この記事の要点
- 派遣会社のコーディネーターが依頼を受けてから打診候補を確定するまでの業務は、登録スタッフの検索と稼働状況の突き合わせをAIに渡すと、画面を行き来して記憶をたどる段階が一つにまとまります。
- 代わりに、出てきた候補の根拠を人が確かめる段階が増えます。
- 誰に打診するか、条件をどこまで緩めるか、抵触日をどう扱うかは人に残ります。速くなったかどうかは、依頼を受けてから打診を始めるまでの時間を自社で計測して確かめます。
定義対象は、派遣会社のコーディネーターが派遣先からの依頼を受け取ってから、打診する登録スタッフを絞り、打診の連絡を出すまでの業務です。
この記事が扱う業務と読む人
対象は、派遣会社のコーディネーターが派遣先からの依頼を受け取ってから、打診する登録スタッフを絞り、打診の連絡を出すまでの業務です。読む人は、派遣会社の経営者、支店長、コーディネーターの責任者を想定します。
- 担当:派遣コーディネーター。支店の規模によっては法人営業が兼務します
- トリガー:派遣先からの依頼。電話、メール、取引先の発注システムのいずれかで届きます
- 入力:依頼メモ、採用要件シート、スタッフ登録データ(保有スキル・資格・就業履歴・勤務地・シフト希望)、稼働中の契約と終了予定日の一覧、過去の打診と成約の記録
- 成果物:打診候補リスト1本と、打診の連絡文
- 関わるシステム:派遣管理システムまたは採用管理システム、求人管理システム、稼働一覧のExcel、メール・電話・SMS・チャット、カレンダー
- 後工程:打診の返答集約、就業条件の提示、顔合わせまたは職場見学、配属の決定、労働者派遣契約書と就業条件明示書の作成
- 例外:資格の有効期限が近いスタッフ、前の就業先と相性が合わなかった組み合わせ、抵触日が近い事業所、扶養の範囲で働く希望
この業務を単独で扱うのは、発生が毎日で、入力と出力の形がはっきりしており、判断を含む段階と含まない段階が分かれているためです。求人票を整える工程は求人獲得・整理ハブ、条件交渉は法人営業ハブの業務で、ここでは扱いません。

いまの流れ(現状)
派遣管理システムとExcelの稼働一覧を併用し、検索は手で条件を入れている会社を前提に書きます。所要時間は会社ごとに違うため数字は置かず、計測すべき箇所として示します。
- 依頼を受け、条件を書き起こす
– 担当:コーディネーター
– 入力:電話のメモ、依頼メール、派遣先の発注フォーム
– 出力:依頼メモ
– 判断:その依頼を受けるかどうかの一次判断
– 所要:依頼1件ごとに発生。自社で計測する - 依頼を要件に分解する
– 担当:コーディネーター
– 入力:依頼メモ、過去に同じ派遣先へ出した契約条件
– 出力:必須条件・歓迎条件・時給レンジ・就業時間・期間の一覧
– 判断:依頼文に書かれていない前提(残業の有無、職場の雰囲気、実際に求められる経験)の補完
– 所要:依頼の書き方に左右される。自社で計測する - 登録スタッフを検索する
– 担当:コーディネーター
– 入力:派遣管理システムの検索条件、登録データ、担当者の記憶
– 出力:候補者の一次リスト
– 判断:なし(条件に当てはめるだけ)
– 所要:検索条件の入れ直しの回数に比例。ここを導入前に測る - 稼働状況と契約終了日を突き合わせる
– 担当:コーディネーター
– 入力:稼働一覧のExcel、契約終了予定日、シフト希望
– 出力:今すぐ動ける人だけに絞ったリスト
– 判断:なし(照合作業)
– 所要:一次リストの人数に比例。画面の往復が発生する段階 - 条件と相性を評価し、優先順位をつける
– 担当:コーディネーター
– 入力:絞ったリスト、就業履歴、過去の打診の反応
– 出力:打診の順番をつけた候補リスト
– 判断:あり。誰から声をかけるか、どこまで条件を緩めるか
– 所要:担当者の経験で差が出る段階 - 打診の連絡文を作り、送る
– 担当:コーディネーター
– 入力:候補リスト、就業条件、連絡手段の希望
– 出力:打診のメール・SMS・電話の記録
– 判断:伝える情報の範囲
– 所要:候補者の人数に比例。自社で計測する - 返答を集約し、派遣先へ候補を返す
– 担当:コーディネーター
– 入力:スタッフからの返答、派遣管理システムの記録
– 出力:派遣先への回答、顔合わせの日程案
– 判断:派遣先に出す人数と順番
