商社の価格改定、AIに任せるのは売価案まで|適用日と例外を決める人
この記事は、仕入先の値上げ通知を受けて得意先別の売価を決め直す状況にある、商社・卸売の営業責任者・商品担当・経営者向けです。
仕入先の値上げの適用日を過ぎても、得意先別価格表の一部が旧単価のまま残り、その単価で出荷と請求が続くことがあります。改定通知の品番の突き合わせと、得意先ごとの影響額の計算が追いつかないためです。改定通知から価格表の更新までを作業に分け、生成AIに下書きさせてよい範囲と、営業責任者と経営者が決めて記録に残す範囲を示します。

先に結論
仕入価格の改定でAIに任せられるのは、改定通知から対象品番と新しい仕入単価を抜き出し、粗利目標に沿った売価案と得意先別の影響額を下書きするところまでです。改定幅・適用日・得意先ごとの例外は営業責任者が決め、経営者の承認を日付つきで記録します。
通知の品番が価格マスターと一致しない行がある場合や、得意先別価格表が営業担当ごとのExcelに分かれている会社では、売価案が実態と合いません。案を出させる前に、照合と価格表の一本化を済ませます。同業他社の価格や値上げの予定は、AIに渡す材料に入れません。
売価の案はAIでも、改定幅は自社で決める
仕入単価と粗利目標から売価を計算する作業は、誰が計算しても同じ値になります。一方で、いくら上げるか、いつから上げるか、どの得意先を例外にするかという判断の責任は、AIに移せません。
理由の一つは、販売価格を決めるのが事業者自身だからです。独占禁止法は他の事業者と共同して対価を決めることを禁じています(詳しくは後の節)。売価を決めた記録に「誰が、何を根拠に決めたか」が残っていれば、後から問われても自社で決めた経緯を示せます。AIの案をそのまま得意先別価格表に登録すると、その記録が残りません。
もう一つの理由は、改定幅を決める材料の多くが、価格マスターにも受注データにも載っていないことです。得意先と交わした値上げの申し入れの経緯、年間契約の改定条項、競合品への切り替えの動きは、営業責任者の手元にしかありません。AIの売価案は計算の下書きとして使い、こうした事情を知る人が最後に決めます。
改定通知から得意先別の影響額までをAIが下書きする
改定通知が届いてから得意先別価格表を更新するまでのうち、AIに下書きさせるのは、通知の抜き出し、照合の候補、売価案と影響額、受注残の一覧の4つです。説明用の仮の業務例として、仕入先1社からExcelの改定通知が届き、約120品番の仕入単価が翌月1日の納品分から上がる場面で流れを示します。
図の要点:改定通知の受け取りから価格マスターへの登録までの8つの作業を並べた流れ図。抜き出し・照合の印付け・売価案と影響額の計算・受注残の一覧はAI、通知の原本との全行の照合は商品担当、改定幅・適用日・例外の決定は営業責任者、承認は経営者が受け持ち、品番が分からない行は仕入先へ、改定条件のある得意先は契約書の確認へ戻す。
品番が一致しない行と粗利目標を割る行は、売価を決める前に人へ戻す
-
改定通知を受け取り、仕入先・適用日・対象範囲を控える
PDFかExcelかも控える
商品担当
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品番・旧単価・新単価・適用日を1行1品番で抜き出す
通知に無い値は「未確認」と書かせる
AI
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仕入先品番で価格マスターと照合し、一致しない行に印を付ける
照合した品番を行ごとに示す
AI
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全行の品番・新単価・適用日を通知の原本で確かめる(印の付いた行から)
戻す: 品番が分からない行は仕入先に聞く
商品担当
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粗利目標から売価案を出し、得意先ごとの影響額を計算する
粗利目標を割る行を先頭に並べる
AI
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適用日より前に受けた受注残を一覧にする
出荷予定日と受注時の単価を並べる
AI
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改定幅・適用日・得意先ごとの例外を決める
戻す: 改定条件のある得意先は契約書を確かめる
営業責任者
-
承認し、価格マスターと得意先別価格表に登録する
承認者と承認日を残す
経営者・商品担当
