決算整理事項の洗い出しでAIに任せる範囲|期中の新しい契約と借入
決算月に顧問先の決算整理事項を洗い出す監査担当と、そのレビューを受け持つ担当税理士
担当替えで受け持った顧問先の決算整理を前期の決算ファイルから写していくと、期中に結んだリース契約や新しい借入の整理事項は一覧に出てきません。レビューで指摘されてから整理仕訳を足すことになります。前期のファイルを元にしながら今期に増えた事項まで候補に並べる一覧の作り方と、計上するかを決めるときに確かめる事実を、項目ごとに載せています。

先に結論
前期の決算整理仕訳と、固定資産台帳・契約一覧・返済予定表の前期末からの変化をもとに今期の候補を並べ、根拠資料を添える作業までは、AIに渡せます。整理仕訳を計上するか、内容と金額をどうするかは、監査担当が期末の事実を確かめて起こし、担当税理士がレビューで確定します。
候補一覧の今期額の欄はAIに書かせず、前期額は参考の欄に置きます。根拠資料が見当たらない候補、前期と処理を変える候補、税務の取扱いの判断が要る候補は、監査担当が金額を入れる前に担当税理士へ戻します。
決算整理の候補は前期の仕訳から出せて、金額は事実で決まる
前期の決算整理仕訳も固定資産台帳も、どの科目にいくら計上したかという結果を残した記録です。ところが整理仕訳を計上するかと金額は、債務が期末までに成立したか、前払の役務がどの期間か、という記録の外にある事実で決まります。
図の要点:決算整理事項の洗い出しの流れを4段で示した図。前期の決算整理仕訳・固定資産台帳・契約一覧・返済予定表・期末の試算表を候補の元にし、AIが前期から続く・前期にあって今期は要確認・前期に無い新規の3つの区分に分けて根拠資料を付ける。監査担当と担当税理士が債務の確定や前払の期間などの事実を確かめ、根拠の無い候補や処理を変える候補は担当税理士へ戻し、監査担当が今期額を書いて整理仕訳を起こし、担当税理士がレビューで確定する。
計上するかと金額は、仕訳データの外にある契約書と顧問先への確認で決まる
候補の元にする資料
- 前期の決算整理仕訳(会計ソフトの仕訳帳から書き出す)
- 固定資産台帳・借入金の返済予定表・リースや保守の契約一覧
- 今期の期末の試算表と期中の仕訳帳
AIが組み替える候補一覧
- 前期から続く・前期にあって今期は要確認・前期に無い新規の3つに分ける
- 候補ごとに根拠資料(前期の仕訳・台帳の行・契約名)を付ける
監査担当・担当税理士が確かめる事実
- 債務が成立しているか、前払の期間、取得した資産を使い始めた日
- 根拠資料の無い候補・処理を変える候補は担当税理士へ戻す
起こす整理仕訳
- 監査担当が今期額を書き、整理仕訳を起こす
- 担当税理士がレビューで内容と金額を確定する
外注先の作業が期末までに終わっていたか、年払いの保守料がいつからいつまでの役務かは、契約書や作業報告、顧問先への確認でしか分かりません。記録から並べられる候補と根拠資料まではAIに出させ、事実の確認から先は人が受け持ちます。前期の金額をAIが今期の欄に埋めた一覧は、金額を確かめないまま通る原因になるので、前期額は参考の欄にだけ置きます。
仮の場面で考えます。担当替えで今期から受け持つことになった3月決算の顧問先について、監査担当が前期の決算ファイルを開き、整理仕訳を1本ずつ写しながら今期の候補を作っています。期中に結んだ複合機のリース契約、秋に借りた運転資金、月払いから年払いに変えた保守料は前期のファイルに1行も無いため、写す作業の中では候補に上がりません。
整理仕訳を起こした後の前期比・勘定内訳での確認、証拠資料の紐付け、所長の承認は、決算・レビューの業務の続きの工程です。記帳・照合・税務の記事は、会計事務所AI活用ジャーナルの業務別の入口から読めます。
前期の決算整理仕訳を、今期の候補一覧に組み替える
候補一覧の元になるのは、前期の決算整理仕訳を1本1行にした表です。前期額は参考の欄に置き、今期額の欄は空けたまま監査担当に渡します。
決算整理事項とは、期中の記帳には表れない期末の事実(未払・前払・減価償却・引当金・棚卸など)を決算書に入れるための整理の対象です。前期の決算整理仕訳は、前期末に整理した事実の記録です。