– 所要:返答が分散するほど伸びる段階 - 決まらなければ条件を見直して二巡目に入る
– 担当:コーディネーター、法人営業
– 入力:断られた理由、派遣先の意向
– 出力:条件を見直した依頼メモ、追加の候補リスト
– 判断:時給や就業時間の見直しを派遣先に相談するかどうか
– 所要:一巡目と同じ段階を繰り返す
時間が消えるのは段階3と4です。検索条件を入れ直すたびに一次リストが変わり、その都度Excelの稼働一覧と照らし合わせる往復が起きます。同じ情報を二つの画面で見るこの構造が、依頼を受けてから最初の打診が出るまでの間を長くします。
失敗が起きるのは段階2と5です。段階2で依頼文に書かれていない前提を補えていないと、後から条件を聞き直すことになり、そのぶん打診が止まります。段階5は担当者の経験に依存するため、担当が変われば同じ依頼でも違う候補が並びます。引き継いだ担当者が外した理由を再現できないのは、判断の根拠が記録に残っていないからです。
もう一つの弱点は段階7です。返答がメール、SMS、電話に分かれて届くため、集約そのものが仕事になり、前向きな返答が他の作業に埋もれると派遣先への回答が遅れます。
AI活用後の同じ業務
構造化データの照合と社内文書の検索AIを組み合わせ、候補の抽出と根拠の提示をAIに渡す形です。段階番号は現状と同じにし、まとまる段階と増える段階を明示します。AIが出すのは候補と根拠であって、推薦の可否ではありません。
- 依頼を受け、条件を書き起こす(人+文書生成)
– AIが受け取るもの:依頼メールの本文、電話メモの音声または文字起こし
– AIが返すもの:依頼メモの下書き。書かれていない項目は空欄のまま残す
– 人が確認すること:受けるかどうかの一次判断。空欄になった項目を派遣先に聞くか、過去の契約で補うか - 依頼を要件に分解する(AI)
– AIが受け取るもの:依頼メモ、同じ派遣先の過去の労働者派遣契約書と就業条件明示書の記載
– AIが返すもの:必須条件・歓迎条件・時給レンジ・就業時間・期間に振り分けた一覧と、前回契約との差分
– 人が確認すること:差分の意味。前回と違う条件が意図的なものか、書き漏れかを見分ける - 登録スタッフを検索する(AI。段階4を吸収)
– AIが受け取るもの:段階2の要件、スタッフ登録データ、稼働中の契約と終了予定日、シフト希望
– AIが返すもの:条件に当てはまる候補と、当てはまる理由・外れている項目を並べた一覧
– 人が確認すること:この段階では見ない。確認は段階5にまとめる
– 性別・年齢・国籍を絞り込みの条件として渡さない設定を固定する - 稼働状況の突き合わせ(消える段階)
– 段階3の抽出条件に稼働と契約終了日を含めるため、Excelとの往復がなくなる
– 稼働一覧がシステムの外にある会社では消えない。先に稼働情報の置き場所を一つにする - 候補の根拠を確かめ、打診の順番を決める(人。新しく増える検証)
– AIが受け取るもの:段階3の候補一覧
– AIが返すもの:候補ごとの適合理由と、要件から外れている項目
– 人が確認すること:資格の有効期限、前の就業先との相性、通勤時間、扶養の範囲の希望の四つを登録データの原本と見比べる。そのうえで打診の順番と、条件を緩める範囲を決める
– この段階を省くと、登録データの更新漏れがそのまま打診に出る - 打診の連絡文を作り、送る(AIが下書き・人が確定)
– AIが受け取るもの:確定した候補リスト、就業条件、連絡手段の希望
– AIが返すもの:候補者ごとの打診文の下書き。就業条件の記載は要件の一覧から転記する
– 人が確認すること:伝える条件が段階2の一覧と一致しているか。送信はコーディネーターが行う - 返答を集約し、派遣先へ候補を返す(AIが分類・人が判断)
– AIが受け取るもの:メール・SMS・チャットで届いた返答の本文
– AIが返すもの:前向き・保留・辞退の分類と、次の連絡が必要な候補者の一覧
– 人が確認すること:分類が返答の内容と合っているか。派遣先に出す人数と順番 - 決まらなければ条件を見直して二巡目に入る(AIが差分を提示)
– AIが受け取るもの:断られた理由の記録、一巡目の候補一覧
– AIが返すもの:どの条件を緩めると候補が何人増えるかの対応表
– 人が確認すること:派遣先に条件見直しを相談するかどうか。相談の可否と内容は人が決める
