会計事務所の品質チェック表、AIに任せるのは指摘の集計と入れ替え案まで
確定申告や決算を終えて、レビュー指摘の記録から所内のチェックリストを見直す品質担当・上席と、その決定を任せる所長税理士の方へ。
申告書チェックリストにはレ点がそろっているのに、上席のレビューシートには毎年同じ種類の指摘が並びます。そのたびに項目を足すので、リストは長くなる一方で、作成者は上から順に印を付けるだけになっていきます。指摘の記録をAIで集計させた後、何を足して何を外し、どの項目を誰に見せるかを決める線と、版の入れ替え方を扱います。

先に結論
レビュー指摘の記録を誤りの種類ごとに数え、既存のどの項目と重なるかを示し、追加案と同じ数の外す候補を並べるところまでが、チェックリストの整備でAIの受け持つ作業です。どの項目を載せてどれを外すか、各項目を作成者・上席・税理士のだれが見るかは、品質担当・上席が誤りの重さを見て決めます。
指摘の記録に税額や期限への影響が書かれていない、または一部の担当者の分しか無いうちは、件数が多い誤りでもAIの集計を項目の決定に使いません。その場合は、記録の欄をそろえることから始めます。
頻出の指摘でも、チェック項目に載せるとは限らない
誤りの件数はAIが記録から数えられますが、その誤りをチェック項目にするかどうかは件数では決まりません。税額や申告期限に響くか、今ある項目で本来見つかるはずだったかによって、上席が打つ手が次の5つに分かれるからです。
図の要点:AIがレビュー指摘の記録から数えた誤り1種類ごとに、上席が打つ手を選ぶ判断の図。税額か期限に響き今の項目に無い誤りは項目に載せ、今の項目で見つかるはずだった誤りは項目を足さず確かめる資料か見る担当を変え、作成者の段階で防げる転記の誤りは作成者の自己確認の項目にし、税額・期限・顧問先への説明に響かない誤りは作成者へ伝えるだけにする。誤りの重さが記録に無いときはAIの件数を使わず記録を直す。
AIが数えた指摘1種類ごとに、上席が打つ手を選ぶ
-
税額か期限に響き、今の項目に無い
上席が項目に載せる
-
今の項目で見つかるはずだった
項目を足さず、確かめる資料か見る担当を変える
-
作成者の段階で防げる転記の誤り
作成者の自己確認の項目にする
-
税額・期限・顧問先への説明に響かない
載せずに作成者へ伝える
-
誤りの重さが記録に無い
AIの件数を使わず、記録を直す
図を使って、AIの集計結果のどの行を項目の追加に回し、どの行を追加以外の手当てに回すかを上席が決めます。2行目に当たる誤りに項目を足すと、同じ趣旨の項目が2つ並び、作成者はどちらにも同じようにレ点を付けるだけになります。
項目と担当を決める仕事を所内のだれが持つかには、法律の根拠もあります。職員を使って業務をする税理士には、職員の仕事が適正に行われるよう監督する義務が税理士法第41条の2で課されています。チェックリストはこの監督を所内で形にしたものの一つなので、項目の決定はAIの集計結果に任せず、所長税理士から任された品質担当・上席が持ちます。
ここで扱うのは、品質・セキュリティの業務のうちダブルチェックのリストの見直しです。会計事務所の業務全体は会計事務所AI活用ジャーナルのトップから探せます。
レビュー指摘は1件1行の指摘事項一覧にそろえる
指摘事項一覧とは、レビューで見つかった誤りを1件1行で、帳票・誤りの種類・見つけた段階・税額への影響とともに残す所内の記録です。紙のレビューシートの欄外や付箋に書かれたままの指摘は、AIに渡しても件数をそろえて数えられません。
ここからは説明用に設けた仮の場面で話します。確定申告が終わった4月、上席がこの期のレビューシートを見返しています。医療費控除の領収書の集計漏れ、住民税の徴収方法の選択漏れ、前年から繰り越した損失の転記漏れが、作成者を変えて何度も出ていました。申告書チェックリストには同じ趣旨の項目が既にあり、レ点も付いています。
【説明用の架空の記入例】住民税の指摘を一覧の1行にしたものです。3列目は架空の値です。
| 一覧の欄 | 書く中身 | 住民税の指摘の行 |
|---|---|---|
| 指摘日 | レビューした日 | 3月10日 |
| 顧問先の区分 | 申告の種類と所得の種類 | 個人・不動産所得あり |
| 帳票名 | 誤りがあった帳票 | 確定申告書 第二表 |
| 誤りの種類 | 誤りを一言で | 住民税の徴収方法の選択漏れ |
| 見つけた段階 | 自己確認か上席のレビューか | 上席のレビュー |
