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税務

申告書の下書きをAIに渡す境目|提出の確定は税理士

前期申告書との差異の一覧化、登録番号の照合、申告書の下書き、期限通知と納付案内の作成はAIに渡せます。

編集 BoostX編集部2026.06.2810分で読めます

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この記事の要点

  • 前期申告書との差異の一覧化、登録番号の照合、申告書の下書き、期限通知と納付案内の作成はAIに渡せます。
  • 決算整理仕訳の確定、税務上の取扱いの判断、申告内容の最終確認は税理士と税務担当が持ちます。
  • 本メディアでは、判断を含む工程は税理士のレビューを残したまま、確認作業から範囲を広げるべきだと判断します。

定義申告書の作成とは、決算数値を固め、消費税区分と証憑の要件を確かめ、税務上の取扱いを判断して申告書と届出書を作り、電子申告まで進める一連の業務です。

申告書の作成を先に分解する理由は、時間と金とリスクが決算から提出までの限られた日数に集まるからです。時間は1件あたりの作成日数とレビューの回数で測り、金は12月から5月に残業が偏る形で表れます。どちらも水準は置かず、自社で測る前提として置きます。リスクは責任の所在で、税理士法が定める税務代理と税務書類の作成は税理士の業務であり、AIの出力を判断の根拠にはできません。この線を先に引かないまま道具を入れると、レビューの負担だけが増えます。IPA「DX動向2026調査のポイント」では、AI導入による効果として「業務が効率化したり迅速化した」が91.6%、「売上や利益が向上した」は3.9%と示されています。申告業務でも、効果は売上ではなく作成日数と差し戻しの側に出ると見て測ります。

「3月と5月は、確認が追いつかない」。繁忙期にこの状態が続く事務所では、下書きを速く作っても提出は早まりません。詰まっているのは作成ではなく、確認の待ち行列だからです。

割らないまま「申告をAIで効率化する」と決めると、渡し方を誤ります。判断を含む工程まで下書きに流れ込み、税理士が一から読み直す形になるからです。

リスクは責任の所在で、税理士法が定める税務代理と税務書類の作成は税理士の業務であり、AIの出力を判断の根拠にはできません

申告書の作成とは何を指し、どの工程が税理士に残るか?

範囲を先に決めます。申告書の作成とは、決算数値を固め、消費税区分と証憑の要件を確かめ、税務上の取扱いを判断して申告書と届出書を作り、電子申告まで進める一連の業務です。記帳と年末調整は別の業務として扱い、ここでは決算の確定から判断の記録までを見ます。

この記事の要点は三つです。

  • 決算の確定から記録の締めまでは8工程に割れ、AIが担えるのは抜き出す・照らす・並べる・下書きするの4種類です。
  • 税務上の取扱いの判断と申告内容の最終確認は税理士に残り、ここを渡すと責任の所在が崩れます。
  • 着手は前期申告書との差異の一覧化で、2週間で測るのはレビューの指摘件数・作成日数・要件不備に気づいた日の3つです。

棚卸しの単位で言えば、起点は決算の確定、消費税の申告前、届出事由の発生、税制改正の公表の4つです。担当は税務担当で、判断と最終確認は税理士、期限の管理には総務担当が加わります。入力は決算書、前期の申告書、税務調整の資料、受領した請求書、届出の履歴で、出力は申告書、届出書、税務判断の記録、電子申告の受信通知です。使うのは税務申告ソフト、電子申告システム、適格請求書発行事業者の公表情報、届出管理表になります。

顧問先の数と決算月の偏りは事務所ごとに違うため、この記事では数値を置きません。以降の表では、自社で測るときの単位だけを示します。3月決算法人が多い事務所なら、着手の順番も変わります。

決算の確定から記録の締めまで、8つの工程に割る

申告書の作成は「ソフトに入力する仕事」ではありません。着手から完了までを時系列に並べると、責任の重さが違う8つの工程が並びます。量と時間の欄は公的な統計に無いため、自社で測る単位だけを入れています。