例えば、物流倉庫の派遣先から「フォークリフト有資格者、平日週5日、9時から18時、来月から3か月」という依頼が届いたとします。AIは段階3で資格保有・勤務地・稼働終了日の条件に合う候補を並べ、「資格は保有だが稼働が来月末まで」「資格は保有だが週4日希望」といった外れている項目を添えます。コーディネーターは段階5で資格証の有効期限を原本で確かめ、週4日希望の人には派遣先に相談する前提で打診するか決めます。この依頼は説明のための仮想の例で、特定の取引の記録ではありません。
- 1依頼を受け、条件を書き起こす
- 2依頼を要件に分解する
- 3登録スタッフを検索する
- 4稼働状況と契約終了日を突き合わせる
- 5条件と相性を評価し、優先順位をつける
- 6打診の連絡文を作り、送る
- 7返答を集約し、派遣先へ候補を返す
- 8決まらなければ条件を見直して二巡目に入る
- 1依頼を受け、条件を書き起こす人
- 2依頼を要件に分解するAI
- 3登録スタッフを検索するAI
- 4稼働状況の突き合わせ消える
- 5候補の根拠を確かめ、打診の順番を決める増える
- 6打診の連絡文を作り、送る人
- 7返答を集約し、派遣先へ候補を返す人
- 8決まらなければ条件を見直して二巡目に入るAI
現状とAI活用後の比較
| 観点 | 現状 | AI活用後 |
|---|---|---|
| 担当と人数 | コーディネーター1人が検索・照合・評価・打診を通しで行う | 抽出と根拠の提示はAI。確認と判断はコーディネーター1人 |
| 入力するもの | 検索条件、登録データ、稼働一覧のExcel、担当者の記憶 | 依頼メモ、要件の一覧、登録データ、稼働と契約終了日、過去の推薦結果 |
| 手順の数 | 8段階(うち検索と照合の往復が2段階) | 段階4が段階3に吸収され、段階5が検証に置き換わる。実質7段階 |
| 所要時間の目安 | 未計測。依頼受信から初回打診までの時間を導入前にひと月分記録する | 同左。同じ支店・同じ担当者で導入後を測る。差は自社の計測で置く |
| 判断する場面 | 受注の可否、前提の補完、打診の順番、条件の緩和、派遣先への回答 | 同じ判断が残る。加えて候補の根拠が妥当かの確認が増える |
| 使うシステム | 派遣管理システム、稼働一覧のExcel、メール・SMS・電話 | 派遣管理システム、文書検索、文書生成、稼働情報を一つにした一覧 |
| 失敗したときの影響 | 条件の聞き漏れで打診が止まる。担当交代で選定の根拠が失われる | 古い登録データのまま抽出され、確認を省くと打診に出る |
| 記録に残るもの | 打診の結果と成約の有無 | 要件の一覧、候補と適合理由、外した理由、打診文、返答の分類 |
| 属人化の度合い | 検索条件と優先順位が担当者の経験に依存する | 抽出条件が共通になり、判断の理由が記録に残る |
変わらないこと(人が決める範囲)
- 誰に打診し、誰を派遣先に出すかの決定。職業安定法は業務の目的の範囲内での個人情報の収集を定めており、選定の説明責任は事業者にあります。適合度は候補を並べるための指標であって、推薦の可否そのものではありません。
- 絞り込みの条件に何を含めないかの決定。性別・年齢・国籍を条件として渡さない設計を社内で明文化します。AIは与えられた条件で並べるだけなので、条件の妥当性は人が持ちます。
- 抵触日と期間制限の扱い。労働者派遣法は事業所単位・個人単位の期間制限を定めています。期限が近い契約の抽出はAIが担えますが、受け入れ可否の判断と手続きは派遣元責任者が行います。
- 時給と就業条件の提示範囲。金額と契約条件は取引条件そのもので、派遣先との合意なしに緩められません。段階8の対応表は材料であり、決めるのは営業と責任者です。
- 外部のAIサービスへ送る項目の範囲。個人情報保護法では、病歴などの要配慮個人情報の取得に本人の同意が要ります。登録データのどの項目を送ってよいかを入力可否表で決めてから利用を認めます。
実装の型
- トリガー:派遣先からの依頼を受けた時点。電話で受けた場合はメモを所定のフォームに入れるところまでを起点と決める
- 元データ:依頼メモ、スタッフ登録データ、稼働中の契約と終了予定日、過去の打診と成約の記録。稼働情報の置き場所を一つにすることが前提
- AI処理:依頼メモを要件に分解し、条件に合う候補と適合理由・外れている項目を並べる。返答の分類もここに含める
