不動産広告の法務チェックはAIにどこまで任せるか|5つの決まりと掲載可否
広告チェックのAIを試し始めると、印の付かなかった原稿をそのまま掲載へ回してよいのかで、確認役の店長の手が止まります。建築確認が下りる前の新築の原稿や、値下げ前の価格を並べた原稿は、文面を読んでも違反かどうかが決まりません。宅建業法と表示規約の決まりごとに、どの書類と照合し、掲載可否を誰が決めて何を残すかを、原稿が掲載されるまでの流れに沿って確かめられます。

先に結論
広告原稿の確認でAIに任せられるのは、原稿に書かれた範囲の点検、つまり表示事項の欠けと不当表示の兆候に印を付けるところまでです。広告開始時期、取引態様が正しいか、値下げ前の価格の公表期間、部屋がいま取引できる状態かは、物件担当が建築確認の通知・媒介契約書・価格の改定履歴・物件台帳と照合します。AIの印が無い原稿も、この照合からは外しません。
掲載可否は店長か法務担当の1人が決め、照合した書類の名前と日付を記録表に残します。工事完了前で建築確認が確かめられない物件、値下げ前の価格の公表期間を示せない原稿、申込や成約の状態が未確定の部屋は、印の有無を見る前に集客担当へ戻します。
広告チェックのAIが読めるのは原稿の文面だけ
広告チェックに使う生成AI(以下、AI)が受け取るのは、ポータルの入稿原稿、チラシ、自社サイトの物件ページの文面と画像です。宅地建物取引業法(以下、宅建業法)第33条の広告開始時期や第34条の取引態様を守れているかは、建築確認の通知や媒介契約書など、原稿の外の書類で決まります。
図の要点:広告原稿の確認項目を2つに分けた図。原稿の中にある表示事項の欠け、価格を並べた表示、著しく優良と読める言い回しはAIが指摘できる。建築確認の通知、媒介契約書と価格の改定履歴、物件台帳の申込・成約の状態は原稿の外にあり、物件担当が照合する。
印が付かない原稿でも、原稿の外の書類しだいで掲載できない
原稿の中(AIが指摘できる)
- 表示事項の欠け(取引態様の語を含む)
- 価格を並べた表示と値下げの語
- 著しく優良・有利と読める言い回し
原稿の外(物件担当が照合する)
- 建築確認・開発許可の通知の番号と日付
- 媒介契約書と価格の改定履歴
- 物件台帳の申込・成約の状態
いま店で確かめている項目をこの2つに振り分けると、AIの指摘で足りる項目がどれだけあるかが見えてきます。原稿の外に入る項目は、AIの結果がどうであれ、物件担当の照合から外せません。
AIが原稿の外の項目を判定できないのは、判定に要る事実が原稿に無いからです。取引態様なら、AIに言えるのは「媒介」の語が欠けていないことまでです。その物件を自社が売主から媒介で受けているのか、自社が売主なのかは、媒介契約書や売買の契約関係を見なければ分かりません。
仮の場面で考えます。週末の掲載に向けた金曜の夕方、店長の机に、新築の「近日公開」の原稿と、ポータルの値下げの原稿が並んでいます。AIはどちらにも印を付けていませんが、新築の建築確認の通知はまだ届いておらず、値下げ前の価格をいつから出していたかの記録も手元にありません。
新築の原稿は、文面に問題が無くても掲載できません。宅建業法第33条は、工事の完了前は建築確認などの処分があった後でなければ、広告をしてはならないと定めています。値下げの原稿も、値下げ前の価格の公表期間を書類で示せるまでは掲載に回せません。
印が付いた原稿から先に読む、という使い方なら、AIの印は物件担当の手間を減らします。一方で、印の付いた言い回しがそのまま違反になるわけでもありません。宅建業法第32条が禁じているのは、著しく事実に相違する表示と、実際より著しく優良・有利と誤認させる表示です。「著しく」に当たるかは、店長か法務担当が原稿全体を読んで決めます。
掲載前に照合する5つの決まりと手元の書類
掲載前に照合する決まりは、必要な表示事項、取引態様、広告開始時期、二重価格、おとり広告の5つです。表示規約とは不動産の表示に関する公正競争規約のことで、各地区の不動産公正取引協議会が運用しています。
| 決まり(条文) | AIが原稿で見つけられること | 照合に使う書類 |
|---|---|---|
| 必要な表示事項(規約第8条) | 項目の欠け・記載漏れ | 物件台帳・図面 |
| 取引態様(宅建業法第34条) | 「売主」「媒介」などの語の有無 | 媒介契約書・売買の契約関係 |
| 広告開始時期(宅建業法第33条) | 工事完了前の物件の表示 | 建築確認・開発許可の通知 |
| 二重価格(規約第20条) | 旧価格と新価格の併記 | 価格の改定履歴と公表日 |
| おとり広告(規約第21条) | 文面からは見つけられない | 物件台帳の申込・成約の状態 |
照合に使う書類をその場で出せない決まりがあれば、その決まりはAIの結果を見ても掲載可否を決められません。
必要な表示事項は、表示規約第8条が、広告主、物件の内容、価格などの取引条件、交通などの利便と環境、規則で定める事項の5区分で求めています。要る項目は物件の種別ごとに施行規則の別表1から別表10に一覧があるので、AIに渡す確認項目も種別ごとに分けます。
