塾の教材作成でAIに任せる範囲、オリジナル問題は講師が解いて確かめる
単元テストや講習の類題を講師と教務が自前で作っている学習塾で、配る問題の正答に責任を持つ教室長・講師・教務担当の方へ。
定期テスト前に類題を20問そろえる夜、AIに頼めば問題と解説の形はひとまずそろいます。ただ、配った後に生徒の質問で答えの誤りが分かると、正誤表を作り、次の授業で説明し直す手間が増えます。オリジナル問題のどこまでをAIの素案にし、講師が何を確かめ、入試問題や問題集をAIに入れてよいかを決める材料をまとめました。

先に結論
塾のオリジナル問題は、講師が単元と難易度を決めた後の問題と解説の素案、類題の数値替えや形式替えまでをAIに任せられます。正答、条件の過不足、答えが一つに決まるか、生徒に合う難易度は、配る前に担当講師が解答を見ずに自分で解いて確かめ、配る問題の採用は教務責任者が決めます。
入試問題、教科書、市販の問題集の本文や図はAIに入れません。既存の問題をAIに入れて似た問題を作らせると、依拠性が認められて著作権侵害になるおそれがあり、学校の授業向けの著作権法35条の例外も営利の塾は対象外だからです。図形・グラフ・統計資料を使う問題と志望校別の予想問題も、AIの素案を使わず講師が元の資料から作ります。
AIが数値を替えた類題で、一次関数が成り立たなくなる
AIに一次関数の類題の数値を替えさせると、2点のx座標が同じになり、一次関数の式で表せない問題が混じることがあります。解答欄に式が書いてあるので見た目では分からず、講師が解いたときに初めて見つかる誤りです。
図の要点:オリジナル問題ができるまでを6つの工程で示した流れ図。教務・講師が単元・難易度・問題数・形式を依頼文に書き、AIが問題と解説の素案を出す。担当講師が解答を見ずに解いて6項目を確かめ、難易度と問題数を直す。教務責任者が採用する問題を決めて配り、使用後はAIが正答率から改訂候補を出し、改訂は教務責任者が決める。
正答を決めるのはAIではなく、解答を見ずに解き直した講師
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単元・難易度・問題数・形式を依頼文に書く
出題の狙いもここで決める
教務・講師
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問題と解説の素案を出す
類題は数値や語を替えた案
AI
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解答を見ずに解き、6項目を確かめる
合わない問題は差し替えるか捨てる
担当講師
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難易度と問題数を生徒に合わせて直す
学年で習う解き方かも見る
担当講師
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採用する問題を決めて配る
1単元から数問を抜き取って解く
教務責任者
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使用後の正答率から改訂候補を出す
改訂を決めるのは教務責任者
AI
AIの担当は素案と改訂候補の2工程です。解き直す講師と、配る前に抜き取って解く人は先に決めておきます。
仮に、定期テストの2週間前に教務の担当が中学2年数学「一次関数」の類題を20問そろえるとします。2点の座標から直線の式を求める問題で、x座標が同じ2点を通る直線はy軸に平行になり、y=ax+bの形では書けません。
学校の教職員向けに文部科学省がまとめた指針(Ver.2.0・2024年12月)は、塾を読み手に含めていません。それでも、確認テスト問題のたたき台づくりを校務の例に挙げつつ、AIの出力は参考の一つで、最後は使う人が判断し責任を負うとしています。塾でも、正答の責任は配った教室にあります。
オリジナル問題の素案、AIに書かせる範囲と講師の範囲
AIに書かせるのは、講師が単元と出題の狙いを決めた後の問題文、類題の数値替えと形式替え、解説の下書きです。正答と難易度は担当講師が解いて確かめ、どの問題を配るかの判断は教務責任者が持ちます。
| 作業 | AIの素案 | 講師が決めること |
|---|---|---|
| 単元と出題の狙い | 使わない | 講師が決めて依頼文に書く |
| 問題文 | 単元・難易度・形式から作る | 狙いに合う問題を選ぶ |
| 類題の数値替え・形式替え | 数値や語を替えた案 | 答えが一つかを解いて確かめる |
| 解説 | 途中式つきの下書き | 途中式と用語を直す |
| 難易度と問題数 | 並べ替えの案 | 生徒に合わせて決める |
| 使用後の改訂 | 正答率から改訂候補 | 教務責任者が改訂を決める |
