税理士の申告書づくりでAIに渡すのは下書きまで、法人税11工程と戻し先
法人税の申告書づくりを税務担当と分担し、レビューを所長税理士や上席が受け持つ税理士事務所の話です。
税理士のレビューで別表四の加算の数字がどの資料から来たかを聞かれ、税務担当が資料を開き直すうちに、申告の仕事が期限前の週に集まってしまいます。AIに下書きを任せれば速くなりそうでも、申告書の作成は税理士の業務なので、渡してよい範囲には限りがあります。その範囲は、法人税の申告1件を決算数値の確定から業務処理簿の記録までの工程に分けると見えてきます。

先に結論
法人税の申告書づくりでAIに渡すのは、前期の別表との差異一覧、契約書や議事録からの論点の洗い出し、数値ごとに出所の資料名を付けた下書き、期限の通知と納付の案内文までです。差異一覧は、差の理由の欄を空けたまま返させます。
税務上の取扱いの判断、申告内容の最終確認と電子申告の送信の指示、書面添付の要否は税理士が持ちます。出所の資料名と資料の数字が合うかは、AIに下書きを作らせた税務担当とは別の上席が確かめ、出所が書かれていない数値は税理士のレビューに回しません。組織再編・大きな固定資産の除却・海外取引・過年度の修正が絡む申告は、税理士が下書きの前から入ります。
最初に試すのは、別表七(一)・十六・八(一)が毎期並び、前期の申告データがe-Taxで残る法人です。社数はたとえば3社で、決めるのは所長税理士です。試した顧問先を終えてもレビューで戻した数値の件数が減らなければ、顧問先を増やす前に出所の付け方を決める指示を書き直します。
申告書の作成は税理士の業務なので、AIの出力は下書きに留める
AIをどれだけ使っても、税務書類の作成は税理士の業務として定められています。税理士法第2条第1項は、他人の求めに応じて行う税務代理・税務書類の作成・税務相談を税理士の業務と定めています。第52条は、税理士又は税理士法人でない者による税理士業務を禁じています。AIの出力を下書きと、それを確かめる材料の側に置くのはこのためです。
第41条は、税理士業務について委嘱者別・1件ごとに内容とてん末を帳簿に書き、閉鎖後5年間保存するよう求めています。業務処理簿です。第33条の2は、計算・整理・相談に応じた事項を書いた書面を申告書に添付できると定めており、付けるかどうかは税理士が選びます。
数値ごとに出所の資料名をAIに付けさせておくと、業務処理簿のてん末や添付書面を書くときに、その資料名をそのまま使えます。出所の付いた下書きなら、税理士は資料を開き直さずに数値の来どころを追えます。
決算書の内訳書や役員報酬の資料には、個人の氏名が載ります。AIサービスの運営会社が契約上その中身を取り扱わず、アクセスも制限されていれば、提供に当たりません。
取り扱う契約なら、利用目的の範囲で任せる委託と言えるかを契約で確かめます。言えれば個人情報保護法第25条に沿って委託先を監督し、言えなければ第三者提供として同法第27条により本人の同意を得ます。顧問先の決算データをどの契約のAIへ渡すかは、生成AIツールの入力区分の記事の区分表に沿って決めます。
申告1件の11工程は、事業年度終了から2か月で回す
申告期限の延長の特例を受けない法人なら、この流れを事業年度終了の日の翌日から2か月の中で回します。工程ごとの担当と、合わない数値の差し戻し先は次のとおりです。
図の要点:法人税の申告1件を回す4つの担当と11工程。AIの下書きは、試算表から未処理の科目と前期差の大きい科目を並べ、前期の別表と当期の差異一覧を理由の欄を空けて作り、契約書や議事録から論点になりそうな取引を抜き出し、数値ごとに出所の資料名を付けて申告書を下書きし、期限の通知と納付の案内文を下書きする。税理士は決算整理仕訳と決算数値を確定し、税務上の取扱いを判断し、申告内容を最終確認して電子申告の送信を指示する。税務担当は差異一覧を別表五(一)・七(一)と照合し、業務処理簿に判断の経緯を書く。上席は出所の資料名と資料の数字が合うかを確かめる。合わない行や出所が書かれていない数値は、論点の一覧・税務担当・下書きへ差し戻す。