AIが見つけるのは欄が空いていることまでです。書かれた面積や価格が台帳と同じかは、物件担当が照合します。
取引態様は、宅建業法第34条が広告のたびに明示を求めています。施行規則は「売主」「貸主」「代理」「媒介(仲介)」の用語で表示するとしているので、語があるかはAIで見つけられます。書かれた語が正しいかを確かめる書類は、媒介契約書です。
二重価格(規約第20条)とおとり広告(規約第21条)は、原稿の文面だけでは要件を満たすかが分かりません。おとり広告とは、存在しない物件、取引の対象となり得ない物件、取引する意思がない物件の表示です。
表示規約第18条が使い方を定める特定用語は、語ごとに使えるかを決める作業なので、5つの決まりとは分けて扱います。
語の可否と止める人の置き方は、AIが生成した物件紹介文で止める語と止める人で確かめられます。チラシに載せる周辺施設や徒歩分数の校正は、不動産チラシをAIで作る店が刷る前に確かめることが対象です。
指摘・照合・掲載可否は3人で分ける
原稿は集客担当が作り、AIが欠けと兆候に印を付け、物件担当が書類と照合し、店長か法務担当が掲載可否を決めて記録します。
印の有無にかかわらず、物件担当は5つの決まりを全部照合する
集客担当
AI
物件担当
店長か法務担当
- 集客担当
原稿を作り、版と掲載先を記録表に書く
ポータル・チラシ・自社サイト
- AI
表示事項の欠けと不当表示の兆候に印を付ける
印の理由を一文で返す
- 物件担当
5つの決まりを書類と照合する
戻す書類が無ければ集客担当へ
- 店長か法務担当
掲載可否を決め、照合した書類の名前を残す
戻す「著しく」に当たれば書き直し
物件担当が照合を始める順番は、AIの印が付いた原稿からで構いません。印の無い原稿も、5つの決まりを全部照合してから店長か法務担当へ回します。
掲載可否を決める人を1人にしておくと、どの版を、いつ、何の書類で確かめて掲載したかを後から1か所で追えます。表示規約第24条は、継続して出している広告の内容が変わったときの速やかな修正か表示の取りやめを、事業者に義務づけています。直す対象の版が分からなければ、修正も取りやめも遅れます。
AIに渡すのは原稿の文面と画像だけにして、媒介契約書や物件台帳は渡しません。どちらにも、売主や申込者の氏名が載っているからです。
照合の手間を減らそうと、これらの書類まで外部のAIサービスに読ませるなら、先に契約の中身を読みます。提供元が個人データを取り扱わない旨を契約条項で定め、適切なアクセス制御もしていれば、そもそも第三者提供に当たらない扱いになり得ます。
取り扱う契約であれば、その契約が、自社の利用目的の範囲で個人データの取扱いを任せる委託と言えるかを読みます。委託と言えない契約なら、第三者提供として本人の同意(個人情報保護法第27条)を得る扱いです。
帳票ごとに入力してよい範囲の決め方は、不動産の生成AIツール選定と社内ルールを参考にできます。本人確認の記録や社内規程など、広告以外の法務の業務は不動産の法務・コンプライアンスのAI活用に並んでいます。
建築確認前と値下げ表示の原稿は戻す
AIの結果に関係なく戻す原稿は、建築確認の番号が手元に無い未完成物件、公表期間の記録が無い値下げ表示、台帳の状態が確定していない部屋の3つです。
工事完了前の宅地や建物は、宅建業法第33条により、都市計画法の開発許可や建築基準法の建築確認などの処分があった後でなければ、売買などの広告ができません。表示規約第5条も、同じ処分の後でなければ、内容や取引条件の広告表示をしてはならないとしています。通知の番号と日付が物件担当の手元に無い原稿は、文面がどうであれ集客担当へ戻します。
値下げ前の価格を並べる原稿は、施行規則第12条の要件に1つでも合わなければ、不当な二重価格表示とされます。要件に合っていても、実際にその価格で売り出していた事実を資料で客観的に示せることが前提です。物件担当が改定履歴で確かめる要件は次のとおりです。
- 過去の販売価格の公表日と値下げした日が原稿に明示されている
- 比べる価格が値下げ直前の価格で、値下げ前2か月以上にわたり販売のために公表していた
- 表示する日が、値下げした日から6か月以内に収まっている
- 公表日から表示する日まで、物件の価値が同じである
公表日と値下げ日が原稿に書かれているかは、AIでも見つけられます。2か月以上その価格で公表していたかは、価格の改定履歴と、その価格で掲載していた期間の記録でしか確かめられません。要件はほかに、土地か建物の表示であることも含みます。
物件台帳で申込や成約の状態が確定していない部屋の原稿は、掲載可否を決めずに集客担当へ戻します。取引の対象とならなくなった物件の表示が残ると、規約第21条のおとり広告に当たるおそれがあるからです。戻した原稿は、どの決まりによるものかを記録表に書きます。
AIの印が無く照合で見つかった件数を数える
