この記事の要点
- 商品担当が月次で行う需要の見立ては、販売実績・在庫・内示の集計をAIに渡すと、商品別の予測値と幅、前年との乖離が大きい商品の一覧が先に出た状態から始まります。
- 数字を集めてExcelに並べる段階が消え、予測値を採るか直すかを決める段階と、内示や案件の確からしさを判定する段階が残ります。
- 発注量の確定、内示の信頼度の評価、特売や打ち切りの判断は人に残ります。予測の当たり外れは自社で差を記録して確かめます。
定義対象は、卸売会社・専門商社の商品担当(仕入担当を兼ねる場合を含む)が、月次または週次の発注計画の前に商品別の需要を見立てる業務です。
この記事が扱う業務と読む人
対象は、卸売会社・専門商社の商品担当(仕入担当を兼ねる場合を含む)が、月次または週次の発注計画の前に商品別の需要を見立てる業務です。発注そのもの、仕入先との価格交渉、在庫の置き場の設計は後工程として扱います。読む人は経営者、仕入・物流の責任者、営業責任者を想定します。
- 担当:商品担当。営業責任者が内示と案件の見方に関わる
- トリガー:月次の発注計画の前。季節商材は前倒し、大口案件の発生時は臨時に発生する
- 入力:基幹システムの販売実績、在庫・受注残・入荷予定、得意先からの内示(Excel・メール)、案件管理表、訪問報告、仕入先のリードタイムと最低発注数量
- 成果物:商品別の需要予測表と、その根拠
- 関わるシステム:基幹システム(販売実績・在庫)、予測表(Excel)、案件管理表、得意先からの内示ファイル
- 後工程:発注計画、仕入先への発注、在庫の配置
- 例外:新商品で実績が無い、得意先の生産計画が変わる、単発の大口案件、天候や需要期のずれ、廃番と切替
欠品と滞留在庫は別々の問題に見えますが、どちらも先の出荷を数字で説明できていないという同じ状態から生まれます。令和3年経済センサス‐活動調査では卸売業は34万8889事業所、産業小分類の上位3区分(産業機械器具、建築材料、食料・飲料)で事業所数の30.1%を占めます。扱う商材によって需要の動き方は違うため、他社の予測手法ではなく、自社の実績データが何年分どの粒度で残っているかが出発点になります。

いまの需要予測の流れ(現状)
販売実績は基幹システムにあり、予測はExcelで作っている会社を前提にします。所要時間は取扱品目数と得意先数で変わるため、数値は置かず、測る箇所を示します。
- 販売実績を取り出す
– 担当:商品担当
– 入力:基幹システムの出荷実績(商品別・得意先別・月別)
– 出力:Excelに貼った実績表
– 判断:どの期間を見るか
– 所要:出力と加工の時間。自社で計測する - 在庫・受注残・入荷予定を突き合わせる
– 担当:商品担当
– 入力:基幹システムの在庫、受注残、仕入先からの入荷予定
– 出力:現在の持ち高の一覧
– 判断:入荷予定のうち確からしいものはどれか
– 所要:品目数に比例 - 得意先の内示を集める
– 担当:商品担当、営業担当
– 入力:得意先ごとの内示(Excel・メール・紙)。様式も提出時期もばらばら
– 出力:内示をまとめた表
– 判断:内示をそのまま使うか、割り引くか
– 所要:得意先数に比例。ここを導入前に測る - 案件情報を集める
– 担当:営業責任者、商品担当
– 入力:案件管理表、訪問報告、営業担当への口頭確認
– 出力:案件の一覧と想定数量
– 判断:案件の確度をどう見るか
– 所要:営業への確認待ちが入る - 商品別に需要を見立てる
– 担当:商品担当
– 入力:段階1〜4の情報、季節要因、担当者の経験
– 出力:商品別の需要予測表
– 判断:前年同月をどこまで当てにするか、内示と案件をどう足すか
– 所要:品目数に比例。時間の中心 - 発注計画へ渡す
– 担当:商品担当、仕入担当
– 入力:予測表、最低発注数量、リードタイム、為替
– 出力:発注計画
– 判断:発注量の確定、分割発注の可否
– 所要:仕入先数に比例 - 予測と実績の差を振り返る
– 担当:商品担当、営業責任者