- 前期の決算整理仕訳を会計ソフトの仕訳帳から書き出す。区分して入力していない顧問先は期末の日付と摘要で抽出し、抜けが無いかを監査担当が前期の決算書と見比べる
- 1本ごとに科目・相手先・摘要・前期額・根拠資料を列に分ける
- AIに今期の期末の試算表と期中の仕訳帳を渡し、同じ相手先との取引が今期も続いているか、解約・完済・売却の記録があるかで「前期から続く」と「前期にあって今期は要確認」に分けさせる
- 行ごとに今期の確認事項を書かせ、今期額と判断者の欄は人が書く
【説明用の架空の記入例】前期に計上した前払保険料の契約が、期中に解約されていた行です。
| 候補一覧の列 | 書く人 | 記入例 |
|---|---|---|
| 区分 | AI | 前期にあって今期は要確認 |
| 科目・相手先 | AI | 前払費用・損害保険会社 |
| 前期額(参考) | AI | 前期の整理仕訳の額をそのまま |
| 根拠資料 | AI | 前期の保険証券と仕訳の日付 |
| 今期の確認事項 | AI | 期中の仕訳帳に解約返戻金の入金 |
| 今期額 | 監査担当 | 解約の精算を確かめてから記入 |
| 判断者 | 監査担当 | 処理を変えるので担当税理士 |
この行は前期と処理を変える候補なので、今期額は担当税理士が扱いを決めた後に監査担当が書きます。
AIへの指示では、渡す資料と返させる形を先に決めます。渡すのは、前期の決算整理仕訳の表、今期の期末の試算表、期中の仕訳帳の書き出しです。返させるのは各行の区分・根拠資料・今期の確認事項で、根拠資料が見つからない行には「根拠なし」と書かせ、推測で埋めさせません。今期額の欄に数字が入って返ってきたら、その一覧は使わずに指示を直して作り直します。
顧問先の仕訳帳には、役員や個人の取引先の氏名が入っています。使うAIサービスに渡してよいかは、利用規約でデータの保存と学習利用の扱いを確かめ、所内の規程に沿って、書き出す前に決めます。
監査担当は返ってきた一覧を、1行ずつ根拠資料の原本と見比べます。「前期から続く」の行でも契約書で期中の解約や条件の変更を確かめ、区分が違えば付け直して理由を一行残します。
前期の決算整理仕訳そのものが前任者の誤った処理なら、誤りごと候補に入る点にも注意が要ります。誤りを候補の元から外す考え方は、AIの仕訳候補に使う過去仕訳の範囲の記事で説明しました。
前期に無かった整理事項は、台帳と契約の変化で見つける
前期に無い事項は、前期の整理仕訳をいくら写しても出てきません。固定資産台帳・契約一覧・借入金の返済予定表・期中の仕訳を前期末と今期末で比べ、増えた行から候補を足します。
固定資産台帳
期中に取得した車両などの行は減価償却の候補に、除却・売却の行は除却損や売却損益を確かめる候補にするリース・保守・保険の契約一覧
期中に結んだ契約は、年払いなら前払費用、後払いなら未払費用の候補にする借入金の返済予定表
新しい借入は、最後の利払日から期末までの利息を未払利息の候補にする期中の仕訳
前期に取引の無かった相手先で、期末をまたぐ外注費などは、請求の来ていない未払費用の候補にする
足した行は「前期に無い新規」の区分にし、根拠資料の欄には台帳の行や契約の名前を書かせます。リース契約は、資産に計上するか支払リース料で処理するかが契約の条項で変わるので、新規のリースは処理を決める候補として担当税理士へ回します。
この差分は、顧問先ごとに台帳・契約一覧・返済予定表が電子で手元にあることが前提です。契約書を紙でしか持っていない顧問先については、AIに差分を出させず、先に期末の資料依頼へこの3つを加えて回収します。
漏れが減ったかは、決算が終わった後のレビューの指摘で確かめます。監査担当はレビューで洗い出し漏れとして指摘された件数を区分ごとに数え、次の決算月の前に見直します。新規の区分で漏れが出ていれば差分に使う資料の種類が足りず、前期から続く区分で漏れが出ていれば書き出しの条件が合っていません。
計上の要否と金額は、どの事実を見て決めるか?
