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品質・セキュリティ

会計の機密情報をAIに渡す前に、試算表・元帳・給与台帳で伏せる欄

生成AIの所内ルールを配った後も、試算表や給与台帳を前に職員の手が止まっている会計事務所の所長・品質担当・入力担当が対象です。

入力してよい情報の区分表を配った翌月も、入力担当は元帳の摘要に並ぶ個人名を見て品質担当に聞きに来るか、黙って生成AIを使わずに月次を終えます。試算表・総勘定元帳・給与台帳・顧問先とのメール・扶養控除等申告書の5つについて、どの欄をどう伏せるか、誤って入れた日に誰が何をするかを載せています。

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先に結論

職員の手が止まるのは、区分表が「顧問先の財務情報」「個人情報」のように情報の種類で線を引いていて、1枚の資料に法人の数字と個人名、ときに個人番号が混ざる場合の扱いが書かれていないからです。資料ごとに、AIに渡す形・伏せる欄・伏せても渡さない条件を1行ずつ決めれば、職員は表の行を見て自分で判断できます。

個人番号の載る資料と、顧問先名を消しても業種・地域・売上規模・決算月の組み合わせで顧問先が分かる入力文は、AIに入れません。生成AIに頼むのは、行どおりに伏せた入力文からの増減メモや返信の下書きです。どの欄を伏せるかの採否と、誤って入れたときに報告や顧問先への連絡が要るかは所長が決め、表に無い資料の判断は品質担当が受けます。

活用が止まるのは、1枚の資料に区分が混ざるから

所内の区分表は「財務情報」「個人情報」と情報の種類ごとに分けていますが、職員が手にするのは試算表や総勘定元帳という資料です。元帳の摘要や給与台帳には複数の種類が同じ紙に載るのに、どの欄を消せば入れてよいかが表に無いため、判断が職員の手元で止まります。

図の要点:区分表だけの事務所と、資料ごとの伏せ方の表がある事務所を比べた図。区分表だけでは、元帳の摘要に個人名があると入力担当が品質担当に聞き、品質担当も決められず所長へ回り、所長の不在中は生成AIを使わない。伏せ方の表があると、試算表・元帳・給与台帳ごとの行どおりに入力担当が伏せ、AIは増減メモ等の下書きまでを受け持ち、表に無い資料だけを品質担当へ回し、品質担当が行を足して所長が決裁する。

表の行で決められれば、所長の戻りを待たずに再開できる

区分表だけの事務所

  • 区分は「財務情報」「個人情報」など情報の種類ごと
  • 元帳の摘要に個人名があると、入力担当が品質担当に聞く
  • 品質担当も決められず所長へ。不在の日は使わない

資料ごとの伏せ方の表がある事務所

  • 試算表・元帳・給与台帳ごとに、渡す形と伏せる欄が1行
  • 入力担当が行どおりに伏せ、AIは増減メモ等の下書きまで
  • 表に無い資料だけ品質担当へ。行を足して所長が決裁

判断が所長に集まるか職員の手元で済むかは、表に載せた資料の範囲で分かれます。区分表だけの事務所では、判断が資料1枚ごとに所長まで上がるので、所長が巡回監査に出ている日は誰も入力できません。

法人の資料だからといって、個人の情報が入っていないとは限りません。役員への立替金や個人に払った外注費は、総勘定元帳の摘要に相手の氏名として残ります。借入先が役員なら、勘定科目内訳明細書の借入金の内訳にも氏名と住所が載ります。区分表の「顧問先の財務情報」の行だけを見て資料を丸ごと貼れば、個人情報も一緒に入ります。

個人情報保護委員会は令和5年6月2日の注意喚起で、生成AIサービスに個人情報を含むプロンプトを入れる事業者に、ひとつの確認を求めています。利用目的の達成に必要な範囲内であることを十分に確認すること、です。必要な範囲を職員が毎回考えるのではなく、資料の行として先に決めておくのが伏せ方の表です。

伏せ方の表は、情報の種類で分けた区分表の下に付ける行です。区分そのものと、使うサービスに求める契約の条件は、生成AIツールを契約の条件で選ぶ記事にあります。

試算表・元帳・給与台帳で伏せる欄と渡さない資料

伏せる欄は資料ごとに決め、会計事務所が毎日扱う5つの資料は、次のように渡す形と渡さない条件を分けます。表は所内で決める前のたたき台の例で、各行の採否は所長が決めます。

資料 AIに渡す形 伏せる欄・渡さない条件
試算表 科目と金額(顧問先名は記号) 売上は丸め、役員報酬の額は外す
総勘定元帳 日付・科目・金額 摘要の列は外す。要る作業は品質担当へ
給与台帳 部門別・手当別の合計 個人別の行と個人番号の列は渡さない
顧問先とのメール 質問の本文の要約 署名欄・宛名・添付は外す
扶養控除等申告書 渡さない 個人番号が載る書類は伏せても入れない

