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整備工場の入庫予約AI|担当が取り逃す1日の電話と内製の限界比較

公開 2026.09.08 ・ 読了目安 約15分

夕方5時、引き渡しの車を1台送り出したところで、事務所の電話が鳴り始める。ピットではリフトが1台上がったままで、手を止められる人が誰もいない。「リフトの下で手が離せないときに限って、電話が鳴る。3回鳴って切れた1本が、翌日には近所の別の工場に入庫していた」——数名規模の整備工場でフロントと現場を兼ねている方なら、この場面に心当たりがないはずはありません。入庫予約の電話は、整備要員の手が最も塞がっている時間に集中します。1本の電話に出るために作業を止めれば1台の納期がずれ、出なければ1件の予約が消える。どちらを選んでも損が出る構造が、整備工場の受付にはあります。

「予約の電話くらい自分たちで何とかなる」と考えてきた工場ほど、この構造は放置されがちです。人を1人増やして電話番を置けばいい、という解決策が効かないことも、公表されている数字が示しています。この記事では、整備工場の入庫予約管理で生成AIに任せられる範囲と任せてはいけない範囲、自前で組む場合の限界、プロに任せる場合との違い、導入前に決めておく判断材料と費用の見方を、日整連と国土交通省の公表数値をもとに整理します。

30-SECOND SUMMARY忙しい方へ|この記事の結論
  1. 入庫予約の取りこぼしは担当者の注意力ではなく規模の問題。1事業場あたりの整備要員は4.36人、整備要員以外は565,680人−402,367人=163,313人を92,251事業場で割った1.77人で、電話に出る人と作業する人が同じ1人になる(出典:日整連「令和7年度 自動車特定整備業実態調査結果の概要について」2026年1月公表、2026年9月確認)
  2. 「電話番を1人採用する」は成立しない。自動車整備要員の有効求人倍率は令和5年度で4.99倍、全職種は1.17倍で、約6割の事業者が整備士の不足を感じている(出典:国土交通省「自動車整備士の確保・育成に係る課題とこれまでの取組」、2026年9月確認)
  3. 生成AIに任せるのは一次受付・聞き取り・候補日の提示・確認の連絡・記録の一本化まで。診断・部品と工賃の確定・事故や保険は整備士が持つ。判断の単位は整備要員1人の1営業日およそ5.2万円(専・兼業12,537千円÷240営業日)(出典:日整連 令和7年度実態調査の公表値からの算出、2026年9月確認)

電話が鳴る時間と手が塞がる時間が重なる——整備要員4.36人という構造

入庫予約の取りこぼしは、担当者の注意力の問題ではありません。工場の規模と、電話が鳴る時間帯の性質が重なって生まれる構造の問題です。この章では、その構造を公表数値で確かめたうえで、出られなかった1本の電話がどれだけの重さを持つのかを、1営業日あたりの売上という物差しで見ていきます。

手が塞がっている時間に、予約の電話が重なる

整備工場の1日は、朝の受け入れ、午前の作業、昼の引き渡し、午後の作業、夕方の引き渡しという流れで進みます。一方で、入庫予約の電話が鳴るのはお客様が動ける時間、つまり朝の出勤前、昼休み、夕方の帰宅前の3つの時間帯です。この3つの時間帯は、工場側では受け入れ・引き渡し・作業の山と正確に重なります。1台をリフトに上げた直後に1本の電話が鳴る。手袋を外して受話器を取れば1台の作業が止まり、取らなければ1件の予約を失う。1日の中でこの選択が何度か訪れ、そのたびにどちらかを捨てているのが実態です。

電話に出られたとしても、そこで終わりではありません。その場で予約台帳を開き、空き枠を確認し、車種と作業内容を聞き取り、代車の要否を確認し、折り返し用の番号を控える。1件の予約を成立させるまでに、1人の手が完全に止まります。さらに、聞き取った内容を紙のメモから台帳に転記する2回目の作業が残ります。1件の予約につき、受電と転記の2回、1人の手が止まる。この2回が1日の中で積み重なり、夕方には「今日、電話で何件受けたか」が誰にも正確に分からない状態になります。翌朝、台帳と紙のメモを突き合わせて1件の重複や1件の記入漏れが見つかるのは、この2回の分断が原因です。