計上するかと金額は、候補一覧の根拠資料の欄ではなく、契約書・請求書・作業報告・顧問先への確認で分かる期末の事実で決めます。項目ごとに、AIが出せる材料と人が確かめる事実は次のように分かれます。
| 整理事項 | AIが出す材料 | 人が確かめる事実 |
|---|---|---|
| 未払費用 | 期末をまたぐ取引と前期の計上 | 期末までの債務の成立と金額 |
| 前払費用 | 年払いの契約と支払日 | 1年以内の役務か、継続か |
| 減価償却 | 台帳の期中取得・除却の行 | 使い始めた日、償却方法と耐用年数 |
| 貸倒引当金 | 期末の売掛金などの残高 | 使える法人か、どの繰入率か |
| 棚卸資産 | 前期の棚卸の整理仕訳 | 実地棚卸の数量と評価の方法 |
| 未払法人税等 | 前期の計上と今期の試算表 | 申告で確定する税額 |
人が確かめる事実がそろわない候補は、今期額を空けたまま一覧に残します。
未払費用を当期の損金にするには、償却費以外の費用について、期末までに次の3つがそろっている必要があります。
- その費用の債務が成立していること
- 債務に基づいて具体的な給付をすべき原因となる事実が発生していること
- 金額を合理的に算定できること
AIは期末をまたぐ外注費の候補を出せても、作業が期末までに終わっていたかは作業報告か顧問先への確認でしか分かりません。請求書が期末後に届く取引は、監査担当が見積書や契約の単価から金額を算定できるかを確かめます。
前払費用は、支払った日から1年以内に提供を受ける役務の分を、継続して支払った事業年度の損金にしていれば、その処理が認められます。期中に月払いから年払いへ変えた保守料は、この扱いを今期から始めるかどうかで前期と処理が変わるため、担当税理士へ戻す候補です。
貸倒引当金を繰り入れられる法人は限られています。普通法人では、期末の資本金の額が1億円以下のもの(大法人に完全支配されている法人などを除く)が対象です。
こうした中小法人は、実績の繰入率の代わりに法定繰入率を選べます。率は卸売業・小売業が1,000分の10、製造業が1,000分の8、その他の事業が1,000分の6などです。ただし、前3年以内に終了した事業年度の所得の年平均が15億円を超える適用除外事業者は、中小法人の扱いから外れます。顧問先がどれに当たり、どの率で計算するかは担当税理士が決めます。
未払法人税等の候補は、税額が決まるまで行だけを置いておきます。税額を決める工程は、法人税の申告書の11工程とAIの下書きの範囲にまとめました。
監査担当が金額を入れる前に担当税理士へ戻すのは、次の3つの候補です。
- 根拠資料が見当たらない候補(契約書も請求書も手元に無い前期からの未払計上など)
- 前期と処理を変える候補(年払いへの変更、契約の解約、新規のリース)
- 税務の取扱いの判断が要る候補(貸倒引当金を使えるか、短期の前払費用の扱いを始めるか)
決算期の前に、候補の抽出条件と仕組みを誰が持つか
3つの区分の定義と担当税理士へ戻す条件は所内で書き、会計ソフトからの書き出しと、台帳・契約一覧との差分の抽出は、外部の仕組みにも任せられます。区分の定義には顧問先の事情の知識が要り、書き出しと差分は同じ手順の繰り返しだからです。
書き出しの設定にかかる手間は、使っている会計ソフトの種類と、決算整理仕訳の区分の有無で大きく違います。ソフトが1種類で区分もそろっていれば、監査担当が表計算で回せます。顧問先ごとにソフトが違い、区分の付け方も前任者ごとに違うなら、顧問先単位で書き出しと差分の抽出を作る作業がかさむので、仕組みづくりを外部に頼む意味が出てきます。
外部に頼む前に、所長と監査担当は3つの区分に入れるものと戻す3つの条件を、候補一覧の1枚目に書いておきます。ここが空のままだと、どの行を担当税理士へ戻すかが担当者ごとにばらつきます。
期末の直前に初めて取引した外注先で請求書が期末後に届くものや、顧問先が口頭で決めた修繕の発注は、洗い出しの時点では台帳にも契約一覧にも期中の仕訳にも載っていません。差分の外にあるこうした事項は、決算月に監査担当が顧問先へ確かめる聞き取りの項目に入れておき、回答をもとに「前期に無い新規」の行として一覧に足します。
明日から始める3ステップ
担当 監査担当
次に決算月を迎える顧問先を1社選び、前期の決算整理仕訳を会計ソフトの仕訳帳から書き出して、科目・相手先・摘要・前期額・根拠資料の列を持つ表にする
次へ進む目安前期の決算整理仕訳の全件が1本1行で表に入り、根拠資料の欄が空の行に印が付いた
担当 監査担当
表と今期の期末の試算表・期中の仕訳帳・固定資産台帳・契約一覧・返済予定表をAIに渡し、各行の区分・根拠資料・今期の確認事項を書かせ、前期に無い新規の候補を足させる
次へ進む目安全行に3つの区分のどれかと根拠資料が入り、今期額の欄はすべて空のまま残っている
担当 担当税理士
根拠資料が無い・処理を変える・税務判断が要る候補を受け取り、計上の要否と扱いを決めて判断と理由を一覧に書く
次へ進む目安戻された候補の全件に判断と理由が書かれ、監査担当が今期額を記入して整理仕訳を起こした
無料相談(オンライン)
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01無料相談
証憑の回収・記帳・申告の準備から、最初の1業務を決める
02進め方の提案
規模に合う進め方を提案する
03作って試す
一緒に作り、現場で試して直す
04定着まで伴走
毎月1テーマずつ積み上げる
作って試す・定着までAIエージェント開発AI顧問生成AI研修
出典
- 国税庁 法人税基本通達 第2章第2節第2款「販売費及び一般管理費等」(2-2-12 債務の確定の判定・2-2-14 短期の前払費用) 国税庁 確認日 2026.10.22
- 国税庁 タックスアンサー No.5501「一括評価金銭債権に係る貸倒引当金の設定」(法定繰入率の対象となる法人の注記・法定繰入率の表) 国税庁 確認日 2026.10.22
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