卸売の滞留在庫をAIで洗い出すときの5つの出口と、確保分の外し方
卸売の仕入担当の責任者と営業責任者で、決算前に倉庫の動かない在庫の処分を任され、在庫一覧を書き出したところの方が対象です。
決算前に書き出した在庫一覧には、得意先のために口約束で取り置いた品番も混ざっています。そのまま値引・返品・評価損・買取・廃棄(以下、処分の出口)を仕入担当がまとめて決めると、後で得意先や仕入先、税務の場面で理由を聞かれても答えられません。候補の洗い出しをAIにどこまで任せ、出口ごとに誰が決めるかを、返品と評価損が成り立つ条件と合わせて整理します。

先に結論
候補の品番は、営業が確保の印を付けた取り置き分を外してから、決算までの月数・返品の条件・陳腐化の事実・販売先との取り決めの順に確かめると、出口と決める人が1つに絞れます。値引の幅は営業責任者、返品の打診は購買責任者、評価損は経理が税理士と、買取は営業責任者と経営者、廃棄は経営者が決めます。
AIに任せるのは、在庫一覧・出荷実績・受注残を品番でひも付けた候補一覧と、返品条項や前年同期の実績を横に並べるところまでです。営業の手帳やメールにしかない口約束の確保分は、AIの照合では外れません。
営業の印が付く前の一覧は、値引の案内に使いません。期末の在庫調整を理由に、仕入先へ一斉に返品を持ちかけることもしません。
値引・返品・評価損で、決める人と問われる根拠が違う
値引の幅、仕入先への返品の打診、評価損の計上は、それぞれ決められる人と、後で問われる根拠が違います。最終出荷日で並べた在庫一覧のまま仕入担当がまとめて処分を決めると、口約束で確保していた品番まで値引の案内に載り、返品や評価損の根拠を問われたときに答えられる記録も残りません。
図の要点:候補1品番の処分の出口を決める7つの判断。AIが在庫一覧・出荷実績・受注残を品番でひも付けて候補と材料を並べる。受注残・内示・営業の確保の印がある品番は外す。決算まで月数が残り別の得意先に売れるなら値引で、幅は営業責任者が決める。返品条件の定めか仕入先の同意と損失の負担があれば返品で、購買責任者が打診する。季節品の売れ残りや新製品の発売で売れないなら評価損で、経理が税理士と決める。取り決めが無ければ買取業者への売却を営業責任者と経営者が、売る出口も返す出口も閉じたら廃棄を経営者が決める。
決算までの月数と返品の条件しだいで、値引と評価損の試す順が入れ替わる
-
在庫一覧・出荷実績・受注残を品番でひも付ける
AIが候補と判断の材料を並べる
-
受注残・内示・営業の確保の印がある
候補から外す。印は営業が付ける
-
決算まで月数が残り、別の得意先に売れる
値引。幅は営業責任者が決める
-
返品条件の定めか、仕入先の同意と損失の負担がある
返品。購買責任者が打診する
-
季節品の売れ残りや新製品の発売で売れない
評価損。経理が税理士と決める
-
仕入先と販売先の取り決めが無い
買取業者へ売却。営業責任者と経営者が決める
-
売る出口も返す出口も閉じた
廃棄。経営者が決め、仕入担当が再発注を止める
AIが品番ごとに横へ並べる材料は、取引基本契約の返品条項、得意先ごとの過去の購買、前年同期の販売実績、仕入先からの後継品の通知です。どの出口にするかは、材料を見た出口ごとの責任者が決めます。
値引と評価損の両方にかかる品番は、試す順で結果が逆になります。値引で動けば陳腐化の説明は弱まり、動かなければ陳腐化を示す材料が一つ増える、という関係です。決算日まで月数が残るなら値引が先、残りが短いなら経理へ先に渡します。
買取業者へ売る前には、販売先や販売方法を仕入先と取り決めていないかを確かめます。取り決めのある品目を業者に流すと、仕入先との取引に響くためです。営業責任者と経営者は、業者の見積と取り決めの文書を並べて判断します。
滞留とみなす日数は商品群ごとに仕入担当が置く
何日動かなければ滞留とみなすかは、商品群ごとに仕入担当が決めます。一律の日数で並べると、夏物の空調部材のような季節品が毎年一覧の上位を占め、本当に動かなくなった定番品が一覧の下のほうに回ってしまうからです。
ここでいう滞留在庫は、売れる見込みが薄いまま倉庫に残っている在庫を指します。次の需要が見えている余剰在庫や、傷んで売れない不良在庫とは出口が違うため、一覧の段階で分けておきます。定期発注の得意先に備えた在庫も、しばらく出荷が無いだけで候補に入るため、注意が要るところです。
洗い出しの細かさは、基幹システムから在庫をどこまで書き出せるかで決まります。品番・倉庫・ロット・入庫日まで出せる会社なら、同じ品番でも古いロットだけを候補にできます。品番ごとの合計しか出ない会社では、最終出荷日から在庫月数を出すところまでが限度です。