私は、この問題の本質を「電話に出る人がいない」ことではなく「電話に出る人と作業する人が同じ1人である」ことだと考えています。同じ1人が受話器とレンチを持ち替えている限り、どれだけ注意深く運用しても、1日のどこかで1本は落ちます。落ちた1本が定期点検の予約なのか、車検の予約なのか、事故車の入庫相談なのかは、切れた電話からは分かりません。

1事業場あたり整備要員4.36人という規模が、電話番を置けなくしている

それなら受付専任を1人置けばいいという発想が現実的でないことは、業界の規模を示す数字が物語っています。日整連(日本自動車整備振興会連合会)が2026年1月に公表した「令和7年度 自動車特定整備業実態調査結果の概要について」によると、1事業場あたりの整備要員数は4.36人です(出典:日整連 令和7年度実態調査、2026年9月確認)。事業場(認証工場)数は92,251事業場、うち指定工場は29,810事業場、企業数は72,317社で、この調査は92,251事業場の中から2割を対象に行われ、有効回答率は40%です(出典:同調査、2026年9月確認)。

4.36人という数字の意味は明確です。整備要員のうち1人が電話に専念すれば、残りの手だけで1日の作業を回さなければならない。指定工場でも認証工場でも、リフトの前に立つ人数が減れば、その分だけ1日に仕上げられる台数が減ります。電話に出るために1人を外す判断は、1日の売上を削る判断と同じです。

では、整備要員以外の人員はどうか。同じ調査では、整備関係従業員数が565,680人、そのうち整備要員(工員)数が402,367人です(出典:日整連 令和7年度実態調査、2026年9月確認)。565,680人から402,367人を引いた163,313人が、フロント・事務・営業などを含む整備要員以外の従業員です。これを92,251事業場で割ると、163,313人÷92,251事業場=1事業場あたり1.77人になります(出典:日整連 令和7年度実態調査の公表値からの算出、2026年9月確認)。つまり、受付・見積・部品発注・請求・保険会社とのやり取り、そして電話のすべてを、1事業場あたり2人に満たない1.77人が抱えている計算です。電話専任の1人を置ける規模ではないことが、この1.77人という数字から読み取れます。

「人を増やせばいい」という選択肢が現実的でないことは、国土交通省の資料がさらに裏付けています。国土交通省「自動車整備士の確保・育成に係る課題とこれまでの取組」によると、自動車整備要員の有効求人倍率は令和5年度で4.99倍、同時期の全職種は1.17倍です(出典:国土交通省 同資料、原典は厚生労働省「職業安定業務統計」、2026年9月確認)。4.99倍÷1.17倍=およそ4.3倍、つまり全職種の4.3倍の競争率で人を探す業界です。同資料には「約6割の事業者が自動車整備士の不足を感じている」と記載され、内訳は「不足と感じている」31.9%、「やや不足と感じている」24.3%です(出典:国土交通省 同資料、2026年9月確認)。さらに自動車整備学校の入学者数は12,394人から7,068人へ、過去20年で半減しています(出典:国土交通省 同資料、原典は全国自動車大学校・整備専門学校協会調べ、2026年9月確認)。「電話番を1人採用する」という解決策は、この数字の前では成立しません。

出られなかった1本の重さを、1営業日5.2万円という数字で見る

取りこぼしが月に何件あるかは、工場ごとに違います。私は、その件数を推計で語ることに意味はないと考えています。意味があるのは「1件の重さ」を知ることです。1件の重さが分かれば、自分の工場で何件落ちているかは工場長自身が最もよく分かるからです。

日整連の令和7年度実態調査によると、専・兼業の整備要員1人あたり年間整備売上高は12,537千円で、前年度比+10.2%です(出典:日整連「令和7年度 自動車特定整備業実態調査結果の概要について」2026年1月公表、2026年9月確認)。年間およそ1,253万円です。年間営業日を240日とすると、1,253万円÷240日=1営業日あたりおよそ5.2万円。これが、整備要員1人の手が1営業日動いたときに生まれる整備売上です(出典:日整連 令和7年度実態調査の公表値からの算出、2026年9月確認)。1事業場に直せば、4.36人×12,537千円=1事業場あたり年およそ5,466万円になります(出典:日整連 令和7年度実態調査の公表値からの算出、2026年9月確認)。