| 税額や期限への影響 | 税額・期限・説明のどれに響くか | 顧問先への説明に響く |
最後の欄と、今の項目で見つかるはずだったかの2つで、その誤りが図のどの行に当たるかが決まります。この住民税の行は、同じ趣旨の項目がリストに既にあるので2行目です。最後の欄が空いた行は5行目に当たり、項目の決定には使えません。誤りの重さを書けるのは指摘した上席なので、一覧に写すときに上席が自分で書きます。
顧問先名や顧問先の従業員の氏名は、一覧に書かずに顧問先の区分で残します。区分に置き換えても、所内の台帳と突き合わせれば顧問先が分かる場合があるため、外部のAIサービスに入れてよいかは所長税理士が決めた情報の区分に従います。区分の決め方は生成AIツールの選び方と入れない書類で扱っています。
この一覧は、税理士法第41条が作成と閉鎖後5年間の保存を求める帳簿とは別のものです。第41条の帳簿は委嘱者別・一件ごとに業務の内容とてん末を記載するもので、所内のチェックリストやレビュー指摘の記録の保存を求める規定ではありません。
指摘の集計と追加案で、AIに出させるもの
AIに出させるのは、件数・最後に指摘された月・重なる既存項目・追加案・外す候補までで、項目が要るか要らないかの結論は出させません。作業ごとの分担は次のとおりです。
| 作業 | AIが出すもの | 品質担当・上席が決めること |
|---|---|---|
| 記録の整形 | 自由記述を種類に分けた案 | 種類の名前と分け方 |
| 頻出の集計 | 種類ごとの件数と最後の月 | 集計に入れる期間 |
| 既存項目との重なり | 見つかるはずだった項目番号 | 本当に重なるか |
| 追加案 | 項目の文案と確かめる資料 | 載せるかどうか |
| 外す候補 | 追加案と同じ数の候補と理由 | 外すかどうか |
| 担当の割り振り | 項目ごとの担当の案 | 作成者・上席・税理士の別 |
| 版の更新 | 前の版との変更点の一覧 | 版番号と変更理由 |
どの行でも、出力を受けて決めるのは品質担当・上席で、決めた結果は品質担当が一覧とリストの表紙に書き残します。
AIに渡すのは、指摘事項一覧と、項目に番号を振った現行の申告書チェックリストの2つです。指示には次の4点を書きます。
- 誤りの種類ごとに件数と最後に指摘された月を出し、種類ごとに見つかるはずだった項目番号を書く。無ければ「該当なし」と書く
- 「該当なし」で、税額や期限への影響がある種類にだけ追加案を書く
- 追加案と同じ数だけ、外す候補を、その項目に関わる指摘の件数と重なる項目番号を添えて出す
- 項目が不要かどうかの結論は書かず、判断に要る記録が無い行は「未確認」と返す
4点目を外すと、AIは件数の少ない項目に「不要」と書いてきます。件数が少ないのは、その項目が誤りを止めているからかもしれません。外す候補は消す理由ではなく、上席が見比べる材料として扱います。
記帳の誤りの指摘は、チェックリストではなく顧問先ごとの科目ルール表へ戻す方が再発を止めやすい場合があります。その戻し方は過去仕訳の誤りを候補の元から外す条件にあります。
外す項目と見る担当は、誤りの重さで選ぶ
外すのは、直近の繁忙期を通して指摘が出ておらず、別の項目と同じ誤りを見ている項目です。見る担当は、確かめるのに税務の判断が要るかどうかで分けます。
指摘が出ていない期間をどこまで取るかは、品質担当が決めて一覧の表紙に書きます。確定申告と3月決算の両方を通した期間にしておけば、片方の繁忙期にしか出ない誤りの項目を外してしまうことを避けられます。
図の2行目の「見方を変える」は、項目の文を変えることです。たとえば「医療費控除を確認した」というレ点だけの項目を、「医療費控除の明細書の合計と領収書の合計が一致するか」と、照合する資料を名指しする文に書き直します。それでも同じ指摘が続く項目は、見る担当を作成者から上席へ移します。
見る担当は次の3つに分けます。
作成者
前年の申告書や資料から写す数字(繰り越した損失の金額、予定納税額など)上席
資料と申告書の対応(医療費控除の明細と領収書、収支内訳と帳簿の合計など)税理士
税務の判断を伴う項目(必要経費に入れるかどうか、特例を使うかどうかなど)
作成者の項目をはっきり分けておくのは、上席のレビューを作成者の自己確認の代わりにしないためです。税務の判断を伴う項目を作成者の自己確認に回さないことと、税理士が見る項目の範囲は、所長税理士が決めます。
確定申告の後に、足す数だけ外す候補を並べる