– 入力:予測表、実際の出荷実績、在庫の推移
– 出力:差異の記録
– 判断:予測の作り方を変えるか
– 所要:短いが、月末の忙しさで飛びやすい - 例外に対応する
– 担当:商品担当、営業担当
– 入力:欠品の連絡、内示の急な変更、単発の大口案件
– 出力:代替提案、臨時の発注
– 判断:どの得意先に優先して回すか
– 所要:発生のたび。予測の精度が低いほど増える
時間が消えるのは段階1と3です。データは基幹システムと得意先のメールにありますが、形が違うため毎月同じ加工を繰り返します。段階5に入る前に力を使い切ると、見立てそのものは前年同月に数量を足し引きするだけになります。
失敗が起きるのは段階3と4です。内示は得意先の計画であって確約ではありません。それを満額で織り込み、さらに案件を確度の判定なしに足すと、予測は実力より大きくなり、在庫が積み上がります。逆に内示を一律に割り引くと、動いた商品で欠品します。どちらも、確からしさを分けて扱っていないことから生まれます。
段階7が飛ばされることも、長い目では失敗につながります。差を記録しないと、どの商品群で見立てが外れやすいかが分からず、翌月も同じ作り方が続きます。予測の改善は、当てにいく作業ではなく、外れ方を知る作業から始まります。
AI活用後の同じ需要予測
販売実績の集計と内示の取り込み、予測値と幅の提示をAIに任せ、採否の判断を人に残す形です。段階番号は現状と同じにします。
- 販売実績を取り出す(AI)
– AIが受け取るもの:基幹システムから日次または週次で書き出した出荷実績
– AIが返すもの:商品別・得意先別の推移、前年同期との比較、動きが止まった商品の一覧
– 人が確認すること:対象期間と、廃番・切替商品の扱い - 在庫・受注残・入荷予定を突き合わせる(AI)
– AIが受け取るもの:在庫、受注残、入荷予定とその更新日時
– AIが返すもの:商品別の持ち高、入荷予定が古いまま更新されていない商品の指摘
– 人が確認すること:入荷予定の確からしさ。更新されていないデータで予測を作らない条件を入れる - 得意先の内示を取り込む(AI)
– AIが受け取るもの:得意先ごとの内示ファイルとメール本文
– AIが返すもの:様式の違いを吸収した内示一覧、前回の内示との差分、提出が遅れている得意先の一覧
– 人が確認すること:読み取り結果と原本の突き合わせ。様式が崩れた内示は保留にする - 案件情報を抽出する(AI)
– AIが受け取るもの:案件管理表、訪問報告、得意先とのメール
– AIが返すもの:案件の一覧(商品、想定数量、想定時期、記録上の状況)
– 人が確認すること:確度の判定は営業責任者が行う。AIは記録の抽出までで、確度を決めない - 商品別の予測値と幅を出す(AI)
– AIが受け取るもの:段階1〜4の結果、季節の区分、確度別に分けた内示と案件
– AIが返すもの:商品別の予測値と幅、前年との乖離が大きい商品の一覧、予測の根拠(どの実績とどの内示を使ったか)
– 人が確認すること:この段階では何もしない。判断は段階6にまとめる
– 内示と案件は確度別に分けて加算し、満額で足さない設定にする - 予測を採るか直すかを決め、発注へ渡す(人。判断が集中する段階)
– AIが受け取るもの:商品担当が直した予測値
– AIが返すもの:修正の記録と、修正が多い商品群の一覧
– 人が確認すること:乖離が大きい商品、内示の信頼度、案件の確度、最低発注数量とリードタイムを踏まえた発注量。発注量の確定は人が行う - 予測と実績の差を振り返る(AIが下書き・月次)
– AIが受け取るもの:予測表、実際の出荷実績、在庫の推移
– AIが返すもの:差が大きい商品の一覧と、要因の候補(内示との差、案件の不成立、季節のずれ)
– 人が確認すること:要因の確定と、予測の作り方を変えるかどうか - 例外に対応する(人。変わらない段階)
– AIは欠品の兆しがある商品を早く示すところまで。優先して回す得意先の判断と代替提案は営業が行う
