賃貸管理の修繕依頼書をAIで下書きするとき、承諾の金額と業者は人が決める
入居者から修繕の連絡を受けて修繕依頼書を作り、協力業者へ見積の依頼と発注をしている賃貸管理会社の管理担当と、依頼書の型や承諾の基準を決める業務管理者・経営者が対象です。
修繕の見積を業者へ頼む電話で、型番や入室の可否を聞き返されて見積の依頼が翌日に延びることがあります。修繕依頼書づくりを生成AIの下書きに回すなら、どの欄をどの記録から埋めるかを先に決める必要があります。見積が出た後、発注の前にオーナーの承諾が要る修繕の見分け方と、業者を決める人の置き方は、管理受託契約の定めが手がかりになります。

先に結論
AIに任せるのは、修繕依頼書と、業者へ現地の確認と見積を頼む見積の依頼文の下書き、未確認の欄の一覧、業者の候補を出すところまでです。見積を頼む業者と入室の可否は、見積の依頼の前に管理担当が決めます。オーナーの承諾が要るかどうかは、見積が出た後、工事を発注する前に管理担当が決めます。修繕の費用を負うのはオーナーで、管理会社は手配を受託している立場だからです。
承諾が要るかは、自社の管理受託契約に書かれた1件あたりの金額と、緊急時の定めで見分けます。契約に金額が無い会社は、緊急の場合を除いて1件ごとに承諾を取る前提になります。承諾前の発注や工種の取り違えが1件でも出たら、下書きを止めて管理担当の作成に戻します。
修繕の発注はオーナーの費用になるのでAIは下書きまで
賃貸管理の修繕で生成AI(以下、AI)が書くのは、業者へ現地の確認と見積を頼む「見積の依頼」の下書きまでです。工事を頼む「発注」は、見積が出た後に、オーナーの承諾が要るかを管理担当が決めてから行います。
図の要点:修繕の手配でAIに渡す記録、下書きとして返るもの、管理担当が決めることを並べた図。対応記録・設備の型番と設置年・修繕記録・業者一覧を渡すと、修繕依頼書と見積の依頼文の下書き、未確認の欄の一覧、業者の候補が返る。見積を頼む業者、相見積を取るか、入室の可否は見積の依頼の前に、オーナーの承諾の要否は見積が出た後・発注の前に管理担当が決める。
オーナーの承諾の要否は、見積が出た後・発注の前に管理担当が決める
渡す記録
- 対応記録の1行(部屋・受付時刻・症状)
- 設備の型番と設置年
- 過去の修繕記録
- 業者一覧(工種・対応エリア)
下書きとして返るもの
- 修繕依頼書と見積の依頼文の下書き
- 未確認の欄の一覧
- 工種とエリアが合う業者の候補
管理担当が決めること
- 見積の依頼の前: 見積を頼む業者
- 見積の依頼の前: 相見積を取るか
- 見積の依頼の前: 入居者に確かめた入室の可否
- 発注の前: オーナーの承諾が要るかどうか
自社の修繕依頼書を横に置き、「渡す記録」の4行が社内のどこにあるかを確かめると、下書きに回せる欄の数が分かります。元の記録が無い欄は、下書きの対象から外します。
発注をAIの出力で確定できないのは、修繕の費用を負うのがオーナーだからです。民法第606条第1項は、賃貸物の使用と収益に必要な修繕を賃貸人の義務としています。
国土交通省の賃貸住宅標準管理受託契約書(以下、標準契約書)は、管理会社が立て替えた費用をオーナーが償還すると定めています。同じ契約書のコメントは、償還の義務が生じる業務を行うときは、原則としてオーナーの承諾を得る必要があるという説明です。
修繕依頼書を作るのは、連絡が設備の不具合だと分かった後です。その前の、連絡をどの区分に入れて緊急度をどう決めるかは、入居者の連絡の分類と緊急度の決め方で確かめられます。サブリース(特定賃貸借契約)は費用負担の決め方が別なので、対象は管理受託契約の物件です。
修繕依頼書の欄は業者の聞き返しが出ない形にそろえる
修繕依頼書は、管理担当が業者へ見積を依頼するときに、部屋・症状・設備の型番と設置年・入室の可否をまとめて渡す社内の帳票です。
【仮の場面】朝、管理担当が夜間の転送で受けた「給湯器からお湯が出ない」の対応記録を開き、修繕依頼書を作って協力業者へ電話で見積を頼みます。業者からは、型番、設置年、日中に入室できるかを聞き返されます。管理担当が賃貸管理システムの修繕記録(以下、修繕記録)を開き直し、入居者の折り返しを待つうちに、見積の依頼は翌日に延びます。
| 修繕依頼書の欄 | 元にする記録 | 空のときの扱い |
|---|---|---|
| 症状 | 対応記録(入居者の言葉のまま) | 入居者へ聞き直す |
| 型番・設置年 | 修繕記録か設備の台帳 | 「未確認」と返す |
| 前回の修繕と業者 | 修繕記録 | 「記録なし」と書く |
| 入室の可否 | 入居者に確かめた結果 | 確かめるまで空欄 |
| 写真 | 入居者アプリ・メールの添付 | 入居者へ送付を頼む |
「元にする記録」が社内のどこにも無い欄は、AIに渡しても埋まりません。型番と設置年が紙の台帳にしか無い会社は、修繕記録に入力する欄を先に作ります。
