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介護施設のAIでここまで変わる|記録と事務が楽になる範囲

公開 2026.07.23 ・ 読了目安 約12分

「記録に追われて、利用者さんと向き合う時間が削られていく」——介護の現場では、この構造の悩みが定番です。日々のケアそのものではなく、その周りにある記録・連絡・書類づくりといった事務作業が、施設長や管理者、そして現場の職員の時間と気力を静かに削り続けます。

介護施設のAIは、直接的なケアや医療的な判断には踏み込まずに、介護記録の下書き、家族への連絡文、シフト作成、研修資料といった「事務の周辺業務」を軽くする方向で効果を発揮します。この記事では、介護施設のAI活用で具体的に何ができて、事務負担がどこまで変わるのかを、効果の目安と自前導入のリスクまで含めて解説します。

30-SECOND SUMMARY忙しい方へ|この記事の結論
  1. 介護施設のAIは、直接のケアや医療的判断に踏み込まず、記録・家族連絡・シフト・研修の事務領域で効果を発揮します。
  2. 家族へのお便りづくりは1本30〜60分から10〜15分レベルへ、月10本で3〜7時間程度の削減が見込める目安です。
  3. シフトや研修資料をAIのたたき台で進めることで、特定のベテランに集中していた属人化をほぐせます。

介護現場の事務負担が、なぜここまで重くなるのか

介護の仕事は、利用者一人ひとりへのケアと、それを支える大量の事務作業が二重構造になっています。1件あたりは数分の記録でも、1日に何十件と重なれば、合計では大きな時間になります。人手不足が慢性化している現場ほど、この積み重ねが職員の残業やサービス残業として跳ね返りがちです。まずは、負担が重くなる構造を3つの角度から整理します。

記録・書類が、ケアの時間を削っていく

介護記録、ケア記録、日々の申し送り、ヒヤリハット報告、行政向けの各種書類——介護の現場では、書かなければならない文書が絶えず発生します。一般的な目安として、職員が1日8時間の勤務のうち2〜3時間を記録や書類作成に費やしているといわれ、「本当はもっと利用者さんのそばにいたいのに、パソコンに向かっている」という状態が起きがちです。1件あたり3〜5分の記録でも、1日に40〜50件が積み重なれば合計2〜3時間規模になり、書く量が多いほど、ケアに使える時間が圧迫されていきます。

家族対応・掲示物などの文書づくりが後回しになる

家族への連絡文、面会の案内、行事のお便り、館内の掲示物、ホームページやSNSのお知らせ——こうした文書は「大切だが急ぎではない」ため、日々のケアの合間に押し込まれます。1本のお便りを書き上げるのに30〜60分かかることもあり、月に5〜10本も重なれば、それだけで3〜5時間分の作業になります。結局、管理者や相談員が業務後に1人で仕上げる、という形になりがちです。

シフト作成と教育が属人化し、特定の人に負担が集中する

勤務シフトの作成は、職員の希望や資格要件、夜勤の偏りを考慮する複雑な作業で、特定のベテランに丸ごと任されているケースが少なくありません。新人が入るたびに同じ説明を口頭で繰り返し、手順書は誰かの頭の中にしかない。介護の現場ではこうした属人化が起きがちです。担当者が休むと業務が回らなくなり、引き継ぎのたびに知識が失われるという定番の負担につながります。

介護施設のAIでできる、安全な事務領域

介護施設のAIで変わる事務領域(記録・家族連絡・シフト・研修)と効果の見取り図
介護施設でAIが安全に効く事務領域と、それぞれで軽くなる作業の見取り図

介護施設のAI活用は、直接的な身体介護や、利用者の健康状態を評価するアセスメント、ケアプランの医療的判断といった介護・医療の中核には踏み込まないのが基本です。代わりに、事務の周辺にある「言葉を扱う作業」と「情報を整える作業」に絞ると、安全に、かつ確実に効果が出ます。ここでは効果が出やすい領域を紹介します。

領域1:介護記録・報告書・申し送りの下書きと整理

職員が箇条書きやメモで残した内容を、読みやすい記録文や報告書の形に整える。長くなりがちな申し送りの要点をまとめる。こうした「情報を整える作業」はAIが得意とする領域です。ゼロから文章を組み立てる負担が、「AIが整えた下書きを確認して直す」負担に変わることで、記録にかかる時間と心理的なハードルが下がります。ただし、利用者個人が特定できる健康情報の扱いには線引きが必要で、この点は後半のリスクの章で詳しく触れます。

領域2:家族への連絡文・お便り・掲示物の下書き

家族への状況連絡、面会の案内、行事のお便り、館内掲示、SNS投稿。こうした文書は、AIに要点や伝えたいことを渡せば下書きが数分で出てきます。1本30〜60分かかっていたお便りが、下書きを整える10〜15分程度の作業に置き換わるイメージです。相手や場面に応じた言い回しの調整もAIが手伝うため、「どう書けば失礼なく伝わるか」に悩む時間が減ります。

