顧問先からの質問にAIはどこまで答えるか、5種類の質問と確定する人
顧問先からの質問への返信を監査担当が抱え、AIの下書きをどこまで使えるかを決めたい所長と監査担当
「社長に50万円貸しました。どう処理すればいいですか」という質問にAIが返す下書きには、科目の案内と、利息を受け取らない場合の扱いが一つの文に混ざって並びます。どの質問なら監査担当の確認で返してよく、どこから税理士の確定が要るのかを、税理士法の税務相談の定義と、質問の種類ごとの判断表で示します。

先に結論
顧問先からの質問への回答でAIに作らせてよいのは、質問の区分の候補、過去の類似回答の検索結果、根拠の条文と過去回答を添えた回答文の下書きまでです。答えが課税標準や税額の計算に響く質問は税理士が回答内容を確定し、手続・期限・提出資料の案内は監査担当が確定して送ります。
区分のラベルもAIが出すのは候補で、どの区分に当たるかは監査担当が決めます。過去の回答が改正の前のものか後のものか確かめられないときは、AIに「未確認」と返させ、その質問は税理士へ回します。
課税標準の計算に関わる答えは、税理士が確定する
税理士法は税務相談を、申告等や申告書等の作成に関して、租税の課税標準等の計算に関する事項について相談に応ずることと定めています(第2条第1項第3号)。顧問先の経理担当から届いた質問でも、答えがこの計算に関わるなら、回答内容を確定するのは税理士です。
図の要点:顧問先からの質問が回答と履歴になるまでを、顧問先・AI・監査担当・税理士の4者に分けた図。AIは区分の候補を付けて過去回答を探し、条文と過去回答を添えた下書きを作るところまでで、区分の確定と案内の回答は監査担当、税額に響く部分の回答内容は税理士が確定し、最後に監査担当が送信して内容と顛末を履歴に残す。
税額に響く答えは、AIと監査担当を通っても送る前に税理士が確定する
顧問先
AI
監査担当
税理士
- 顧問先
チャット・メール・電話で質問する
科目・期限・資料・利息の扱いなど
- AI
区分の候補を付け、過去回答を探す
改正前か分からない回答は「未確認」
- AI
条文と過去回答を添えて下書きする
資料に無い点は「未確認」と書く
- 監査担当
区分を確定し、事実を顧問先の資料で確かめる
案内だけの回答はここで確定
- 税理士
税額に響く部分の回答内容を確定する
戻す根拠と結論が合わない下書き
- 監査担当
送信し、内容と顛末を履歴に残す
確定した税理士の名前も残す
図のとおり、AIが受け持つのは区分の候補、過去回答の検索、下書きの3つで、送る文の中身を決める段にAIは入りません。国税庁の「税理士制度のQ&A」は「相談に応ずる」を、課税標準等の計算に関する事項について具体的な質問に対して答弁し、指示し又は意見を表明すること、と説明しています。税額に響く質問への返信はこの答弁に当たるので、その部分のAIの文面は監査担当が手を入れた後も下書きのままです。
報酬の有無で線は動きません。同じQ&Aは、税理士業務を「業とする」には必ずしも有償であることを要しないとしており、顧問料の中で受ける質問対応でも扱いは同じです。届く経路も問われず、Q&Aは電子メールやWeb会議による顧客との税務相談を、税理士の業務の電子化の例に挙げています。チャットで届いた質問でも、中身が税務相談なら税理士が確定します。
監査担当は、税理士の使用人として下書きと案内を受け持つ立場です。第41条の2は、使用人その他の従業者を使う税理士に、業務の適正な遂行に欠けるところのないよう監督する義務を課しています。第52条は税理士でない者が税理士業務を行うことを禁じているため、無資格の監査担当がAIの下書きを自分の判断で税務相談の答えとして送る運用は組めません。
届いた質問は、答えが税額に響くかで仕分ける
顧問先からの質問は、手続や資料の案内なら監査担当が、答えが税額や所得の計算に響くなら税理士が回答内容を確定します。AIは質問ごとに区分の候補を付けますが、候補をどの区分に確定するかは監査担当が決めます。
| 質問の種類 | 質問の例 | 回答を確定する人 |
|---|---|---|
| 手続・期限の案内 | 源泉所得税の納期限はいつか | 監査担当 |
| 提出資料の案内 | この資料はいつまでに出すか | 監査担当 |
| 会計処理(科目) | この支払いの科目は何か | 監査担当。損金まで答えるなら税理士 |
| 税務上の取扱い | 役員に貸したお金の利息の扱い | 税理士 |
| 時期で答えが変わる取扱い | インボイス未登録の相手との取引 | 税理士 |
