経営支援のAIはどこまで、月次試算表の要約と監査担当が選ぶ論点
顧問先の月次面談を受け持つ監査担当と、担当者ごとの説明の差を減らしたい所長・税理士が読む記事です。
月次締めのたびに試算表と前月の報告資料を並べて増減を書き写していると、資料づくりだけで面談の準備の時間がなくなり、話す中身も担当者ごとに変わります。AIに要約させれば書き写しは減りますが、返ってくる文は増減の理由まで言い切っています。その文をどこで止め、面談で話す科目を誰が何を見て選ぶかを、月次報告資料ができるまでの順に追っています。

先に結論
月次試算表の要約でAIに作らせてよいのは、変動の大きい科目の一覧、科目ごとの要因の候補、経営者向けの説明文の下書きです。面談でどの科目を話すかと、経営判断への助言は、顧問先の事業と今月の出来事を知っている監査担当が決めます。
要因は顧問先の経理担当や経営者に確かめるまで候補のままです。確かめられなかった要因は「確認待ち」と書いて資料に残し、AIが理由を言い切った文は経営者に渡しません。前年同月の試算表がない顧問先については、AIの一覧を論点選びに使いません。
試算表に載らない今月の出来事が、論点の重さを決める
月次試算表は、今月の仕訳を科目ごとに集計した結果です。なぜ増えたのか、経営者にとってどの動きが重いのかは、試算表の外にあります。
図の要点:月次試算表の要約を3つの担当に分けた図。AIが当月・前月・前年同月の試算表と当月の元帳から変動の大きい科目を並べ、根拠の仕訳を添えて要因の候補を出す。監査担当が4つの基準で論点を選び、顧問先の経理担当が要因を答え、答えの無い要因は確認待ちで残す。AIが確かめた要因で説明文を下書きし、監査担当が言い切った文を差し戻して助言を足し、面談に持っていく。
要因が確かめられるまで、AIの文は経営者向けの資料に載らない
AI
監査担当
顧問先の経理担当
- AI
3つの月の試算表と当月の元帳から変動科目を並べる
前年同月の無い科目には印を付ける
- AI
科目ごとに要因の候補を出す
根拠の仕訳を添え、無ければ「不明」
- 監査担当
4つの基準で面談の論点を選ぶ
季節の動きと単発の動きは外す
- 顧問先の経理担当
論点にした科目の要因を答える
戻す答えの無い要因は確認待ちで残す
- AI
選んだ論点だけで説明文を下書きする
言い切るのは確認済みの要因だけ
- 監査担当
下書きを読み直し、助言を足して面談に出る
戻す理由を言い切った文は書き直させる
外注費が増えた理由が受注の増加なのか単価の値上げなのかも、工事台帳を見るか、顧問先に聞かなければ分かりません。AIが試算表から出せるのは、どの科目がどれだけ動いたかと、仕訳や摘要から読める要因の候補までです。そのため、顧問先の経理担当に要因を問い合わせる作業が、AIの一覧と説明文の下書きの間に入ります。
図の中で「戻す」と書いた2か所が、要約をAIに任せても監査担当の手元に残る確認です。ここを飛ばした資料は、作るのは速くても、面談で経営者に要因を訂正される資料になります。
税理士法は、税理士業務に付随して、財務書類の作成、会計帳簿の記帳の代行その他財務に関する事務を行えると定めています。月次試算表や月次報告資料は、この財務書類の作成や財務に関する事務に当たると考えられます。どちらも事務所の名前で顧問先に渡す成果物です。そのためAIの文をそのまま出さず、監査担当が読んでから出します。
面談で経営者から節税や税額の計算について聞かれた場合、その相談は税理士法が税理士業務と定める税務相談に当たり得ます。監査担当がその場で答えず、税理士の確認を通す決まりを所内で持っておきます。予実表や資金繰り表の更新、融資の資料づくりは、経営支援の業務の中で月次の要約に続く作業です。
AIに渡す試算表と、出させる3つのもの
AIに渡すのは、当月・前月・前年同月の試算表、当月の元帳、顧問先の事業の概要の3つです。出させるのは、変動の大きい科目の一覧、要因の候補、説明文の下書きの3つです。
月次試算表とは、その月までの仕訳を勘定科目ごとに集計した表で、月次の残高確認と経営者への説明に使います。会計ソフトの推移表からこの3つの月の列を書き出し、前月差と前年同月差は表計算で出してから渡します。差額の計算までAIにさせると、桁や符号の誤りを見落としやすくなるからです。
