Blog 業務効率化・自動化

卸売の在庫はなぜ欠品と過剰で損?現場が見落とす3つの盲点とAI比較表

公開 2026.09.04 ・ 読了目安 約15分

月末の棚卸しが終わったあと、同じ通路で足が止まる場面があります。「切らして謝ったのは先週なのに、この棚は3年動いていない」——手前の定番品は在庫が0になって得意先に代替品をお願いしたばかり、いっぽうで奥の棚には引き取り手のない箱が積み上がったまま。取扱いが1,200件の品番という規模を仮に置くと、80件を切らしている同じ月に、300件が1年以上まったく出ていない——欠品と滞留がこう並ぶのは、卸売の在庫では定番の悩みです。しかも発注を絞れば欠品が増え、余裕を持たせれば奥の棚がまた伸びる。どちらに寄せても損が出る感覚が抜けないまま、毎週の発注作業だけが淡々と続いていきます。

先に結論をお伝えします。「絞れば切らし、持てば余る」——この行き来は、どちらかを選んで諦める問題ではありません。

欠品と過剰在庫は反対方向の失点ではなく、発注の判断が担当者1人の頭の中にあり、しかも欠品の痛みだけが記録に残るという、たった1つの構造から同時に生まれています。この2つをトレードオフだと考えている限り、どれだけ発注点を調整しても振れ幅は縮みません。この記事では、卸売の在庫が両側に振れる構造を3つに分解したうえで、生成AIに任せられる範囲と人が決める範囲の線をどこに引くか、そして自社だけで進めたときに踏みやすい3つの盲点を整理します。

30-SECOND SUMMARY忙しい方へ|この記事の結論
  1. 欠品と過剰在庫が同時に起きるのは、発注の補正が担当者1人の頭の中にしか残らず、欠品の痛みだけが記録に残るという非対称性が、発注量を構造的に上振れさせるため
  2. 生成AIが速いのは4系統の数字の突き合わせと異常品番の抽出で、発注数量・仕入条件・与信・処分の4項目は人が実数で確定させる
  3. 中小企業白書2026概要p.21では製造・生産管理・物流部門の57.2%が「活用している」、31.2%が必要性を認識しつつ未着手。情報通信白書では生成AI利用企業が日本で86.4%と、使っているかどうかはもう差にならない

卸売の在庫が欠品と過剰に同時に振れる構造

欠品と過剰在庫は、たいてい別々の課題として扱われます。欠品は営業側の問題、過剰在庫は仕入側の問題、という分け方です。ところが実際の倉庫では、先ほど置いた1,200件の規模でいえば、同じ月に80件を切らしながら300件が1年以上動かない、という状態が並んで起きます。片方を叱っても、もう片方が悪化するだけで振れ幅は縮みません。ここを担当者の力量の話にすると、5年たっても同じ月末が繰り返されます。まず、なぜ両側に同時に振れるのかを3つに分けて見ていきます。

発注の判断が担当者の頭の中にしかない

在庫管理システムには発注点も安全在庫も設定されています。しかし現場で実際に発注数を確定させているのは、システムが出した数字そのままではありません。「この得意先は月末3日間にまとめて出る」「この仕入先は連休をはさむと入荷が2週間ずれる」「この品番は箱単位でしか入らないので12本刻みになる」といった補正が、最後に人の頭の中で足し引きされています。

この補正の精度が高いこと自体は、卸売の強みです。取引を10年、20年と積み重ねてきた担当者ほど、システムの数字より当たります。問題は、その補正が1件も記録されていないことにあります。なぜ発注点の18本ではなく24本にしたのか、その根拠は発注ボタンを押した瞬間に消えます。翌月に24本が滞留しても、判断そのものを振り返る材料が1つも残っていません。

記録がないので、見直しもできません。担当者が3日休むと発注が止まり、異動や退職があれば、積み上げた補正のルールは丸ごと失われます。1,200件の品番を数人で回している体制では、1人が抜けた瞬間に欠品と過剰の両方が跳ね上がる。これは個人の問題ではなく、判断が記録に残らない仕組みの側の問題です。

