不動産査定の成約事例調べはAIにどこまで任せるか、採否と外す事例の記録
売買の査定で成約事例を自分で集めている売買担当と、その査定書を確かめる売買責任者が対象です。
査定依頼が入るたびに、レインズ、自社の成約の控え、不動産情報ライブラリを別々の画面で開き、近い事例を表計算へ1件ずつ写す作業が続きます。この調べ物をAIに渡す前に店で決めておくことを、依頼を受けてから事例一覧ができるまでの順に取り上げます。事例を取ってくる元(取り先)ごとの扱い、絞り込みの条件、挙がった候補の採否の分け方です。

先に結論
成約事例を調べる作業でAIに任せられるのは、取り先ごとの事例を条件で絞り、1つの一覧に並べるところまでです。候補に挙がった事例を採用するか外すか、物件ごとの事情をどう評価するかは売買担当が決めます。採否を人に残すのは、価格の根拠を説明する義務が業者にあるためです。
売り急ぎ・買い急ぎなどの事情がある事例は、AIが候補に挙げても根拠に使いません。当事者の氏名が入ったままの一覧も、そのままでは根拠にしません。何件を採用するかは、売買責任者が店の決まりとして定めます。
査定の成約事例で採否をAIに任せられない理由
売り急ぎや買い急ぎといった取引の事情は、事例一覧のどの項目にも書かれていません。所在・面積・築年・成約の時期が査定物件に近いかはAIが項目から判定できますが、その事例を価格の根拠に使ってよいかは、事情を知る売買担当にしか決められません。
図の要点:AIが挙げた成約事例の候補を、売買担当が1件ずつ採用か除外かに分ける判断図。売り急ぎ・買い急ぎなどの事情を担当が知っている事例は外して理由を書く。成約の時期が査定の時点から離れた事例と、同じ棟・圏内・規模から外れた事例は、採用するか外すかを担当が決めて理由を残す。どれにも当たらない事例は採用し、事例の番号を一覧に残す。
AIが挙げた候補は、売買担当が1件ずつ採用か除外かに分ける
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売り急ぎ・買い急ぎなどの事情を担当が知っている
外し、理由を一覧に書く
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成約の時期が査定の時点から離れている
時点の差を補って採用するか、外す
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同じ棟・同じ圏内・同じ規模から外れている
広げた理由を残して採用するか、外す
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どれにも当たらない
採用し、事例の番号を一覧に残す
候補の1件ごとに上から順に確かめると、根拠として採用するか外すかと、外すときに一覧へ書く理由が決まります。AIが条件に合うと判定した事例でも、この確認は飛ばしません。
たとえば、同じマンションで相場より低く成約した住戸が候補に入っていたとします(説明用の仮の例です)。一覧に並ぶのは成約価格と面積と階で、相続で売却を急いだのか、室内の傷みが理由なのかは読み取れません。
自社で扱った取引なら担当が事情を覚えていますが、他社の成約では事情をつかめない事例も出てきます。事情が分からない事例を採用するか外すかも売買担当が決め、決めた理由を残します。
採否を担当が持つもう1つの理由は、法律の定めです。宅地建物取引業法第34条の2第2項により、業者は媒介契約の価額や評価額に意見を述べるとき、根拠を明らかにする義務を負います。所有者に「なぜこの事例を使ったのですか」と聞かれて答えるのは、採用を決めた売買担当です。
国土交通省の「宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方」は、この根拠を、価格査定マニュアルや同種の取引事例など、合理的な説明がつくものとしています。AIが並べた一覧は説明の材料になっても、どの事例で説明するかを選ぶのは業者の側です。事例調べの前後の工程は、査定・仕入れの業務一覧から読めます。
成約事例の取り先は3つ、渡す前に決まりを読む
自社の成約の控えは取引の事情まで分かる事例、レインズの成約情報は同じ棟や近隣の事例、不動産情報ライブラリは地域の価格水準の確認に使います。事例を取ってくる元(取り先)によって、AIに渡す前に確かめることが違います。
| 取り先 | 分かること | AIに渡す前に確かめること |
|---|---|---|
| 自社の成約の控え | 取引の事情まで分かる事例 | 当事者の氏名の列が無いこと |
| レインズの成約情報 | 同じ棟や近隣の成約事例 | 加入している機構の規程 |
| 不動産情報ライブラリ | 地域の価格水準 | 検索できる期間 |