出所が書かれていない数値は、上席が止めて税理士のレビューに回さない
AIの下書き
税理士
税務担当
上席
- AIの下書き
試算表から未処理の科目と前期差の大きい科目を並べる
決算整理仕訳は作らない
- 税理士
決算整理仕訳を確定し、決算数値を固める
- AIの下書き
前期の別表と当期の差異一覧を別表ごとに作る
差の理由の欄は空けて返す
- 税務担当
差異一覧を別表五(一)・七(一)の引継ぎと照合する
戻す合わない行は「未確認」で論点の一覧へ
- AIの下書き
契約書・議事録から論点になりそうな取引を抜き出す
一覧が空でも論点が無いとは限らない
- 税理士
税務上の取扱いを判断する
組織再編・海外取引は下書きの前から入る
- AIの下書き
数値ごとに出所の資料名を付けて申告書を下書きする
- 上席
出所の資料名と資料の数字が合うかを確かめる
戻す出所が書かれていない数値は税務担当へ返す
- 税理士
申告内容を最終確認し、電子申告の送信を指示する
戻す合わない数値は下書きへ返す
- AIの下書き
期限の通知と納付の案内文を下書きする
送る前に税務担当が金額を確かめる
- 税務担当
業務処理簿に判断の経緯と資料名を書く
書面添付の要否は税理士が決める
「戻す」と書いた3か所に、期限前の週の仕事が集まります。差し戻しが多い申告ほど、税理士のレビューは期限の直前にずれ込みます。
税理士が下書きの前から入る申告
税理士が下書きの前から入るのは、組織再編、大きな固定資産の除却、海外取引、過年度の修正が絡む法人の申告です。こうした申告では、AIが抜き出す論点の一覧が空でも論点が無いとは言えないため、工程の担当を分ける前にこの条件に当たるかを税理士が決めます。
それ以外の申告では、AIの下書き、税務担当の確認、上席の出所の確認、税理士の判断の4つが交互に入ります。決算整理の固め方は、決算・レビューの業務一覧から工程ごとにたどれます。届出や期限の管理など申告の周辺は税務の記事一覧に、証憑回収から月次までの順番は会計事務所向けの業務別の記事で追えます。
前期の別表との差異一覧をAIで作る
差異一覧に渡すのは、前期のe-Taxの申告データ(別表一式)、当期の決算書と試算表、前期の税務調整の資料です。指示は「別表ごとに前期と当期の差を並べ、前期から引き継ぐ調整項目と当期に新しく出た科目を分けて示す」とします。差の理由を推し量って書くことは禁じ、理由の欄は空けたまま返させます。
別表七(一)の繰越欠損金を一行見落とすだけで、当期の所得の前提がずれます。税務担当が通すのは、差の金額が前期と当期の別表から検算でき、引継ぎ項目が別表五(一)と別表七(一)の記載と一致する行だけです。一致しない行は採らずに、理由の欄へ「未確認」と書いて論点の一覧へ回します。
【説明用の架空の記入例】別表五(一)の減価償却超過額の行です。前期末は300,000円、当期の期首は記載なし、差は300,000円で、区分は「前期から引き継ぐ調整項目」です。差の理由の欄はAIが空欄のまま返し、出所の欄には「前期のe-Taxデータの別表五(一)」と入ります。引継ぎ項目が当期の別表五(一)と一致しないので、税務担当は理由の欄に「未確認」と書いて論点の一覧へ回します。金額は説明のための仮の値です。
出所の付かない下書きを急いで作っても、税理士は別表四の加算欄を見て、どの資料から来た数字かを尋ねます。税務担当が資料を開き直すあいだ、レビューは止まったままです。
出所を確かめる上席は、所長税理士が、AIに下書きを作らせた税務担当とは別の人から指名します。作った本人が見ると、同じ資料の同じ読み違いを二度通してしまいます。効果は、下書きが上がってからレビューに入るまでの日数、上席が出所の確認で止めた数値の件数、税理士がレビューで戻した数値の件数で見ます。
2割特例が終わる顧問先の翌期の計算方法
