷です。客先の内示や確定注文の数字が揺れる問題は、内示と確定の差分一覧で計画の組み直しを減らす記事で扱っています。入出庫や棚卸など、在庫・倉庫のほかの業務を扱う記事は在庫・倉庫の業務の記事に並んでいます。
使用実績のばらつきと調達期間の集計はAIに任せる
安全在庫は、使用量のばらつきと、発注から入荷までの期間に起きる変動に備えて余分に持つ在庫です。AIに集計させられるのは、その材料になる使用実績と調達期間、見直す候補の一覧です。欠品をどこまで許すかという判断は、この材料からは出てきません。
不定期に発注する品目なら、安全在庫量は「安全係数×調達期間の平方根×使用量の標準偏差」で求めるのが基本の式です。決まった間隔で発注する品目は、調達期間に発注間隔を足してから平方根をとります。
このうち使用量の標準偏差(ばらつき)と調達期間は、出庫と入荷の実績から集計できる値です。ばらつきを1日あたりで出すなら調達期間も日数で、週あたりなら週数で、同じ単位にそろえます。
残る安全係数は、欠品をどこまで許すかという方針から決まる値で、実績からは出てきません。
この式は、一定期間ごとの使用量が正規分布に従うと仮定した目安です。使用実績の無い新製品の部材や、設計変更の直後で実績が短い品目には当てはまりません。
帳簿と現物が合わない品目は、AIの集計に乗せずに資材担当が確かめる
AIに渡す記録
- 出庫実績(品目コード・出庫日・数量)
- 入荷実績(品目コード・発注日・入荷日)
- 品目マスタの安全在庫・発注点・調達期間
AIが作る一覧
- 品目ごとの日別の使用量とばらつき
- 発注から入荷までの日数の実績
- 調達期間の差・使用停止・欠品しかけた品目
資材担当の照合
- 候補を現物と入出庫の履歴で照合する
- 棚卸差異の大きい品目は集計から外す
- 設計変更・生産終了の品目は別に扱う
確定と記録
- 数字は資材担当の責任者と生産管理課長
- 欠品の許し方は工場長
- 決めた人・日付・根拠を設定記録へ
この図で決めるのは、AIの一覧のどこから先を人が引き取るかです。AIが候補に挙げた印は資材担当が見る順番を決める材料で、候補に挙がらなかった品目の数字が正しいことを示すものではありません。
集計を任せる前提として、在庫の帳簿と現物が日ごとに一致し、入出庫の履歴が品目ごとに残っていることを確かめます。棚卸で差が大きい品目は、差の原因を調べるのが先です。帳票ごとに品目の番号が違い、品目ごとに使用実績を足し上げられない工場は、品目コード対応表を作る記事の作業から始めます。
AIへの指示では、渡す列と返す形を具体的に書きます。たとえば「出庫実績と入荷実績から、品目ごとに1日あたりの使用量の平均と標準偏差、発注から入荷までの日数の平均と最長を出し、品目マスタの調達期間と並べてください。履歴の無い品目は『未確認』と書いてください」と頼みます。
出庫と入荷の実績には、仕入先名や単価も入ります。外部の生成AIサービスに渡してよいかは、社内の生成AIの利用規程と仕入先との取り決めで確かめます。
安全在庫の置き直しは、欠品と滞留の上位品目から
安全在庫の置き直しは、直近に欠品しかけた品目と、動かない月数が長い品目の上位から始めます。全品目の一斉見直しや、需要予測モデルの導入からは始めません。
| 工程 | 安全在庫が古いと起きること | AIに集計させること |
|---|---|---|
| 入庫と棚入れ | 使わない部材の入荷が続く | 納品書の品目と数量 |
| 出庫・ピッキング | 部材待ちでラインが止まりかける | 品目ごとの日別の使用量 |
| 棚卸と差異調査 | 帳簿と現物の差が残る | 差が大きい品目の一覧 |
| 滞留・欠品の把握 | 余る品目と足りない品目が混ざる | 見直し候補の一覧 |
| 出荷 | 製品の出荷に部材が間に合わない | 欠品しかけた品目と日付 |
5つの工程のうち、最初に手を付けるのは滞留・欠品の把握です。毎月繰り返す作業で、集計と候補の洗い出しには判断が入らず、置き直した品目の欠品と滞留が減ったかを月ごとに数えられます。棚卸と差異調査は帳簿と現物を合わせる別の仕事で、ここでは済んでいる前提で扱います。
置き直す品目の数は、資材担当が1か月で現物と履歴を確かめ終えられる数に絞ります。全品目の数字を一度に変えると、どの品目の変更で欠品や滞留が動いたのかを追えなくなります。
試す前の1か月は、欠品しかけた回数、滞留月数の長い品目の数、品目マスタの調達期間と入荷実績の差を記録しておきます。置き直した後に同じ3つを数えて比べます。照合で帳簿と現物が合わない品目が続いた月は、AIの集計を止めて、出庫の記録の付け方を先に直します。
安全在庫の数字に、決めた人と日付と根拠を残す
置き直した安全在庫には、数字と一緒に、決めた人・決めた日・根拠にした期間を書き残します。残さないと、次の担当者がまた理由の分からない数字を引き継ぎ、数年後に同じ滞留と欠品が起きます。
説明用の架空の記入例として、樹脂材1品目の設定記録を示します。
| 設定記録の列 | 記入例(架空) | 入れる人 |
|---|---|---|
| 品目 | 樹脂材 PA-102 | 資材担当 |
| 安全在庫 | 400kg | 資材担当の責任者 |
| 発注点 | 1,000kg | 資材担当の責任者 |
| 決めた人 | 資材担当の責任者と生産管理課長 | 資材担当の責任者 |
| 決めた日 | 2026年11月20日 | 資材担当の責任者 |