下書きはどの行の質問でもAIに作らせますが、税理士の行に当たる下書きには「税理士確認」の印を付けさせ、監査担当の手元からは送りません。区分の確定をAIに任せないのは、同じ科目の質問でも、損金になるかまで答えた時点で課税標準の計算に関わる回答へ変わるからです。質問文だけでは、どこまで答えることになるかが決まりません。
前提を明記した仮の業務例で追います。月次訪問の翌日の午前、顧問先の経理担当から事務所のチャットに「社長に50万円貸しました。どう処理すればいいですか」と書き込みがありました。担当の監査担当は別の顧問先へ外出していて、事務所に戻るのは夕方です。
AIはこの質問に「会計処理(科目)」と「税務上の取扱い(利息)」の2つの候補を付け、同じ顧問先への過去の回答を探しました。夕方に戻った監査担当は、科目と仕訳の案内は自分で確定し、利息を受け取らない場合の扱いに触れた段落は税理士へ回しています。
質問が顧問契約の範囲に入らない依頼だったときは、回答の前に受けるかどうかを決めます。その手順は顧問契約の業務範囲を顧問先台帳で確かめる記事で扱っています。
過去の類似回答は、改正の前か後かを確かめて使う
過去の類似回答を下書きに使ってよいのは、回答日が直近の改正より後で、同じ顧問先か同じ前提の質問だったときだけです。回答日の分からない過去回答を下書きに混ぜると、改正前の取扱いが新しい日付の文面に化け、監査担当が誤りに気づく手がかりを失います。回答日を確かめられないものは、AIが「未確認」の印を付けて税理士の確認に送る側へ置きます。
時期で答えが変わる質問は、過去回答の流用で誤りが出やすい質問です。インボイス発行事業者以外の相手からの課税仕入れには一定割合を控除できる経過措置があり、その控除可能割合は令和8年度の改正で見直されました。前期に正しかった回答が、今期もそのまま通るとは限りません。
この種の質問は過去回答を使わず、税理士が回答日時点の国税庁の資料で確かめます。控除の可否を行ごとに判定する流れは申告前のインボイス確認で税理士が控除を決める記事で順に追っています。
もう一つ気をつけるのは、別の顧問先への回答が混ざることです。顧問先が違えば事業年度も消費税の申告方法も取引の形も違い、同じ質問文でも答えが変わります。検索の対象は顧問先単位に絞り、別の顧問先への回答を参照したときはAIに参照元と回答日を書かせ、監査担当が前提の違いを確かめて、合わない回答は下書きから外します。
回答文の下書きに、根拠の条文と過去の回答を添えさせる
下書きには、根拠にした条文や国税庁資料の箇所、参照した過去回答の回答日、資料で確かめられなかった点を添えさせます。根拠が並んでいれば、税理士は結論と根拠が合っているかを確かめるところから確認に入れます。
AIへの指示には、質問文、顧問先の科目ルール表、検索で見つかった過去回答とその回答日、参照してよい資料の範囲を入れます。そのうえで、次の3つを指示として書いておきます。
- 資料に無いことは書かず「未確認」と書く
- 改正の前か後か分からない過去回答は使わない
- 税額や所得の計算に響く文には「税理士確認」と付ける
質問文には役員の氏名や貸付の金額が入ります。外部の生成AIサービスに入れてよいかは、指示を書く前に、事務所の資料の区分と使うサービスの契約で決めておきます。区分の決め方は入れてよい資料を4つに分けて生成AIツールを選ぶ記事にあり、税理士の守秘義務は第38条で税理士でなくなった後も続くと定められています。
【説明用の架空の記入例】
– 質問: 社長に50万円を貸した処理(チャット・月次訪問の翌日)
– 区分の候補: 会計処理(科目)と税務上の取扱い(利息)
– 下書き: 科目と仕訳の案内。利息の段落に「税理士確認」
– 根拠: 顧問先の科目ルール表、同じ顧問先への前期の回答と回答日
– 未確認: 返済期限と利息の取り決めの有無、利息の扱いの根拠条文
– 確認者: 監査担当(科目)、税理士(利息)は空欄
税理士はこの記入例の「未確認」と「税理士確認」の行から読み、結論を確定したら確認者の欄に名前を書きます。確認者の欄が空いている下書きは送らない、と所内で決めます。そうすれば、税理士を通らないまま税務の答えが顧問先へ届く経路はなくなります。
電話で受けた質問も、回答の顛末まで履歴に残す
税理士は、税務相談の内容とそのてん末を委嘱者別・一件ごとに帳簿へ記載し、帳簿を閉鎖後5年間保存します(第41条)。帳簿は電磁的記録で作ることもできるので、チャットや電話で答えた分も、同じ対応履歴に残します。
