この記事の要点
- 交渉の論点整理、申込書の下書き、過去のやり取りの検索はAIに渡せます。
- 提示する条件と交渉の進め方、申込を受けるかどうかは営業担当と店長が決めます。
- 本メディアでは、記録の負担を下げることから始めるべきだと判断します。
記録を先に分解する理由は、損が出るのが数か月あとだからです。時間は1件あたりの記録時間で測り、金は担当交代で経緯が追えなくなった案件の数で見ます(どちらも水準は置かず、自社の直近ひと月で測る前提として置きます)。リスクは情報の扱いで、交渉記録には氏名・連絡先・資金計画が入るため個人情報の保護に関する法律の対象になります。商工中金「中小企業の生成AIの利用にかかる調査(2026年1月調査)」は導入後の課題として「導入効果が測定できず」21.3%を示していますが、記録の作成率は導入前から数えられる数字です。
担当が異動した翌週に、売主から電話が入る。前回どこまで詰めたのかを聞かれて、誰も答えられない。仲介で起きるこの場面の原因は、記憶ではなく記録の置き場所にあります。
交渉の経緯はメール、電話メモ、営業担当の頭の中に散っています。散ったまま人が動くと、そこまで積み上げた関係ごと失います。

交渉記録とは何を残すもので、どこに散っているのか?
範囲を決めます。この記事でいう交渉記録とは、顧客が購入や入居の意思を示してから条件を詰め、申込を受け、その経緯を引き継げる形にするまでに残す記録です。ヒアリングと物件提案は前工程、契約書の作成は後工程として扱いません。
要点は三つです。
- 交渉は6工程に割れ、AIが担えるのは起こす・並べる・引く・下書きするの4種類に収まります。
- 提示する条件と交渉の進め方は営業担当と店長に残り、記録に出ない材料がここで効きます。
- 着手は記録の作成からで、2週間で測るのは記録の作成率・記録時間・条件の行き違いの件数です。
担当は営業担当と店長、起点は顧客の意思表示です。入力は申込条件、売主やオーナーの意向、過去の交渉記録で、出力は申込書と交渉記録になります。使うのは顧客管理(ツールまたはExcel)、物件台帳、申込書の様式、メールと電話です。
交渉にかかる日数と件数は、物件の種別と相手方で変わります。数値は置かず、測る単位だけを表に示します。申込件数が違えば、着手の順番も変わります。
意思表示から引き継ぎまでを6工程に割る
交渉は「話をまとめる」の一語に見えますが、着手から引き継ぎまでを並べると6工程になります。量と時間の欄は公的統計に無いため、自社で測る単位だけを入れています。
- 1顧客の意思表示を受けるAIと人
- 2申込条件を整理するAIと人
- 3売主・オーナーの意向を確かめるAIと人
- 4申込書を作成するAIと人
- 5交渉の論点を詰めるAIと人
- 6交渉記録を残し引き継ぐAIと人
AIが担える人が決める
1
顧客の意思表示を受ける
担当: 営業担当 / 使うもの: 面談メモ、メール、電話 / 量・時間: 意思表示から着手までの日数
- AIが解決すること
- 面談メモや音声から意思表示の内容を記録に起こす
- 人が決めること
- 受けた内容の確認
- 詰まるところ
- 受けた内容が口頭で止まる
- 失敗したときの損失
- 言った言わないが後で出る
2
申込条件を整理する
担当: 営業担当 / 使うもの: 顧客管理、物件台帳 / 量・時間: 1件あたりの整理時間
- AIが解決すること
- 条件を譲れる順に並べ替えて整理表にする
- 人が決めること
- 条件の優先順位の確定
- 詰まるところ
- 条件の優先順位が曖昧なまま進む
- 失敗したときの損失
- 相手方に出す順番を誤る
3
売主・オーナーの意向を確かめる
担当: 営業担当・店長 / 使うもの: 元付・管理会社への連絡 / 量・時間: 確認までの往復回数
- AIが解決すること
- 確認すべき項目を並べ、返答の抜けを示す
- 人が決めること
- 誰にどう聞くか
- 詰まるところ
- 伝言が人を経由して歪む
- 失敗したときの損失
- 意向を読み違えて進める
4
申込書を作成する
担当: 営業担当 / 使うもの: 申込書の様式 / 量・時間: 1件あたりの作成時間
- AIが解決すること
- 整理表から申込書の下書きを起こす
- 人が決めること
- 記載内容の確定と提出
- 詰まるところ
- 様式が物件ごとに違う
- 失敗したときの損失
- 記載漏れで受理が遅れる
5
交渉の論点を詰める
担当: 営業担当・店長 / 使うもの: 過去の交渉記録、条件の整理表 / 量・時間: 申込までの日数
- AIが解決すること
- 過去の交渉記録を条件で引き、論点を並べる(判断はしない)
- 人が決めること
- 提示する条件と進め方
- 詰まるところ
- 進め方が担当の経験に属する
- 失敗したときの損失
- 条件の行き違いで破談になる
6
交渉記録を残し引き継ぐ
担当: 営業担当 / 使うもの: 顧客管理、交渉記録 / 量・時間: 記録の作成率
- AIが解決すること
- やり取りを決めた項目の形に要約して交渉記録へ書き込む
- 人が決めること
- 記録に残す範囲
- 詰まるところ
- 忙しい時期ほど残らない
- 失敗したときの損失
- 担当が変わると経緯が消える
AIで消える工程:第6工程の手打ちです。やり取りを思い出しながら記録欄に打ち直す作業が無くなります。
短くなる工程:第1・第2・第4工程です。記録起こし、条件の整理、申込書の下書きが先に出そろいます。
新しく増える確認工程:第1工程の直後です。起こした記録と実際のやり取りを突き合わせる確認が加わります。本メディアでは、この確認を営業担当本人が行うべきだと判断します。
図の見方は、色枠がAIの担う工程、灰色が営業担当や店長が確定する工程、二重枠がその両方です。右上の三角は、抜けやすい工程を指します。
論点の整理は渡せても、提示条件をなぜ店長が決めるのか?