対応記録には、入居者の氏名、部屋番号、電話番号が入っています。外部のAIサービスへ渡してよいかは、サービスの契約によって扱いが3つに分かれます。契約に「AIサービスの事業者は個人データを取り扱わない」と書かれ、事業者からのアクセスも適切に制限されている場合は、提供に当たりません。
事業者が中身を取り扱う契約の場合は、その契約が委託と言えるものかを確かめます。委託と言えなければ第三者提供にあたり、原則として本人の同意が要ります。規約のどの条項を読むかは、生成AIに入力してよい帳票と欄の決め方で確かめられます。
【説明用の架空の記入例】
AIに渡す入力
対応記録の1行(302号室・受付22時10分・「給湯器からお湯が出ない」)、修繕記録の給湯器の行、業者一覧指示に入れる条件
症状は入居者の言葉のまま写す。記録に無い欄は推測で埋めず「未確認」と返すAIの下書き
修繕依頼書の各欄、見積の依頼文、「未確認: 入室の可否・エラー番号・写真」の一覧管理担当の確認
型番と設置年を修繕記録と照合し、未確認の3点を入居者に電話で確かめる
入室の可否は、AIに推測で書かせない欄です。標準契約書は、住戸へ立ち入るときはあらかじめ入居者に通知し、承諾を得なければならないと定めています。見積の依頼文に「日中入室可」と書けるのは、管理担当が入居者に確かめた後です。業者へ渡す入居者の氏名と電話番号も、訪問の調整に要る範囲に絞り、渡し方は自社の個人情報の規程で確かめます。
オーナーの承諾が要る修繕は契約の金額と緊急で分かれる
標準契約書は、管理会社が立て替える費用について、オーナーの承諾を要しない金額の決め方を定めています。1件あたりの金額が頭書(契約書の冒頭の記入欄)で決めた額を超えなければ、承諾は要りません。その額を超えるものは、あらかじめオーナーと協議します。
| 修繕の場合 | 標準契約書の定め | 管理担当の動き |
|---|---|---|
| 災害・事故で承認を待てない | 承認を受けずに実施できる | 実施後、速やかに書面で内容と費用を通知 |
| 1件の金額が頭書の額以内 | 承諾を要しない | 業者へ発注し修繕記録に残す |
| 1件の金額が頭書の額を超える | あらかじめ協議する | 見積を添えてオーナーと協議 |
承認を待てない緊急の修繕は、実施した後、速やかに書面で内容と費用を通知します。自社の管理受託契約にこの金額が書かれているかを、業務管理者が確かめます。
標準契約書そのものに金額は書かれておらず、オーナーと管理会社が協議して頭書の特約の欄に書く作りです。頭書に金額が無い契約では、承諾なしで発注できる枠が契約上ありません。緊急の場合を除き、1件ごとにオーナーの承諾を取る前提で進めます。
自社の契約の文言が標準契約書と違えば、自社の契約が優先します。この定めの対象は管理会社が立て替えた費用なので、オーナーが業者へ直接支払う会社は、自社の契約で承諾の扱いを読み直します。
金額で判断するには見積が要るので、見積の依頼では工事まで頼みません。見積が出たら、管理担当が頭書の金額と見比べ、承諾の要否を修繕依頼書に書いてから発注します。AIに金額を見立てさせて要否を決める運用にはしません。
費用を入居者が負担しそうな修繕にも、承諾の定めがあります。標準契約書は、修繕の費用負担について入居者と協議するときは、事前にオーナーと協議し承諾を求めなければならないとしています。入居者の過失が疑われる連絡は、見積の依頼文の下書きより先に、管理担当がオーナーへ連絡します。
承諾なしで発注した修繕は、月次の報告でオーナーに伝えます。載せる欄はオーナー向け月次報告書をAIで作る範囲で確かめられます。
業者の選定と相見積は業者一覧を見て管理担当が決める
見積を頼む業者を決めるのは管理担当で、AIに頼めるのは候補を並べる作業までです。AIには業者一覧を渡し、工種と対応エリアが合う業者を並べさせます。修繕記録に同じ設備を前回直した業者があれば、候補に添えさせます。
【仮の場面】給湯器の連絡なら、候補に給湯設備の業者が2社並び、うち1社に「前回の修理を担当」と付く形です。前回の業者へもう一度頼むか、別の業者にするかは、管理担当が修繕記録の経過を読んで決めます。
確定を管理担当に残す根拠は、再委託した業務の責任が管理会社に残ることです。賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律第15条が禁じているのは管理業務の全部の再委託で、協力業者への発注は禁じられていません。ただし標準契約書は、再委託した業務について、管理会社が自ら行ったのと同等の責任を負うとしています。そのため、見積の依頼先も発注先も管理担当が確定します。
標準契約書の頭書には、修繕の委託先の情報を書く欄があります。業者一覧に無い業者名がAIの下書きに出ても、そのまま見積の依頼先にはしません。新しい業者は、業務管理者が業者一覧に登録してから候補に入れます。