確かめることが済んでいない取り先の事例は、AIに渡さず、売買担当が自分でその画面を検索して一覧に足します。渡すか渡さないかを取り先ごとに決めるのは売買責任者です。
レインズの成約情報は、専属専任か専任の媒介で指定流通機構に登録した物件が成約したときに、業者が取引価格を含めて機構へ通知する情報です。国土交通省の考え方は、この成約情報を、媒介価額の評価の参考として宅建業者に提供されるものと位置づけています。一方で、営利を目的に取引事例を伝える事業を営むことや、そうした者に取引事例を漏らすことは許されないともしています。
レインズの画面から写した事例を外部のAIサービスに読ませてよいかは、加入している機構の規程と、AIサービスの規約を読んでから決めます。読んでも判断がつかない間は、レインズの事例は売買担当が自分で検索し、AIには渡しません。
不動産情報ライブラリは国土交通省のサイトで、検索画面から、不動産取引価格情報は平成17年7月以降、成約価格情報は令和3年2月以降の分を調べられます。使いどころは、採用した事例の価格が地域の水準から大きく外れていないかの確認です。
自社の成約の控えから一覧を作るときは、売主と買主の氏名や連絡先の列を入れません。氏名を除いても、所在や部屋番号が残る一覧は、自社の台帳と突き合わせれば当事者が分かるため、個人データとして扱います。
外部の生成AIに渡す前に、そのAIサービスの提供会社が中身を取り扱わない旨を契約で定め、アクセスを適切に制限しているかを規約で確かめます。取り扱う定めのときは、委託と言える契約かどうかが次の確認点です。委託と言えない契約なら、第三者提供に当たらないかを確かめます。帳票ごとの決め方は生成AIの入力可否表と社内ルールにあります。
AIに渡す絞り込み条件は時期・圏内・規模
不動産流通推進センターの価格査定マニュアルは、中古マンションと土地を事例比較方式で査定します。中古マンションでは、同一または類似のマンションの取引事例の住戸を選び、条件を比べて価格を求めます。AIに渡す絞り込みの条件は、この選び方を項目の言葉に直したものです。
マンションなら、棟(同じ棟か、類似の棟か)、成約の時期、専有面積の幅を渡します。土地なら、圏内(最寄駅と、徒歩圏かバス圏か)、成約の時期、面積の幅です。戸建ては土地と建物を分けて査定するので、事例で絞るのは土地の部分になります。
推進センターの「既存住宅価格査定マニュアル利用の手引き」は、住宅地の事例の選び方の目安を挙げています。成約日が査定の時点から半年以内、査定地と同じ規模、最寄駅からの徒歩圏やバス圏が同じ、といった物件です。半年は手引きが挙げる目安で、法令の期限ではありません。事例の少ない地域で期間をどこまで延ばすかは、売買責任者が決めます。
【説明用の架空の入力例】
査定物件
区分マンション・専有70平方メートル・築18年・駅徒歩8分絞り込み
同じ棟。無ければ徒歩圏が同じ類似の棟/成約は直近半年/専有60〜80平方メートル出力の欄
事例の番号・取り先・成約の時期・成約価格・面積・階・条件から外れた点指示
一覧に無い項目は推測で埋めず「未確認」と返す。範囲を広げたら理由を書く
同じ棟に事例が無いときに、先に期間を延ばすか、近隣の棟へ広げるかの順番は、売買担当が決めてAIに渡します。AIに書かせるのは広げた条件と理由で、置き場所は「条件から外れた点」の欄です。判断フローの3つ目の分かれ目に当たる事例が、一覧を読むだけで分かるようになります。
AIが作った一覧は、売買担当が取り先の画面を開き、成約価格・面積・成約の時期を全件、元の表示と照合します。写し間違いが1件あれば、その事例から出した査定価格もずれるためです。
取り先ごとに項目の名前や単位が違い、同じ条件で絞れないことがあります。その直し方は査定書のAI下書きが外れる原因と項目のそろえ方で扱っています。
採用した事例と外した理由は売買担当が残す
国土交通省の考え方は、取引事例として集める情報を成約価額・成約の時期・物件に関する情報とし、当事者の氏名などは集めないとしています。売り急ぎ、買い急ぎなど特殊な事情のある取引事例を収集等の対象にしない、という点も同じ文書の定めです。事例一覧の様式は、この2つを守れる形にします。
一覧の事例ごとに置くのは、「採否」と「外した理由」の欄です。理由は「特殊な事情」「時期が離れている」「条件が違う」から選び、一言を添えます。たとえば「特殊な事情: 相続で売却を急いだと当時の担当から聞いた」のように書きます(説明用の架空の記入例です)。
外した事例を一覧から消さずに残すのは、次の査定のためです。同じ事例は、近くの物件の査定でまたAIの候補に挙がります。前回外した理由が欄に残っていれば、別の担当が同じ事情を調べ直さずに済みます。
当事者の氏名が入ったままの一覧は、AIが候補を挙げていても、そのまま根拠には使いません。売買担当が氏名の列を除いた一覧を作り直してから、採否を決めます。