- 検証:資格の有効期限、前の就業先との相性、通勤時間、扶養の範囲の希望の四つを原本と見比べる。確認画面でこの四項目を目立たせる
- 例外の扱い:登録データが古い、稼働一覧が未更新、AIが応答しないときは、従来の検索に戻す。戻し方を1枚の手順にする
- 人の承認:打診する候補と順番をコーディネーターが確定し、打診文を送る。責任者は週に一度、外した候補とその理由を数件見る
- 記録先:派遣管理システムに、要件の一覧、候補と適合理由、外した理由、返答の分類を残す。結果だけでは根拠を追えない
- 効果測定:依頼受信から初回打診までの時間、依頼1件あたりの打診人数、打診から返答までの時間、派遣先への回答までの日数を導入前後で記録する。支店長が月次で見る
前提条件・費用の考え方・リスク
データが揃っていない場合に先にやることは、登録データの項目統一と稼働情報の一本化です。資格やスキルが自由記述だと抽出条件が作れず、稼働一覧がExcelに残る限り段階4は消えません。この二つを直すだけで往復が減ることもあり、その場合はAIを入れる前に効果が出ます。
費用は次の項目に分けて考えます。金額は会社の規模と既存システムによるため、ここでは置きません。
- ライセンス:文書生成と文書検索の利用料
- 設計:要件の項目定義、抽出条件、確認画面の四項目、渡さない条件の指定
- 連携:派遣管理システムからのデータ取得と、結果の書き戻し。最初は手作業のコピーで始めてよい
- 検証:導入前後の計測と、外した理由の見直し
- 運用:登録データの更新ルール、担当交代時の引き継ぎ
リスクは三つです。誤出力は、古い登録データや読み違えた要件がそのまま候補に出ることで、対策は段階5の確認です。情報漏えいは登録データの項目が外部へ送られることで、対策は入力可否表と学習利用の有無の確認です。依存は適合度の高い順に機械的に打診することで、対策は判定に使わないと明文化し外した理由を記録することです。
AIを入れない方がよい会社もあります。登録データが担当者のExcelに分散し、稼働状況を電話で確かめ、依頼の記録がメールの受信箱にしか残っていない会社です。この状態では抽出の材料が揃わず、確認の段階が増えるだけになります。先に登録と稼働の記録を一つにします。
総務省「令和7年版 情報通信白書」では、日本の中小企業は生成AIの活用方針について「方針を明確に定めていない」との回答が多く、約半数を占めると整理されています(企業におけるAI利用の現状・確認 2026-09-22)。この調査は業種を限らない全体の傾向で、派遣会社の実態を示したものではありません。ただしマッチングのAI化は、候補提示に留めるか判定にも使うかで運用が大きく変わるため、方針を先に決めておく必要があります。本メディアでは、この線引きを決めないまま抽出だけを入れると、現場が適合度の順番に引きずられると判断します。
最初の90日
- 30日:現状の計測と土台づくり。支店1つ、コーディネーター1人を選び、依頼受信から初回打診までの時間と聞き直しの発生をひと月分記録する。並行して登録データの項目定義と稼働情報の置き場所を決める。成果物は計測表と項目定義。見る指標は計測の抜け日数
- 60日:試行。同じ支店で要件の分解と候補の抽出を始める。確認の四項目、例外時の戻し方、記録先を運用に乗せる。外した候補とその理由を毎日残す。成果物は候補一覧と確認記録。見る指標は確認で修正が入った項目と、従来の検索に戻した日数
- 90日:比較と展開の判断。導入前後の計測表を並べ、支店長が続けるか、支店を増やすか、抽出条件を直すかを決める。段階7の返答分類と段階8の対応表を追加で試す。成果物は比較表と判断メモ。見る指標は初回打診までの時間の差と回答までの日数
出典
- 労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律(昭和60年法律第88号)e-Gov法令検索 e-Gov法令検索 確認日 2026.09.22
- 職業安定法(昭和22年法律第141号)e-Gov法令検索 e-Gov法令検索 確認日 2026.09.22
- 個人情報の保護に関する法律(平成15年法律第57号)e-Gov法令検索 e-Gov法令検索 確認日 2026.09.22
- 総務省「令和7年版 情報通信白書」企業におけるAI利用の現状 総務省 確認日 2026.09.22