要因の候補に根拠の仕訳を添えさせるには、当月の仕訳も要ります。少なくとも差額の大きい科目は、会計ソフトから当月の元帳を書き出して一緒に渡します。
事業の概要には、業種、季節で大きく動く科目、今月に顧問先が決めた出来事(役員報酬の改定、保険の年払い、設備の購入など)を数行で書きます。この数行が無いと、AIは前月より増えた科目を順に並べるだけになります。
AIへの指示には、次の4つを書いておきます。
- 渡した前月差と前年同月差をもとに、変動の大きい科目を順に並べる
- 要因の候補には、根拠にした仕訳の日付・摘要を添える。根拠が見つからなければ「不明」と書き、推測で埋めない
- 要因は「〜の可能性がある」の形で書き、「〜のため増加」と言い切らない
- 前年同月の数字が無い科目には印を付ける
説明文の下書きは、この時点では作らせません。論点を選ぶ前に下書きを作らせると、全科目を順に説明する長い文が返り、監査担当が削る手間が増えます。
前年同月の試算表が無いと、AIの一覧は前月比に偏ります。季節の動きと本当の変化を見分けられないためです。顧問契約から1年に満たず、前の事務所の試算表も引き継いでいない顧問先は、一覧を作らせても論点選びには使いません。
顧問先の試算表と元帳の数字は、税理士法38条が、正当な理由なく漏らしてはならないと定める秘密に含まれ得ます。職員である監査担当にも、同じ義務が54条で定められています。元帳の摘要には取引先の社名や個人の名前が入り、補助科目に役員の氏名が入っている顧問先もあります。
推移表や元帳を書き出す前に、所長が使うAIサービスの利用規約を読み、入力したデータが保存されるか、学習に使われるかを確かめます。そのうえで所内の規程に沿って、渡してよいかを決めます。入力してよい範囲の決め方は、会計事務所の生成AIツールの選び方で説明しています。
経営者に伝える論点を絞る4つの基準
面談で話す論点は、金額の大きさ、前年同月との差、資金への影響、経営者が打てる手の4つで選びます。数は2〜3を目安に絞ります。全科目を並べた資料では、経営者がいま決めるべき点が埋もれます。面談の時間も足りなくなります。
| 基準 | AIが出せる材料 | 監査担当が足す事実 |
|---|---|---|
| 金額の大きさ | 科目ごとの増減額と率 | 顧問先の規模で見た重さ |
| 前年同月との差 | 前年同月と比べた増減 | 季節の動きか単発の動きか |
| 資金への影響 | 売掛金・現預金の残高の動き | 入金予定と借入の返済予定 |
| 経営者が打てる手 | 増減した科目の名前 | 今月の決定と経営者の関心 |
AIの材料だけで選べる基準はありません。4つとも、今月の出来事や経営者の関心を聞いている監査担当が事実を足して初めて、論点にするかが決まります。
以下は説明用に作った仮の場面です。毎年この月に工事が集中する、建設業の顧問先を例にします。前月比だけを見たAIの下書きが、「外注費が急増し、利益を圧迫」を最初の論点に置きました。監査担当が前年同月と比べると、外注費の増え方は例年どおりでした。受注の状況も経理担当から聞いていたので、この論点は外しました。
代わりに選んだのは、売上が伸びた一方で売掛金が積み上がり、現預金が減っている動きです。利益は出ているのに手元の資金は減っているので、経営者には利益の話と資金の話を分けて伝えます。
役員報酬の改定や保険の年払いのように顧問先が自分で決めた単発の動きは、経営者がすでに知っていれば論点にしません。経理担当だけが処理して経営者が知らない動きなら、短く触れておきます。
増減の理由は、顧問先に確かめてから書く
AIが書いた要因は、顧問先に確かめるまで候補として扱います。確かめられなかった要因は、「確認待ち」と書いたまま経営者に伝えます。
たとえば広告宣伝費が増えていても、新しい販促を始めたのか、前月の計上漏れを今月に入れたのかは、試算表からは区別できません。監査担当は論点に選んだ科目の要因だけを、面談の前に顧問先の経理担当へメールやチャットで問い合わせます。経理担当で答えられない要因は、面談で経営者に聞く項目に回します。
【説明用の架空の記入例】論点に選んだ1科目の、説明用の要点です。
| 欄 | この月に書く内容 |
