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AI活用の基礎・選び方

医療機関の生成AI試行、効果と手間を記録票に並べて継続を決める

この記事は、生成AIの試行を終えた業務を続けるか・範囲を変えるか・やめるかを決める院長・事務長と、医事課・看護部門の責任者向けです。

病棟で医師事務作業補助者が退院時サマリの下書きを生成AIで作る試行が終わり、月末の運営会議で続けるかを決めることになったとします。取りまとめ役が持ってきたのは利用件数の一覧と職員アンケートだけで、主治医が下書きを直した時間はどこにもありません。試行記録票に書く欄と、三択それぞれに当たる記録の形、次に試す業務の選び方を、院内の役職と帳票に沿って取り上げます。

AI活用の基礎・選び方 7分 運営 株式会社BoostX

AI活用の基礎・選び方の現場のイメージ写真

先に結論

生成AIの試行は、時短に加えて確認者が見つけた誤り・増えた手間・使われ方を1枚の試行記録票に並べ、続ける・範囲を変える・やめるのどれにするかを院長が判断日に決めます。判断日と判断者、記録票の欄は、試行の初日に決めておきます。

記録票の集計や次の候補業務の一覧づくりは生成AIに手伝わせられますが、3つのどれを選ぶか、次に何を試すかは院長が決めます。業務・部署・入れる情報・サービスのどれかが変わるなら、医療情報システム安全管理責任者の承認をとり直します。確認者が見つけた事実の誤りが月を追っても減らない業務、確認の手間が浮いた時間を上回る業務、事実の誤りが確認をすり抜けた業務は、広げずにやめます。

続けるかは、初日に決めた判断日に記録で決める

生成AIの試行をどうするかは、試行を承認した院長が、初日に決めた判断日に記録票の数字を見て、続ける・範囲を変える・やめるの3つから選びます。終わってから決め方を考えると、材料は職員アンケートと使った人の体感しか残りません。

厚生労働科学研究の令和7年度分担研究報告は、DPC対象病院1,761病院の情報部門担当者等へ郵送で調査しました。回答は177病院で、回収率は10.1%です。生成AIを導入して運用上の課題に答えた122法人のうち38.5%が、「明確な今後の計画や評価指標の不在」を「かなり課題である」以上としています。

報告書は、回答が生成AIの活用に関心が高い病院に寄っているとしています。そうした病院でも4割近くが評価の指標の無さを強い課題と感じているので、自院では試行を始める日に指標を決めておきます。

説明用の仮の場面で考えます。退院時サマリの試行で、医師事務作業補助者の下書きの時間は減ったとします。アンケートが「便利だった8人・どちらでもない2人」でも、主治医から「直す手間は前と同じくらい」という声が出ていれば、補助者の作業が減った分だけ主治医の確認が増えているかもしれません。初日に記録票の欄を決めていなければ、この差は数字で比べられません。

三択を決めるのは、試行を承認した院長です。範囲を変える案になったときは、院長が決めたあとで医療情報システム安全管理責任者が承認をとり直します(院長が兼ねる院では同じ人です)。導入前の1件の時間・月の件数・直した回数は、院内で生成AIを使い始める業務と、入れてよい患者情報の範囲を決める記事の3つの欄を使います。

試行記録票に、効果と増えた手間を並べる

試行記録票には、導入前後の時間・件数・直した回数に加え、確認者が見つけた誤り、確認の時間、補助の人手、月の費用、使った件数を1枚に並べます。次の見本は、退院時サマリの下書きを病棟の医師事務作業補助者が作った場合の欄と、各欄を誰が書くかです。

図の要点:退院時サマリの下書きを試した場合の試行記録票の見本。判断日と判断者、導入前後の時間・件数・直した回数、確認者が見つけた誤りの種類、確認にかかった時間、補助の人手と費用、使った件数を人が書き、直しメモの仕分け案と欄ごとの集計だけをAIが作る。

試行記録票(退院時サマリの下書き・1業務1枚)

判断日・判断者
試行の初日に院長が書き、途中で動かさない人が確定
1件の時間・月の件数・直した回数
導入前と導入後を同じ様式で書く人が確定
確認者が見つけた誤り
事実の誤り・抜け・言い回しに分けて件数を書く人が確定
確認にかかった時間
主治医など確認者の職種ごとに分けて書く人が確定
補助に入った人手・月の費用
入力の手伝い、問い合わせ対応、利用料人が確定
使った件数
退院した患者のサマリのうち下書きを使った件数人が確定
直しメモの仕分け案
確認者のメモを3種類に分けた案。確定は確認者AI が下書き
欄ごとの集計と前月との差
表に整えた下書き。数は元の記録と照合するAI が下書き

この票で確かめるのは、補助者の時短と確認者の時間を同じ行で比べられるかどうかです。確認の時間を別の欄にしないと、補助者で浮いた時間と主治医の手間の増加が打ち消し合い、どちらも見えなくなります。

