会計事務所が承継した顧問先の過去仕訳、AIで科目の違いを洗い出す
この記事は、他の事務所から顧問先を引き継ぎ、過去の仕訳を仕訳候補の元にしてよいか決めたい状況にある、会計事務所の所長・税理士、監査担当の責任者、入力担当向けです。
他の事務所から顧問先を引き継ぐと、受け取った過去の仕訳データをどこまで自所の仕訳候補に使うかを決めることになります。通信費や支払手数料の使い方が前の事務所と違えば、同じ支払いに2通りの科目が候補に出て、監査担当が毎月直す仕訳が増えます。残す仕訳と外す仕訳は、前の事務所から受け取る帳票がそろっていれば、行ごとに分けていけます。

先に結論
引き継いだ顧問先の過去仕訳と自所の科目ルールの違いは、AIで一覧にできます。先に監査担当が、前の事務所の科目と自所の科目を並べた対応表を作ります。AIには仕訳日記帳と対応表を渡し、科目の名前・科目の使い方・補助科目の設定のしかた・摘要の書き方の違いを、取引先ごとに仕訳の件数つきで返させます。一覧の行をそのまま使うか、読み替えて使うか、候補の元から外すかは、違いの種類をもとに監査担当が決め、「未確認」の行は税理士が確定します。
過去の消費税区分は、どの仕訳でも候補の元に写しません。免税事業者等からの仕入れの控除割合が取引日で変わるため、区分は税理士が決め直します。期首残高が前期末と合わない顧問先と、前の事務所の勘定科目マスタを受け取れていない顧問先は、AIの照合に進まず、帳票の受け取りへ戻します。
過去仕訳は前の事務所の科目ルールで付いている
会計ソフトの学習機能や仕訳ルールは、登録や修正をした科目を次回の候補に使います。通信費と支払手数料の使い分けが前の事務所と違えば、過去仕訳を元にした候補にも前の事務所の科目が出るため、元にする仕訳は次の5つの工程で選びます。
図の要点:承継した顧問先の過去仕訳を仕訳候補の元にするまでの5つの工程。監査担当が帳票を受け取って期首残高を確かめ、前の事務所の科目と自所の科目の対応表を作る。AIが過去仕訳と対応表を比べて違いを種類ごとの一覧にし、対応表に無い科目は「未確認」と返す。監査担当が一覧の行を、そのまま使う・読み替えて使う・候補の元から外すの3つの扱いに分け、「未確認」の行と消費税区分は税理士が確定する。入力担当が、残した仕訳だけを自所の科目で仕訳ルールに登録する。
AIが作るのは違いの一覧までで、残す仕訳は監査担当が決める
-
帳票を受け取り、期首残高を確かめる
合わなければ受け取りへ戻す
監査担当
-
科目の対応表を作る
前の科目と自所の科目を1行ずつ
監査担当
-
過去仕訳と対応表を比べ、違いを一覧にする
対応表に無い科目は「未確認」
AI
-
一覧の行を3つの扱いに分ける
「未確認」と消費税区分は税理士
監査担当
-
残した仕訳だけを仕訳ルールに登録する
自所の科目で登録し直す
入力担当
この流れで先に決めるのは、3番目の工程でAIに渡す資料の範囲と、4番目の工程で一覧のどの行を誰が判定するかです。AIが違いなしと返した行も確認の対象から外さず、監査担当は仕訳の件数が多い取引先から順に総勘定元帳と見比べます。
たとえば弥生会計のスマート取引取込には学習機能があり、勘定科目や摘要を修正すると、次回は修正後の内容で取り込まれます。仕訳ルールも、摘要などの条件に勘定科目と補助科目を割り当てる作りです。その科目がどちらの事務所のルールで付いたかまでは、会計ソフトは区別しません。
仮の場面で説明します。引き継いだ顧問先の月次に、同じ通信会社への支払いの候補が、月によって「通信費」と「支払手数料」に入れ替わって出るとします。監査担当が総勘定元帳をさかのぼると、前の事務所の時期は支払手数料、自所が受け持ってからは通信費という処理でした。候補が割れる原因は取引の中身ではなく、科目ルールの違いにあります。