電話1本のために手が止まる時間は、1営業日のごく一部です。ただし、その一部が1日の中で何回か重なり、1週間で見れば1人分の何時間かが受話器に消えています。そして出られなかった1本が車検1件の予約だったなら、その1件は他所に流れ、翌年の車検も戻ってこない可能性があります。1件の重さは、1営業日5.2万円の一部ではなく、翌年以降の複数年分に及ぶ。これが、私が「件数ではなく重さで見るべきだ」と考える根拠です。

市場全体の動きも見ておきます。総整備売上高は6兆6,592億円で、前年度より4,031億円・+6.4%増、4年連続の増加です(出典:日整連 令和7年度実態調査、2026年9月確認)。作業内容別では、車検整備が+1,637億円(+6.4%)、定期点検整備が+360億円(+7.9%)、事故整備が+1,055億円(+9.4%)、その他整備が+979億円(+4.6%)と、いずれも増えています(出典:同調査、2026年9月確認)。保有車両数は82,700千台で+0.2%です(出典:同調査、2026年9月確認)。需要は伸びている。伸びている需要を、受付の入口で落としているのが問題の正体です。

入庫予約で生成AIに任せられる範囲と任せてはいけない範囲

整備工場の入庫予約で生成AIに任せる一次受付・聞き取り・候補日の提示・確認の連絡・記録の一本化と、整備士の判断として人が持つ診断と部品と工賃の確定の境界
入庫予約のうちAIに任せる範囲(一次受付・聞き取り・候補日の提示・確認の連絡・記録の一本化)と、人が持ち続ける範囲(診断・部品と工賃の確定・事故や保険の対応)の境界(一般的な整理)

整備工場の入庫予約AIとは、電話の相手をすべて肩代わりする仕組みではなく、一次受付・聞き取り・候補日の提示・確認の連絡・記録の一本化までを整備要員の手を止めずに回し、整備士の判断が要る手前で人に渡すための道具立てのことです。「入庫予約を生成AIに任せる」と聞くと、電話の相手をすべてAIにさせる光景を想像する方がいます。実際に任せるべき範囲はもっと限定的で、そのぶん確実です。この章では、任せられる範囲・任せてはいけない範囲・その境界線を誰が決めるのか、の3点を整理します。

任せられる範囲:一次受付・聞き取り・候補日の提示・確認の連絡

生成AIが確実に担えるのは、判断を伴わない定型の受付です。第1に、24時間365日の一次受付。電話の自動応答、LINE、Webフォームのどこから入ってきても、同じ聞き取りで受けられます。第2に、聞き取り。車種、年式、走行距離、希望作業(車検、定期点検、オイル交換、タイヤ交換、板金の見積相談など)、希望日、代車の要否を、会話の形で1つずつ確認します。第3に、候補日の提示。予約台帳の空き枠と照らし合わせて、候補を2枠か3枠返します。第4に、確認の連絡。前日の確認、当日朝の再確認、入庫後の進捗、引き渡し予定の連絡を、1件ごとに自動で送ります。

見落とされがちなのが第5の役割、記録の一本化です。聞き取った内容を台帳に1回で記録し、紙のメモから転記する2回目の作業を消します。第1章で触れた「受電と転記の2回」のうち、2回目が消えるだけで、翌朝の突き合わせは大幅に軽くなります。そして第6に、出られなかった1本への対応。折り返しの電話をかけるのではなく、SMSやLINEで「予約受付の入口」を1本返す。お客様は自分の都合のよい時間に、24時間いつでも予約を完了できます。

これらはすべて「決まった手順を、決まった順番で、抜けなく行う」作業です。人がやれば1件ごとに手が止まりますが、AIがやれば整備要員4.36人の手は1本も止まりません(出典:日整連 令和7年度実態調査、2026年9月確認)。