AIの印が無いのに照合で見つかった件数が減らない決まりは、AIの指摘から外し、物件担当の照合だけで見ます。この件数を出すために、原稿ごとに次の記録表を付けます。
【説明用の架空の記入例】ポータルに出す中古マンションの値下げ原稿を1件、記録した場合です。
| 記録の欄 | 書く人 | 記入例 |
|---|---|---|
| 原稿の版と掲載先 | 集客担当 | ポータル入稿・第2版 |
| AIの印 | 集客担当 | 印なし |
| 照合した書類 | 物件担当 | 媒介契約書・価格の改定履歴 |
| 差し戻しの決まり | 物件担当 | 二重価格(公表日の記録なし) |
| 掲載可否・決めた人・日付 | 店長か法務担当 | 否・店長・10月17日 |
この例のように、AIの印が「なし」で差し戻しの決まりが埋まった行が、数える対象の1件です。決まりごとに週単位で件数を集計すると、AIの印を当てにできる決まりと、できない決まりが分かれます。
もう1つ、差し戻してから掲載するまでの日数を原稿ごとに残します。日数が延びた週は、照合に使う書類がその場で出せていない決まりがないかを探します。
件数が0のまま続く決まりでも、照合は省きません。この件数で測っているのは、印の付いた原稿から先に読む使い方が役に立っているかであって、照合を省いてよいかではないからです。
掲載先が増えたら、台帳との突き合わせを外部と作る
ポータル・チラシ・自社サイトに同じ物件を出していると、価格を改定するたびに、掲載先ごとの旧価格と公表日を追う手間が増えます。追い切れなくなったら、原稿と台帳を突き合わせる仕組みが要ります。
外部に頼むのはこの部分です。原稿の版、物件台帳の状態、価格の改定履歴を同じ物件番号で引ける形にそろえ、状態が未確定の部屋や公表期間の記録が無い値下げを、掲載前に一覧へ出す仕組みです。
掲載先が1つか2つで、その週の原稿を物件担当が掲載前に照合し終えられる店なら、5つの決まりの表と記録表で社内で回せます。どちらに当たるかは、記録表の「照合した書類」の欄で見分けられます。物件担当が媒介契約書や改定履歴を掲載前にその場で出せている店は、表と記録表のまま店長か法務担当の判断で回せます。
書類を探す時間で差し戻しから掲載までの日数が延びている店は、手が要るのは照合そのものより、書類の置き場所と物件番号のそろえ方です。外部と組むなら、その部分から頼みます。原稿づくりや物件登録など、照合の前に来る業務の記事は不動産業のAI活用の記事一覧にあります。
表示規約は各地区の協議会が運用し、規約も施行規則もこれまでに変更されてきました。5つの決まりの表と記録表は、自社が加盟する協議会の最新の規約集で条番号と要件を確かめてから使い始めます。
明日から始める3ステップ
担当 店長か法務担当
先月差し戻した広告原稿をすべて集め、差し戻しの理由を必要な表示事項・取引態様・広告開始時期・二重価格・おとり広告と、そのほかに分ける
次へ進む目安差し戻した原稿の全件に決まりの名前が付き、決まりごとの件数の一覧ができた
担当 物件担当
5つの決まりごとに、照合に使う書類(建築確認の通知・媒介契約書・価格の改定履歴・物件台帳)の保管場所を確かめ、掲載前にその場で出せるかを記録表に書く
次へ進む目安5つの決まりすべてに照合する書類の名前と保管場所が入り、出せない書類の担当と期日が決まった
担当 集客担当・物件担当・店長か法務担当
次の掲載から原稿ごとに記録表を付け、AIの印の有無、照合した書類、差し戻しの決まり、掲載可否と決めた人を書く
次へ進む目安4週分の記録がそろい、AIの印が無く照合で見つかった件数が減らない決まりをAIの指摘から外すかを店長が決めた
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出典
- 宅地建物取引業法(昭和27年法律第176号)第32条(誇大広告等の禁止)・第33条(広告の開始時期の制限)・第34条第1項(取引態様の明示) e-Gov法令検索(デジタル庁) 確認日 2026.10.15
- 不動産の表示に関する公正競争規約・同施行規則(規約集)表示規約 第5条(広告表示の開始時期の制限)・表示規約 第8条(必要な表示事項)・施行規則 第4条・施行規則 第9条第1号(取引態様)・表示規約 第20条(不当な二重価格表示)・施行規則 第12条(過去の販売価格を比較対照価格とする二重価格表示)・表示規約 第21条(おとり広告)・表示規約 第24条第1項(表示の修正・取りやめ) 不動産公正取引協議会連合会 確認日 2026.10.15
- 個人情報の保護に関する法律(平成15年法律第57号)(第25条・第27条第1項) e-Gov法令検索(デジタル庁) 確認日 2026.10.15
- 個人情報保護委員会「「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン」に関するQ&A」Q7-53(クラウドサービスの利用) 個人情報保護委員会 確認日 2026.10.15
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