領域3:シフト・勤務表づくりのたたき台

職員の希望や必要人数、夜勤の配置といった条件を伝えれば、AIはシフトのたたき台を作れます。最終的な調整は人が行う前提ですが、ゼロから組む負担が「AIのたたき台を微調整する」負担に変わることで、特定のベテランに集中していた作業を分担しやすくなります。属人化していたシフト作成を、誰でも触れる形に近づける入り口になります。

領域4:研修資料・マニュアル・手順書のたたき台づくり

新人向けのFAQ、業務チェックリスト、介助手順の説明、感染対策の掲示。これらのたたき台をAIに作らせ、自施設の実情に合わせて修正すれば、マニュアル整備のスピードが上がります。頭の中にあった暗黙知を文章に落とす作業をAIが手伝うことで、属人化していた知識が「共有できる形」に変わり、教育のたびに口頭で繰り返していた説明を資料に置き換えられます。

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事務負担はどれくらい軽くなるのか(効果の目安)

「AIで楽になる」と言われても、どれくらい変わるのかが見えないと判断できません。ここでは、断定ではなくあくまで一般的な目安として、事務領域それぞれの効果のイメージを示します。実際の数字は、施設の規模や利用者数、AIをどこまで設計して入れるかで変わります。

時間で見る効果の目安

家族へのお便りや案内文の作成は、1本あたり30〜60分の作業が、下書き活用で10〜15分レベルに縮む目安です。月に10本の文書を作るなら、合計で3〜7時間程度の削減が見込めるレンジになります。マニュアルや研修資料づくりも、ゼロから半日かけていた作業が、たたき台を修正する1〜2時間程度に収まるイメージです。記録の整理も含め、積み重なる小さな作業ほど、AIによる時短の効果が効いてきます。

属人化・引き継ぎで見る効果の目安

シフト作成やマニュアル整備がAIのたたき台をベースに進むようになると、特定のベテランに集中していた作業を分担できるようになります。これまで「あの人がいないと回らない」状態だった業務を、複数の職員が触れる形に近づけられます。手順書やFAQが整うことで、これまで半日〜1日かけていた新人教育の説明が1〜2時間規模に短縮され、引き継ぎのたびに知識が失われるリスクを抑えられます。

数字より大きい「ケアに向き合う時間」という効果

時間で測れる効果に加えて、介護の現場でとりわけ大きいのが、ケアに向き合う時間を取り戻せることです。「記録に追われてゆっくり話せない」という状態が続くと、職員のやりがいも消耗します。事務の下書きや整理をAIに任せられると、職員は利用者と向き合う時間に集中しやすくなります。これは数字には出にくいものの、現場の雰囲気や職員の定着率に効いてくる効果です。

自前でAIを入れるときに気をつけたいこと

ここまで読むと「無料のAIツールで自分たちでやってみよう」と思うかもしれません。事務の一部であれば、それも一つの入り口です。ただし、介護施設がAIを扱う際には、他業種にはない注意点があります。安全に進めるために、押さえておきたいリスクを整理します。

利用者の健康情報・要配慮個人情報をそのまま入れる危うさ

最も注意が必要なのが、利用者の情報の扱いです。氏名、病歴、服薬状況、介護度といった健康に関する情報は、個人情報保護法で「要配慮個人情報」として、通常より厳格な取り扱いが求められます。厚生労働省の「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス」でも、介護関係事業者が扱う情報の慎重な管理が求められています。利用者個人が特定できる健康情報を、安易に外部のAIサービスへ入力するのは避けるべき領域です。記録の下書きにAIを使う場合も、個人を特定できる情報を伏せる工夫が欠かせません。

入力した情報がどう使われるかを理解しないまま使うリスク

生成AIサービスに入力した内容が、サービス提供側でどのように扱われるかは、サービスごとに異なります。個人情報保護委員会も「生成AIサービスの利用に関する注意喚起」の中で、入力する情報の内容に注意し、個人情報の取り扱いに配慮するよう呼びかけています。どの情報なら入れてよく、どの情報は絶対に入れてはいけないのか——この線引きを曖昧にしたまま運用を始めると、思わぬ形で利用者の情報が外に出てしまう危険があります。

ケアプランの判断・与薬・アセスメントにAIを踏み込ませない

AIに利用者の状態を伝えて「どうケアすべきか」「どの薬をどう」を判断させるような使い方は、専門職の責任や医療行為との境界に触れる危うい領域です。介護施設のAIは、あくまで事務の周辺業務にとどめ、ケアプランの医療的判断・与薬判断・アセスメントといった専門職が担うべき中核には持ち込まないのが安全の基本です。便利だからと使う範囲を広げていくうちに、責任の所在が曖昧なグレーゾーンに入り込むリスクがあります。

「入れたけれど使われない」で終わる定着の難しさ

情報の扱いとは別に、現実に多いのが「導入したのに定着しない」という壁です。ツールを契約しても、使い方のルールが決まっていなかったり、忙しさに紛れて元のやり方に戻ったりして、数週間で使われなくなるケースは珍しくありません。ITに不慣れな職員が多い現場では、なおさら定着のハードルが上がります。何を・誰が・どの場面で使うのかを設計し、日常業務に組み込むところまで持っていかないと、コストだけが残ります。安全に線引きし、無理なく定着させる設計は、自前だけで進めると想像以上に難易度が高い部分です。