|---|---|
| 論点 | 売掛金の増加と現預金の減少 |
| 数字 | 売掛金は前年同月より増、現預金は減 |
| 要因(確認済み) | 大口の取引先の締めが月末に変わった |
| 要因(確認待ち) | 別の取引先の入金遅れ(経理担当が確認中) |
| 経営者に聞くこと | 入金の遅れを取引先に伝えているか |
確認済みの欄に入るのは、経理担当か経営者から答えをもらった要因だけです。確認待ちの欄は空欄にせず、誰が確認しているかまで書きます。そうすれば、翌月の面談の前に同じ問い合わせを繰り返さずに済みます。
AIの説明文の下書きで「〜のため」「〜により」と理由を言い切っている文は、確認済みの要因に当たるかを1文ずつ見ます。当たらない文は、AIに「確認待ちの要因は候補の形で書く」と指示し直して作り直させるか、監査担当が書き換えます。言い切った文が1つでも残る下書きは、経営者に渡しません。
面談で経営者から要因を訂正されたら、その科目と訂正の内容を顧問先ごとに記録します。同じ顧問先の訂正が続くなら、事業の概要に書くべき出来事が漏れています。AIに渡す概要の書き方へ戻ります。
締めが遅れる顧問先が多いと、外に頼む作業が変わる
外部の手を借りるかどうかは、月次締めの後、試算表がどれだけ早く固まるかを顧問先ごとに見て決めます。締めが早く、推移表と元帳をすぐ書き出せる顧問先が多いとします。その事務所なら、書き出しと指示文、テンプレートへの流し込みを外部と一緒に組めます。
面談の直前まで試算表が固まらない顧問先が多い事務所は、事情が違います。要約の仕組みを作っても、下書きを読む時間が残りません。先に外の手を借りるのは記帳と照合の段取りで、会計事務所AI活用ジャーナルの記帳・照合の記事が手前の作業の見直しに使えます。
担当者で論点がずれているなら、仕組みより先に所長が先月の月次報告資料を担当者ごとに並べます。そのうえで、4つの基準の使い方と確認待ちの書き方を、月次報告資料のテンプレートの1枚目に書きます。
続けるかどうかは、監査担当が1社ずつ記録する2つの数で決めます。1つは月次報告資料の作成にかかった時間(分)です。もう1つは、面談で経営者が資料の数字の意味を聞き返した質問の件数です。作成時間が減らなければ書き出しと指示文へ、聞き返しが減らなければ論点の基準とテンプレートへ戻ります。
契約して間もない顧問先は、この記録の対象から外します。その顧問先の論点は、監査担当が前月比と、経理担当から聞いた今月の出来事で選びます。
明日から始める3ステップ
担当 監査担当
次に月次締めが終わる顧問先を1社選び、当月・前月・前年同月の試算表、表計算で出した前月差と前年同月差、差額の大きい科目の当月の元帳、事業の概要をAIに渡して、変動の大きい科目と要因の候補を根拠の仕訳つきで出させる
次へ進む目安科目ごとに要因の候補と根拠の仕訳が並び、根拠が見つからない候補には「不明」と書かれた一覧ができた
担当 監査担当
一覧から4つの基準で面談の論点を選び、論点にした科目の要因を顧問先の経理担当に面談の前に問い合わせる
次へ進む目安論点に選んだ科目すべてに、確認済みか確認待ちの印と、確かめた相手の名前が書かれた
担当 監査担当・所長
選んだ論点だけで説明文の下書きをAIに作らせ、監査担当が言い切りを直したうえで、所長が論点の選び方を確かめる
次へ進む目安理由の言い切りが確認済みの要因だけに残った月次報告資料で面談を終え、資料の作成時間と経営者からの質問件数を記録した
無料相談(オンライン)
BoostXは、会計事務所の記帳・月次・申告準備へのAI導入を支援しています
01無料相談
証憑の回収・記帳・申告の準備から、最初の1業務を決める
02進め方の提案
規模に合う進め方を提案する
03作って試す
一緒に作り、現場で試して直す
04定着まで伴走
毎月1テーマずつ積み上げる
作って試す・定着までAIエージェント開発AI顧問生成AI研修
出典
- 税理士法(昭和26年法律第237号)(第2条第2項・第2条第1項第3号・第38条・第54条) e-Gov法令検索(デジタル庁) 確認日 2026.10.23
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