着手から完了までの流れ。色の付いた工程はAIが担える部分があり、「人」はその工程で人が決めることが残る工程です。
  1. 1決算数値を固めるAIと人
  2. 2消費税区分と証憑を確かめるAIと人
  3. 3前期申告書と突き合わせるAIと人
  4. 4税務上の取扱いを決めるAIと人
  5. 5申告書を下書きするAIと人
  6. 6税理士がレビューするAIと人
  7. 7電子申告と納付を案内するAIと人
  8. 8判断と根拠を記録するAIと人

AIが担える人が決める

  1. 1

    決算数値を固める

    担当: 税務担当・監査担当 / 使うもの: 試算表、決算整理仕訳、残高照合の資料 / 量・時間: 決算の件数と締めまでの日数

    AIが解決すること
    前期と当期の科目別の差と未処理の取引を並べる
    人が決めること
    決算整理仕訳の確定
    詰まるところ
    月次の未処理が決算で出てくる
    失敗したときの損失
    後戻りで提出までの日程が崩れる
  2. 2

    消費税区分と証憑を確かめる

    担当: 税務担当 / 使うもの: 受領した請求書、登録番号の公表情報、仕訳データ / 量・時間: 対象の証憑枚数

    AIが解決すること
    請求書から登録番号・税率・税額を抜き出し、公表情報と照らして不備を一覧にする
    人が決めること
    仕入税額控除の可否と経過措置の適用
    詰まるところ
    登録番号の確認が一件ずつになる
    失敗したときの損失
    控除の誤りが修正申告になる
  3. 3

    前期申告書と突き合わせる

    担当: 税務担当 / 使うもの: 前期の申告書、別表、届出の履歴 / 量・時間: 別表の枚数

    AIが解決すること
    前期申告書との差異を一覧にし、引き継ぐ調整項目を示す
    人が決めること
    差異の理由の確定
    詰まるところ
    前期の調整項目を見落とす
    失敗したときの損失
    繰越や届出の前提が崩れる
  4. 4

    税務上の取扱いを決める

    担当: 税理士 / 使うもの: 税法・通達の資料、顧問先の取引内容 / 量・時間: 判断が要る論点の数

    AIが解決すること
    論点になりそうな取引を抜き出し、確認すべき資料の所在を示す
    人が決めること
    税務上の取扱いの判断
    詰まるところ
    論点の拾い出しが経験に頼る
    失敗したときの損失
    税理士の責任に関わる誤りが残る
  5. 5

    申告書を下書きする

    担当: 税務担当 / 使うもの: 税務申告ソフト、決算書、税務調整の資料 / 量・時間: 1件あたりの作成日数

    AIが解決すること
    決算書と調整資料から下書きを作り、顧問先に応じた確認項目を出す
    人が決めること
    税務調整の内容
    詰まるところ
    転記と入力に時間が取られる
    失敗したときの損失
    レビューの指摘が増えて戻りが多くなる
  6. 6

    税理士がレビューする

    担当: 税理士 / 使うもの: 申告書の下書き、チェックリスト、根拠資料 / 量・時間: レビューの件数と時間

    AIが解決すること
    前期との差が大きい別表と未記入の項目を示す
    人が決めること
    申告内容の最終確認
    詰まるところ
    繁忙期に確認が集中する
    失敗したときの損失
    誤った申告書が提出される
  7. 7

    電子申告と納付を案内する

    担当: 税務担当・総務担当 / 使うもの: 電子申告システム、納付の案内文、期限の管理表 / 量・時間: 期限までの日数

    AIが解決すること
    期限前の通知と納付案内文を下書きする
    人が決めること
    送信の実行と期限の最終確認
    詰まるところ
    顧問先ごとに期限が違う
    失敗したときの損失
    期限後の申告と加算税
  8. 8

    判断と根拠を記録する

    担当: 税理士・税務担当 / 使うもの: 税務判断の記録、受信通知、顧問先台帳 / 量・時間: 記録する件数

    AIが解決すること
    判断の経緯と根拠資料を申告書の項目に紐付けて並べる
    人が決めること
    記録に残す範囲
    詰まるところ
    提出後に記録が後回しになる
    失敗したときの損失
    次期と調査で根拠をたどれない