任せてはいけない範囲:整備内容の判断・部品と工賃の確定・最終の受け入れ判断

一方で、AIに渡してはいけない範囲があります。第1に、症状からの診断と作業内容の決定。「走行中に異音がする」という申告から何を点検するかを決めるのは、整備士の技術判断です。第2に、部品の在庫・納期と工賃の確定。取り寄せが必要な部品の納期は1件ごとに違い、工賃は作業を見なければ決まりません。第3に、リフトの占有時間の最終判断。同じ車検でも、車種と状態と担当する整備士によって1台あたりの所要時間は変わります。第4に、事故車・保険案件のやり取り。保険会社との調整は、1件ごとに人が持つべき領域です。第5に、苦情やトラブルの対応。ここをAIに任せた瞬間に、お客様との関係が壊れます。

整備士保有率は82.9%で、ピークだった平成20年度の87.2%からは下がっているものの、整備要員402,367人のうち333,475人が整備士です(出典:日整連 令和7年度実態調査、2026年9月確認)。工場の価値は、この整備士の判断にあります。AIが担うのは判断の前段までであり、判断そのものを肩代わりさせる設計は、工場の価値を薄めます。

私が基本形として勧めているのは、「AIが受けた予約は仮受付、人が1件ずつ確定する」という運用です。AIは候補日を押さえ、必要な情報を揃えて人に渡す。人は1日の決まった時間に、揃った情報を見て確定する。これなら、1件の確定に手が止まるのは1日に1回か2回のまとまった時間だけで済みます。

境界線を決めるのは工場側であって、AIではない

任せる範囲と任せない範囲の境界線は、工場ごとに違います。指定工場29,810事業場と、それ以外の認証工場では受け入れの流れが違いますし、専業と兼業でも1日の組み立てが違います(出典:日整連 令和7年度実態調査、2026年9月確認)。整備要員の平均年齢は自家を除いて47.7歳、専・兼業では52.1歳、専業に限れば53.0歳です(出典:同調査、2026年9月確認)。長く通っているお客様も同じように年齢を重ねており、電話での予約を好む方は今後も一定数います。だからこそ、電話の入口は残したまま、AIの入口を1本足す設計が要点になります。

具体的に決めるのは3本の線です。1本目は「AIが受けた予約は仮、人が確定する」という線。2本目は「電話の入口は残す。ただし出られなかった1本にはAIの入口を返す」という線。3本目は「この作業種はAI受付の対象外にする」という線で、事故・保険・故障診断を含む案件はここに入れます。この3本の線を引くのは工場側の仕事であり、AIに決めさせることではありません。線を引かずにツールだけ入れると、AIが受けてはいけない1件を受け、人が確定すべき1件を確定してしまいます。ここが、後述する「自前で組む場合の限界」につながります。

自前で組む場合とプロに任せる場合の比較——内製の限界はどこにあるか

生成AIも予約フォームもチャットも、単体なら安価に手に入ります。「自分たちで組めそうだ」と考えるのは自然です。私は、自前で組むこと自体を否定しません。ただし、限界がどこに現れるかを先に知っておくべきです。限界を知らずに始めた自前の仕組みは、最初の1週間で壁にぶつかり、3ヶ月後には誰も触らなくなります。

自前で組む場合、最初の1週間で見えてくる3つの壁

1つ目の壁は、予約台帳の二重管理です。電話で受けた予約は紙かExcelの台帳、AIが受けた予約はツールの画面。1日の終わりに2つを突き合わせる作業が新たに増えます。減らすつもりだった転記が、1日1回のまとまった突き合わせに姿を変えて戻ってくる。台帳を1本にまとめる設計を最初にしなかったことが原因で、この壁は組み方の問題ではなく設計の問題です。

2つ目の壁は、例外です。「車検と一緒にタイヤも替えたい」「代車を2日間使いたい」「自宅まで引き取りに来てほしい」「前回の見積の続きで」——入庫予約は、1件ごとに条件が違います。例外をすべてAIに教え込もうとすると設定が肥大化し、1週間後には組んだ本人にしか構造が分からなくなります。逆に例外を切り捨てると、AIが受けられない1件が電話に戻り、結局1人の手が止まります。「例外はAIが判断せず、人に渡す」という逃げ道を最初から設計に入れていないと、この壁は越えられません。