科目の読み替えは決算書の表示と前期比較を変え、消費税区分は仕入税額控除の額を変えます。どちらも申告書の数字に流れるため、読み替えは監査担当が決め、消費税区分と、AIが「未確認」と返した行の科目は税理士が確定します。税務書類の作成が税理士の業務だからです(税理士法第2条第1項)。そのため4番目の工程では、AIの一覧に付いた科目と区分をそのまま登録しません。
引継ぎで受け取る帳票と、科目の対応表の作り方
前の事務所から受け取るのは、過去仕訳そのものと、その仕訳がどんなルールで付いたかが分かる資料の両方です。監査担当は次の順で受け取り、確かめます。
- 総勘定元帳と仕訳日記帳を、会計ソフトから書き出したデータで受け取る
- 勘定科目マスタと補助科目一覧を受け取る
- 摘要辞書と仕訳ルールの一覧を受け取る
- 期首残高が前期末の残高と一致するかを確かめる
- 科目の対応表を作る
勘定科目マスタは、科目名に加えて、決算書の表示区分と税区分の初期値まで見ます。同じ「雑費」でも、税区分の初期値が違えば別の使い方をされていた科目です。会計ソフトを移す場合は、取り込む順番も決まっています。マネーフォワード クラウド会計は弥生会計から勘定科目・開始残高・仕訳データを取り込めますが、補助科目は勘定科目の後に取り込みます。
期首残高が前期末と合わない顧問先と、勘定科目マスタを受け取れていない顧問先は、AIの照合には進みません。残高がずれたまま科目を読み替えると、ずれの原因が引継ぎのデータなのか読み替えなのかを切り分けられなくなるからです。先に帳票の依頼へ戻り、残高の一致を確かめます。
科目の対応表とは、前の事務所の勘定科目・補助科目と自所の科目を1行ずつ並べ、読み替えるかどうかを書いた表です。対応表が無いままAIに比べさせると、「事務用品費」と「消耗品費」のような名前の違いまで違いとして返り、使い方の違いが一覧に埋もれます。
仕訳ルールの一覧は、取り込む前に監査担当が読みます。弥生会計のスマート取引取込では、仕訳ルールを最大1,000件まで登録でき、インポートでも登録できます。上書きされるのは、同一と判断されたルールだけです。前の事務所の時期のルールが取り込んだ後に残らないよう、自所の科目に合わないルールは一覧の時点で外します。
AIに洗い出させる科目・補助科目・摘要の違い
AIに任せるのは、仕訳日記帳を対応表と自所の科目ルールに照合し、違いを取引先ごとの一覧にする作業です。AIの範囲は違いの検出までで、どちらの科目が正しいかは返させません。
渡す前に、入力してよい資料かどうかを確かめます。仕訳日記帳の摘要には、個人の取引先名や従業員の氏名が載っているからです。外部の生成AIに渡す場合は、事業者が中身を取り扱わない旨の契約の定めと、アクセス制限の両方があるかを見ます。
事業者が取り扱う契約なら、委託と言える契約かどうかを確かめます。委託と言えない場合は第三者提供に当たり、本人の同意を得なければなりません。資料の種類ごとの扱いは、入力してよい資料を契約ごとに分けた区分表の記事で決められます。
AIへ渡す資料は次のとおりです。
- 仕訳日記帳の日付・借方科目・貸方科目・補助科目・摘要・税区分・金額の列(口座番号など照合に使わない列は渡さない)
- 科目の対応表
- 自所の科目ルール(顧問先ごとの科目ルール表か、所内で標準にしている科目の使い方)
指示には、返す一覧の列と、資料から判断できない行の扱いを書きます。違いの種類は、科目の名前・科目の使い方・補助科目の設定のしかた・摘要の書き方の4つに分けさせ、違いが無い行は「違いなし」と返させます。対応表どおりに読み替えれば解消する違いが「科目の名前」、読み替えた後も自所のルールの科目と合わない違いが「科目の使い方」です。
たとえば「取引先ごとに、前の事務所の時期の科目と自所のルールの科目を並べ、仕訳の件数と違いの種類を付けて一覧にする」と指示します。推測で埋めさせないために、「対応表に無い科目と、摘要から内容を読み取れない行は『未確認』と返す」とも書きます。
【説明用の架空の記入例】AIが返す一覧の3行です。
- 通信会社への月額の支払い/前の科目: 支払手数料/自所の科目: 通信費/12件/違いの種類: 科目の使い方
