商社の見積はAIで粗利つき下書きまで|止める5条件と値引の分担
見積の下調べを営業事務が、値引の判断を営業担当が受け持つ商社・卸売で、AIに下書きを作らせる範囲を決めたい営業部長と営業事務の責任者向けの記事です。
「SUSエルボ25Aを20ケース、来週水曜着で。前回と同じ値でお願いします」。こうした引き合いメールが届くと、営業事務は品番を調べ、得意先別価格表と在庫を確かめるうちに、見積の返事が翌日に回ることがあります。この下調べを生成AIに渡すときに、単価と値引の欄まで任せてよいのか、粗利を割る値引を誰が止めるのかを、工程ごとの分担から決めていきます。

先に結論
見積の作成でAIに任せるのは、引き合い文から品番・数量・希望納期を抜き出して商品マスターと照合し、得意先別価格表と在庫を参照した下書きに行ごとの粗利率を表示するところまでです。見積書に載せる単価・値引・納期の約束は営業担当が決め、粗利の下限を割る値引と、新規得意先や大口の値付けは営業責任者が承認します。
品番が商品マスターに無い行、候補が2つ以上ある行、単位が合わない行、在庫と入荷予定の更新が古い行、「前回と同じ値」の前回が価格改定より前の行には、AIの下書きを出さずに人へ戻します。メールで送った見積書は電子取引として保存し、値引の理由と承認者も同じ控えに残します。
見積の下書きはAIでも、値引は自社で決める理由
見積書に載る数字のうち、AIが作ってよいのは、得意先別価格表から写した単価と、そこから計算した粗利率までです。値引を入れた最終の単価は、その得意先との取引に責任を持つ営業担当が書きます。
理由の一つは、AIの抜き出しに品番の読み違いが入りうることです。読み違えた品番に得意先別価格を当てはめると、単価も粗利率も計算としては合っているため、見積書は正しく見えます。値引までAIが入れてしまうと、見積書を見て誤りに気づける人がいなくなります。
もう一つの理由は、値引を決める材料の多くが、価格表にも受注データにも載っていないことです。その得意先の今期の取引量、相手が比べている他社の提示、今回の案件が次の大口につながるかを知っているのは営業担当です。AIが出した単価をそのまま送ると、その値に決めた人が社内のどこにもいない見積書が得意先に届きます。
総務省の令和8年版情報通信白書では、何らかの業務で生成AIを使っていると答えた日本の企業は86.4%でした(「わからない」を除いた割合)。業務の種類では、営業・販売での活用が約6割です。見積にAIを使うなら、AIの出した単価を誰が見て確定するかを先に決めます。
引き合い文の品番・数量・納期をAIが抜き出す
引き合いの受付から見積書の送付までは、抜き出し・照合・粗利の計算をAIが受け持ち、原文との照合を営業事務、単価と納期を営業担当が決める流れに分けられます。
図の要点:引き合いメールの受付から見積書の送付までを、営業事務・AI・営業担当・営業責任者の4つの担当に分けた図。抜き出し・品番の照合・得意先別価格と在庫の参照・粗利率の計算はAI、原文との照合と送付・控えの保存は営業事務、値引と納期の決定は営業担当、下限割れ・新規得意先・大口の承認は営業責任者が受け持ち、品番が決まらない行や更新の古い行は営業事務へ戻す。
単価と値引の欄はAIが埋めず、営業担当が書いてから送る
営業事務
AI
営業担当
営業責任者
- 営業事務
引き合いメールを受け、得意先コードを確かめる
- AI
品名・数量・単位・希望納期・「前回と同じ値」の指定を抜き出す
書かれていない値は「未確認」とする
- AI
商品マスターと得意先品番の対応表で品番を照合する
戻す一致しない・候補が複数なら営業事務へ
- 営業事務
抜き出した行を引き合いの原文と1行ずつ照合する
単位と入数は全行を見る
- AI
得意先別価格表の単価・在庫・入荷予定を参照し、粗利率を出す
戻すデータの更新が古ければ営業事務へ
- AI
その得意先の前回見積の日付と単価を控えから出す
戻す価格改定より前なら営業担当へ
- 営業担当
値引の有無と納期を決め、単価の欄を書く
戻す下限を割るなら営業責任者へ
- 営業責任者
下限割れ・新規得意先・大口の値付けを承認する
- 営業事務
見積書を送り、控えと値引の理由を保存する
図の各行は、確かめる担当を通ってから次の行へ進みます。止まりやすいのは品番の照合と単位の換算で、ここで営業事務が確かめないまま単価の欄へ進むと、誤った品番の見積がそのまま営業担当に届きます。
【説明用の仮の業務例】午前中に、設備工事会社の得意先から「SUSエルボ25Aを20ケース、来週水曜着で。前回と同じ値でお願いします」というメールが届いたとします。商品マスターで「SUSエルボ 25A」を探すと、材質の違う2つの品番が出ます。
価格表の単価は1個あたりで、引き合いはケース単位です。前回の見積は、仕入先の価格改定より前の日付でした。この1通では、品番と単位の両方で営業事務の確認が要ります。
| 工程 | AIが出すもの | 人が決めること |