取り寄せ品が在庫の大半を占める卸には、毎月の一覧は向きません。滞留そのものがあまり出ないため、得意先のキャンセルで残った取り寄せ品を品番ごとに控えるほうが手間に見合います。
確保分は営業の印で外し、案内に漏れたら取り下げる
外すべき在庫の手がかりは、基幹システムの外にあります。得意先の設備の補修用に持ち続けると約束した部品や、口頭で取り置きを頼まれた品番は、営業の手帳や得意先とのメールにしか残っていません。AIが受注残や内示と照合して外せるのは、システムに載っている分だけです。
そこで候補一覧は仕入担当から営業へ回し、営業が確保している品番に印を付けてから出口の話に進みます。白紙で申告を頼むより、品番の並んだ一覧に印を付けてもらうほうが、営業にとって答えやすい形です。AIが受注残との照合で外した品番も、営業が同じ一覧で確かめます。
【説明用の架空の記入例】品番: 空調部材A-120/最終出荷日: 前年8月/在庫: 40個/受注残・内示: なし/営業の確保の印: あり(得意先の設備の補修用に取り置き。担当営業が記入)/扱い: 候補から外し、出口を決める打ち合わせには載せない
廃番になった品番にも注意が要ります。商品マスタから行を消すと、出荷の履歴ごと一覧から抜けるからです。商品マスタの名寄せで統合の前に控えるものと合わせて、廃番は印を付けて残す決まりにしておきます。
それでも、印の無いまま候補に残った確保分(以下、外し漏れ)が値引の案内に載ることがあり、これがいちばん重い誤りです。案内を見た別の得意先が買えば、確保していた得意先の翌月の定期発注に在庫が足りなくなります。出荷前なら営業責任者が案内を取り下げ、出荷した後は、仕入先への追加発注と確保していた得意先への納期の連絡を同じ日に済ませます。そのうえで、どの確保が印の無いまま残ったかを営業と確かめ、確保を申告する様式を直します。
返品と評価損は、条件と事実がそろう品番に限る
仕入先への返品は条件の定めか同意のある品番、評価損は著しい陳腐化の事実がある品番に限ります。どちらも、滞留の一覧に載ったことだけでは理由になりません。
仕入先への返品が問題になる条件
期末の在庫調整を理由に返品を持ちかけるのは避けます。公正取引委員会の「優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方」は、返品の想定例に「月末又は期末の在庫調整のために返品すること」を挙げています。
この考え方が対象にするのは、取引上の地位が相手に優越している事業者の返品です。どのような場合に、どのような条件で返品するかが相手との間で明確でなく、相手にあらかじめ計算できない不利益を与える返品は、濫用として問題となります。自社のプライベート・ブランド商品の返品も、同じ想定例に入っています。
問題とならない側に置かれた返品もあります。購入時に相手と合意して返品の条件を定め、その条件に従う返品です。ただし、一定の期間・数量の範囲での返品が正常な商慣習となっていて、その範囲で定めた条件に限られます。
あらかじめ相手の同意を得て、返品で相手に通常生ずべき損失を自社が負う返品も、問題とならない側です。相手の責めに帰すべき事由による、相当の期間内・相当の数量の範囲内の返品と、相手の申出で処分が相手の直接の利益になる返品も、こちらに入ります。
このため、決算前に一覧を持って仕入先へ一斉に打診する前に、購買責任者が仕入先ごとの返品条項と過去の合意記録をそろえます。条件の定めが無い品番は、同意と損失の負担を前提に、仕入先と個別に相談します。自社が製造を委託したプライベート・ブランド商品で取適法(旧下請法)の対象になる取引は、相手の同意があっても、相手の責めによらない返品はできません。小売から返品を受ける側に回ったときも、同じ考え方で判断します。
評価損は著しい陳腐化の事実がある品番だけ
棚卸資産の評価損を計上できるのは、法人税法施行令第68条に掲げる事実がある場合で、その一つが「著しく陳腐化したこと」です。国税庁の法人税基本通達9-1-4は、物質的な欠陥が無くても、経済的な環境の変化で価値が著しく減り、今後回復しないと認められる状態をこれに当てています。
通達が例に挙げるのは、季節商品の売れ残りで、今後通常の価額では売れないことが既往の実績などから明らかな場合です。型式や性能が著しく異なる新製品が出て、通常の方法で売れなくなった場合も挙がっています。破損・型崩れ・たなざらし・品質変化で売れなくなった場合は、9-1-5が準ずる特別の事実に含めます。