依頼文を書く人と採用を決める人は、表を配る前に名前で決めておきます。講師ごとに依頼文の書き方が違うと、同じ単元でも難易度と形式がそろいません。
依頼文には、単元、難易度、問題数、形式、使ってよい解き方を書きます。次は説明用の仮の依頼文です。
中学2年数学「一次関数」。2点の座標から直線の式を求める問題を8問。教科書の例題より易しいもの5問、同程度のもの3問。座標は整数とし、傾きが分数になる問題を2問含める。各問に解答と、途中式を1行ずつ書いた解説を付ける。中学2年までに習わない解き方は使わない。問題文だけで答えが1つに決まるかを各問で確かめ、決まらない問題には「要確認」と書く。
AIが「要確認」を付けなかった問題も、講師が解く対象から外しません。この印は、講師が先に見る問題の順番を決める材料にとどめます。依頼文に生徒の氏名や点数は要りません。つまずきを素案に反映したいときは、「この単元で符号の誤りが多い」のように単元と誤りの形だけを書きます。
授業の進め方や教える順を決める作業は問題づくりとは別で、授業計画の欄ごとの分担に書いています。
問題と解説の正確さは、講師が自分で解いて確かめる
配る前に講師が確かめるのは、正答、条件の過不足、答えが一つに決まるか、解説の途中式、その学年で習う用語と解き方か、想定の解答時間の6項目です。どれも、AIの解答を見ずに自分で解くと分かります。
| 確かめること | 講師のやり方 | 見落とすと起きること |
|---|---|---|
| 正答 | 解答を見ずに自分で解く | 誤った答えで丸付けする |
| 条件の過不足 | 問題文だけで解けるか読む | 解けない問題が残る |
| 答えが一つに決まるか | 別の答え方が無いか試す | 正しい答えが×になる |
| 解説の途中式 | 自分の式と一行ずつ比べる | 生徒が自習で追えない |
| 学年で習う用語・解き方 | 教科書の範囲と照合する | 未習の解き方を求める |
| 想定の解答時間 | 時間を計って解く | テストの時間配分がずれる |
この6項目は紙にして講師全員に渡し、講師ごとの確かめる深さの差を小さくします。
英語の並べ替えの仮の例です。語群「I / played / tennis / yesterday」を文頭も小文字で示すと、2通りの語順が正解になります。yesterdayを文頭に置いても文が成り立つからです。講師は別の語順を試して気づき、文頭の語だけ大文字で示して答えを一つにします。
AIに同じ問題を別の会話で解かせて答えを比べるのは、見落としを探す補助までです。AIどうしの答えが一致しても正しいとは限らないので、講師の解き直しの代わりにはしません。
解き直すのは素案を受け取った担当講師で、教務責任者は配る前に1単元から数問を抜き取って解きます。配った後に誤りが見つかったときは、教務責任者が正誤表を作って次の授業で生徒に渡し、同じ日に元の問題データも直します。誤りは単元ごとに記録し、6項目のどれで見落としたかを書き添えます。
入試問題や市販の問題集をAIに入れる前の著作権
学校の授業には著作権法35条の例外がありますが、営利の塾は対象外です。また、既存の問題をAIに入れて似た問題を作らせると、依拠性が認められるおそれがあります。入試問題、教科書、市販の問題集の本文や図は、AIに入れて言い換えさせません。
著作権法35条は、学校その他の教育機関で、授業のために必要な限度で著作物を複製できる例外を定めています。ただ、条文は対象の教育機関から「営利を目的として設置されているもの」を除いています。営利を目的として設置された学習塾の教材を、学校の授業と同じ扱いで考えることはできません。
文化審議会の小委員会は、2024年3月に「AIと著作権に関する考え方について」をまとめました。既存の著作物を知ったうえで、その創作的な表現を持つものを生成AIで作らせた場合は、依拠性が認められ、著作権侵害が成立すると考えられるとしています。例に挙がるのは、既存の著作物そのものを入力する場合と、既存の著作物の題号などの固有名詞を入力する場合です。
同じ文書は、作風などのアイデアが似るだけで、既存の著作物との類似性が認められないものは侵害にならないとも述べています。ただし、この文書自体に法的な拘束力は無いと、文書の中で断りが入っています。
これを踏まえ、教室では入試問題や問題集の問題文・図・表をAIに貼り付けて「似た問題を作って」と頼むことをやめます。問題集の名前を挙げて「○○のような問題」と頼むこともしません。依頼文に書くのは、「2点の座標から式を求める」のような出題の形式や解き方を、講師が自分の言葉で書いたものまでです。
出来上がった問題が元の問題とほとんど同じ文や図になっていたら、その問題は配りません。形式を参考にしてよい範囲は素材ごとに違うため、判断がつかない素材は使わないか、権利者や弁護士などの専門家に確認を取ります。