|---|---|---|
| 引き合いの抜き出し | 品名・数量・単位・希望納期の一覧 | 原文と合っているか(営業事務) |
| 品番の照合 | 一致した品番と、一致しない行の印 | 候補が複数の行の品番(営業事務が得意先に確認) |
| 価格と在庫の参照 | 単価・在庫数・入荷予定と各データの更新日 | 約束できる納期(営業担当) |
| 粗利の表示 | 行ごとの粗利率と、下限を割る行の一覧 | 値引と最終の単価(営業担当)、下限割れの承認(営業責任者) |
| 送付と控え | 見積書の下書き | 送るかどうか(営業担当)、控えの保存(営業事務) |
AIに渡すのは、引き合いメールの本文と、商品マスターから出力した品番・品名・入数・単位です。あわせて、その得意先の価格表、更新日時つきの在庫と入荷予定、前回見積の控えを渡します。指示には3つを入れます。引き合いに書かれていない値は「未確認」とすること、候補が2つ以上なら全部並べて1つに絞らないこと、単価は価格表の値を写して値引を入れないことです。
AIの下書きは、営業事務が見積書テンプレートか販売管理システムの見積入力画面に移す前に、引き合いの原文と行ごとに照合します。同じ得意先で原文と違う行が続くなら、その得意先の引き合いはAIに渡すのをやめ、営業事務が手で作る形に戻します。得意先品番の対応表がまだ無い会社は、先に得意先品番の対応表を引き継げる形にする方法で整えます。照合で止まる行が減ります。
引き合いメールの署名欄には、得意先の担当者の氏名や連絡先が入ります。外部のAIサービスに渡す前に、情報システム担当が契約と規約で扱いを確かめます。提供元が入力を取り扱わない契約か、個人情報保護法第25条の委託先の監督が要る形か、第27条により本人の同意を先に得る第三者提供か、の3つです。
粗利の下限を割る値引は、営業責任者の承認に回す
営業担当が自分で決めてよいのは、粗利の下限を割らない範囲の値引と、在庫と入荷予定で裏付けられる納期です。下限を割る値引、初めて取引する得意先への値付け、大口の値付けの3つは、営業責任者の承認を通してから見積書を送ります。
粗利の下限は、商品群ごとに営業責任者が決める値で、会社ごとに違います。AIの粗利の表示は、その下限と比べて割る行に印を付けるだけで、値引の可否は判断しません。大口の境目も、金額か数量で営業責任者が決めておかないと、営業担当ごとに承認に回す案件がばらつきます。
仮の業務例の「前回と同じ値で」は、承認に回る典型です。前回の単価が価格改定より前のものなら、同じ値で出すと粗利が下限を割ることがあります。改定後の単価で出し直すか、前回の値を守るかは営業担当が決め、守る場合は営業責任者が承認します。得意先別価格表そのものを直す作業は、仕入価格の改定を価格表へ反映する記事が対象です。
納期の約束では、入荷予定の更新日が古い品番の扱いが分かれ目です。納期回答を止める基準は、在庫・納期の照会に答える型を選ぶ記事を見てください。
続けるかどうかは、引き合いを受信してから見積書を送るまでの時間と、下限を割ったまま送った見積の件数で見ます。営業事務が週ごとに数え、4週の間に下限割れのまま送った見積が出なければ、AIの下書きを使う得意先を増やします。1件でも出た週は、営業責任者がその見積の承認がどの工程で抜けたかを確かめ、抜けた工程を直すまで得意先を増やしません。
品番が決まらない引き合いには、下書きを出さない
次の5つのどれかに当たる行は、AIの下書きを出さずに、表の「戻す先」の担当へ渡し、「戻した後にすること」を済ませてから計算し直します。
| 下書きを出さない条件 | 戻す先 | 戻した後にすること |
|---|---|---|
| 品番が商品マスターに無い | 営業事務 | 得意先に品番か仕様を問い合わせる |
| 候補の品番が2つ以上ある | 営業事務 | 材質やサイズを得意先に確かめ、対応表に足す |
| 引き合いと価格表で単位が違う | 営業事務 | 入数を商品マスターで確かめ、単位をそろえて計算し直す |
| 在庫・入荷予定の更新が古い | 営業事務(仕入担当に確認) | 仕入先から納期の回答を取り直す |
| 前回見積が価格改定より前 | 営業担当 | 改定後の単価で出すかを決め、下限割れなら営業責任者へ |
候補が2つ以上ある行でAIに1つを選ばせないのは、選んだ根拠が見積書に残らないからです。材質が違えば単価も粗利率も変わり、得意先が欲しかった品番と違えば、受注後に出荷し直すことになります。どちらの品番かを得意先に確かめたら、その組み合わせを得意先品番の対応表に足し、次の引き合いでは照合で止まらないようにします。
更新が古いとみなす日数は、品番群ごとに仕入担当が決めます。1通の引き合いのうち一部の行だけが止まった場合、残りの行の下書きは作って構いません。ただし見積書は、止まった行が埋まるまで送りません。一部の行だけの見積を先に送ると、得意先は残りの行も同じ条件で出ると受け取ることがあるためです。