職員アンケートは、使われ方の理由を知る補助にとどめます。同じ報告では、導入時に「かなり」以上重視する要素に、費用対効果の大小(86.9%)と生成情報の信頼性(81.8%)が挙がっていました。満足度の回答からは、このどちらも読み取れません。

時短と増えた手間を同じ結果に並べた公開例に、長野中央病院のAI問診があります。患者がタブレットに入力する問診で、生成AIの事例ではありません。令和2年度の厚生労働省委託事業の研修資料では、3か月の試用期間を設け、有用と判断して本格稼働しています。

結果の欄には、問診時間が看護師の約10分からAI問診の約6分になったこと、看護師の配置が3人から2人になったことが並びます。同じ欄に、事務職員は一人増員が必要だったことと、受診者の80%がAI問診を使ったことも書かれていました。

製品の案内にある「年に何時間削減」のような数字は、算出方法が公表されていないものもあるので、判断の基準にせず、自院の導入前後の記録で比べます。

続ける・範囲を変える・やめるを分ける条件

時短があり、事実の誤りが確認で止まって月ごとに減っていれば続け、言い回しの直しが多いか、一部の文書でだけ時短が出るなら範囲を変えます。確認と直しに元の作業以上の時間がかかる、事実の誤りが確認をすり抜けた、事実の誤りが月を追っても減らない、のどれかならやめます。

選ぶもの 記録票の形 選んだ後に残すこと
続ける 時短があり、誤りが月ごとに減っている 次の見直し日を台帳に書く
範囲を変える 言い回しの直しが多く、事実の誤りは無い ひな形を変えて同じ業務で再試行
範囲を変える 一部の文書の種類だけ時短がある その種類に絞り承認をとり直す
範囲を変える 使う職員が一部に偏っている 使わない理由を聞き手順を直す
やめる 確認と直しの時間が元の作業以上 当たった欄と判断日を台帳に書く
やめる 事実の誤りが確認をすり抜けた 同じ型の業務を候補から外す
やめる 事実の誤りが月を追っても減らない 誤りの種類を台帳に書く

当てはめるときは、やめるの3行から先に見ます。確認をすり抜けた事実の誤りがあれば、時短が出ていても続けません。続けるには、確認の時間と補助の人手を足しても、浮いた時間より小さいことも要ります。

前の場面では、補助者の1件の時間が減っていても、主治医の確認時間が同じだけ増えていれば続けるには当たりません。直しの多くが言い回しで事実の誤りが無いなら、ひな形や入れる情報を変えて同じ退院時サマリでもう一度試します。前提の記事で止める例に挙げた「1件の時間が変わらず、直す手間が元と同じ」業務は、やめるの1行目です。

数字は判断日までの合計だけでなく、月ごとにも並べ、誤りが減っているかを見ます。やめた業務も台帳の行は残し、条件に当たった欄を書いておけば、事業者が機能を改めたときにその欄だけ測り直して再開を判断できます。

範囲を変えるときは、承認をとり直す

厚生労働省の安全管理ガイドライン第7.0版は、情報システムの導入や変更に承認の仕組みを求めています。生成AIを使う業務・部署・入れる情報の段階・サービスのどれかを変えることは、院ではこの「変更」に含めて扱い、医療情報システム安全管理責任者の承認をとり直します。院長が決めるのは範囲を変えるかどうかまでで、変えてよいかの承認は別に出します。

変わるもの 扱い 例
使う業務 承認をとり直す 退院時サマリから紹介状へ
使う部署 承認をとり直す 内科病棟から外科病棟へ
入れる情報の段階 承認をとり直す 加工した情報から診療情報へ
サービス・契約 承認をとり直す 別の事業者や上位の契約へ移る
ひな形の言い回し 記録票の更新で足りる 結びの文や敬語の調整

上の4行は、承認したときの前提が変わる変更です。最後の行は承認した範囲の中で出力の形を整えるだけなので、変えた日と内容を記録票に書けば足ります。院長が安全管理責任者を兼ねる診療所でも、同じ線で承認をとり直すと決めておけば、誰も承認していないまま範囲が広がることを防げます。

入れる情報の段階を上げるときは、前提の記事で挙げた契約と設定の3点に戻って確かめ直します。事業者が患者情報を取り扱わない約束か(契約の定めとアクセス制限の両方)、委託か、第三者提供に当たらないかの見極めもここで行います。申請から利用台帳への登録までの流れは、院内で生成AIの使い方を決める基礎の記事群で扱っています。

続けると決めた業務も、経営管理編が定期的な見直しを求めているので、同じ試行記録票で院が決めた間隔ごとに見直します。見直しでも三択の表をそのまま使い、誤りが増えていればやめるの行に当てはめます。