著作権法36条は、入学試験などの試験や検定の問題として著作物を複製できる定めです。営利を目的として行う場合は、通常の使用料に相当する補償金を著作権者に支払うことになっています。授業で配るプリントや類題集をこの条文で説明しようとせず、塾の模試などで扱いが分からないときも専門家の意見を聞きます。
図や資料を使う問題は、AIの素案から外す
図形・グラフ・地図・統計資料を使う問題と、入試直前の志望校別の予想問題は、AIの素案を使わず講師が元の資料から作ります。講師が自分で解いて正答を出せない問題も、AIの素案のまま配りません。
図を使う問題では、問題文に書いた角度や長さと、描かれた図の形が合わない場合があります。統計資料の問題では、表の数字に元になった統計が無いこともあります。どちらも、講師が解き直すだけでは誤りに気づきにくい問題です。
社会の資料問題で考えます。仮にAIへ「都道府県別の農業産出額の表を使った問題」を頼むと、数字の入った表まで素案に含まれる場合があります。その数字は、どの統計の何年の値かが分かりません。講師はこの問題をAIの素案から外し、公的統計を開いて表を作り直します。
志望校別の予想問題は、学校ごとに出題の狙いが違うので、過去の出題を見てきた講師が作ります。担当外の教科で自分では解けない問題は、その教科の講師に解き直しを頼みます。
問題データの管理と改訂から外部に頼む分かれ目
外部の手が要るのは、配った問題を単元・難易度・正答率つきで蓄え、使用後の正答率から改訂候補を出す仕組みを作るところからです。採点の記録と問題データをつなぐ作業や、複数の教室で使うときの権限の設定は、教室の中では終わりません。
作業ごとの分担表、6項目の確認表、AIに入れない素材の一覧、依頼文の型は、教務責任者が教室で作れます。正答率は採点した答案から問題ごとに記録します。学習記録の欄ごとの分担と合わせて記録の形を決めておくと、改訂候補の元になる数字が残ります。
教材作成のほかの作業は教材作成の業務の全体に、入会や保護者対応は学習塾の業務ごとのAIの使い方にあります。
最初に試すのは、次の定期テストで使う1単元の類題です。教務責任者が依頼文を書き、担当講師が素案を解き直して配ります。一から作った単元と比べるのは、仕上げるまでにかかった時間と、配った後に見つかった誤りの件数です。
誤りの件数が一から作った単元より多ければ、その単元は講師が一から作る方法に戻します。答案から問題ごとの正誤を記録する担当を置いて外部の仕組みへ進むか、今のやり方にとどめるかの判断も、教務責任者が持ちます。
明日から始める3ステップ
担当 教務責任者
次の定期テストで使う1単元を選び、出題の狙い・難易度・問題数・形式・使ってよい解き方を書いた依頼文の型と、AIに入れない素材(入試問題・教科書・市販の問題集の本文と図)の一覧を作る
次へ進む目安依頼文の型1枚と入れない素材の一覧が、その単元を担当する講師全員に配られている
担当 担当講師2人
その単元の類題を、AIの素案から作る講師と一から作る講師に分けて用意し、作成にかかった分数と、解き直しで差し替えた問題の数を記録する。AIの素案から作った問題は、6項目の確認表を使って解答を見ずに解く
次へ進む目安2人分の作成時間(分)と差し替えた問題数が1枚の記録に並び、確認表の6項目すべてに確かめた印が付いた問題だけが配られている
担当 教務責任者
配った日から4週間、生徒の質問や採点で見つかった誤りを単元ごとに記録し、どの項目の確かめで見落としたかを書き添える。一から作った単元の誤り件数と比べる
次へ進む目安単元ごとの誤り件数(件)と見落とした項目の一覧ができ、一から作った単元より誤りが多かった単元は一から作る方法に戻している
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作って試す・定着までAIエージェント開発AI顧問生成AI研修
出典
- 文部科学省「初等中等教育段階における生成AIの利活用に関するガイドライン」Ver.2.0はじめに(ガイドラインの位置付け及び構成)・Box-4 教職員による校務での利活用例【授業準備】・3(1)(2)具体的な利活用場面 文部科学省 初等中等教育局 確認日 2026.10.21
- 著作権法(昭和45年法律第48号)e-Gov法令検索第35条第1項(学校その他の教育機関における複製等)・第36条第1項・第2項(試験問題としての複製等) e-Gov法令検索(デジタル庁) 確認日 2026.10.21
- 文化審議会著作権分科会法制度小委員会「AIと著作権に関する考え方について」5.(2)イ 依拠性の考え方 ①AI利用者が既存の著作物を認識していたと認められる場合・5.(1)エ(イ)アイデア等が類似するにとどまるもの・はじめに(本考え方の位置付け) 文化庁(文化審議会著作権分科会法制度小委員会) 確認日 2026.10.21
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