見積・受注のほかの作業は、見積・受注の業務をまとめたページから選べます。
メールで送った見積書は、電子取引として控えを残す
見積書をメールやPDFで送るのは、電子帳簿保存法が定める電子取引に当たり、送った見積書のデータを保存する必要があります。同法第2条第5号は、取引情報の例として注文書や契約書と並べて見積書を挙げています。この取引情報をメールなどの電磁的方式でやり取りすれば、電子取引です。
第7条は、法人税と所得税の保存義務者に、電子取引の取引情報の電磁的記録の保存を求めています。保存の方法と検索の要件は財務省令で定められているため、自社の保存の仕方が要件を満たすかは、経理と顧問税理士が確かめます。AIの下書きを使っても、保存するのは得意先に送った版です。
値引の理由と承認者を同じ控えに付けるのは、法律の要件ではありません。次の見積のためです。次に「前回と同じ値で」と言われたとき、前回の値引が何を理由に誰の承認で決まったかが控えから分かれば、営業担当はその値を守るかどうかをすぐ判断できます。AIの下書きと送った版を並べて残すと、人がどの行を直したかも後から確かめられます。
値引の判断材料に、同業他社と示し合わせた価格を入れてはいけません。同業と共同で対価を決めることは、独占禁止法第2条第6項の不当な取引制限に当たるおそれがあります。送る直前の照合項目は、見積と価格改定の案内を送る前の確認の記事にあります。
基幹の得意先別価格を見積に取り込む仕組みは誰が作るか
引き合いがEDIかWeb受注の決まった形で届き、品番もそのまま書かれている得意先は、販売管理の見積機能と得意先別単価の設定で足ります。生成AIを使う工程はほとんどありません。
自由な文面のメールやFAXで届き、得意先と品番の数が多くない会社は、生成AIで抜き出しと下書きを作れます。得意先別価格表と在庫は基幹システムから出力して渡すので、出力の手間は残りますが、営業事務の手元だけで始められます。
引き合いがメール・FAX・電話メモに分かれて届き、得意先別価格と在庫を見積のたびに基幹システムから取り出しているなら、基幹とつなぐ開発を外部の見積と比べます。外部に頼む場合は、単価の欄に値引を自動で入れないこと、下限を割る行は承認の記録が無いと見積書を出力しないことを要件に入れます。ほかの業務の記事は、商社・卸売の業務別の入口から探せます。
社内でも外部でも決めにくいのは、得意先別価格表に載っていない案件ごとの特価を、どこに持つかです。特価が営業担当のメールの中にしか無いと、AIは価格表の単価で下書きを作り、営業担当は同じ値引を毎回書き直すことになります。特価を得意先別価格表に登録するのか、案件ごとの見積の控えに留めるのかを営業責任者が決めて初めて、基幹とつなぐ範囲が決まります。
明日から始める3ステップ
担当 営業事務
直近2週間に届いた引き合いメールから10通を選び、品名・数量・単位・希望納期を書き出して、商品マスターで品番が1つに決まる行と決まらない行に分ける
次へ進む目安10通の全行が「品番が1つに決まる」「候補が複数」「マスターに無い」「単位が違う」の4つに分かれ、それぞれの行数が1枚の表になった
担当 営業責任者
商品群ごとの粗利の下限、営業担当が自分で決めてよい値引の範囲、大口とみなす金額か数量を決め、見積書テンプレートに値引の理由と承認者の欄を足す
次へ進む目安商品群ごとの下限と大口の境目が1枚の表に書かれ、見積書テンプレートの承認者の欄に書く人の名前が入った
担当 営業事務(記録の確認は営業責任者)
品番が1つに決まる行の多い得意先を1社選び、AIの下書きで見積を作って、引き合いの受信から見積書の送付までの時間と、下限を割ったまま送った見積の件数を記録する
次へ進む目安4週分の返答時間と、下限を割ったまま送った見積の件数が、見積の控えと同じフォルダに記録された
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出典
- 電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律(平成10年法律第25号)(第2条第5号・第7条) e-Gov法令検索(デジタル庁) 確認日 2026.10.21
- 私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(昭和22年法律第54号)(第2条第6項) e-Gov法令検索(デジタル庁) 確認日 2026.10.19
- 総務省「令和8年版 情報通信白書」第Ⅰ部第2章第1節 生成AIの業務利用状況(図表Ⅰ-2-1-6・Ⅰ-2-1-7)第Ⅰ部第2章第1節(3) 総務省 確認日 2026.10.21
- 個人情報の保護に関する法律(平成15年法律第57号)(第25条・第27条第1項) e-Gov法令検索(デジタル庁) 確認日 2026.10.21
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