表の行を見て、入力担当は伏せれば渡せる資料か、伏せても渡さない資料かを自分で分けます。表に無い資料は、伏せ方を自分で考えずに品質担当へ回します。

【仮の場面】入力担当が、月次の説明メモを生成AIで下書きしようとしています。総勘定元帳を開くと、摘要に役員個人への立替金と、個人の外注先の氏名・振込先の口座番号が並んでいます。所内の区分表には「顧問先名を伏せた試算表は可」とあるだけで、元帳の摘要の扱いは書かれていません。

品質担当に聞くと「所長に確認して」と返され、所長は巡回監査で戻りません。入力担当は、その月の利用をやめます。

この場面で作るのは、科目別の増減の説明です。日付・科目・金額の列があれば足り、摘要は要りません。表の元帳の行に「摘要の列は外す」と書いておけば、入力担当は列を消した書き出しで次の月次から再開できます。

摘要の氏名を「外注先A」と置き換える方法は、事務所の外注先の一覧と見比べれば本人に行き着くので、個人データのままです。摘要まで要る作業は、品質担当へ回す行として残します。

給与台帳は、個人別の行を部門別・手当別の合計にしてから渡します。部門に1人しかいなければ、合計がそのままその人の給与になるので、その部門は他の部門と合わせます。勤怠の書き出しから個人番号の列を外す手順は、給与計算でAIに渡す勤怠の整形にあります。

扶養控除等申告書のように個人番号が載る書類を伏せる対象にしないのは、手間の問題ではありません。顧問先から年末調整などの個人番号関係事務の委託を受けている事務所では、外部のサービスに処理させる形が再委託に当たりうるためです。番号法第10条では、委託を受けた者が再委託できるのは、委託をした者の許諾を得た場合だけです。

利用を再開するのは、伏せても用が足りる業務からです。試算表の増減メモや顧問先メールへの返信の下書きは、行どおりに伏せても作業の目的が残ります。

顧問先名を消しても、組み合わせで分かる

顧問先名を記号にしても、業種・地域・売上規模・決算月が入力文にそろっていれば所内の人には顧問先が分かるので、丸めるか外してから渡します。個人番号の載る資料は、ここでの丸め方とは別に、伏せても渡しません。

たとえば「福岡市の歯科医院、年商2億円台、3月決算」と書けば、記号の「A社」より先に、担当者の頭には顧問先の名前が浮かびます。いくつまで残してよいかは、顧問先の数や地域の狭さで変わるので所長が決めます。迷う入力文は、決算月を外し、地域を県単位にし、売上を桁だけにするところから直します。

顧問先名を伏せるのは、個人情報のためだけではありません。税理士法第38条は、税理士業務に関して知り得た秘密を他に洩らすことを税理士に禁じています。第54条では、事務所の使用人その他の従業者も同じく秘密を漏らしてはならない立場です。生成AIへの入力が秘密を漏らすことに当たるかは、条文からは決まりません。それでも入力担当本人に義務がかかる以上、伏せ方を個人の判断に任せない理由になります。

記号と顧問先の対応は、所内の顧問先台帳にだけ持ちます。伏せる前の原文と伏せたあとの入力文を同じフォルダに置くと、入力文だけを見た人にも対応が分かってしまうので、入力文は別の場所で作ります。

入力の前に確かめる3点と、迷った資料の回し先

入力担当が入力の前に確かめるのは、資料が表にあるか、行の欄を伏せたか、所内で決めたアカウントかの3点です。1つでも外れたら入れずに品質担当へ回します。

表に行が無い資料は、品質担当が行の案を作って所長の決裁を受け、足した行をその日のうちに全職員へ知らせます。所内で決めたアカウントとは、入力を学習に使わない設定と契約を品質担当が確かめたものです。

3点目の根拠も、個人情報保護委員会の同じ注意喚起です。本人の同意なく個人データを含むプロンプトを入れ、応答の出力以外に使われる場合は法違反となる可能性があるとしています。そのため、提供事業者が機械学習に利用しないこと等を十分に確認するよう求めています。職員が私用で登録したサービスでは、この確認ができていません。

表を配って終わりにしないのは、個人情報保護法第24条が、従業者に個人データを扱わせる事業者に、従業者の監督を求めているからです。第23条の安全管理措置とあわせて、表の運用を見る役を品質担当に置きます。

品質担当は回ってきた資料を件数で数え、月次を一巡しても同じ種類の資料が繰り返し回ってくるなら、行の言葉が職員に伝わっていないとみて書き方を直します。回ってくる件数が減らない業務や誤入力が起きた業務は、表を見直すまでその業務での利用を止めます。

日本税理士会連合会は2026年9月に「税理士事務所のためのAI・クラウド活用ガイドライン」(Ver1.0)を策定しています。表を所内の規程にするときは、所長が原文を確かめ、食い違う行が無いかを見ます。

誤って入れたときは、所長が報告の要否を決める

誤って入れたときは、入力した人が手を止めて事実を品質担当へ渡し、品質担当が記録と会話履歴の削除を行います。個人情報保護委員会への報告・本人への通知・顧問先への連絡が要るかは、所長が判断します。