- 文具店への支払い/前の科目: 事務用品費/自所の科目: 消耗品費/8件/違いの種類: 科目の名前(対応表に行あり)
- 個人あての振込/前の科目: 外注費/自所の科目: 未確認/5件/違いの種類: 未確認(摘要から内容を読み取れない)
監査担当は、一覧の仕訳の件数の合計を総勘定元帳の仕訳の件数と照合し、行の抜けが無いかを先に確かめます。補助科目の違いは、科目の違いとは別の行で返させます。取引先ごとに設定する元帳と口座ごとに設定する元帳では、補助元帳の残高の追い方が違うからです。
AIが要らない顧問先もあります。仕訳の件数が少なく、監査担当が総勘定元帳を取引先の順に並べて通読できるなら、対応表と目視の確認で足ります。
引き継いでよい仕訳と、候補の元から外す仕訳
引き継いでよいのは、自所の科目ルールと同じ仕訳と、対応表で読み替えが決まった仕訳です。一覧の行ごとに、AIが付けた違いの種類から次の表で扱いを決めます。
| 違いの種類 | 扱い | 決める人 |
|---|---|---|
| 違いなし | そのまま使う | 監査担当 |
| 科目の名前 | 読み替えて使う(対応表どおり) | 監査担当 |
| 補助科目の設定のしかた | 読み替えて使う(補助科目を付け直す) | 監査担当 |
| 摘要の書き方 | 読み替えて使う(摘要を書き直す) | 監査担当 |
| 科目の使い方 | 候補の元から外す | 監査担当 |
| 未確認 | 確定するまで候補の元から外す | 税理士 |
この表で、候補の元に残す仕訳と外す仕訳が決まります。科目の使い方が違う行を外すのは、科目を一律には読み替えられないからです。外した取引は、入力担当が自所の科目で登録し直したうえで仕訳ルールにします。生成AIに参考として渡す過去仕訳も、同じ範囲に絞ります。
違いの種類にかかわらず、誤りと見られる仕訳は候補の元から外し、修正が要るかを税理士が判断します。消費税区分も、どの行でも写しません。
読み替えた科目は、いつの仕訳から自所の科目にしたかを、監査担当が顧問先ごとの科目ルール表に書きます。前期比較で科目の金額が動いた理由を、顧問先へ説明する材料になるからです。
登録の前後で、監査担当は2通りの科目候補が出た仕訳の件数と、候補を直した仕訳の件数を取引先ごとに数えます。登録前の月と翌月を同じ数え方で比べ、件数が減らない取引先は、対応表の該当する行に戻って読み替えを見直します。
仕訳候補を入れる顧問先そのものの選び方は、顧問先別の採算の式で仕訳候補を試す先を選ぶ記事で扱っています。証憑の紐付けなど記帳のほかの工程は記帳の業務ページから、月次や税務の業務は会計・税理士の業務別の一覧から探せます。
消費税区分は取引日で決め直し、過去の区分を写さない
過去仕訳の消費税区分は、科目をそのまま使う仕訳であっても、候補の元に写しません。免税事業者等からの課税仕入れに使える経過措置の控除割合が、取引日によって変わるからです。
控除割合は、2026年10月1日からの取引で80%から70%に下がりました。2028年10月1日からは50%、2030年10月1日からは30%になり、2031年10月1日からは控除できなくなります。
9月以前の仕訳に付いた80%の区分を10月以降の候補に使うと、控除の額を多く計算してしまいます。
会計ソフトも、この改正に向けて仕様を変えると告知しています。マネーフォワード クラウド会計が知らせているのは、仕訳の登録時に控除割合を「適格」「80%」「70%」「50%」「30%」「控除なし」から設定する仕様です。仕訳辞書や自動仕訳ルールを適用した仕訳には、取引日に応じた控除割合が設定されます。
ただし、取引先が適格請求書発行事業者かどうかは、過去仕訳の区分からは確かめられません。区分が付いた後に、取引先の登録の状況が変わっていることがあるからです。税理士は取引日と登録の有無から区分を決め直し、入力担当は確定した区分を仕訳ルールに登録します。