2割特例の対象は、令和5年10月1日から令和8年9月30日までの日の属する各課税期間です。最後の期は決算月で変わり、3月決算法人なら令和9年3月期、個人事業者なら令和8年分にあたります。基準期間の課税売上高が1千万円を超える課税期間や、課税期間を短縮している課税期間は対象外です。
使えなくなった後は、一般課税(インボイスの保存が必要)か簡易課税で申告します。個人事業者には3割特例もあり、令和9年分・令和10年分の確定申告で、納付税額を売上税額の3割とできます。基準期間の課税売上高が1,000万円以下であることなどが要件で、法人は対象外です。
簡易課税の届出は、原則として適用を受ける課税期間の初日の前日までに出します。2割特例を受けた翌課税期間に簡易課税を選ぶ場合は、その課税期間の申告期限までに出せば、その課税期間から使えます。申告期限の延長の特例を受ける法人は、延長された期限が届出の期限になります。
AIに顧問先台帳と届出の控えを渡せば、対象の顧問先、最後の期、翌期の申告期限は一覧になります。一般課税・簡易課税(個人は3割特例も)のどれにするかは、税理士が国税庁の最新の案内を確かめて選びます。一般課税に行く余地のある顧問先は、選ぶまでインボイスの保存と区分記帳を止めません。後から一般課税に決めたとき、控除の根拠が残っていないからです。
最初に試す顧問先は、別表の並びとe-Taxのデータで選ぶ
差異の一覧が役に立つかは、顧問先の数より、1社の申告に並ぶ別表の構成で判断します。別表一と四、五(一)、五(二)で終わる小さな法人なら、前期との突き合わせは目で追っても短く、一覧を作らせる手間と大差がありません。別表七(一)の繰越欠損金、別表十六の減価償却、別表八(一)の受取配当が毎期並ぶ顧問先ほど、引継ぎ漏れを見つける価値が大きくなります。
最初に試す顧問先は、別表の多い法人のうち前期の申告データがe-Taxで手元にある先から選びます。社数はたとえば3社で、決めるのは所長税理士です。前期が紙の申告書しか残っていない顧問先を入れると、差異の一覧が空で返り、2社目から誰も開かなくなります。3月決算法人が中心の事務所なら、件数の多い決算月を避けて置きます。
全国の法人税申告では、令和6年度にe-Taxで出された割合が89.1%です。主要な別表に加え、財務諸表などの添付書類までe-Taxで送った割合は67.7%でした。二つの差から言えるのは、添付書類までは電子で送っていない申告がある、というところまでで、自所の顧問先に当てはまるかは顧問先ごとに確かめます。
レビューで戻した数値の件数を申告ごとに数えると、出所の付け方に効果があるかを税理士が確かめられます。試した顧問先を終えて件数が減っていれば次の顧問先へ進み、減らないなら、顧問先を増やす前に、出所の資料名の付け方を決める指示の書き直しへ戻ります。
紙で出す顧問先に残る、AI-OCR対応様式の確認
国税庁は国税システムの更改に伴い、AI-OCRで読み取りやすい様式へ帳票のレイアウトを変えます。対象帳票の一覧と設計書は、e-Taxの仕様公開のページに令和8年9月2日更新の版が出ています。
紙で出す顧問先が残る事務所は、税務申告ソフトの帳票出力がいつ新しい様式に替わるかを、ソフトの提供元の案内で追います。所内の申告書チェックリストが「何ページ目の何行目」と欄の位置で書かれているなら、様式の差し替えに合わせて書き直しが要ります。
出所の付け方は所内で決め、申告データの取り出しを外に頼む
差異一覧と出所つきの下書きは、指示文と申告のチェックリストを所内で持てば、事務所の中で回せます。理由の欄を空けて返させる決まりも、出所の資料名の付け方も、指示文に書けるからです。
外に組ませる候補になるのは、税務申告ソフトや顧問先台帳から別表のデータを毎回取り出す作業が重く、差異一覧を作る前に手が止まる事務所です。ただし顧問先台帳や届出の控えが担当ごとに分かれたままなら、取り出す元のデータがそろわず、仕組みだけが残ります。台帳を1つにまとめてから、データを取り出す仕組みづくりを外に頼みます。
