この記事の要点
- 粗利が遅れる原因は集計の速さではなく、現場からの提出・案件コード・見込みの更新の3か所にあります。
- AIは未提出の洗い出し、コードの付け漏れの検出、科目別の集計と前月比までを担えます。
- 赤字案件への対処と受注の可否は、工事部長と経営者に残ります。
定義出来高とは、工事の進捗に応じて完成した部分の金額または割合を示す指標で、請求と原価管理の根拠になります。
遅れが痛いのは、打ち手を取れる時期を過ぎてから数字が出るからです。国土交通省の参考資料集(令和8年4月3日)では、建設業の就業者は477万人で平成9年のピークから30.4%減り、55歳以上が36.6%を占めます。人が減るほど技術者は現場を掛け持ちし、締めの資料づくりは月初の数日に寄ります。遅れで失う金額は統計に無いので、超過が分かった日と着工日の差を案件ごとに数えて置き換えます。
案件別採算表は会社のどこで作られているか?
月初になると、経営企画と工事部長がExcelを開いて案件ごとの数字を並べます。ここで作られるのが案件別採算表です。出来高とは、工事の進捗に応じて完成した部分の金額または割合を示す指標で、請求と原価管理の根拠になります。採算表は、この出来高と発注・請求を同じ案件コードで並べ、案件ごとの粗利を見る表です。
この記事の要点
- 遅れの原因は集計の速さではなく、提出・コード・見込みの3か所にあります。
- AIは未提出の洗い出しと集計までで、赤字案件への対処と受注の可否は人に残ります。
- 着手は採算表の自動化ではなく、案件コードの付け漏れの検出から始めます。
担当は経営企画、工事部長、経理、経営者です。起点は月次締めと経営会議の日程で、入力は実行予算書、出来高報告、発注・請求データ、受注見込み表、配置表です。出力は案件別採算表、超過の要因メモ、経営会議資料と議事録になります。使う道具は原価管理システムまたは案件別Excel、会計ソフト、共有フォルダです。例外は、月をまたいだ追加工事と、着工前に配置だけ押さえている案件です。
この記事では、月次締めが翌月の上旬に終わることを前提として置きます。締めが月末近くまでずれ込む会社では、以降の工程の並びも後ろにずれます。

月次締めから経営会議までを6工程に割る
採算表という一語で見ていると、原因が集計作業にあるように見えます。6工程に割ると、時間が乗るのは集計そのものではなく、数字が揃うまでの待ちだと分かります。量と時間の欄は公的統計に無いため、自社で測る欄として置いています。
| 工程 | 担当 | 使う帳票・システム | 量か時間 | 詰まるところ |
|---|---|---|---|---|
| 1 実行予算と出来高を集める | 工務 | 実行予算書、出来高報告 | 締めの直後 | 現場からの提出が揃わない |
| 2 発注と請求を案件コードで当てる | 経理 | 会計ソフト、原価管理システム | 月初 | コードが揃っていない |
| 3 案件別の採算表を作る | 経営企画、工事部長 | 案件別採算表、Excel | 締め後の数日 | 集計が手作業 |
| 4 超過案件の要因を洗い出す | 工事部長 | 予算実績表、変更指示 | 超過のたび | 現場に聞かないと分からない |
| 5 受注見込みと人員配置を見る | 経営者、工事部長 | 受注見込み表、配置表 | 経営会議の前 | 見込みの確度が古い |
| 6 経営会議の資料と議事録を作る | 経営企画、総務 | 経営会議資料、議事録 | 月に一度 | 前日に作業が寄る |
同じ6工程を、AIが担えることと人が持つことで並べ直します。AIが返すのは集計と候補で、経営の判断はしません。
| 工程 | AIが解決すること | 人が決めること | 失敗したときの損失 |
|---|---|---|---|
| 1 | 未提出の現場と項目を一覧にし、前月との差を並べる | 締め切りの扱いと催促の判断 | 一部の現場が抜けた採算表になる |
| 2 | 案件コードの付け漏れと重複を検出し、対応づけの候補を出す | どの案件に付けるかの確定 | 原価が別の案件に乗る |
| 3 | 科目ごとの集計と前月比、予算超過の案件の抽出 | 採算表に載せる範囲 | 会議の前日に数字が動く |
| 4 | 超過している科目と、追加工事・変更指示との重なりを並べる | 赤字案件への対処方針 | 打ち手が完成後になる |
| 5 | 見込み案件の工期と既存現場の重なり、資格条件に照らした空き状況の提示 | 受注する案件の選択と配置の決定 | 配置の重複と受注辞退の判断遅れ |
| 6 | 資料の下書きと前月比の要約、議事録と決定事項の抽出 | 論点の選定と決定事項の承認 | 決定事項が翌月まで追跡されない |
色枠がAIの担う工程、灰色が人が確定する工程です。右上の印は、誤りが経営の判断まで届く工程を示しています。
AIで消える工程は、工程3の手作業の集計と、工程6の前月比の書き起こしです。短くなる工程は、工程1の催促、工程2の突き合わせ、工程4の要因の当たり付けです。新しく増える確認工程は、工程2でコードの候補を人が確定する作業と、工程5で見込みの確度を営業が更新する工程です。
AIが集計し、工事部長が判断する境界
