この記事の要点
- 月末の出来高請求は、支払条件の読み取りと請求書の下書き、入金の突合をAIに渡せます。
- 人に残るのは今月請求するかの判断、請求額の照合、差異の確定と残高の承認です。
- 本メディアでは、案件コードが請求管理表と会計ソフトで揃っていない会社は揃える作業が先だと判断します。
定義対象は、元請または一次下請の経理担当が、発注者へ出来高に応じた請求書を出し、入金を確認して消し込むまでの業務です。
月末が近づくと、経理担当は契約書の綴りを開きます。支払条件は案件ごとに違い、前払、出来高払、完成払の組み合わせも並びません。請求の起点を探す作業から、月末の事務が始まります。
この作業を「事務をAIで減らす」とひと言で言うと、渡す先を誤ります。請求には、写す仕事と、金額を確定する仕事が並んでいるためです。工程に割り、写す側だけを渡します。
出来高請求はどこで止まるか?
対象は、元請または一次下請の経理担当が、発注者へ出来高に応じた請求書を出し、入金を確認して消し込むまでの業務です。読む人は経理担当、総務担当、経営者を想定しています。協力会社からの請求書を発注と照合して支払う業務は原価・購買の側なので、ここでは扱いません。
棚卸しの単位で並べると、次のようになります。
- 担当:経理担当。出来高の確定には現場代理人が関わります
- 起点:契約書に定めた支払時期の到来と、銀行口座への入金
- 入力:請負契約書の支払条件、出来高確認書、既請求額の一覧、銀行明細、発注者指定の様式
- 出力:請求書、送付記録、消込結果、未入金一覧、売掛金の計上
- 使うシステム:Excelの請求管理表、会計ソフト、ネットバンキング、メールと郵送
- 例外:出来高の査定方法が契約書に無い案件、相殺の取り決めがある発注者、合算で入る入金
建設業法は、請負契約の書面に記載する事項として、前金払や出来形部分に対する支払の定めをするときの支払時期と方法を挙げています。請求の起点は契約書に書かれた条件で決まり、経理担当はその条件を案件ごとに読み取るところから業務に入ります。
国土交通省の参考資料集(令和8年4月3日)のp83では、すべて書面で契約している会社が83.0%、一部電子が15.3%、すべて電子が1.7%と示されています。契約書が紙の綴りにある会社では、支払条件の読み取りが毎月の人の作業として残ります。
案件数と請求件数は会社ごとに違うため、この記事では数値を置きません。表の量と時間の欄は、自社で測る単位として読んでください。

請求案件の洗い出しから月次の締めまでを7工程に割る
請求と消込をひとかたまりで見ると、手を入れる場所が決まりません。今月分の洗い出しから月次を締めるところまでを時系列に並べると、7つの工程が現れます。まず担当・帳票・量・詰まる点を見ます。
| 工程 | 担当 | 使う帳票・システム | 量か時間 | 詰まるところ |
|---|---|---|---|---|
| 1 今月請求する案件を洗い出す | 経理担当 | 請負契約書、案件一覧、請求管理表 | 案件数に比例 | 契約書から条件を探す |
| 2 出来高を確定する | 現場代理人、発注者 | 出来高調書、工程表、写真 | 現場側の日数 | 確認書が届くまで動けない |
| 3 請求書を作る | 経理担当 | 出来高確認書、発注者指定の様式 | 1件あたりの作成時間 | 発注者ごとに様式が違う |
| 4 送付して記録を残す | 経理担当 | 郵送、メール、電子請求システム | 送付先の数 | 手段が発注者ごとに違う |
| 5 入金を確認して消し込む | 経理担当 | 銀行明細、請求管理表 | 入金件数に比例 | 合算入金を分解できない |
| 6 未入金を追う | 経理担当、営業 | 未入金一覧、支払条件 | 件数に比例 | 誰が連絡するか決まらない |