何件を採用するかは、売買責任者が店の決まりとして定めます。担当ごとに件数が違うと、同じ物件でも根拠として示せる事例の数が変わるからです。決めた件数に届かない物件では、範囲を広げた理由を残して補うか、届かないまま出すかを売買担当が決めます。
採用した事例を根拠として所有者に書面で渡すときにも、国土交通省の考え方に決まりがあります。1つは、不動産の鑑定評価に関する法律に基づく鑑定評価書ではないと書面に明記することです。もう1つは、取引事例を説明するときに、みだりに口外しないよう依頼者に要請することです。
事例の取り込みを仕組みにするとき外へ頼む範囲
外へ頼むのは、3つの取り先からの取り込みと絞り込みを、毎回同じ条件で動かす仕組みにする部分です。取り先が自社の成約の控えとレインズの画面の2つで、売買担当が表計算へ写して足りている間は、店の中で回せます。
仕組みを作る側に伝えるのは、絞り込みの条件と、事例一覧の欄です。条件の中身、取り先ごとに渡す範囲、採否と外した理由の記録は、頼んだ後も店が決めます。規程や規約を読んでいない取り先を、取り込みの対象に入れることはしません。
仕組みにするかどうかを売買責任者が決める材料は、売買担当が査定のたびに記録する2つの値です。1つは、査定1件で事例一覧ができるまでの時間(分)です。もう1つは、売買担当が後から自分で足した事例の件数で、査定1件あたりで数えます。
足した件数が減らないなら、絞り込みの条件か取り先が足りていません。条件を直しても変わらなければ、AIの候補出しをやめ、売買担当が自分で検索する形に戻します。査定のほかの業務でAIを使える所は、不動産会社のAI活用の記事一覧から探せます。
戸建ての査定では、事例の一覧で比べられるのは土地の部分までです。価格査定マニュアルは、建物を、新築価格をもとに経過年数や維持管理の状況を踏まえて求めます。戸建ての依頼が多い店で取り込みを仕組みにしても、短くなるのは土地の事例を集める時間で、建物の評価にかかる時間は変わりません。
明日から始める3ステップ
担当 売買責任者
直近の査定書10件について、事例をどの取り先から取ったかと、外した事例の理由が残っているかを書き出す
次へ進む目安取り先ごとの事例の件数と、外した理由が残っていない査定書の件数が1枚の表になった
担当 売買責任者
加入している指定流通機構の規程と生成AIサービスの規約を読み、取り先ごとにAIへ渡す列を決めて、事例一覧の様式に採否と外した理由の欄を足す
次へ進む目安3つの取り先それぞれに渡すか渡さないかと渡す列を書いた1枚を、売買担当の全員が持っている
担当 売買担当
次の査定依頼から、絞り込みの条件を添えてAIに候補を出させ、採否と外した理由を一覧に書き、一覧ができるまでの分数と後から足した事例の件数を記録する
次へ進む目安査定5件分の記録を売買責任者が読み、AIの候補出しを続けるか担当の検索に戻すかを決めた
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01無料相談
反響の返信・物件資料・重説から、最初の1業務を決める
02進め方の提案
規模に合う進め方を提案する
03作って試す
一緒に作り、現場で試して直す
04定着まで伴走
毎月1テーマずつ積み上げる
作って試す・定着までAIエージェント開発AI顧問生成AI研修
出典
- 宅地建物取引業法(昭和27年法律第176号)(第34条の2第2項) e-Gov法令検索(デジタル庁) 確認日 2026.10.11
- 国土交通省「宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方」(令和8年4月1日施行版)第34条の2関係 8(1) 意見の根拠について・第34条の2関係 8(2) 取引事例の取扱いについて ②③④・第34条の2関係 8(2) 取引事例の取扱いについて ⑤・第34条の2関係 9(2) 成約情報の通知について 国土交通省 確認日 2026.10.11
- 国土交通省「不動産情報ライブラリ」コンテンツの出典(価格情報 不動産取引価格情報・価格情報 成約価格情報) 国土交通省 確認日 2026.10.11
- 公益財団法人不動産流通推進センター「価格査定マニュアルによる査定方法」(土地の価格査定・建物の価格査定・中古マンションの査定) 公益財団法人不動産流通推進センター 確認日 2026.10.11
- 公益財団法人不動産流通推進センター「既存住宅価格査定マニュアル利用の手引き」住宅地(事例地)の選び方 公益財団法人不動産流通推進センター 確認日 2026.10.11
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