止めどころは工程4です。超過している案件が並んだ後、追加請求に回すのか、工程を組み替えるのか、損を飲むのかを決めるのは工事部長と経営者です。AIは超過の科目と変更指示との重なりを並べるところまでです。
工程2にも人が持つ責任があります。案件コードの付け漏れは、候補を出すところまでは機械でできます。どの案件に付けるかを確定するのは経理で、確定の記録が残っていないと、翌月に同じ誤りが再発します。原価が別の案件に乗ったまま締めた月は、二つの案件の粗利が同時に狂います。
工程4の追加請求にも境界があります。建設業法は請負契約の内容を変更するときも書面での取り交わしを求めています。AIが変更指示との重なりを示しても、請求できるかは合意の書面が残っているかで決まります。ここは営業と現場代理人が確認します。
遅れの原因を三つに切り分ける
「締めが遅い」という症状は、三つの原因に分かれます。切り分けずに集計の自動化から入ると、速く出た数字が間違っているという結果になります。
現場からの出来高報告が期日に揃わないなら、原因は工程1です。締切の何日前にどの様式で出すかが決まっていないか、現場が日報から出来高を起こす手間を抱えています。発注や請求が別の案件に乗っているなら、原因は工程2です。案件コードが部署ごとに違うか、着工前の仮コードが本コードに置き換わっていません。数字は揃うのに会議で決まらないなら、原因は工程5です。受注見込みの確度が更新されておらず、配置の話が前提から崩れます。
原因が工程1にある会社が集計を自動化しても、揃わない数字が速く出るだけです。原因が工程2にある会社は、コードの整備が終わるまで採算表の精度が上がりません。年間の施工が数件で、案件ごとの採算を経営者が頭の中で把握できているなら、これはAIを入れない方がよい条件に当たります。その場合は出来高報告の様式を一枚に揃えるだけで足ります。
本メディアでは、案件コードが統一されていない会社は集計の自動化より先にコードの整備から始めるべきだと判断します。コードがずれたまま集計を速めると、誤った数字が経営会議の場に出るためです。前提は、原価管理システムか会計ソフトのどちらかで案件を単位に金額を引けることです。工事台帳が紙の会社では、この順番は当てはまりません。
着手する1工程と、2週間で見る3つの数字
先月分の締めと、今月の締めで回します。会社としての進め方は次の五つです。
- 直近3か月で、締めから採算表が出るまでの日数と、会議後に数字が動いた回数を記録します。
- 対象を工程2に絞ります。案件コードの付け漏れと重複の検出だけを見ます。
- 先月分のデータで検出を回し、経理が実際に直した内容と突き合わせます。
- 今月分で同じ検出を使い、どの案件に付けるかを経理が確定します。確定は人の操作に残します。
- 2週間後に工事部長と経理責任者が合否を決めます。続けるか、対象を工程1に移すかを判断します。
見る数字は三つです。締めから採算表が出るまでの日数、案件コードの誤りの件数、経営会議の後に数字が動いた回数です。合否の線は開始前に引きます。検出の確認に手作業より時間がかかるなら、コードの体系そのものを先に直します。
経営会議で使うための承認・記録・例外
承認は二段に分けます。経理が案件コードを確定し、工事部長が採算表を会議資料として承認します。記録は案件フォルダと原価管理システムに残します。未提出の履歴、コードの修正内容と確定者、採算表の版と日時、超過の要因、会議の決定事項の五つです。ここが揃うと、翌月に同じ説明を繰り返さずに済みます。
例外は先に決めます。月をまたいだ追加工事、着工前で配置だけ押さえている案件、共同企業体の案件は人が扱います。外部のAIサービスへ送る情報の範囲も決めます。採算表には取引先名と金額が並ぶため、送ってよい項目と学習利用の有無を確かめてから対象を広げます。
数字が合わなくなる失敗と、戻し方
よくある失敗は、集計を自動にした月から数字が前月と合わなくなることです。原因はたいてい入力側にあり、コードの仮置きや科目の読み替えが途中で変わっています。防ぎ方は、集計の前に未提出とコードの誤りを一覧で出し、直した内容を残すことです。
二つ目は、超過の要因候補を「資材高騰」の一語で受け取ってしまう状態です。候補は出発点で、現場に当たるのは工事部長の仕事です。変更指示と打合せ記録を並べて、追加請求に回せるかをその場で判断します。
三つ目は、受注見込みが更新されないまま配置の話が進む状態です。本メディアでは、見込みの確度を営業が月次で更新しない会社に配置の提示だけを入れることは勧めません。前提が古いまま、配置の重複が会議の場で見つかるためです。見込み表を週次で更新している会社は、この限りではありません。
次に広げる経営の業務
次に広げる先は、同じ採算データを使う業務です。経営会議資料と議事録の下書き、受注見込みと配置の突き合わせ、資金繰り表の前月比が当たります。工程2と工程3が安定すると、この三つは同じ材料で回せます。
前の工程へ戻る広げ方もあります。出来高報告が現場で作りやすくなれば、工程1の待ちは短くなります。締めが遅い原因が現場の入力にあると分かったら、日報と出来高の様式を先に直します。
出典
- 国土交通省 不動産・建設経済局建設業課「参考資料集」(令和8年4月3日) 国土交通省 確認日 2026.09.22
- 建設業法(昭和24年法律第100号)e-Gov法令検索 e-Gov法令検索 確認日 2026.09.22