| 7 会計ソフトへ計上して締める | 経理担当 | 請求書、消込結果、会計ソフト | 月次 | 請求管理表と二重入力 |
同じ7工程を、AIに渡せることと人が持つことで並べ直します。AIが出すのは予定と下書き、差異の候補までで、金額は確定しません。
| 工程 | AIが解決すること | 人が決めること | 失敗したときの損失 |
|---|---|---|---|
| 1 | 契約書の支払条件を読み取り、案件ごとの請求予定を根拠の箇所付きで並べる | 出来高が固まっていない案件を今月出すか | 請求が翌月に回り資金繰りが狂う |
| 2 | AIを入れない工程。出来高の合意は現場と発注者が行う | 出来高の見立てと発注者との合意 | 確認書が無いまま請求して差し戻される |
| 3 | 出来高確認書と既請求額から、様式に沿った請求書と送付文を下書きする | 今回請求額と累計が契約金額に収まるか | 金額違いの請求書が外に出る |
| 4 | 発注者ごとの手段に合わせて送付し、送付記録を残す | 送信を押すかどうか、郵送指定の扱い | 送付漏れで入金が止まる |
| 5 | 銀行明細と請求一覧を突き合わせ、差の理由の候補を付ける | 手数料・合算・相殺・分割のどれかの確定 | 残高が実態とずれたまま締める |
| 6 | 支払期日を過ぎた案件を並べ、確認の連絡文を下書きする | 連絡する相手、時期、表現 | 取引関係を損ねる、入金が遅れる |
| 7 | 確定した請求と消込から、会計ソフトへ取り込む仕訳を作る | 取り込み前の件数と合計額の承認 | 二重入力で残高が合わなくなる |
図の見方は、色枠がAIの担う工程、灰色が経理担当や現場代理人が確定する工程、二重枠がその両方です。右上の小さな三角は、金額のずれにつながりやすい工程を指しています。
AIで消える工程は7の二重入力です。請求管理表と会計ソフトへ同じ数字を二度打ち込む作業が無くなります。
短くなる工程は1・3・4・6です。支払条件の読み取り、請求書の下書き、送付、催促文の作成が先に用意されます。
新しく増える確認工程は5です。差が出た入金について、手数料か合算か相殺かを人が確定する検証が毎回入ります。
AIが下書きし、経理担当が金額を確定する境目
工程に割ると、渡してよい仕事の性質が見えます。読み取る・写す・突き合わせるは作業なのでAIへ、請求すると決める・金額を確定する・残高を承認するは人に残ります。境目を先に引くと、下書きの扱いで迷わなくなります。
境目で効くのは工程5です。振込手数料の差し引き、複数案件の合算、相殺後の入金は、どれも金額が合いません。AIは差が手数料相当かどうかの候補までを示せますが、手数料を先方負担とする契約かどうかは、発注者との合意を知る人が決めます。
工程3にも境目があります。今回請求額が出来高確認書と一致すること、累計が契約金額を超えていないこと。この2点は請求書に社名を出す会社の責任なので、下書きが速く出ても人が見ます。見る項目を2つに固定しておくと、確認が形だけになりません。
送る情報の範囲も先に決めます。契約金額、発注者名、振込先、銀行明細は取引の機密です。外部のAIサービスへ渡してよい項目と、入力した内容が学習に使われるかどうかを、契約と設定で確かめてから使い始めます。
着手する1工程は請求書の下書きから
判断か作業か、材料が電子で残っているか、失敗したときの損失がどこで見つかるか。この三つで工程3が残ります。写すだけの作業で、材料は出来高確認書にあり、誤っても送付前の照合で止まるためです。
出来高確認書がPDFで届いているなら、工程3から着手できます。紙で回っているなら、確認書を受け取る経路を一つにするところが先です。案件コードが請求管理表と会計ソフトで違うなら、揃える作業が先になります。支払条件が案件ごとに大きく違うなら、進行中の案件だけを1行ずつ文字にすれば工程1の材料になります。