3つ目の壁は、属人化です。整備要員4.36人、それ以外1.77人という規模で、仕組みを組んだ1人が休めば、その日は誰も直せません(出典:日整連 令和7年度実態調査の公表値からの算出、2026年9月確認)。1人に依存する仕組みは、1人の離脱で終わります。有効求人倍率4.99倍の業界で、その1人が退職した後に同じことができる人を採用するのは、さらに難しい(出典:国土交通省「自動車整備士の確保・育成に係る課題とこれまでの取組」、2026年9月確認)。

3つの壁に共通しているのは、ツールの性能ではなく「運用の設計」が抜けていることです。自前で組む場合の限界は、技術力の限界ではありません。設計を誰も担っていないことの限界です。

プロに任せる場合に手に入るのは「ツール」ではなく「設計と定着」

プロに任せる場合、手に入るのはツールそのものではありません。手に入るのは、第1に現状の可視化です。1週間分の電話を時間帯・用件・出られたかどうかで分類し、どの時間帯の何件が落ちているかを工場長自身の目で見えるようにする。第2に、線引きです。第2章で述べた3本の線を、工場の作業種・受け入れの流れ・お客様の層に合わせて引く。第3に、接続の設計です。既存の台帳や予約管理と、AIの受付を1本につなぐ。第4に、例外の逃げ道です。AIが判断できない1件を、誰に・どの形で渡すかを決める。第5に、定着です。運用開始後の3ヶ月で実際に起きた例外を集め、仕組みに戻す。

私がAI伴走顧問という形を取っているのは、この第1から第5までが1回の納品で終わらないからです。ツールは1日で入ります。設計は1週間で描けます。しかし定着は、実際に運用した3ヶ月分の例外を仕組みに戻す作業なしには起きません。ここを担う相手がいるかどうかが、自前とプロの最大の差です。なお、受付を既存の予約台帳や基幹システムにつなぎ込む部分は、伴走の中で設計だけを工場側に渡す形と、業務自動化ツール開発として作り切る形の2通りがあります。どちらを選ぶかは、運用開始後に仕組みを持てる人が工場側に1人いるかどうかで決まります。

もう1つ、プロに任せる場合の価値は「線引きを外の目で行える」ことにあります。工場の中にいると、「これは電話で受けるのが当たり前」という前提を疑えません。外の目は、その前提のうちどれが本当に人の判断を要するもので、どれが習慣にすぎないかを分けます。分けた結果、AIに渡せる範囲が思っていたより広かった、という結論になることも、逆に狭かったという結論になることもあります。どちらであっても、工場側が納得して線を引けることに意味があります。

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比較表で見る、内製と外注の違い

自前で組む場合とプロに任せる場合の違いを、7つの軸で並べます。優劣ではなく、どちらが自分の工場の状況に合うかを見るための表です。

比較軸 自前で組む場合 プロに任せる場合
最初にすること ツールの選定と設定から入りがち 1週間分の電話の可視化と、3本の線引きから入る
予約台帳との関係 電話分とAI分の2つの台帳になりやすい 台帳を1本にまとめる接続を最初に設計する
例外への対応 全部教え込むか、全部切り捨てるかの2択になりやすい AIが判断せず人に渡す逃げ道を設計に含める
担当者が休んだとき 組んだ1人が不在だと止まる 運用手順を工場側の複数人が持つ形で定着させる
運用開始後3ヶ月 例外が溜まり、触る人がいなくなりやすい 3ヶ月分の例外を仕組みに戻す
費用の見え方 ツール代は小さいが、担当者の時間が見えない費用になる 月額の顧問費用として見え、整備要員1人の1営業日を単位に回収を測れる
向いている工場 社内にITに強い人が1人おり、その人が長く在籍する前提が立つ工場 整備要員4.36人前後の規模で、線引きと定着を外の目で担ってほしい工場

表の7つの軸のうち、最も差が出るのは「担当者が休んだとき」と「運用開始後3ヶ月」です。ツールの設定は1日でできても、この2つの軸は設計と定着の話であり、自前で組む場合は最初から視野に入りにくい。表の最終行にある「向いている工場」の判断は、この2つの軸に自分の工場がどう耐えられるかで決まります。なお、表中の整備要員4.36人は日整連 令和7年度実態調査の公表値です(出典:日整連 令和7年度実態調査、2026年9月確認)。