  1. 入力した人

    その場で入力をやめ、入れた資料、伏せていなかった欄、時刻、使ったアカウントを品質担当へ伝えます。自分で履歴を消して済ませません。
  2. 品質担当

    伝えられた事実を1件1行で記録してから、会話履歴を削除します。そのサービスが入力を学習に使う設定だったかも記録に書きます。
  3. 所長

    記録を見て、報告・本人への通知・顧問先への連絡の要否を判断し、判断と理由を記録に書き足します。

所長が判断の根拠にするのは、個人情報保護法第26条と番号法第29条の4です。どちらも、個人の権利利益を害するおそれが大きいものとして規則で定める事態が生じたときは委員会に報告しなければならないと定め、本人への通知も求めています。個人情報保護法には、顧問先から個人データの取扱いの委託を受けた事務所が委託元の顧問先へ通知したときは報告を要しないというただし書があります。番号法にも、個人番号関係事務の委託を受けた場合について同じ趣旨のただし書があります。

生成AIへの誤入力が規則で定める事態に当たるかは、入れた情報の種類と、サービス側での保存や学習利用の扱いで変わります。所長は、品質担当の記録をもとに規則と委員会の案内の原文を確かめてから決めます。記録の型は、品質チェック表の見直しで使う指摘事項一覧と同じ1件1行にそろえると、誤入力の傾向も同じ形で数えられます。

伏せ方の表は所内で持ち、伏せる処理は外にも出せる

顧問先ごとに会計ソフトや給与ソフトの書き出しの形が違い、入力担当が毎回手で列を消しているなら、伏せる処理を仕組みにする作業は外部と組めます。所内の品質・セキュリティの業務の中でも、顧問先の数だけ繰り返すのがこの手作業です。

外部に伏せる処理を頼む場合でも、個人番号の載る資料だけは扱いが変わります。その処理を外部が行うこと自体が番号法の再委託に当たりうるので、顧問先の許諾を確かめるまでは、外部の仕組みにも渡しません。

表の行になる資料は、証憑回収や記帳の工程で届きます。その工程でのAIの使い方は会計・税理士の業務別の記事一覧から探せます。

外に出せないのは表の中身のほうで、どの欄を伏せるかの採否と、誤入力のときの報告の要否は、顧問先との契約と関係を知る所長が決めます。

資料の種類が少なく、品質担当が回ってきた資料を表に足し続けられる事務所は、表も伏せる処理も所内で回せます。表の最初の行は、伏せても目的が残る試算表と顧問先メールの2つから作り、所内で回せているかは、月次ごとに品質担当へ回ってくる資料の件数が減っていくかで見ます。

明日から始める3ステップ

  1. 担当 品質担当

    今月、職員から「生成AIに入れてよいか」と聞かれた資料と、使わずに済ませた資料を書き出し、資料名ごとにAIに渡す形・伏せる欄・渡さない条件の3欄で1行ずつ下書きする

    次へ進む目安試算表・総勘定元帳・給与台帳を含む表の下書きができ、所長が各行に採否の印を付けた

  2. 担当 入力担当(回ってきた資料の扱いは品質担当)

    試算表の増減メモか顧問先メールへの返信の下書きのどちらか1つを選び、表の行どおりに伏せた入力文を作り、入力前の3点を確かめてから使う。表に無い資料は入れずに品質担当へ回す

    次へ進む目安次の月次が終わった時点で、回ってきた資料の一覧と、表に足した行が品質担当の手元に残っている

  3. 担当 所長(文案は品質担当)

    誤って入れたときの連絡の順番(入力した人→品質担当→所長)と、記録の欄(資料・伏せていなかった欄・時刻・アカウント・履歴の削除・所長の判断)を所内のAI利用ルールに足し、全職員へ回す

    次へ進む目安AI利用ルールに改訂日が入り、全職員が読んだ記録が残っている

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出典

  1. 税理士法(昭和26年法律第237号)(第38条・第54条) e-Gov法令検索(デジタル庁) 確認日 2026.10.30
  2. 個人情報の保護に関する法律(平成15年法律第57号)第23条(安全管理措置)・第24条(従業者の監督)・第26条第1項(ただし書を含む)・第2項 e-Gov法令検索(デジタル庁) 確認日 2026.10.30
  3. 行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律(平成25年法律第27号)第10条第1項(再委託)・第29条の4第1項・第2項 e-Gov法令検索(デジタル庁) 確認日 2026.10.30
  4. 個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等」別添1(1)個人情報取扱事業者における注意点 ①・(1)個人情報取扱事業者における注意点 ② 個人情報保護委員会 確認日 2026.10.30
  5. 日本税理士会連合会「税理士事務所のためのAI・クラウド活用ガイドラインの策定について」(会員向けお知らせ一覧)(お知らせ一覧 2026-09-30) 日本税理士会連合会 確認日 2026.10.30

編集BoostX編集部(株式会社BoostX)編集と監修の決まり

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