| 使った使用実績の期間 | 2025年11月〜2026年10月 | 資材担当 |
| 使った調達期間 | 入荷実績の平均20日 | 資材担当 |
| 欠品をどこまで許すか | 許す欠品率をごく低く置く(ラインが止まる) | 工場長 |
| 次に見直す日 | 2027年2月末 | 資材担当の責任者 |
記入例の発注点1,000kgは、1日の平均使用量を30kgと置き、調達期間20日分の600kgに安全在庫400kgを足した架空の値です。数字の横に根拠の期間があれば、次に見直す担当者は同じ期間の取り方で集計し直せます。
照合を終えた品目は、資材担当が先の式に当てはめて安全在庫と発注点の案を作り、資材担当の責任者と生産管理課長が確定してから設定記録に書き込みます。
品目マスタの調達期間には、仕入先から聞いた納期がそのまま入っていることがあります。入荷実績の日数と離れている品目は、実績の値で置き直し、差の大きい仕入先とは守れる納期を取り決め直します。
見直す時期は、全品目一律の頻度では決めず、品目ごとに「次に見直す日」を入れます。設計変更通知が出た品目や、仕入先から納期の変更を知らされた品目は、その日を待たずに見直します。新製品の部材のように式が成り立たない品目は、生産計画の数量を見て資材担当の責任者と生産管理課長が数字を決めます。設定記録の「使った使用実績の期間」の欄には「計画数量から決定」と書きます。
滞留品の処分と欠品の許し方は、工場長が決める
どの品目の欠品をほとんど許さずに厚く持つか、滞留品を処分するか別の製品に転用するかは、工場長が資材担当の責任者と生産管理課長の意見を聞いて決めます。どちらも在庫金額とラインが止まったときの損失を比べる判断で、AIの集計からは答えが出ません。
欠品をほとんど許さない品目は、ラインを止める部材や、代わりの仕入先が無い部材から選びます。ここで決めた許し方が安全係数になり、厚く持つ品目が増えるほど在庫金額は増えます。工場長が品目を指定した日付も、設定記録に残します。
滞留品を処分するときは、税務の扱いも確かめます。法人税法施行令第68条第1項第1号は、棚卸資産の評価損を計上できる事実として、災害による著しい損傷、著しい陳腐化、これらに準ずる特別の事実を挙げています。対象は、その事実によって価額が帳簿価額を下回ったものです。
棚で動かずにいるだけでは、この事実に当たらない場合があります。評価損を計上できるか、廃棄した場合にどう扱うかは品目ごとに税理士に確認し、処分か転用かの判断は、月次の候補一覧を見る場で早めに出します。
外に頼むのは、実績の取り出しと品目マスタの改修
外に頼む候補になるのは、基幹システムから出庫と入荷の実績を毎月取り出して候補一覧にするまでの作業と、品目マスタに設定記録の列を足す作業です。
実績がハンディ端末の記録と紙の出庫票に分かれている工場や、置き直す品目が多く、候補一覧を基幹システムへ戻す仕組みが要る工場は、この作業を外の手で作ります。
対象の品目を資材担当が1か月で確かめられる数に絞れていて、出庫と入荷の実績が電子で残っている工場もあります。数字を確定する人まで決まっていれば、表計算と汎用の生成AIサービスで集計と候補一覧は作れます。
生産計画の負荷や標準工数の見直しは、標準工数を実績で直して負荷表を積む記事で扱っています。見積や品質など工場のほかの業務は、製造業の業務別の記事から選べます。
効果は、資材担当の責任者が、置き直した品目の欠品しかけた回数と滞留月数を月ごとに数えて確かめます。欠品しかけた回数が減らない品目は、設定記録の「使った調達期間」に戻り、入荷実績と仕入先との取り決めを見直します。
設計変更で使わなくなった旧部材の発注点と安全在庫を止める作業は、外に頼むかどうかにかかわらず、設計変更通知を受け取った時点で資材担当が品目マスタで行います。ここが遅れると、AIの候補一覧に同じ旧部材が毎月並び続けます。
明日から始める3ステップ
担当 資材担当
これから1か月、部材待ちでラインが止まりかけた品目と仕入先に入荷の前倒しを頼んだ品目を日付と品目コードで書き留め、在庫一覧から動いていない月数の長い品目を抜き出す
次へ進む目安欠品しかけた品目の一覧と、滞留月数の長い品目の一覧が1か月分そろった
担当 資材担当の責任者
2つの一覧の上位の品目について、出庫実績と入荷実績をAIに集計させ、品目マスタの調達期間と実績の差、使用量のばらつきを並べた一覧を作り、現物と入出庫の履歴で照合する
次へ進む目安一覧の全品目に、集計を使うか現物で確かめるかの区分が入った
担当 資材担当の責任者・生産管理課長・工場長
照合を終えた品目の安全在庫と発注点の案を生産管理課長と確かめ、工場長から欠品の許し方と滞留品の処分・転用の指示を受けて、設定記録に書き込む
次へ進む目安置き直した全品目の設定記録に、決めた人・決めた日・次に見直す日が入った
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出典
- 東京海洋大学 講義資料「経営から見た顧客サービスの決定」(在庫管理 im07)スライド5〜7・13・14・スライド20(調達期間の定義)・21(調達期間の確定と短縮方法) 東京海洋大学 確認日 2026.11.03
- 法人税法施行令(昭和40年政令第97号)e-Gov法令検索(第68条第1項第1号) e-Gov法令検索(デジタル庁) 確認日 2026.11.03
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