ビフォーアフター:介護施設の事務がここまで変わる

BEFORE

記録と書類に追われる現状の1週間

職員は記録や申し送りに勤務時間の相当部分を取られ、「利用者さんとゆっくり話せない」と感じている。家族へのお便りは1本30〜60分かけて管理者が業務後に書き、月に何本も溜まっていく。シフト作成は特定のベテランに丸投げで、その人が休むと回らない。新人が入れば口頭で半日かけて説明し、手順書は誰かの頭の中。事務作業がケアの合間に押し込まれ、気づけば全員が残業している——人手不足の介護現場で見られがちな現状です。

AFTER

下書きと整理をAIが受け持つ1週間

記録はメモを渡せばAIが読みやすい形に整え、確認して直すだけで仕上がる。家族へのお便りは下書きを10〜15分整えるだけで完成し、月に3〜7時間程度の作業が浮く。シフトはAIのたたき台をベースに複数の職員で調整でき、属人化がほぐれる。新人教育はAIで作ったFAQと手順書を使って進み、半日かけていた口頭説明が1〜2時間規模に減る。職員は1日あたり30分でも利用者と向き合う時間を取り戻しやすくなり、事務の重さが軽くなった状態です。

違いを生んでいるのはツールではなく運用設計

BeforeとAfterの差は、高価なツールを入れたかどうかではありません。「どの作業に・どこまでAIを使い・どの情報は入れないか」という線引きと、日常業務への組み込み方——つまり運用設計の有無です。同じAIを使っても、設計なしに始めれば数週間で使われなくなり、Beforeに逆戻りします。とくに利用者の情報を扱う介護では、安全な線引きを最初に決めておくことが、AfterにたどりつくうえでもBeforeに戻らないためにも欠かせません。

よくある質問

Q介護施設でAIを使うと、利用者さんの個人情報は大丈夫ですか?

A使い方を設計すれば、安全に運用できます。ポイントは「入れてよい情報」と「入れてはいけない情報」を明確に線引きすることです。利用者の氏名や病歴、服薬状況などの要配慮個人情報は、外部のAIサービスに安易に入力しないのが基本です。家族へのお便りの下書きや掲示物の作成など、個人が特定されない事務作業に絞って使えば、リスクを抑えながら効果を得られます。

QITに不慣れな職員が多くても導入できますか?

A人手不足で事務負担が重い現場ほど、AIによる効果は大きくなります。大掛かりなシステムを入れる必要はなく、まずはお便りの下書きや記録の整理など、負担の大きい1つの作業から小さく始めるのが現実的です。使い方のルールをシンプルにし、日常業務に無理なく組み込む設計にすれば、ITに不慣れな職員でも使い続けられます。難しさは操作そのものより、定着の仕組みづくりにあります。

Q何から始めるのがよいですか?

A「一番時間を取られていて、利用者さんの個人情報を含まない作業」から始めるのがおすすめです。介護施設では、家族へのお便りや掲示物の作成、研修資料づくりがこれに当たります。まず1つの作業で月3〜5時間の削減を実感できると、職員の納得感が得られ、記録の整理やシフト作成といった次の領域へ広げやすくなります。どの作業から着手するか迷う場合は、現状を整理したうえで優先順位を一緒に考えることもできます。

QAIにケアプランや服薬の判断をさせても大丈夫ですか?

Aケアプランの医療的判断・与薬判断・アセスメントといった専門職が担う中核には、AIを持ち込まないのが安全の基本です。介護施設のAIは、記録の下書き・家族連絡・シフト作成・研修資料といった事務の周辺業務にとどめることをおすすめします。便利だからと使う範囲を広げると、専門職の責任や医療行為との境界が曖昧になる危険があります。事務に絞ることが、安心して長く使い続けるコツです。

まとめ

  • 介護施設のAIは、直接のケアや医療的判断に踏み込まず、記録・家族連絡・シフト・研修の事務領域で効果を発揮します。
  • 家族へのお便りづくりは1本30〜60分から10〜15分レベルへ、月10本で3〜7時間程度の削減が見込める目安です。
  • シフトや研修資料をAIのたたき台で進めることで、特定のベテランに集中していた属人化をほぐせます。
  • 利用者の健康情報など要配慮個人情報の扱いには注意が必要で、入れてよい情報の線引きが安全運用の鍵です。
  • BeforeとAfterの差を生むのはツールではなく運用設計。安全な線引きと定着まで含めた設計が成果を左右します。

監修者|生成AIの導入から定着まで伴走する専門家が確認しています

吉元大輝(よしもとひろき)

株式会社BoostX 代表取締役社長

中小企業の生成AI導入を支援する「生成AI伴走顧問」サービスを提供。業務可視化から定着支援まで、一気通貫で企業のAI活用を推進している。

公開日:2026年7月

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