本メディアでは、案件コードが揃っていない会社が工程5の消込から入ることは勧めません。突き合わせた結果が案件に結びつかず、差異の理由を追えないためです。前提は、請求と入金を同じコードでたどれることです。会計ソフトで案件別に管理している会社は、この前提を満たすので工程5から同時に始められます。
2週間の試行で並べる三つの数字
対象は進行中の案件に絞ります。手順は六つで足ります。
- 導入前の数字を測ります。請求予定の作成時間、請求書1件の作成時間、消込にかかった時間です。
- 進行中の案件について、支払条件の欄だけを1行ずつ文字にします。契約書の全部を電子化する必要はありません。
- 請求予定を出させ、読み取りの根拠が契約書と合っているかを経理担当が見ます。
- 請求書を下書きさせ、今回請求額と累計の2点を照合してから送付します。
- 銀行明細と請求一覧を突き合わせ、差の出た入金だけを人が確定します。
- 2週間後に同じ三つの数字を並べ、経理責任者が続けるか止めるかを決めます。
測る三つは、時間・誤り・発見時期に対応しています。作成と消込の時間が時間、差異の見逃し件数が誤り、請求の遅れ件数が発見時期にあたります。時間だけを追うと、照合を飛ばして速くするだけになります。
合否の線は開始前に決めます。請求の遅れ件数が導入前を下回ることを条件にすると、支払条件の読み取りが効いたかどうかが見えます。
本番に載せるときの承認・記録・例外
承認は二段です。経理担当が請求書と消込を確定し、経理責任者または経営者が月次の売掛金残高を承認します。送付は初期のうち経理担当が押す形にし、自動で出す範囲は発注者を限って広げます。
記録は六つを請求管理表か会計ソフトに残します。支払条件の読み取り根拠、請求書の版、送付記録、消込の理由、確認した人、確認した日です。確定した金額だけを残すと、差異の理由を後から追えません。
例外は先に決めます。出来高の査定方法が契約書に無い案件、相殺の取り決めがある発注者、分割で入る入金は人が管理する案件として印を付けます。銀行明細が取れない日は画面から手で消し込みます。
残高がずれる失敗と、戻し方
起きやすい失敗は、差の出た入金を一致として処理することです。手数料や相殺を確かめずに消し込むと、売掛金残高が実態とずれたまま月次が締まります。戻し方は、差額のある入金は必ず理由を1行書いてから消し込む運用にすることです。
二つ目は、支払条件の読み取り誤りが請求予定に残ることです。根拠の箇所を添えない設定にすると、誤りが見つかるのは入金が来ない月末です。読み取り根拠を必ず添え、初月は全件を経理担当が見ます。
三つ目は、未入金の連絡が止まることです。一覧が出ても、誰が連絡するかが決まっていなければ動きません。金額と経過日数で線を引き、誰が連絡するかを先に決めておきます。
案件コードが揃っていない会社は、先に揃える
請求管理表と会計ソフトで案件の呼び方が違う会社では、突き合わせが成り立ちません。契約書が担当者のキャビネットに分かれているなら、置き場を決めるところからです。コードの統一と契約書の置き場を決めてから、読み取りに入ります。
本メディアでは、請求書の送付を最初から自動にすることは勧めません。送付先と様式の指定が発注者ごとに違い、誤送付の損失が作業時間の短縮を上回るためです。前提は、発注者が十数社の規模で、様式の違いを人が把握していることです。発注者が公共の電子請求システムに一本化されている会社は、この前提が外れるので、送付から自動にしても構いません。
出典
- 建設業法(昭和24年法律第100号)e-Gov法令検索 e-Gov法令検索 確認日 2026.09.22
- 国土交通省 不動産・建設経済局建設業課「参考資料集」(令和8年4月3日) 国土交通省 確認日 2026.09.22