AIで消える工程:第3工程の突き合わせが無くなります。前期の別表を横に置いて目で追う作業が差異の一覧に置き換わり、見落としの心配が減ります。

短くなる工程:第2・第5・第7工程です。登録番号の照合、下書きの作成、期限の通知が先に用意され、税務担当は作る側から確かめる側に回ります。

新しく増える確認工程:第5工程と第6工程の間です。下書きの数値がどの資料から来たかを確かめる工程が、レビューの前に入ります。本メディアでは、出所をたどれない下書きを税理士のレビューに回すべきでないと判断します。

図の見方は、色枠がAIの担う工程、灰色が税理士や税務担当が確定する工程、二重枠がその両方です。右上の小さな三角は、失敗が起きやすい工程を指しています。

業務フロー分解図。決算数値の確定から電子申告と判断の記録まで8工程。色枠がAI、灰色が税理士、三角が失敗の出やすい工程。決算数値を固める消費税区分を確かめる前期申告書と突合税務の取扱いを決める申告書を下書きす税理士が確かめる電子申告と納付案判断と根拠を残すAIが担う人が確定する両方失敗が起きやすい工程
決算数値の確定から記録の締めまでの8工程

AIに下書きさせる範囲と、税理士に戻す判断の境目はどこか?

工程に割ると、渡してよい仕事の性質が見えます。抜き出す・照らす・並べる・下書きするは作業なのでAIへ、判断する・確定する・送信するは責任を伴うので人に残ります。この線を先に引いておくと、下書きをどこまで信じるかで迷わなくなります。

AIと人の境界図。左がAIの担う抽出と下書き、右が税理士と税務担当が確定する判断。止めどころは申告内容の確認。AIが担う(写す・比べる・下書き)人が確定する科目別の差と未処理を示す登録番号を照らし合わせる前期との差異を一覧にする申告書の下書きを作る期限通知と案内文を書く決算整理仕訳の確定仕入税額控除の可否税務上の取扱いの判断申告内容の最終確認送信と期限の最終確認確定止めどころ申告の確定は税理士
申告書の作成でAIが下書きする範囲と税理士が確定する範囲

境目で効くのは第4工程です。税務代理と税務書類の作成は税理士の業務であり、取扱いの判断をAIの出力に置き換えることはできません。AIにできるのは、論点になりそうな取引を拾って確認すべき資料の所在を示すところまでです。

第2工程も同じ構造です。請求書から登録番号を抜き出して公表情報と照らす作業は繰り返しなので渡せます。一方で仕入税額控除の可否と経過措置の適用は消費税法の判断で、要件を満たさない証憑の一覧まで出したら人に戻します。

顧問先の決算データを扱う以上、外部のAIサービスへ渡してよい項目の範囲を先に決めます。電子で受け取った証憑の保存は電子帳簿保存法の要件に沿って扱い、判断の根拠は第8工程で記録に残します。

最初に着手するのは前期申告書との差異の一覧化です

着手する1工程は、3つの問いで選びます。判断か作業か、元になるデータが電子で揃っているか、失敗したときの損失がどれくらいか。この3つを当てると第3工程が残ります。

第3工程は作業です。前期の申告書という電子の入力が手に入り、誤っても原本を開けば戻せます。損失は一覧のずれだけで、提出の前に気づけます。反対に第4工程は責任が税理士にあるため、範囲を広げません。

前期申告書が紙でしか残っていない顧問先なら、着手は第2工程に変わります。受領した請求書の登録番号の照合は、前期の資料が電子でなくても始められるからです。どちらも難しい事務所なら、第7工程の期限通知から入ります。

2週間の試しで追う3つの数字

試しは5つの段で足ります。長い手順書は要りません。

  1. 決算月が同じ顧問先を数社選び、導入前の実績を測ります。レビューの指摘件数、1件あたりの作成日数、要件不備に気づいた日の3つです。
  2. 前期の申告書と別表を電子で揃えます。差異を出す材料が揃わないと、第3工程は動きません。
  3. 外部のAIサービスへ入れてよい項目の範囲を決めます。顧問先が特定される情報の扱いを先に決め、マイナンバーを含む情報は外します。
  4. 第3工程をAIに任せ、税務担当が差異の理由を確定してから第5工程へ進みます。一覧と確定した理由は必ず並べて残します。
  5. 2週間後に同じ3つの数字を並べ、税理士が続けるか止めるかを決めます。合否の線は開始前に決めておきます。

