商社の与信はAIでどこまで任せるか、確認項目4つと先に人が読む取引先
読み手に想定しているのは、新規取引の申請ごとに与信の整理資料と限度の案を作る商社・卸売の経理担当と、取引の可否を決める営業責任者です。
新規取引の申請が重なる月は、経理担当の机に読み比べ待ちの申請がたまり、営業担当は得意先に初回の出荷日を伝えられません。決算書と信用調査の資料を整理資料に書き写す作業をAIに回すとき、可否まで委ねたことにならない境目と、AIより先に人が読む取引先を、申請1件の流れで示します。

先に結論
AIに任せてよいのは、申請書・信用調査の資料・決算書の要点整理と、確認項目の一覧、与信限度の案までです。取引の可否と与信限度の確定は、決算書と信用調査の資料の該当ページを確かめた経理担当と営業責任者が行い、与信限度の記録にも人が書き込みます。
限度の案は、取引予定額と支払条件から見込む売掛の最大額と根拠の数字を並べた材料で、そのまま記録に載せる額ではありません。最大額より低くするか、取引予定額を見直してもらうかは二人が決めます。AIに回す前に人が読む申請は、直近の決算書が無い、所在地や代表者が資料と食い違う、予定額が決裁範囲を超える、反社会的勢力の疑いがある、の4つです。どれに当たるかで、経理担当・営業担当・決裁者のうち先に資料を読む人が変わります。
与信のAIは要点整理まで、取引の可否は人が決める
決算書と信用調査の資料を読み、前年との差や資料の欠けを並べる作業まではAIの方が速く、取引の可否は資料の該当ページを確かめた経理担当と営業責任者が受け持ちます。申請が届いたら二人がまず4つの条件に当たるかを見て、当たらない申請だけをAIの読み取りへ進めます。
図の要点:新規取引の申請から与信限度の記録までを、営業担当・経理担当と営業責任者・AIの3つのレーンで示した図。経理担当と営業責任者が4つの条件に当たるかを先に見てからAIが資料を読み取り、要点と確認項目の一覧、見込む売掛の最大額からの限度の案を出す。経理担当と営業責任者が該当ページで確かめて可否と限度を決め、記録に理由を書く。資料の不足と食い違いは営業担当へ戻す。
可否と限度の欄を埋めるのは、該当ページを確かめた経理担当と営業責任者だけ
営業担当
経理担当・営業責任者
AI
- 営業担当
申請書に取引予定額と支払条件の希望を書いて出す
決算書と信用調査の資料を添える
- 経理担当・営業責任者
4つの条件に当たる取引先かを先に見る
戻す資料が足りなければ営業担当へ追加を頼む
- AI
申請書・信用調査の資料・決算書を読み取る
資料に無い項目は「未確認」と書く
- AI
要点を整理し、確認項目の一覧を作る
数字ごとに資料名とページを付ける
- AI
見込む売掛の最大額から与信限度の案を出す
根拠の数字を案の横に並べる
- 経理担当・営業責任者
確認項目を資料の該当ページで確かめる
戻す食い違いは営業担当に取引先へ確かめてもらう
- 経理担当・営業責任者
取引の可否を決める
決裁範囲を超える額は上位の決裁者へ
- 経理担当・営業責任者
与信限度を確定し、理由と一緒に記録に書く
案から変えた理由も残す
この図をもとに、申請が届いてすぐの確認を誰が持つかと、食い違いが見つかったときに営業担当へ戻す流れを自社の決まりにします。先の確認で戻した申請は、足りない資料が届いてからAIの読み取りに進めます。
可否を人に残すのは、取引を始めて代金を回収できなかったとき、なぜ可としたかを社内で説明するのが経理担当と営業責任者だからです。資料をどれだけ整えて並べても、この説明をAIに代わってもらうことはできません。
与信限度とは、取引先ごとに設定する売掛金の上限額で、回収のリスクを抑えるために経理担当と営業責任者が決めます。
申請書の社名と所在地が正しく書かれていれば、信用調査の資料との照合は速く済みます。新規開拓の時点で取引先を法人番号で名寄せしておく方法は、新規開拓リストを法人番号で名寄せする記事で扱いました。
与信の判断から回収・督促までの業務は与信・債権の業務一覧に、受注や在庫を含む業務の全体は商社・卸売の記事を業務ごとに並べた入口から見られます。
信用調査の資料からAIが抜き出す確認項目
AIには、信用調査の資料と決算書から、前年との差、支払条件の希望、登記や代表者の変化、資料の欠けと古さを一覧にさせます。
