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問い合わせ・クレーム

商社の在庫・納期照会への一次回答はAIで何が変わるか

照会文からの品番の特定、在庫と入荷予定の引き当て、回答文の下書きはAIに渡せます。

編集 BoostX編集部2026.07.317分で読めます

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この記事の要点

  • 照会文からの品番の特定、在庫と入荷予定の引き当て、回答文の下書きはAIに渡せます。
  • 納期の約束と代替提案の可否は営業事務と営業が押します。
  • 本メディアでは、確定でない納期を自動で返すことは勧めません。

「あの品番、在庫ありますか。明後日までに入りますか」。電話は伝票を打っている最中に鳴り、営業事務は手を止めて基幹システムとカタログを行き来します。1日に何度も繰り返されるこの往復が、受注入力の遅れを作ります。

遅れの正体は、一本の電話の中に品番を当てる・在庫を引く・入荷を確かめる・約束するという別々の仕事が詰まっていることです。AIを入れる前に、照会対応を工程へ割ります。割らずに「問い合わせをAIで自動化する」と決めると、確かめていない納期が得意先へ渡ります。

在庫・納期の照会は一日のどこに割り込むか?

対象は、卸売会社と専門商社の営業事務が受ける在庫と納期の照会への一次回答です。照会を受け、品番を特定し、在庫と入荷予定を引き、納期を伝えるところまでを扱います。見積の作成と受注登録は後工程、クレームの原因調査は別工程なので、この記事では触れません。

棚卸しの単位で書くと、こうなります。起点は得意先からの電話、メール、FAXで、時間帯を会社が選べません。担当は営業事務、納期の約束と代替の提案は営業が持ちます。入力は照会の内容、商品マスター、在庫、受注残、入荷予定、配送リードタイムです。出力は回答文1通と照会の記録です。使うのは基幹システム、商品マスターとカタログ、納期管理表、電話とメールです。

例外は先に決めます。特売や指定在庫のある得意先、長納期品、受注生産品、仕入先の在庫を当てにする取り寄せ品、出荷停止中の得意先です。件数は商材と得意先数で変わるため、この記事では数値を置かず、測る単位だけを示します。

照会の入口は電話だけではなくなりました。経済産業省「令和6年度電子商取引に関する市場調査」では、2024年のBtoB-EC化率は43.1%で前年比3.1ポイント増です。企業間取引全体の値で卸売業だけの数字ではありませんが、電子で届く照会が増えるほど、文面から品番を拾う作業がそのまま量になります。

AIを入れる前に、照会対応を工程へ割ります

受電から記録まで、照会対応を8工程に割る

一次回答は「電話に出る仕事」ではありません。時系列に並べると、担当も帳票も違う8つの工程が出てきます。まず担当・帳票・量・詰まる点を見ます。

工程 担当 使う帳票・システム 量・時間(測る単位) 詰まる点
1 照会を受ける 営業事務 電話、メール、FAX 1日あたりの照会件数 電話は記録が残らない
2 品番を特定する 営業事務 商品マスター、カタログ 1件あたりの確認回数 得意先の呼び名が社内と違う
3 在庫と受注残を引く 営業事務 基幹システムの在庫・受注残 引くまでの時間 引当済みが空きに見える
4 入荷予定を当てる 営業事務・仕入担当 納期管理表、仕入先の納期回答 管理表の更新の遅れ日数 回答が管理表に入っていない
5 配送日数を足す 営業事務 配送業者の条件、得意先の納品条件 便ごとの日数 地域と便で条件が変わる
6 回答文を作って返す 営業事務 メール、回答の型 1件あたりの作成時間 書き方が担当ごとに違う
7 欠品なら代替を提案する 営業 代替品の対応表、商品マスター 代替提案までの時間 対応表が整っていない
8 照会と回答を記録する 営業事務 照会記録、案件管理表 記録された照会の割合 後回しで記録が抜ける