導入前に決めておく判断材料と費用の考え方

導入するかどうか、どこまで任せるか、いくらまでなら回収できるか。この3つを決めるために必要な材料は、実はツールの比較資料ではなく、自分の工場の1週間の電話と、公表されている1営業日あたりの売上です。この章では、2つの判断材料と費用の見方を整理します。

判断材料1:電話が集中する時間帯と、そのとき誰の手が止まっているか

最初の判断材料は、自分の工場の電話の実態です。1週間、かかってきた電話を「時間帯」「用件」「出られたか」の3列で記録します。用件は、予約・変更やキャンセル・進捗確認・見積相談・その他の5分類で十分です。1週間分を並べれば、朝の1時間、昼の1時間、夕方の1時間のどこに何件が集中し、そのうち何件に出られなかったかが、推計ではなく自分の工場の数字として見えます。

重要なのは3列目の「出られたか」と、出られたときに「誰の手が止まったか」です。止まったのが整備要員なら、その1本は1営業日5.2万円を生む手を止めています(出典:日整連 令和7年度実態調査の公表値からの算出、2026年9月確認)。止まったのがフロントの1.77人のうちの1人なら、その1本は見積や部品発注を止めています(出典:同調査の公表値からの算出、2026年9月確認)。どちらの手が止まっているかで、AIに渡すべき範囲の優先順位が変わります。整備要員の手が止まっている工場は「一次受付」を先に渡すべきで、フロントの手が止まっている工場は「記録の一本化」と「確認の連絡」を先に渡すべきです。

この1週間の記録は、導入の判断そのものです。記録して「落ちている電話が思ったより少ない」と分かれば、導入を急ぐ必要はありません。「昼の1時間に予約の電話が集中し、そのうち何本かに出られていない」と分かれば、その1時間の電話をAIに渡すだけで状況は変わります。判断材料は、ツールの比較ではなく自分の工場の1週間にあります。

判断材料2:予約の種類を3つに分け、AIに渡す範囲を決める

2つ目の判断材料は、予約の種類の分類です。入庫予約を3つに分けます。1つ目は定型で、車検、定期点検、オイル交換、タイヤ交換のように、作業内容と所要時間の見当がつくもの。2つ目は条件付きで、代車が必要、引き取りが必要、部品の取り寄せを伴う、といった1件ごとの条件が付くもの。3つ目は要判断で、故障の申告、事故車、保険案件のように、整備士の判断と人の対応が最初から要るものです。

最初にAIに渡すのは、1つ目の定型だけで十分です。定型の1件は、聞き取る項目が決まっており、候補日の提示までAIで完結します。2つ目の条件付きは、AIが聞き取りまで行い、条件の確認は人に渡す。3つ目の要判断は、最初からAI受付の対象外にして、電話の入口に案内する。この3分類を最初に決めておけば、第3章で述べた「例外の壁」の大部分は、壁になる前に片付きます。

市場の側から見ても、この分類には根拠があります。作業内容別の増加額は、車検整備+1,637億円(+6.4%)、定期点検整備+360億円(+7.9%)で、定型に分類される車検・定期点検はいずれも前年度より伸びています(出典:日整連 令和7年度実態調査、2026年9月確認)。伸びている定型の受付を先にAIへ渡すことが、取りこぼしを減らす順序として合理的です。

費用は「整備要員1人の1営業日」を単位に回収を見る

費用の見方について、私は金額そのものよりも「単位」を先に決めるべきだと考えています。単位は、整備要員1人の1営業日です。専・兼業の整備要員1人あたり年間整備売上高12,537千円を240営業日で割った、1営業日あたりおよそ5.2万円がその単位です(出典:日整連 令和7年度実態調査の公表値からの算出、2026年9月確認)。

月額の費用を5.2万円で割れば、「1ヶ月に整備要員1人の何営業日分か」が出ます。その営業日数分の手が、電話から解放されて作業に戻るかどうか。あるいは、その営業日数分に相当する予約の取りこぼしが、1ヶ月で止まるかどうか。この2つのどちらかが成り立てば回収でき、どちらも成り立たなければ導入すべきではありません。具体的な費用額は、工場の規模とAIに渡す範囲で決まるため、ここで一律の金額を示すことはしません。示せるのは、この単位で見れば判断がぶれない、ということです。