説明のための仮の場面として、営業担当から「来月から月に数回納品したい」という新規取引の申請が届いたとします。経理担当は信用調査の資料と決算書を横に並べ、Excelの整理資料に数字を書き写します。書き写している間は可否の検討に入れず、営業担当は得意先に初回の出荷日を約束できません。
AIに渡すのは、申請書(社名・所在地・代表者・取引予定額・支払条件の希望)、信用調査の資料、決算書の貸借対照表と損益計算書です。決算書は2期分あれば前年との差を出せます。
| 確認項目 | AIに出させる形 | 該当ページで確かめる中身 |
|---|---|---|
| 決算の前年比較 | 売上高・利益・純資産の差 | 決算書の該当ページの数字 |
| 支払条件の希望 | 締日・支払日・支払方法 | 営業担当が聞いた条件と同じか |
| 登記や代表者の変化 | 商号・所在地・代表者の変更 | 申請書と資料で一致するか |
| 資料の欠けと古さ | 無い資料と決算期の一覧 | 直近の決算書が届いているか |
4つの項目の名前と、人が該当ページで確かめる中身は、この表を自社の申請書の欄に合わせて決め直します。支払サイトを長く希望している申請は、支払条件の希望の欄に出てくるので、限度の案を見る前に営業担当へ事情を聞きます。
整理資料を作らせる指示では、3つのことを必ず書きます。数字ごとに資料名とページを書くこと、資料に書かれていない項目は推測せず「未確認」と書くこと、取引してよいかどうかの意見を書かないことです。
ページが付いていれば、経理担当は確認項目から資料の該当ページをすぐ開けます。AIが作った資料を誰がどこで確かめるかの考え方は、生成AIの成果物を確認する7項目が参考になります。
信用調査の資料と登記の写しには、代表者の氏名や住所が載ります。法人の資料でも個人データを含むものとして扱い、外部の生成AIに入れる前に、利用するサービスの契約を読みます。調査の資料を社外のサービスに入れてよいかは、信用調査会社との契約でも確かめます。
契約で事業者が入力内容を取り扱わないと定め、アクセスも適切に制限していれば、個人データの提供に当たらないとされています。取り扱う契約なら委託の形と言えるかを確かめ、言えないなら第三者提供として本人の同意が必要かを判断します。サービスの提供元が外国の事業者なら、外国にある第三者への提供として本人の同意が要るかも確かめます。
与信限度の案は取引予定額と並べて出させる
与信限度の案は、取引予定額と支払サイトから見込む売掛の最大額と並べて出させ、確定は経理担当と営業責任者が行います。
売掛の最大額は、締日から支払日までに積み上がる取引額です。月末締め翌々月末払いなら、支払日の直前には、およそ3か月分の取引額が売掛金として残ります。
【説明用の架空の記入例】
取引予定額
仮に月300万円支払条件
月末締め翌々月末払い見込む売掛の最大額
試算で900万円(3か月分)並べる根拠
決算書の売上高と純資産、信用調査の資料の業績の記載とページ
この試算の900万円は、可否を決める二人が、この取引先に最大でいくらの売掛金を残すことになるかを先に知るための数字です。
AIの案に並ぶのは、この最大額と根拠の数字までです。案を最大額より低くするか、営業担当を通じて取引予定額を見直してもらうかは、経理担当と営業責任者が決算書の規模と社内の決裁規程を見て決めます。決めた限度と可否、案から変えた理由、決めた人と日付は、与信限度の記録に同じ行で残します。
可否と理由が記録に残った申請の割合が、判断の記録率です。申請から可否を決めた日までの日数と合わせて、AIの整理資料を使い始めてから申請ごとに数えます。
経理担当や決裁者が先に資料を読む取引先の条件
直近の決算書が無い取引先や、申請内容と資料が食い違う取引先は、AIに整理させる前に、条件ごとに決めた人が資料を読みます。AIは古い数字も食い違った記載も同じように整った一覧にするので、問題があることが見えにくくなるためです。
- 直近の決算書が無く2期前のものしか無いなら、AIの整理より先に、経理担当が営業担当へ直近の決算書を頼みます。
- 申請書と信用調査の資料で所在地や代表者が違うなら、営業担当が取引先に確かめ、登記の写しでも確かめます。