一方で9-1-6は、物価変動・過剰生産・建値の変更などで時価が下がっただけでは当たらないとしています。滞留の一覧に載る品番は、評価損の対象よりずっと広い範囲です。AIが前年同期の販売実績と後継品の通知を並べても、当たるかどうかは経理が税理士と個別の資料で判断します。
滞留の原因を次の発注点の見直しに回す
処分が済んだ品番は、原因の種類を記録簿に残しておくと、次の発注で使えます。内示を大きく積んだまま実需が来なかった品番なら、見直すのは内示の確からしさの付け方で、その区分は営業責任者が決め直します。得意先の購買が途中で途切れた品番なら、営業が理由を聞いて取引の記録に残します。
後継品の発売や廃番が原因なら、仕入先の通知を受けた日に、その品番の発注点による補充を止める手配が要ります。最小ロットで多く仕入れた品番は、仕入担当が仕入先とロットを話し合う材料です。内示の区分は、需要予測で内示を足す前に確からしさを分ける手順と同じ区分を使うと、処分の記録と予測表の言葉がそろいます。発注点の見直しや欠品の手当ては、在庫・倉庫でAIに任せる業務と、卸の業務ハブの一覧にまとめています。
次の商品群へ広げてよいかは、一覧を回すたびに営業責任者が控える外し漏れの件数で判断します。たとえば2回続けて0件なら同じ締切のまま次の商品群へ広げ、1件でも残った回は、印の締切を出口を決める打ち合わせの前日へ移して同じ商品群で回し直します。翌年も同じ品番が一覧に載った商品群では、処分の出口を探すより先に、仕入担当と商品担当が発注点の設定を見直します。
ロットと倉庫を書き出せない会社ほど、外部に頼む作業が増える
決算までの数か月に、一覧を品番でひも付け直す作業と出口の打ち合わせが重なるかどうかが、外部への依頼を考える目安です。倉庫ごとに別の一覧が出る会社や、品番ごとの合計しか書き出せない会社では、回すたびにひも付け直しが先に立ちます。
その場合に外部へ頼むのは、在庫一覧・出荷実績・受注残を品番とロットでひも付けて書き出す作業までです。確保の印、値引の幅、返品の打診、評価損、買取と廃棄の決定は、得意先と仕入先に理由を説明する営業・購買・経理・経営者がそのまま持ちます。
倉庫が1つで、基幹システムからロットと入庫日まで書き出せる会社なら、候補一覧から外し漏れの記録まで社内の手で回ります。最初の商品群を1回回し、ひも付け直しに何日かかったかを控えておけば、外に出すかどうかを日数で判断できます。
明日から始める3ステップ
担当 仕入担当の責任者
商品群ごとに滞留とみなす日数と、値引・返品・評価損・買取・廃棄を決める人を、商品群の一覧表に1行ずつ書き入れる
次へ進む目安すべての商品群に日数が入り、5つの出口すべてに決める人の名前がそろった
担当 営業担当
決算まで月数が残る商品群の候補一覧を受け取り、出口を決める打ち合わせの前日までに確保している品番へ印を付ける
次へ進む目安一覧のどの品番にも、印ありか印なしのどちらかが付いて戻っている
担当 営業責任者
一覧を回すたびに、確保分なのに候補に残っていた品番を数え、回ごとに控える
次へ進む目安外し漏れの件数を回ごとに並べた表ができ、0件でない回は、印の締切を打ち合わせの前日へ移した
無料相談(オンライン)
BoostXは、卸売・商社の受発注・在庫・問い合わせ対応へのAI導入を支援しています
01無料相談
注文の入力・商品マスタ・照会への回答から、最初の1業務を決める
02進め方の提案
規模に合う進め方を提案する
03作って試す
一緒に作り、現場で試して直す
04定着まで伴走
毎月1テーマずつ積み上げる
作って試す・定着までAIエージェント開発AI顧問FDE型AI伴走支援
出典
- 公正取引委員会「優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方」第4の3(2) 返品(令和8年6月17日改正)・第4の3(2) 返品<想定例>⑤・第4の3(2) 返品<想定例>④ 公正取引委員会 確認日 2026.09.29
- 法人税法施行令(昭和40年政令第97号)(第68条第1項第1号) e-Gov法令検索(デジタル庁) 確認日 2026.09.29
- 国税庁「法人税基本通達」第9章第1節第2款 棚卸資産の評価損9-1-4(著しい陳腐化の例示)・9-1-5(準ずる特別の事実の例示)・9-1-6(評価損の計上ができない場合) 国税庁 確認日 2026.09.29
- 製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律(昭和31年法律第120号)第5条第1項第4号(返品の禁止) e-Gov法令検索(デジタル庁) 確認日 2026.10.07
編集BoostX編集部(株式会社BoostX)編集と監修の決まり