相見積を取るかどうかの基準は、法令にも標準契約書にもありません。基準は業務管理者が会社として決め、修繕依頼書に「相見積: 要・不要」の欄を持たせます。欄を埋めるのは管理担当で、症状から見込む工事の規模と、同じ設備の前回の修繕の経過を見て判断します。
見積の依頼までの時間と聞き返しで下書きを見直す
下書きの出来は、受付から業者へ見積の依頼を出すまでの時間と、業者から聞き返された件数の2つを週ごとに数えて確かめます。聞き返しは欄ごとに記録します。同じ欄の聞き返しが何件続いたら修繕依頼書の型か元の記録の入力を直すかは、業務管理者が決めます。
時間を測るのは、手配の遅れが入居者の行動につながるためです。民法第607条の2は、賃貸人が修繕の必要を知ったのに相当の期間内に修繕をしないとき、賃借人が自分で修繕できると定めています。「相当の期間」が何日かは条文に定めが無いので、自社が受付から見積の依頼までに何時間かけているかを、管理担当が記録として残します。
承諾が要る修繕を承諾の前に発注しかけた場合は、1件でも下書きを止めます。工種を取り違えて別の業者へ見積の依頼を出した場合も同じです。止めている間は管理担当が修繕依頼書を作成し、業務管理者が原因になった欄を特定してから再開します。
修繕記録と業者一覧が部屋単位でない会社は外の手から
設備の型番が紙の台帳や担当の記憶にしか無い会社では、AIに渡す記録そのものがありません。業者一覧が担当ごとの電話帳に分かれている会社も同じです。こうした会社が外部に頼むのは、記録の置き場所を決めて業者一覧を1つにまとめる作業からです。
修繕記録が部屋単位で賃貸管理システムに入っている会社は、社内で下書きまで進められます。条件は、業者一覧に工種・対応エリア・夜間対応の可否がそろっていることです。外部に開発を頼むのは、記録の取り出しから見積の依頼文の送信までを自動でつなげたいときです。前後の業務は修繕・保守の業務とAI活用の一覧と不動産の業務別AI活用の記事一覧から探せます。
社内で進める会社がまず手を付けるのは、管理担当が先月の見積の依頼を並べ、業者に聞き返された欄を書き出す作業です。下書きを入れる前と比べる期間は、業務管理者が決めます(たとえば4週)。時間も聞き返しも変わらなければ管理担当の作成に戻し、元にする記録の入力から見直します。
頭書に承諾の金額が無い会社では、下書きで縮むのは受付から見積の依頼までです。見積が出た後、発注の前にオーナーの返事を待つ時間は変わりません。この待ち時間が長いと分かったときは、オーナーとの協議で金額を定めるかどうかを経営者が判断します。
明日から始める3ステップ
担当 管理担当
先月出した見積の依頼を一覧にし、業者から聞き返された欄と、その欄の元になる記録が社内にあるかを書き足す
次へ進む目安聞き返しのあった欄がすべて修繕依頼書の型に入り、元の記録が無い欄は入力先が決まった
担当 業務管理者
自社の管理受託契約で、承諾なしで立て替えられる1件あたりの金額と緊急時の定めを読み、修繕依頼書に承諾と相見積の欄を足す
次へ進む目安金額の定めの有無が物件ごとの一覧になり、承諾の欄が空の修繕依頼書では発注しない決まりを管理担当の全員に伝えた
担当 管理担当
設備の連絡が入るたびに下書きを作り、受付から見積の依頼までの時間と、業者に聞き返された欄を1件ずつ記録する
次へ進む目安4週分の記録がそろい、業務管理者が決めた件数を超えて聞き返された欄の型か入力を、業務管理者が直した
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毎月1テーマずつ積み上げる
作って試す・定着までAIエージェント開発AI顧問生成AI研修
出典
- 民法(明治29年法律第89号)(第606条第1項・第607条の2第1号・第608条第1項) e-Gov法令検索(デジタル庁) 確認日 2026.10.14
- 賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律(令和2年法律第60号)第15条(管理業務の再委託の禁止) e-Gov法令検索(デジタル庁) 確認日 2026.10.14
- 国土交通省「賃貸住宅標準管理受託契約書」第6条第2項・コメント第6条関係・第11条第1項(緊急時の業務)・頭書(3)の記載要領②修繕等・第13条(第三者への再委託)・第14条(代理権の授与)・第17条第2項(住戸への立入調査) 国土交通省 確認日 2026.10.14
- 個人情報の保護に関する法律(平成15年法律第57号)(第25条・第27条第1項) e-Gov法令検索(デジタル庁) 確認日 2026.10.14
- 個人情報保護委員会「「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン」に関するQ&A」Q7-53(クラウドサービスの利用) 個人情報保護委員会 確認日 2026.10.14
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