- 初回から大口の取引予定額で決裁範囲を超えるなら、決裁者が最初から資料を読みます。
- 反社会的勢力の確認で疑いが出たなら、AIに資料を渡さず、社内の規程で決めた担当者が扱います。
営業担当へ戻すときは、足りない資料の名前か、どの資料のどの欄が申請書と食い違うかを書いて渡します。何を直せば申請が進むかが分かれば、営業担当は取引先に一度で頼めます。
営業担当へ差し戻した件数と理由も、申請ごとに残します。3か月分を見て、差し戻しの理由の多くが資料の欠けなら、申請書に添える資料の決まりを営業責任者が営業担当と決め直します。該当ページと食い違う確認項目が申請を重ねても減らないなら、その項目はAIに読ませるのをやめ、経理担当の読み取りに戻します。
与信の整理を自社の表で回すか、外の仕組みを使うか
申請の件数が少なく、申請書と資料がそろって届くなら、整理資料の様式と与信限度の記録(Excel)だけで始められます。外の仕組みを考えるのは、売掛管理や外部の信用調査のデータとつなぐ必要が出てからです。
最初に手をつけるのは、経理担当が直近の申請書と資料から整理資料の様式を作ることです。そのうえで3か月分の申請について判断までの日数と判断の記録率を並べると、どちらに進むかの手がかりになります。日数が縮まらない理由が資料の読み取りより申請の差し戻しにあるなら、仕組みより申請書の決まりを先に直します。
外の手が要るのは、与信限度の記録が基幹システムの売掛管理と別のファイルにあり、限度を超える受注が出荷の前に分からない場合です。外部の信用調査のデータを申請ごとに取り込みたい場合も、つなぎ方とAIに渡す資料の範囲を、外部の開発の担当と一緒に決めます。
取引を始めた後の回収状況の監視は、売掛と入金が取引先ごとに消し込まれていれば、新規の与信の整理より先に自動化しやすい作業です。請求と売掛の照合をどこまでAIに任せるかは、請求書作成をAIに任せる範囲を扱った記事で見られます。
明日から始める3ステップ
担当 経理担当
直近に届いた新規取引の申請書・信用調査の資料・決算書を並べ、4つの確認項目それぞれについて、自社の申請書のどの欄と資料のどのページから数字を取るかを決め、整理資料の様式に資料名とページの欄を足す
次へ進む目安4つの確認項目と資料名・ページの欄を持つ整理資料の様式が1枚でき、営業責任者と共有した
担当 営業責任者(決裁規程の書き写しは経理担当)
AIより先に人が読む4つの条件について、決裁範囲の額を社内の決裁規程から書き写し、反社会的勢力の確認を受け持つ担当と、差し戻すときに営業担当へ書いて渡す中身を決める
次へ進む目安戻す条件・決裁範囲の額・戻し先が1枚にまとまり、営業担当全員に配った
担当 経理担当(月末の集計は営業責任者と見る)
次の3か月に届く新規取引の申請でAIの整理資料を使い、申請から可否の決定までの日数、与信限度の記録に可否と理由が残った件数、該当ページと食い違った確認項目、営業担当へ差し戻した件数と理由を申請ごとに記録する
次へ進む目安3か月分の判断までの日数と記録率が申請ごとに並び、AIに読ませ続ける資料と担当者が先に読む資料が分かれた
無料相談(オンライン)
BoostXは、卸売・商社の受発注・在庫・問い合わせ対応へのAI導入を支援しています
01無料相談
注文の入力・商品マスタ・照会への回答から、最初の1業務を決める
02進め方の提案
規模に合う進め方を提案する
03作って試す
一緒に作り、現場で試して直す
04定着まで伴走
毎月1テーマずつ積み上げる
作って試す・定着までAIエージェント開発AI顧問FDE型AI伴走支援
出典
- 個人情報保護委員会「「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン」に関するQ&A」Q7-53(クラウドサービスの利用) 個人情報保護委員会 確認日 2026.10.26
- 個人情報の保護に関する法律(平成15年法律第57号)(第27条第5項第1号・第27条第1項・第28条第1項) e-Gov法令検索(デジタル庁) 確認日 2026.10.26
編集BoostX編集部(株式会社BoostX)編集と監修の決まり