工程を割ると、線の引き方が決まります。起こす・並べる・引く・下書きするは作業なのでAIへ、提示する・受けると決めるは判断なので人に残ります。
境目で効くのは第5工程です。相手方の性格、これまでの経緯、急ぎ具合が絡む場面で、過去の記録から論点を並べるところまではAIでできます。どの条件をいつ出すかは、店長と営業担当が読んで決めます。
第6工程には別の注意があります。交渉記録に含まれる情報は個人情報保護法の対象です。外部のAIサービスへ渡してよい項目と承認者を、使い始める前に決めます。
申込の内容は後の契約書面につながります。宅地建物取引業法は契約書面の交付などを定めており、条件の記載は会社の責任で確定させます。
最初に着手するのは交渉記録の作成です
着手する工程は、判断か作業か、データが揃っているか、失敗の損失がどれくらいかで選びます。この3点を当てると第6工程が残ります。
第6工程は作業で、入力はやり取りそのものです。誤っても記録を直せば済み、顧客に届く前に気づけます。反対に第5工程は判断そのもので、論点を並べるところで止めます。
顧客管理がすでにツールで回っているなら、第6工程は数日で試せます。記録がメールの下書きに散っているなら、置き場所を1つに決めるのが先です。申込書の様式が物件種別ごとに分かれているなら、第4工程はさらに後へ回します。
2週間で測るのは記録率と行き違いの件数
試行は6つの段で回ります。
- 直近ひと月の案件を数え、交渉記録の作成率、1件あたりの記録時間、条件の行き違いの件数を記録します。
- 記録の置き場所を1つに決めます。顧客管理の案件ごとの欄に寄せるのが基本です。
- 記録に残す項目を5つに絞ります。日付、相手、話した条件、次にやること、期限の5つです。
- 営業担当が面談後に音声かメモを渡し、AIが記録を起こします。担当が読んで確定させます。
- 記録された案件と、されなかった案件を毎週数えます。残らない曜日と時間帯が見えてきます。
- 2週間後に同じ3つの数字を並べ、続けるか項目を減らすかを決めます。
測る3指標は、時間・誤り・発見時期に対応します。記録時間が時間、行き違いの件数が誤り、記録の作成率が抜けの出方です。担当が休んだ日に店長が案件を引けるかどうかを試すと、引き継げる形かどうかが分かります。
本番で決める記録の範囲と承認者
承認は第1工程と第6工程の確定です。営業担当が記録を読んで確定させる形を動かしません。自動で書き込まれた記録をそのまま正とすると、誤りが後の交渉で効いてきます。
記録は、元のメモか音声、起こした記録、確定版、確認者、日付を残します。元を残さないと、記録が食い違ったときに戻せません。保存の期間と削除の方法も同時に決めます。
例外は先に決めます。苦情、係争を含む案件、家族間の相続が絡む案件は、要約を作らず担当が直接書きます。言い回しで意味が変わる領域だからです。
記録は増えたのに引き継げないのはなぜか?
起きやすい失敗は、記録は増えたのに読める形になっていないことです。原因は、残す項目を決めずに会話をそのまま要約させ、案件ごとに粒度が変わることにあります。
防ぎ方は、残す項目を5つに固定し、その枠に入らない情報は本文へ回す形にすることです。項目が揃っていれば、店長が並べて読んだときに進捗を比べられます。
本メディアでは、記録が残らない会社は、論点の整理より先に記録の負担を下げることから始めるべきだと判断します。理由は、記録が無ければ過去を引く仕組みも動かず、属人化の本体が残るからです。前提は、面談や電話の後に担当が手を動かせる余裕があることです。余裕が無いなら、音声を渡すだけで記録になる形まで負担を下げます。
本メディアでは、交渉の進め方そのものをAIに決めさせることは勧めません。理由は、相手方との関係や過去の経緯という記録に残らない材料が判断を左右するからです。前提は、店長が案件を見ていることです。店長が全件を見られない体制なら、論点の一覧を店長への報告資料として使う形に留めます。
口頭のやり取りが主の会社は先送りにする
交渉記録にAIを入れない方がよい条件は三つです。顧客管理が無く記録の置き場所が決まっていない会社、案件ごとに記録の粒度が違う会社、外部サービスへ渡す情報の範囲を決めていない会社です。
この状態でAIを足すと、起こした記録の置き場所がなく、確認だけが増えます。置き場所と項目と範囲の3つが決まっていれば、記録の作成は最初の1業務として回しやすい工程になります。
出典
- 個人情報の保護に関する法律(平成15年法律第57号)e-Gov法令検索 e-Gov法令検索 確認日 2026.09.22
- 商工中金「中小企業の生成AIの利用にかかる調査(2026年1月調査)」 商工中金 確認日 2026.09.22
- 宅地建物取引業法(昭和27年法律第176号)e-Gov法令検索 e-Gov法令検索 確認日 2026.09.22