記録が漏れやすいのは、外出中に受けた電話です。監査担当が戻って折り返すまでの間、通話の中身は手帳や付箋のメモにしか残っていません。通話メモをAIに渡して記録の下書きを作らせ、監査担当が質問の中身と答えた内容を確かめてから履歴に確定します。
| 記録する項目 | AIの下書き | 確定する人 |
|---|---|---|
| 質問の内容と受けた経路 | 通話メモ・チャットから要約 | 監査担当 |
| 質問の区分 | 判断表の種類の候補を付ける | 監査担当 |
| 回答した内容 | 送った回答文から要約 | 監査担当 |
| 確定した税理士 | 空欄のまま出す | 税理士 |
| てん末 | 追加の質問と次の連絡を書き出す | 監査担当 |
下書きを使い続けるかは、初回回答までの時間と回答の修正率で決めます。たとえば4週分、区分ごとに監査担当と税理士が下書きを直した件数を数え、案内の区分でも直しが減らないなら、AIの区分の基準と過去回答の一覧を見直してから続けます。
対応履歴の引継ぎや制度改正の案内など、顧客対応のほかの業務は会計事務所の顧客対応の記事一覧にあります。記帳から決算までの業務ごとの記事は、会計事務所のAI活用ジャーナルのトップから探せます。
過去回答の検索を所内で組めるのは、履歴が一か所にある事務所
過去の回答と対応履歴が顧問先単位・回答日つきで一か所にある事務所なら、過去回答の検索と根拠つきの下書きは所内で始められます。履歴がメール・チャット・電話のメモに散らばっていると、AIに探させても同じ顧問先への前回の回答が見つからないため、記録先を一つに決めることが先になります。
所内で始めるなら、対応履歴の表に回答日・顧問先・区分・根拠の資料名の列を足します。そのうえで、契約で入力範囲を確かめた法人向けの生成AIサービスに、その表を検索させることから始めれば足ります。
顧問先が多く、過去の回答・説明資料・条文を顧問先ごとに検索して根拠つきの回答文まで出す仕組みにするなら、事務所の文書の置き方に合わせた構築が要ります。その場合は、外部に組ませる案も比べます。
ただ、検索の仕組みが拾えるのは、文字で残った質問に限られます。電話で受けた質問は、通話メモが履歴に起こされるまで前回の回答として出てきません。電話での質問が多い顧問先ほど、検索の仕組みより先に、記録の運用が回答の揃い方を左右します。
明日から始める3ステップ
担当 監査担当の責任者
直近1か月にメール・チャット・電話で受けた質問を対応履歴から書き出し、判断表の5つの種類に分けて、回答を確定した人を横に書く
次へ進む目安1か月分の質問が種類ごとに数えられ、所長が税理士へ回す種類に印を付けた
担当 監査担当
よく使う過去の回答に回答日・顧問先・根拠の資料名の欄を足し、直近の改正より前に書いた回答を見分ける
次へ進む目安過去回答の一覧で回答日の欄が全件埋まり、改正前の回答に「下書きに使わない」の印が付いた
担当 監査担当と所長
翌月に届く質問でAIの区分候補と根拠つきの下書きを使い、初回回答までの時間と、監査担当と税理士が下書きを直した件数を区分ごとに記録する
次へ進む目安4週分の時間と修正件数が区分ごとに並び、所長が下書きを続けるか区分の基準を直すかを決めた
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01無料相談
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規模に合う進め方を提案する
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一緒に作り、現場で試して直す
04定着まで伴走
毎月1テーマずつ積み上げる
作って試す・定着までAIエージェント開発AI顧問生成AI研修
出典
- 税理士法(昭和26年法律第237号)(第2条第1項第3号・第41条第1項〜第3項・第41条第2項・第3項・第41条の2・第38条・第52条) e-Gov法令検索(デジタル庁) 確認日 2026.10.26
- 国税庁「税理士制度のQ&A 2 税理士業務」問2-1(注3)・問2-2・問2-4(法第2条の3) 国税庁 確認日 2026.10.26
- 国税庁「令和8年度税制改正特集(消費税・インボイス制度の見直し)」(7・5・3割控除) 国税庁 確認日 2026.10.26
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