測る3指標は、時間・誤り・発見時期の3種類に対応しています。作成日数が時間、レビューの指摘件数が誤り、要件不備に気づいた日が発見時期です。決算月別に分けて数えると、どの工程が効いたのかが読めます。

提出まで通すために決めておく承認と記録と例外

承認は、第6工程で税理士が申告内容を最終確認する形から動かしません。ここは範囲を広げる対象にしません。広げるのは第2・第3・第7工程で、顧問先の規模と決算月で区切って進めます。

記録は、元資料・抽出結果・修正差分・確定した申告内容・判断の根拠・確認者の6つを残します。確定内容だけを残すと、翌期に同じ論点が出たときに経緯をたどれません。税務調査の場面でも、この6つが揃っていれば説明の順序が組めます。

例外も先に文字にします。組織再編、大きな固定資産の除却、海外取引、過年度の修正が絡む申告は、下書きの段階から税理士が入ります。該当する条件を一覧にしておかないと、判断の重い案件が通常の流れで進みます。

広げる順番は決算月と顧問先の規模で決まる

次に広げるのは、判断の手前で止まる工程です。差異の一覧化が3月決算の法人で回ったら、届出と期限の管理へ移し、そのあとに制度改正の影響整理を載せます。どれも税理士のレビューの形を変えずに範囲だけを広げられるので、責任の線を引き直さずに済みます。

移す条件は、前の工程でレビューの指摘件数が導入前を下回った期間がひと月以上あることです。下回らないまま広げると、確認の待ち行列が別の工程へ移るだけになります。相続や資産税の比重が高い事務所なら、対象を法人の申告に限ってから広げます。

レビューの指摘が減らないのはなぜか?

起きやすい失敗は、下書きの速さだけを追い、レビューの受け取り方を変えないことです。原因は、下書きの数値の出所が示されないまま提出され、税理士が一から資料をたどることにあります。防ぎ方は、下書きに根拠資料の所在を添え、前期との差が大きい別表を先頭に並べることです。

もう一つは、制度改正の反映が担当者ごとに違うことです。改正の要点整理はAIに渡せますが、顧問先への影響の有無は税理士が判断します。改正のたびに、影響を確認した顧問先の一覧を残す運用にします。

本メディアでは、範囲を広げる順は確認作業が先で、取扱いを決める工程は最後まで税理士の手元に置くべきだと判断します。理由は、税務書類の作成と税務代理の責任が税理士にあり、責任の所在を移せないからです。前提は、レビューに充てる時間が繁忙期にも確保できることです。確保できない事務所では前提が外れるので、確認作業の自動化より決算月の分散が先になります。

本メディアでは、AIが作った申告書の下書きをそのまま提出に回す設計は勧めません。理由は、下書きが参照した資料の版が古いと、誤りが別表の奥で止まらず提出まで進むからです。前提は、決算数値が第1工程で固まっていることです。月次の未処理が残る場合は前提が外れるので、記帳の締めを先に立て直します。

申告業務のAI化を後回しにした方がよい事務所の条件

月次の締めが決算期まで残り、決算数値が最後まで動くなら、記帳の運用が先です。前期の申告書が紙でしか残っていないなら、電子で揃える作業が先になります。税務判断の記録が残っておらず、担当者の記憶で引き継いでいるなら、記録の様式を決める方が効きます。

この3つが揃わない状態でAIを足すと、第6工程の確認だけが増えて提出は早まりません。順番を間違えた事務所ほど「申告には使えない」という結論に早く着きます。

出典

  1. IPA「DX動向2026調査のポイント」(2026年7月16日) 情報処理推進機構 確認日 2026.09.22
  2. 税理士法(昭和26年法律第237号)e-Gov法令検索 e-Gov法令検索 確認日 2026.09.22
  3. 消費税法(昭和63年法律第108号)e-Gov法令検索 e-Gov法令検索 確認日 2026.09.22
  4. 電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律(電子帳簿保存法・平成10年法律第25号)e-Gov法令検索 e-Gov法令検索 確認日 2026.09.22

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