データの取り出しを外に頼んでも、別表五(一)・七(一)と照合する税務担当と、取扱いを判断して送信を指示する税理士の役割は変わりません。試しの結果、レビューで戻した数値の件数は減ったとします。それでも下書きが上がってからレビューに入るまでの日数が縮まないなら、詰まりは別表のデータの取り出しにあります。その事務所は、件数の多い決算月が来る前に、まずデータを取り出す仕組みの見積を取ります。
明日から始める3ステップ
担当 所長税理士
別表七(一)・十六・八(一)が毎期並び、前期の申告データがe-Taxで残る法人を、たとえば3社選ぶ(社数は所長税理士が決める)。出所を確かめる上席を、AIに下書きを作らせる税務担当とは別の人から指名する
次へ進む目安上席が決まり、選んだ顧問先の決算月が重ならず、どの社も前期の別表一式をe-Taxのデータで開けた
担当 税務担当
差異一覧の指示に「理由の欄は空けて返す」と書き、出所の確認は所長税理士が指名した上席に回す
次へ進む目安1社目で、出所が書かれていない数値が税理士のレビューの前に税務担当へ戻った
担当 レビュー担当の上席
申告1件ごとに、税理士がレビューで戻した数値の件数を数え、申告のチェックリストの末尾に書き足す
次へ進む目安試した顧問先の分の件数がそろい、次の顧問先へ進むか指示を書き直すかを所長税理士が決めた
無料相談(オンライン)
BoostXは、会計事務所の記帳・月次・申告準備へのAI導入を支援しています
01無料相談
証憑の回収・記帳・申告の準備から、最初の1業務を決める
02進め方の提案
規模に合う進め方を提案する
03作って試す
一緒に作り、現場で試して直す
04定着まで伴走
毎月1テーマずつ積み上げる
作って試す・定着までAIエージェント開発AI顧問生成AI研修
出典
- 税理士法(昭和26年法律第237号)(第2条第1項・第52条・第41条・第33条の2) e-Gov法令検索(デジタル庁) 確認日 2026.09.27
- 法人税法(昭和40年法律第34号)(第74条) e-Gov法令検索(デジタル庁) 確認日 2026.09.27
- 国税庁「消費税の仕入税額控除制度における適格請求書等保存方式に関するQ&A」問115(令和6年4月改訂)国税庁 確認日 2026.09.28
- 国税庁「令和8年度税制改正特集」(3割特例・簡易課税への移行・3割特例・簡易課税届出の期限・延長特例・3割特例の主な適用要件) 国税庁 確認日 2026.09.28
- 国税庁「インボイス発行事業者の『2割特例』適用可否フローチャート」(令和6年9月版)国税庁 確認日 2026.09.28
- 国税庁「令和6事務年度 法人税等の申告(課税)事績の概要」(令和7年10月)(e-Tax利用率・ALL e-Tax率) 国税庁 確認日 2026.09.27
- 国税庁 e-Tax「AI-OCR化対象帳票レイアウトの提供について」(様式変更の趣旨・AI-OCR化対象帳票一覧の更新日) 国税庁(e-Tax) 確認日 2026.09.28
- 国税庁「消費税の仕入税額控除制度における適格請求書等保存方式に関するQ&A」問115-2(3割特例の適用ができない課税期間)【令和8年4月追加】国税庁 確認日 2026.09.28
- 国税庁「インボイス発行事業者の『2割特例』適用可否フローチャート」(令和7年分の申告用・個人事業者用)国税庁 確認日 2026.09.28
- 国税庁「消費税の仕入税額控除制度における適格請求書等保存方式に関するQ&A」問117(2割特例の後の簡易課税制度選択届出書の提出期限)【令和8年4月改訂】国税庁 確認日 2026.09.28
- 個人情報の保護に関する法律(平成15年法律第57号)(第25条・第27条第1項・第5項第1号) e-Gov法令検索(デジタル庁) 確認日 2026.10.07
- 個人情報保護委員会「「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン」に関するQ&A」Q7-53(クラウドサービスの利用) 個人情報保護委員会 確認日 2026.10.07
編集BoostX編集部(株式会社BoostX)編集と監修の決まり