チェックリストの更新は、繁忙期の途中ではなく、確定申告の後や3月決算の申告が終わった後にまとめて行います。足す項目を決める前に同じ数の外す候補を並べるのは、項目数が増え続けてリストが形だけになるのを止めるためです。
繁忙期の途中で重い誤りが見つかったときは、その場で項目を足さず、作成者全員へ伝えたうえで、指摘事項一覧のその行に印を付けて次の更新で扱います。途中で足すと、版の違うリストが所内に混ざり、どの申告書をどの版で確かめたかが分からなくなります。
新しい版の表紙には、版番号、更新した日、足した項目と外した項目、それぞれの変更理由を書きます。外さなかった候補にも残した理由を一言書いておくと、次の更新で同じ候補が出たときに、前回の判断から見直せます。
品質担当は更新のたびに、リストの項目数と、既存の項目にあるのに出た指摘の件数を記録します。2回の更新を通して後者の件数が減らないなら、AIの集計の出し方ではなく、指摘事項一覧の「見つけた段階」の欄が正しく書かれているかから見直します。
指摘の記録が紙のままなら、外に頼むのは一覧の型づくりから
レビューの指摘がレビューシートの欄外や付箋にしか無い事務所では、外の手を借りるとしても、最初に作るのは集計の仕組みではなく、上席が指摘を書き込む一覧の様式です。6つの欄がそろわないうちに集計を組んでも、図の5行目に当たる行ばかりが返ってきます。
外に頼めるのは、一覧の欄と記入の決まりの設計、自由記述を誤りの種類に分ける基準づくり、一覧とチェックリストの項目番号を毎回同じ手順で対応させる仕組みです。載せる・外す・見る担当の決定は、上席と所長税理士が所内で持ちます。
指摘事項一覧がすでにExcelで続いている事務所なら、法人向けの生成AIサービスに一覧とリストを渡すだけで、集計と候補は所内で出せます。外の手が要るのは、件数が多く、毎回の対応づけに品質担当の時間が取られる場合です。
拠点や部門ごとにチェックリストの版が分かれている事務所では、集計の前に、どの版を正とするかを所長税理士が決めておきます。版が分かれたままだと、AIは同じ誤りを拠点ごとに別の項目番号へ対応させ、外す候補も拠点の数だけ食い違います。
手を付けるのは、品質担当がこの期のレビューシートの指摘を一覧の6つの欄へ写すところからです。写した件数のうち税額や期限への影響の欄が埋まった割合を数えて上席に渡せば、集計をAIに回せる段階かどうかを上席が決められます。
明日から始める3ステップ
担当 品質担当(写す作業は各上席が自分の指摘した分)
この期のレビューシートの欄外や付箋に残った指摘を、指摘日・顧問先の区分・帳票名・誤りの種類・見つけた段階・税額や期限への影響の6欄の指摘事項一覧へ1件1行で写す。顧問先名と個人名は書かない
次へ進む目安全上席の指摘が一覧に入り、税額や期限への影響の欄に空白の行が無い
担当 品質担当(入力してよい情報の範囲は所長税理士が決めた区分に従う)
指摘事項一覧と、項目番号を振った現行の申告書チェックリストをAIに渡し、誤りの種類ごとの件数と最後に指摘された月、見つかるはずだった項目番号、追加案、追加案と同じ数の外す候補を返させる。項目が不要かどうかの結論は書かせない
次へ進む目安追加案と外す候補が同じ数で並び、すべての行に件数と重なる項目番号か「該当なし」が書かれた
担当 品質担当・上席(税務の判断を伴う項目の担当は所長税理士が決める)
上席と所長税理士で候補を1行ずつ見て、載せる・外す・見方を変えるのどれにするかと見る担当を決め、表紙に版番号と変更理由を書いた新しい版に差し替える
次へ進む目安変えたすべての項目に変更理由と見る担当が書かれ、外さなかった候補にも残した理由が書かれた
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01無料相談
証憑の回収・記帳・申告の準備から、最初の1業務を決める
02進め方の提案
規模に合う進め方を提案する
03作って試す
一緒に作り、現場で試して直す
04定着まで伴走
毎月1テーマずつ積み上げる
作って試す・定着までAIエージェント開発AI顧問生成AI研修
出典
- 税理士法(昭和26年法律第237号)第41条の2(使用人等に対する監督義務)・第41条第1項・第2項(帳簿作成の義務) e-Gov法令検索(デジタル庁) 確認日 2026.10.28
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