例えば、ある商品で得意先から翌月100ケースの内示が出ており、案件管理表に同じ商品の大口案件が1件あるとします。AIは内示を過去の内示と実出荷の差の傾向とともに示し、案件は記録上の状況を添えて別枠で並べます。満額を足した数字は作りません。商品担当と営業責任者が確度を判定し、加算する量を決めます。この例は仮想のもので、特定の会社の取引ではありません。
現状とAI活用後の比較
| 観点 | 現状 | AI活用後 |
|---|---|---|
| 担当と人数 | 商品担当が集計・整理・見立てを通しで行い、営業へ口頭確認する | 集計と整理はAI。商品担当は採否の判断、営業責任者は確度の判定に関わる |
| 入力するもの | 基幹システムのCSV、内示のExcelとメール、案件管理表、経験 | 同じデータを日次で取り出したもの、確度で分けた内示と案件、更新日時 |
| 手順の数 | 8段階。段階1と3の集計が時間の中心 | 集計がAIに移り、判断が段階6に集まる。人が手を動かすのは実質3段階 |
| 所要時間の目安 | 未計測。段階1と3に使う時間を品目数とともにひと月分記録する | 同左。同じ担当・同じ商品群で導入後を測る。差は自社で計測する |
| 判断する場面 | 内示の割り引き方、案件の見込み、前年同月の使い方、発注量 | 内示の信頼度、案件の確度、予測値の採否、発注量の確定 |
| 使うシステム | 基幹システム、Excelの予測表、メール | 上記に加えて実績の書き出し、内示の取り込み、予測と幅の提示 |
| 失敗したときの影響 | 内示と案件の満額計上が滞留在庫になり、割り引きすぎが欠品になる | 確度の判定を省くと同じ結果になる。更新されていない入荷予定を使うと持ち高を読み違える |
| 記録に残るもの | 予測表のExcelのみ。根拠は担当者の記憶 | 使った実績と内示、確度の判定、修正の内容、差異の記録 |
| 属人化の度合い | 見立ての根拠が担当者の経験にあり、交代すると再現できない | 根拠と修正の履歴が残り、判断の癖を振り返れる。経験が要る判断自体は残る |
変わらないこと(人が決める範囲)
- 発注量の確定。発注は資金と在庫に直結し、外れたときの責任は会社が負います。AIの予測値は幅を持った候補で、確定は商品担当と仕入担当が行います。
- 内示の信頼度の評価。内示は得意先の計画であり、変更されることを前提に扱います。過去の内示と実出荷の差はAIが示せますが、今回どう見るかは営業責任者が決めます。
- 案件の確度の判定。記録上の状況と実際の確からしさは別です。AIが確度を付けると、根拠のない数字が予測に入ります。判定は営業責任者に残します。
- 特売・打ち切り・切替の判断。販売施策と商品の入れ替えは需要そのものを動かすため、過去のデータからは読めません。決定と時期は経営と営業責任者が決めます。
- 仕入先への発注条件。発注書面の記載や支払期日は下請代金支払遅延等防止法などの規律が関わる場面があります。同法は改正されており、適用の有無と要件は適用時点の条文で確認し、AIが作る発注関連の文書は購買責任者が確認します。
実装の型
- トリガー:月次の発注計画の前。週次で動く商品群は週次に分け、同じ仕組みで回す。
- 元データ:出荷実績(商品別・得意先別・月別で複数年分)、在庫・受注残・入荷予定、内示ファイル、案件管理表、訪問報告、最低発注数量とリードタイム。対象は動きの多い商品群に絞って始める。
- AI処理:実績の推移と前年比較を作り、内示の様式差を吸収し、案件を記録から抽出する。確度別に分けた加算で予測値と幅を出し、根拠として使った実績と内示を並べる。満額の合算はしない。
- 検証:商品担当が乖離の大きい商品から順に、予測値の根拠と内示の原本を見比べる。見る項目は実績の推移、内示、案件、在庫と入荷予定の四つに固定する。
- 例外の扱い:新商品と切替品は予測の対象から外し、類似商品の実績を参考に人が置く。内示の様式が崩れた得意先、入荷予定が古い商品は保留に回す。AIが止まった月は従来のExcelで作る。