同じ8工程を、AIと人の受け持ちで見直したのが次の表です。空欄はありません。AIを入れない工程には、その旨を書いています。

工程 AIが解決すること 人が決めること 失敗したときの損失
1 メールとFAXの照会を一つの一覧に集めて並べる 電話を一覧に起こすかどうか 照会が担当の手元に埋もれる
2 照会文と得意先の呼び名から該当の品番候補を示す 品番の確定 似た品番で在庫を回答する
3 在庫・受注残・引当済みを分けて並べる 出せる数量の確定 引当済みを空きとして答える
4 納期管理表の更新日時を示し、古ければ回答を止める 仕入先へ当てるかどうか 入荷より早い納期を約束する
5 得意先の納品条件から到着日の候補を出す 便と着日の確定 着日がずれて現場が止まる
6 在庫と入荷予定を引いた回答文を下書きする 送信の可否と表現 確定でない納期が文面に残る
7 仕様の近い代替候補と過去の採用実績を並べる 代替提案の可否 規格違いの代替を出す
8 照会内容・回答・確認者を照会記録へ書き込む 記録の範囲と保存期間 同じ照会に毎回一から当たる

図の見方は、色枠がAIの担う工程、灰色が営業事務や営業が確定する工程、二重枠がその両方です。右上の小さな三角は、失敗が起きやすい工程を指しています。

業務フロー分解図。照会を受ける→品番を特定する→在庫と引当を引く→入荷予定を当てる→配送日数を足す→回答文を作る→欠品時の代替提案→照会と回答の記録。AI担当は照会を受ける・品番を特定する・在庫と引当を引く・入荷予定を当てる・配送日数を足す・回答文を作る・照会と回答の記録、人が確定するのは入荷予定を当てる・欠品時の代替提案照会を受ける品番を特定する在庫と引当を引く入荷予定を当てる配送日数を足す回答文を作る欠品時の代替提案照会と回答の記録AIが担う人が確定する両方失敗が起きやすい工程
在庫・納期照会の8工程で、AIが引く所と営業が約束する所が分かれます。

AIで消える工程は8です。回答の後に記録を起こす手間がなくなり、照会の記録が後追いでなくなります。
短くなる工程は2・3・5・6です。品番候補・在庫・着日・回答文が先に並んだ状態から確認が始まります。
新しく増える確認工程は4です。納期管理表の更新日時を見て、古ければ回答を止める判断が毎回入ります。

引くのはAI、納期の約束は営業が押す

工程に割ると、渡してよい仕事の性質が見えます。拾う・引く・並べる・下書きするは作業なのでAIへ、確定する・約束するは判断なので人に残ります。

AIと人の境界図。AIが担うのは照会文からの品番抽出・在庫と受注残の引き当て・入荷予定との突き合わせ・回答文の下書き・照会記録の作成。人が確定するのは納期の約束・代替提案の可否・特別扱いの判断・回答の送信。止めどころは納期の約束は営業が押す。AI担当は照会文からの品番抽出・在庫と受注残の引き当て・入荷予定との突き合わせ・回答文の下書き・照会記録の作成、人が確定するのは納期の約束・代替提案の可否・特別扱いの判断・回答の送信AIが担う(写す・比べる・下書き)人が確定する照会文からの品番抽出在庫と受注残の引き当て入荷予定との突き合わせ回答文の下書き照会記録の作成納期の約束代替提案の可否特別扱いの判断回答の送信確定止めどころ納期の約束は営業が押す
照会対応でAIが引く範囲と、営業事務と営業が確定する範囲が分かります。

境目で効くのは工程4です。仕入先からの納期回答がメールやFAXのまま担当の手元に留まり、納期管理表に入っていないことがあります。この状態でAIに回答文を書かせると、古い入荷予定が根拠になります。AIができるのは、参照したデータの更新日時を示し、古ければ回答を止めるところまでです。仕入先へ当て直すかどうかは仕入担当が決めます。

工程7も同じ構造です。仕様が近いだけの代替品は、規格や認証が違えば使えません。AIは候補と過去の採用実績を並べるところまでとし、提案してよいかどうかは営業が判断します。欠品の連絡を急ぐあまり代替を機械的に出すと、次の納品で戻ってきます。

着手するのは品番の特定と在庫の引き当てです

着手する1工程は、3つの問いで選びます。判断か作業か、データが電子で揃っているか、失敗したときの損失がどれくらいか。この3つで工程2と3が残ります。

工程2と3は作業です。商品マスターと在庫は基幹システムに電子で入っており、誤っても回答の前に営業事務が気づけます。得意先の呼び名が自社の品番と一対一で結び付いていないなら、呼び名の対応表を先に作ります。反対に工程4は、古いデータのまま答えると得意先の生産や工事の段取りに響くため、人の確認を残したまま範囲を広げます。工程7はそもそも候補提示までにとどめます。