外に頼むかは、顧問先の数と会計ソフトの種類で決める
外に頼めるのは、仕訳日記帳の取り出し、列の形の統一、違いの一覧を作る仕組みづくりです。前の事務所の会計ソフトが顧問先ごとに違うと、書き出したデータの列の並びも科目コードの体系もそろいません。照合の前にデータの形をそろえる作業に、入力担当の時間がかかります。
引き継いだ顧問先が少なく、会計ソフトも自所と同じなら、所内の生成AIのアカウントで足ります。事務所ごと承継して顧問先がまとまって移り、会計ソフトの種類も複数にまたがるなら、形の統一と一覧づくりは外部に組ませる候補です。見積のどこに載る作業かは、記帳のAI化で見積に載る作業と所内に残る作業の記事で確かめられます。
対応表と3つの扱いの判定は、外に出せません。通信会社への支払いを通信費にするか支払手数料にするかは、顧問先の事業と自所の決算書の作り方を知る監査担当でなければ決められないからです。
外に頼むかどうかは、最初の1社を所内で照合してから決められます。入力担当が列の形をそろえるのにかかった時間を1社分記録し、会計ソフトが自所と違う顧問先の数と合わせて、外部の見積と比べます。
前の事務所の廃業などで勘定科目マスタが手に入らない顧問先は、扱いが別になります。その場合は過去仕訳を候補の元にせず、自所の科目で確定した仕訳だけを仕訳ルールに登録していきます。
明日から始める3ステップ
担当 監査担当の責任者
引き継いだ顧問先から担当の監査担当が決まっている1社を選び、前の事務所へ総勘定元帳・仕訳日記帳・勘定科目マスタ・補助科目一覧・仕訳ルールの一覧をデータで依頼する
次へ進む目安依頼した帳票がそろい、期首残高が前期末の残高と一致した
担当 監査担当(消費税区分と「未確認」の行は税理士)
科目の対応表を書き、仕訳日記帳と一緒にAIへ渡して違いの一覧を作らせ、行ごとに3つの扱いのどれにするかを書き込む
次へ進む目安一覧の全部の行に扱いと決めた人の名前が入り、「未確認」の行が残っていない
担当 入力担当(数えるのは監査担当)
残すと決めた仕訳を自所の科目で仕訳ルールに登録し、翌月の月次で、2通りの科目候補が出た仕訳の件数と候補を直した仕訳の件数を取引先ごとに数える
次へ進む目安登録前の月と翌月の仕訳の件数が取引先ごとに並び、対応表へ戻す取引先の一覧ができた
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出典
- 弥生「スマート取引取込」サポート情報(弥生会計)弥生株式会社 確認日 2026.10.14
- 弥生「仕訳ルール設定 弥生会計(スマート取引取込)」サポート情報弥生株式会社 確認日 2026.10.14
- マネーフォワード クラウド会計 使い方ガイド「弥生会計からのデータ移行」株式会社マネーフォワード 確認日 2026.10.14
- マネーフォワード クラウド会計「令和8年度税制改正への対応に向けた仕様変更について」(控除割合の設定・仕訳辞書・自動仕訳ルール) 株式会社マネーフォワード 確認日 2026.10.14
- 国税庁「インボイス制度に関するお知らせ 令和8年度税制改正特集」経過措置の控除割合(令和8年10月1日から)・経過措置の控除割合(注記) 国税庁 確認日 2026.10.14
- 税理士法(昭和26年法律第237号)(第2条第1項) e-Gov法令検索(デジタル庁) 確認日 2026.10.14
- 個人情報の保護に関する法律(平成15年法律第57号)(第25条・第27条第1項) e-Gov法令検索(デジタル庁) 確認日 2026.10.14
- 個人情報保護委員会「「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン」に関するQ&A」Q7-53(クラウドサービスの利用) 個人情報保護委員会 確認日 2026.10.14
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