比較対象として、人を雇う場合の費用も同じ単位で見ておきます。整備要員の平均年収は自家を除いて4,428.9千円、専・兼業では4,015.2千円で、はじめて400万円を超えました(出典:日整連 令和7年度実態調査、2026年9月確認)。受付専任を1人雇えば、年に4,015.2千円規模の人件費が固定で増え、しかも有効求人倍率4.99倍の業界で採用が成立する保証はありません(出典:国土交通省「自動車整備士の確保・育成に係る課題とこれまでの取組」、2026年9月確認)。1事業場あたり年およそ5,466万円という売上規模に対して、この固定費をどう見るか(出典:日整連 令和7年度実態調査の公表値からの算出、2026年9月確認)。AIの月額費用を同じ「整備要員1人の1営業日」という単位に置き直せば、人を雇う場合との比較も同じ土俵でできます。

回収を1ヶ月で判断しないことも要点です。第3章で述べたとおり、定着には運用開始後3ヶ月分の例外を仕組みに戻す期間が要ります。1ヶ月目は線引きの調整、2ヶ月目は例外の収集、3ヶ月目に運用が安定する。回収の判断は、この3ヶ月を1つの区切りとして行うのが実務的です。

ビフォーアフター:整備工場の1日がここまで変わる

BEFORE

電話に追われる現状の1日

朝8時、工場を開けると同時に1台目の受け入れが始まります。お客様から鍵を預かり、作業内容を確認している最中に、電話が1本鳴る。フロントの1人が出ると、車検の予約です。台帳を開いて空き枠を探しながら車種と希望日を聞き、折り返し番号をメモに書く。その間に2台目のお客様が到着し、整備要員が1人、リフトから降りて受け入れに回ります。

午前10時、作業が本格化した頃に2本目の電話。整備要員が手袋を外して受話器を取ると、進捗確認でした。「午後には終わります」と答えて作業に戻るまでに、1台の作業の流れが切れています。昼12時、引き渡しの時間帯と昼休みの電話が重なる。3本目と4本目が立て続けに鳴り、1本は出られたが、1本は3回鳴って切れました。切れた1本が誰からの何の用件だったかは、分かりません。

午後3時、朝の電話で受けた車検予約を台帳に転記していないことに気づき、紙のメモを探す。夕方5時、引き渡しの山と帰宅前の電話が重なり、5本目と6本目。1本は明日の予約変更で、1本はタイヤ交換の相談。閉店後、紙のメモと台帳を突き合わせると、朝の1件の転記漏れと、昼の1件の重複が見つかります。昼に切れた1本は、そのまま消えました。整備要員4.36人という規模の工場で、この1日は特別な日ではありません(出典:日整連 令和7年度実態調査、2026年9月確認)。

AFTER

入庫予約が流れていく1日

朝8時、工場を開けた時点で、前夜と早朝にAIが受けた仮予約が3件、揃った情報とともに1つの画面に並んでいます。車種、希望作業、希望日、代車の要否まで聞き取り済みです。フロントの1人が、受け入れの合間ではなく朝の決まった時間に3件をまとめて確認し、確定する。整備要員はリフトから降りません。

午前10時、電話が1本鳴りますが、出られませんでした。切れた1本には、AIがSMSで予約受付の入口を1本返します。お客様はその場で車検の希望日を入れ、候補日が2枠返り、1件の仮予約が成立します。昼12時、引き渡しの時間帯に鳴った電話は、AIの一次受付が用件を聞き取り、進捗確認の1本には予定時刻を返し、予約の1本には候補日を返しています。人が出なければならなかったのは、事故車の入庫相談の1本だけです。この1本は、最初から人に渡す線を引いてあります。

午後3時、転記する紙のメモはありません。AIが受けた分も、電話で受けて人が入力した分も、同じ1つの台帳にあります。夕方5時、明日入庫する予定のお客様全員に、AIが確認の連絡を1件ずつ送っています。閉店後の突き合わせは、AIが「人の確認待ち」として残した2件を見るだけで終わります。落ちた1本はなく、切れた1本にも入口が返っています。