次の業務は、時短の見込みと確認者の空きで選ぶ

次に試す業務は、厚生労働科学研究で優先順位が高いとされた議事録・紹介状・退院時サマリ・看護サマリ・患者説明資料から選びます。その中で、文書を確定する職種に手の空きがある業務を1つにします。

同じ報告で優先順位が低いとされたのは、疑い病名生成による診断支援、病変アラート、患者対応ボット、自動翻訳、AI電話、研究支援です。診断や患者への直接の応答に近い業務は、院内に試行と判断の記録がたまってから検討します。報告の並びは回答病院の認識と実用状況から作られたもので、自院の順番は候補の目安として使います。

候補から選ぶ決め手は、確認者の手の空きです。退院時サマリと紹介状はどちらも医師が確定する文書なので、退院時サマリの試行で主治医の確認時間が増えたまま紹介状を足すと、同じ医師に負担が重なります。看護サマリなら看護師、院内会議の議事録なら主催した部門の責任者と、確認者が別の職種に移る業務を選びます。

同時に試すのは1業務までとし、前の業務の判断が出てから次の初日と判断日を決めます。候補は前提の記事で作った業務の棚卸し表から選び直し、生成AIには候補の一覧を整える下書きまでを任せます。どれにするかは院長が決めます。

患者説明資料を選ぶなら、検査説明書をAIで平易にし、看護師が元の説明書と突き合わせる記事が次の進め方です。予約や問診など、ほかの業務の候補は医療機関の業務別のAI活用記事から探せます。

記録票の作り直しや承認のとり直しを外部と組むとき

判断日が近いのに記録票の欄が足りないときや、範囲を変える案で変更の前後の記録をどう比べるかが決まらないときは、外部と組みます。欄が初日にそろい、承認した範囲の中でひな形を直すだけなら、判断日の会議までを院内で進められます。

確認の時間を書いていなかった試行は、電子カルテで退院時サマリを確定した記録から件数は追えても、確認にかかった時間は後から戻せません。最初に取りかかるのは記録票の空いた欄の洗い出しで、戻せない欄があれば判断日を延ばし、ひと月測り直す様式づくりから外部の支援者と進めます。

範囲を変えて承認をとり直す業務は、変える前の票と変えた後の票を同じ欄で比べないと、次の判断日に効果を示せません。文書の種類を絞った、ひな形を変えたなど、変えた点ごとに欄をどう分けて集計するかが院内で決まらないときは、その集計の形を外部の支援者と詰めます。承認を出すのは、変わらず医療情報システム安全管理責任者です。

やめた業務を外部の支援で立て直せるのは、確認と直しの時間が理由だった業務です。入れる情報やひな形を作り直せば、時間は変わり得ます。事実の誤りが確認をすり抜けてやめた業務は、確認の手順を院内で見直すまで、外部と組んでも同じ業務を再開しません。

明日から始める3ステップ

  1. 担当 事務長

    試行中の業務ごとに、判断日・判断者・記録票の欄を1枚に書き出し、試行を承認した院長の署名をもらう

    次へ進む目安走っている全部の試行に判断日と判断者の入った記録票があり、院長の署名がそろった

  2. 担当 試行した部門の責任者

    判断日の前の週に、確認者の直しメモと利用件数の一覧から記録票を埋め、三択のどれに当たるかの案と理由を添える

    次へ進む目安記録票の全部の欄が埋まり、三択の案と理由が判断会議の資料に載った

  3. 担当 院長

    判断会議で三択を決め、範囲を変える業務は医療情報システム安全管理責任者へ利用申請を出し直し、次に試す1業務を棚卸し表の候補から選ぶ

    次へ進む目安決めた結果と理由が利用台帳の行に書かれ、範囲を変える業務の承認が出て、次の試行の初日と判断日が決まった

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出典

  1. 厚生労働科学研究費補助金 令和7年度分担研究報告書「病院情報部門担当者等の生成AI活用による労働時間短縮への認識と実用・検討状況に関する研究」厚生労働省(厚生労働科学研究成果データベース) 確認日 2026.11.01
  2. 令和2年度 厚生労働省委託事業「医療機関の勤務環境マネジメント改革支援推進事業」トップマネジメント研修 資料「AI問診導入の経験」(長野中央病院 副院長)厚生労働省 いきいき働く医療機関サポートWeb(いきサポ) 確認日 2026.11.01
  3. 医療情報システムの安全管理に関するガイドライン 第7.0版 経営管理編(3章 遵守事項⑥・1章 遵守事項⑥・⑧) 厚生労働省 確認日 2026.11.01
  4. 医療情報システムの安全管理に関するガイドライン 第7.0版(令和8年6月)厚生労働省 確認日 2026.11.01

編集BoostX編集部(株式会社BoostX)編集と監修の決まり

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