この流れで商品担当の手が止まりやすいのは、照合で印が付いた行です。仕入先が品番の体系を変えた直後の通知では、旧品番と新品番が混じり、一致しない行がまとまって出ます。その場合は一覧を仕入先に送って対応を聞き、商品担当が推測で品番を選ばないようにします。
AIに渡す入力は、改定通知のファイル、価格マスターから出力した同じ仕入先の品番と仕入単価、得意先別価格表の該当する行、商品群ごとの粗利目標の4つです。指示には、通知に無い値を補わずに「未確認」と書くことと、売価案の計算式を行ごとに示すことを入れます。
得意先別価格表を外部のAIサービスに渡す前に、会社が業務での利用を認めたサービスか、入力した内容が学習に使われない契約かを確かめます。
改定幅・適用日・例外は営業責任者が決め、経営者が承認する
改定判断表は、改定通知の1行ごとに、AIが埋める下書き欄と、営業責任者が書く決定欄、経営者の承認欄を分けた表です。下の記入例は説明用の架空のもので、品番も金額も実在しません。
| 欄 | 説明用の架空の記入例 | 書く人 |
|---|---|---|
| 対象品番 | 自社A-1020(仕入先K-55) | AI(商品担当が照合) |
| 仕入単価 | 820円→880円 | AI(商品担当が原本と全行照合) |
| 売価案 | 1,100円→1,180円 | AI(粗利目標で計算) |
| 得意先別の影響額 | 得意先ごとの月の増額 | AI |
| 改定幅 | 案どおり・据え置き・一部 | 営業責任者 |
| 適用日 | 11月1日出荷分から | 営業責任者 |
| 例外と理由 | 年間契約先は更新月から | 営業責任者 |
| 承認 | 承認者・承認日 | 経営者 |
売価案の欄は、説明用に粗利目標を売価の4分の1とした計算で、仕入単価880円を0.75で割った1,173円を10円単位に切り上げた値です。AIはどの得意先にも同じ計算をしますが、営業責任者は得意先ごとに、案どおり上げるか、据え置くか、一部だけ上げるかを選びます。
掛率をその値にした理由が記録に無い得意先は、決める前に担当交代のときに取引条件の理由を残す引継ぎ書の欄で経緯を確かめます。
適用日の欄では、適用日より前に受けた受注残を旧単価で出すかどうかも決めます。受注日で区切るか出荷日で区切るかを得意先ごとに書いておかないと、商品担当が価格マスターに登録した後で、営業事務が請求の単価を直すことになります。
改定のたびに、通知の受領日から価格マスターへの登録日までの日数と、適用日以降に旧単価で計上した売上明細の件数を数えます。
日数が縮まらないときは、照合で戻った行の数と理由を見て、抜き出しと照合のどちらに時間がかかっているかを確かめてから、AIに任せる作業を広げるか戻すかを決めます。改定が決まった後の案内文と見積の確認は、見積と価格改定の案内を送る前に誰が何を確認するかで扱っています。
価格表が担当者ごとなら、売価案を出す前に一本化する
次のどれかに当たるときは、AIに売価案を出させず、表の戻し先へ回します。
| 売価案を出さない条件 | 戻す先と、先にすること |
|---|---|
| 通知の品番が価格マスターと一致しない | 商品担当が仕入先に確かめる |
| 得意先別価格表が営業担当ごとのExcel | 営業責任者が1つの表にまとめる |
| 商品群ごとの粗利目標が決まっていない | 経営者と営業責任者が目標を決める |
| 同業他社の価格や値上げ予定が材料にある | 材料から外し、営業責任者に報告する |
得意先別価格表が営業担当ごとに分かれていると、AIは渡された1つのファイルで影響額を計算するため、別の担当者のファイルにある特別単価が抜けます。どのファイルの単価が正しいかはAIには決められません。
基幹システムの得意先別単価か1つのファイルを正と決め、更新する人を決めるまでは、AIを使う範囲を通知の抜き出しと照合の候補に限ります。
粗利目標の置き方や値引の承認は価格・粗利の業務の記事に、受注・在庫・請求など別の業務は商社と卸の業務別の記事の入口にまとめています。
同業の値上げ情報は、AIに渡す材料に入れない
AIに渡す材料は、自社の仕入単価・原価・粗利目標・得意先別の掛率に限り、同業他社の販売価格や値上げの予定は入れません。独占禁止法の不当な取引制限は、他の事業者と共同して対価を決定し、維持し、もしくは引き上げることなどで、競争を実質的に制限することです。同法の第3条が、これを禁じています。
業界の会合で聞いた値上げの予定や、同業から回ってきた価格表をAIに読ませて売価案を作ると、その情報が売価の根拠として社内の記録に残ります。それだけで違反と決まるわけではありませんが、自社で決めたと説明しにくくなります。材料に混じっていたら外し、営業責任者に報告します。
得意先への値上げの申し入れも、申し入れた日・根拠・得意先の回答を記録します。