- 人の承認:商品担当が予測値を確定し、営業責任者が内示と案件の確度を承認する。発注量の確定は仕入担当が行い、承認の記録を残す。
- 記録先:予測値と根拠、確度の判定、修正内容、実績との差を同じ場所に残す。翌月の振り返りで参照できる形にする。
- 効果測定:導入前にひと月、導入後は毎月、同じ商品群で「予測と実績の差」「欠品の件数」「滞留在庫の品目数と金額」「段階1と3にかけた時間」「振り返りの実施率」を記録する。営業責任者と仕入責任者が月次で見る。
前提条件・費用の考え方・リスク
前提になるのは、商品別・得意先別の販売実績が複数年分あり、取り出せることです。品番の統廃合が繰り返されて過去の実績がつながらない状態では、推移を読めません。本メディアでは、品番の履歴が途切れている会社は、需要予測より先に商品マスターの整理を行うべきだと判断します。前提は「継続して扱う商品が実績の中心である」ことで、毎回が単発の案件商材である商社にはこの順序は当てはまりません。
費用は次の項目に分けて考えます。金額は品目数、データの量、連携方法で変わるため、ここでは置きません。
- ライセンス:分析と文書生成に使うAIの利用料。対象品目と利用人数で決まることが多い
- 設計:予測の対象範囲、確度の区分、内示の取り込み方、保留の条件、振り返りの様式
- 連携:販売実績と在庫の書き出し。CSVの定期出力から始めてよい
- 検証:予測と実績の差の記録、外れやすい商品群の特定
- 運用:内示の様式が変わったときの調整、新商品の扱い、担当交代時の引き継ぎ
リスクは三つです。誤出力は、確度の低い内示や案件が満額で織り込まれて在庫が積み上がることで、対策は確度別の加算と、採否を人が決める工程です。情報漏えいは、得意先名と数量を含む内示が外部サービスへ送られることで、対策は送信範囲の明文化と、学習利用の有無を契約と設定で確認することです。依存は、予測値をそのまま発注に流す運用になることで、対策は発注量の確定を人の承認に置き、承認記録を残すことです。
AIを入れない方がよい会社もあります。品目数が少なく担当者が全商品の動きを把握できている会社、実績が1年分しかない会社、取引の大半が受注生産で在庫を持たない会社です。この状態では、予測より先に実績データの整理と、内示の受け取り方を統一するほうが効きます。
最初の90日
- 30日:データの棚卸しと現状の計測。動きの多い商品群を選び、実績が何年分つながっているか、内示がどの様式で何社から届いているかを一覧にする。段階1と3の作業時間、欠品件数、滞留品目数をひと月記録する。見る指標は実績がつながっている品番の割合。
- 60日:対象を絞って試す。選んだ商品群で予測値と幅を出し、従来のExcelの見立てと並べて比べる。確度の区分を決め、内示と案件を分けて加算する。発注には接続しない。見る指標は予測と実績の差、修正が多かった商品群。
- 90日:接続の判断。差が小さい商品群に限って発注計画へ渡し、営業責任者と仕入責任者が対象を広げるか、マスター整理に戻るかを決める。成果物は差異の記録と、確度の区分の定義。見る指標は欠品件数、滞留品目数、振り返りの実施率。
総務省「令和7年版 情報通信白書」では、生成AIを何らかの業務で利用する企業の割合は55.2%で、用途として挙げられた「メールや議事録、資料作成等の補助」は47.3%です。需要予測はこの用途とは性質が違い、文章の作成ではなく数字の集計と提示にあたります。白書の値は社内でAIを使う土台がどこまで広がっているかの目安として読み、予測の可否は自社のデータで判断します。
出典
- 総務省・経済産業省「令和3年経済センサス‐活動調査 産業別集計(卸売業,小売業に関する集計)結果の概要」 総務省統計局 確認日 2026.09.22
- 総務省「令和7年版 情報通信白書」企業におけるAI利用の現状 総務省 確認日 2026.09.22
- 下請代金支払遅延等防止法(昭和31年法律第120号)e-Gov法令検索 e-Gov法令検索 確認日 2026.09.22