商工中金「中小企業の生成AIの利用にかかる調査(2026年1月調査)」は、導入後の課題として「活用場面が不明」35.6%、「推進する人材がいない」32.0%を示しています。照会対応は件数が多く回答の型も決まっているため、着手先としては数えやすい業務です。工程を指定して始めれば、使いどころを探す時間が要りません。

2週間で追うのは回答時間・変更件数・記録率

試行は5つの段で足ります。長い手順書は要りません。

  1. 得意先を数社に絞り、導入前のひと月分を測ります。初回回答までの時間、回答後に納期や数量を変更した件数、照会が記録に残った割合の3つです。
  2. メールとFAXの照会を共有の受け皿へ一本化します。担当個人の受信箱に直接届く経路を閉じないと、初回回答までの時間が測れません。
  3. 回答の型と、使ってよい表現・避ける表現を一覧にします。既存の返信からよく使う言い回しを抜けば一日で揃います。
  4. 工程2・3・5・6をAIに下書きさせ、営業事務が品番・出せる数量・参照した入荷予定の更新日時の3点を確かめてから返します。
  5. 2週間後に同じ3つの数字を並べ、営業責任者が続けるか止めるかを決めます。合否の線は開始前に引きます。

3つの数字は、時間・誤り・発見時期に対応します。回答時間が時間、回答後の変更件数が誤り、記録率が後から追えるかどうかです。電話で受けた照会を別に数えると、どの経路で効いたのかが読めます。

本番にするとき、承認と記録と例外を決める

承認は、工程6で営業事務が送信を押す形から動かしません。自動返信へ広げるのは、回答後の変更がひと月ゼロで続いてからです。広げる範囲は、在庫が潤沢な定番品や特定の得意先に区切ります。

記録は、照会の原文、特定した品番、参照した在庫と入荷予定の更新日時、下書き、確定した回答、確認者の6つを残します。回答だけを残すと、変更が出たときにどこで狂ったのかを追えません。

例外は先に文字にします。クレーム、出荷停止中の得意先、受注生産品、仕入先の在庫を当てにする取り寄せ品、長納期品は下書きを止め、営業へ回します。該当する語句と条件を一覧にしておかないと、判断の要る照会が型に流れます。電話で受けた照会が全体の半分を超えるなら、記録の起こし方を決めるところから始めます。

古い入荷予定のまま返した会社で起きること

起きやすい失敗は、AIが出した納期が実際の入荷より早く、得意先への再連絡と謝罪が続くことです。原因は、仕入先の納期回答が納期管理表に反映されないまま参照されたことです。防ぎ方は、納期回答の取り込みと管理表の更新を先に自動化し、更新日時が古いデータでは回答を出さない条件を入れることです。

もう一つは、似た品番に在庫があるために、照会された品番と違う商品の数量を答えてしまうことです。得意先の呼び名と自社の品番が一対一でないときに起きます。品番の確定を人が押す形に戻せば止まります。

本メディアでは、更新の古い納期管理表を参照させることは勧めません。誤った納期は得意先の段取りに直結し、謝罪と再手配の手間が回答を早めた利益を上回るためです。前提は、仕入先の納期回答が電子で届いていることです。すべて電話で受けている会社なら、先に回答を受け取る経路を変えるところから始めます。

本メディアでは、問い合わせ対応は商品マスターの整備と並行して着手する価値があると判断します。理由は、件数が多く回答の型が決まっており、詰まりが商品マスターの欠損として見えるためです。前提は、在庫と入荷予定が日次で更新されていることです。更新が週に一度なら、回答の速さより更新の頻度を上げる方が先です。

照会対応にAIを入れない方がよい条件

照会が担当個人の携帯とメールに直接届いたままなら、AIより先に受け皿の一本化です。在庫の引当が基幹システムで管理されておらず、担当が棚を見て答えているなら、記録の仕組みが先になります。代替品の対応表が無いまま代替の提案を任せると、規格違いを出す危険が残ります。

総務省「令和8年版 情報通信白書」では、何らかの業務で生成AIを利用していると回答した割合は日本で86.4%です。使っている会社が珍しくないからこそ、参照するデータが新しいかどうかで回答の質が分かれます。

出典

  1. 総務省「令和8年版 情報通信白書」生成AIの業務利用状況 総務省 確認日 2026.09.22
  2. 経済産業省「令和6年度電子商取引に関する市場調査」 経済産業省 確認日 2026.09.22
  3. 商工中金「中小企業の生成AIの利用にかかる調査(2026年1月調査)」 商工中金 確認日 2026.09.22

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