公正取引委員会の令和7年度の特別調査は、価格転嫁を要請した品目のうち、取引価格が引き上げられた品目の割合を業種別に出しています。割合が高い業種には、飲食料品卸売業(88.7%)と建築材料、鉱物・金属材料等卸売業(88.3%)が入りました。これは調査に回答した事業者の結果で、卸売業全体の値上げ率ではありません。
倉庫や配送の人件費の上昇を理由に申し入れるなら、内閣官房と公正取引委員会の「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」も確認先です。同じ調査で、この指針を知っていた回答者は59.6%、飲食料品卸売業では49.3%でした。
自社が委託する側になる取引では、逆の立場の義務があります。対象は、プライベートブランド商品の製造を委託した場合などです。2026年1月1日に施行された取適法(中小受託取引適正化法・旧下請法)は、委託先が費用の変動を理由に代金の協議を求めたのに応じず、一方的に代金の額を決めることを禁じています。
既製品を仕入れて売るだけの取引は通常この製造委託等に当たらず、資本金や従業員数の要件もあるため、委託している取引を先に書き出して対象かを確かめます。
価格マスターへの連携は、改定の回数で外部の開発と比べる
改定判断表までを社内で回すか、価格マスターへの自動反映を外部に作ってもらうかは、改定の回数・品目数・得意先別価格表の置き場所で分かれます。
- 掛率で一律に上げる改定が中心なら、販売管理システムの一括改定の機能で足ります。AIは改定通知の抜き出しにだけ使います。
- 通知の形式が仕入先ごとにばらばらで、品目が多くない会社は、生成AIで改定判断表を下書きし、商品担当が価格マスターへ手で登録する形で回ります。
- 改定通知が毎月のように届き、得意先別価格表が基幹システムにある会社は、売価案から価格マスターへの登録までをつなぐ開発を外部の見積と比べます。
外部に作ってもらう場合は、承認日の入っていない売価案が価格マスターに登録されない仕組みを要件に入れます。承認の記録がAIの案と同じ表に残っていれば、改定の根拠を後から問われたときに、決めた人と日付をすぐに示せます。
要件の中で決め切れずに残りやすいのは、適用日をまたぐ受注残の単価を、受注日と出荷日のどちらで決めるかです。販売管理システムがこの区別を得意先ごとに持てるかどうかで、自動反映で作る範囲そのものが変わります。
明日から始める3ステップ
担当 商品担当
直近に届いた改定通知1通を選び、通知の品番・旧単価・新単価・適用日を、価格マスターから出力した同じ仕入先の品番一覧と並べて照合する
次へ進む目安通知の全行が価格マスターと一致した行と一致しない行に分かれ、一致しない行ごとに仕入先への確認事項が書かれた
担当 営業責任者(承認者は経営者が指名)
得意先別価格表の保管場所と更新者を書き出し、正とする1か所と、改定判断表の決定欄(改定幅・適用日・例外)と承認欄の書き手を決める
次へ進む目安得意先別価格表の正とする置き場所が1つに決まり、決定欄と承認欄の書き手の名前が改定判断表の見本に入った
担当 商品担当(記録の確認は営業責任者)
次の改定通知で、AIに抜き出しと売価案・影響額の下書きをさせ、通知の受領日から価格マスター登録日までの日数と、適用日以降に旧単価で計上した売上明細の件数を記録する
次へ進む目安1回分の日数と旧単価の売上明細の件数が、改定判断表と同じファイルに記録された
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毎月1テーマずつ積み上げる
作って試す・定着までAIエージェント開発AI顧問FDE型AI伴走支援
出典
- 私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(昭和22年法律第54号)(第2条第6項・第3条) e-Gov法令検索(デジタル庁) 確認日 2026.10.15
- 公正取引委員会「令和7年度価格転嫁円滑化の取組に関する特別調査」の結果について受注者としての回答(業種別の引上げ品目率)・労務費転嫁指針の認知度・労務費転嫁指針の認知度(業種別) 公正取引委員会 確認日 2026.10.15
- 製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律(昭和31年法律第120号)(第5条第2項第4号・附則第1条) e-Gov法令検索(デジタル庁) 確認日 2026.10.15
- 内閣官房・公正取引委員会「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」指針のページ(令和7年12月26日改正) 公正取引委員会 確認日 2026.10.15
編集BoostX編集部(株式会社BoostX)編集と監修の決まり