違いを生んでいるのはツールではなく運用設計

BeforeとAfterの違いは、電話の本数ではありません。Afterでも電話は同じように鳴っています。違うのは、鳴った1本をどこで受け、誰が確定し、台帳のどこに落ちるかが、あらかじめ決まっていることです。「AIが受けた予約は仮、人が確定する」「出られなかった1本にはAIの入口を返す」「事故・保険・故障診断は最初から人に渡す」という3本の線が引かれているから、1日が流れます。線を引かずにツールだけ入れたAfterは、Beforeに2つ目の台帳が増えただけの1日になります。「うちはまだBefore寄りだ」と感じた方は、ツールを探す前に、自分の工場の1週間の電話と3本の線を見直すところから始めてください。Before寄りなら、次の案内で具体的な相談の入口を示します。

よくある質問

Q電話での予約が中心の工場でも、生成AIによる入庫予約は機能しますか?

A機能します。前提は、電話の入口を残すことです。整備要員の平均年齢は専・兼業で52.1歳であり、お客様も同じように年齢を重ねているため、電話を好む方は一定数います(出典:日整連 令和7年度実態調査、2026年9月8日確認)。設計としては、電話の入口はそのまま残し、出られなかった1本にAIの入口を1本返す形から始めます。電話で受けた分もAIが受けた分も1つの台帳に落ちるようにしておけば、お客様側の行動を変えずに、工場側の取りこぼしと転記だけを減らせます。

Q予約管理ソフトをすでに使っています。そこに生成AIを足す意味はありますか?

A意味があるかどうかは、そのソフトに「誰が入力しているか」で決まります。予約管理ソフトは台帳です。台帳に入力するのが人である限り、電話に出る手と転記する手は止まったままです。生成AIが担うのは、その台帳の手前にある聞き取りと候補日の提示、出られなかった1本への入口の返送、確認の連絡です。既存のソフトを置き換えるのではなく、既存のソフトを1本の台帳として活かしたまま、その手前の受付をAIに渡す設計が基本になります。導入前に、1週間分の電話を記録して、どの用件の何件が人の手を止めているかを確かめてから判断することを勧めます。

Qまず自前で試してみてから相談しても遅くありませんか?

A遅くはありません。自前で試した1週間の記録と、ぶつかった壁は、そのまま線引きの材料になります。ただし、2点だけ先に押さえてください。1点目は、台帳を2つにしないこと。電話分とAI分が別の台帳になった時点で、突き合わせの作業が増えます。2点目は、事故・保険・故障診断を最初からAI受付の対象外にすること。ここをAIに受けさせた1件が、お客様との関係を壊します。この2点を守った上で試すなら、自前の1週間はプロに任せる場合の設計を短縮する材料になります。

まとめ

  • 入庫予約の取りこぼしは注意力の問題ではなく、1事業場あたり整備要員4.36人・それ以外1.77人という規模で、電話に出る人と作業する人が同じ1人である構造の問題(出典:日整連 令和7年度実態調査、2026年9月8日確認)
  • 有効求人倍率4.99倍の業界で電話番を1人採用する解決策は成立しない。出られなかった1本の重さは、整備要員1人の1営業日およそ5.2万円と、翌年以降の複数年分の車検で見る(出典:国土交通省資料・日整連 令和7年度実態調査、2026年9月8日確認)
  • 生成AIに任せるのは一次受付・聞き取り・候補日の提示・確認の連絡・記録の一本化まで。診断・部品と工賃の確定・事故や保険・苦情は人が持つ
  • 自前で組む場合の限界は技術力ではなく設計の不在。台帳の二重化・例外・属人化の3つの壁は、線引きと3ヶ月の定着を担う相手がいるかで越えられるかが決まる
  • 導入前に決めるのは、1週間の電話の記録と予約の3分類。費用は「整備要員1人の1営業日」を単位に、3ヶ月を区切りとして回収を見る

監修者|生成AIの導入から定着まで伴走する専門家が確認しています

吉元大輝(よしもとひろき)

株式会社BoostX 代表取締役社長

中小企業の生成AI導入を支援する「生成AI伴走顧問」サービスを提供。業務可視化から定着支援まで、一気通貫で企業のAI活用を推進している。

公開日:2026年9月

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