欠品の痛みは記録に残り過剰在庫の痛みは残らない

卸売の在庫でいちばん見落とされているのが、この非対称性です。欠品が起きると、その日のうちに電話が鳴ります。得意先への謝罪、代替品の提案、仕入先への緊急手配、場合によっては1件のために別倉庫から取り寄せる手配まで発生します。1件あたり30分から60分が確実に消え、しかもその記録は日報にも、営業の記憶にも、社内の空気にも残ります。

いっぽう過剰在庫は、誰も怒りません。棚に置いてあるだけで、電話は1本も鳴らない。滞留が90日を超えても、180日を超えても、日常の中では何の音も立てません。金額として姿を現すのは、期末の評価損か、数年後の処分判断のときだけです。痛みが発生する時点が、発注した日から1年も2年もずれています。

この記録の非対称性が、発注量を構造的に上振れさせます。人は、記憶に残っている痛みを避けるように判断するからです。3か月前に切らして謝った品番は多めに、静かに眠っているだけの品番は据え置きに。1件ずつは正しい判断に見えても、1,200件分を積み上げると、欠品も過剰も同時に増える方向に効いていきます。欠品と過剰が両立してしまう最大の理由は、ここにあります。

在庫が動かない間に減っているのは現金と棚と時間

滞留在庫のコストは、値下げして売ったときの差額だけではありません。まず現金です。仕入代金の支払いは、たいてい30日後から60日後には終わっています。1年動いていない300件分の在庫は、その金額がそのまま倉庫の棚で止まっている状態を意味します。手元の運転資金が薄いと感じている会社ほど、この止まっている金額が効いています。

次に棚です。保管スペースには物理的な上限があります。滞留品が通路側の取りやすい位置を占めていると、出荷頻度の高い定番品が奥や上段に押し出され、ピッキングの動線が1件あたり10秒、20秒と伸びます。仮に1日300件の出荷のうち全件で10秒ずつ余計にかかるとすれば1日50分、月20日で1,000分——16時間以上に相当します。実際には影響を受けるのは動線が変わった一部の品番ですが、桁感としてはこの規模です。新しい取扱商品を増やしたいのに置き場所がない、という相談も、実態はこの棚の占有です。

3つ目が時間です。棚卸しの対象件数は滞留品の分だけ増え、「これは処分するのか、まだ売れるのか」の判断に毎回30分から1時間が消えます。しかもその判断は先送りしやすく、翌年も同じ品番を同じ会議で議論することになります。最初にやるべきは減らすことではなく、どの品番に何日の滞留があり、金額がいくら止まっているかを数えることです。数字が出ていない状態で道具を比べても、答えは出ません。

生成AIに任せられる範囲と、人が決める範囲

卸売の在庫判断で生成AIに任せられる工程と自社が決める工程の比較表
卸売の在庫の見直し:生成AIに任せられる下ごしらえと、自社が決める発注・処分の判断

生成AIを在庫に使うと聞くと、真っ先に「発注数を自動で決めてくれる」という絵を思い浮かべる方が多いところです。ただ、そこから入ると、たいてい途中で止まります。生成AIが速いのは、判断そのものではなく、判断の手前にある数字集めと整理だからです。この2つを混ぜたまま入れると、出力は速いのに確認が増え、合計時間が1分も減らないという結果になります。BoostXはAI伴走顧問と業務自動化ツール開発で中小企業のAI導入を支援していますが、道具を選ぶ前に線を引いておくほうが、あとで作り直しにならないと考えています。

数字の突き合わせと異常品番の洗い出しは、生成AIが速い領域

週1回の発注作業で、実際に時間を食っているのは考える時間ではありません。在庫システムから出した現在庫、受注システムの受注残、仕入先からの入荷予定、営業が持っている来月の商談見込み——この4種類の数字を1つの表に並べる作業です。出どころが4つあれば書式も4通りで、品番の桁数もコードの表記もそろっていません。ここに1回あたり2時間、3時間と溶けていきます。

この工程は、生成AIと自動化の組み合わせがはっきり効く領域です。書式のそろえ直し、表記ゆれの寄せ、4つの数字の突き合わせ、そして「在庫日数が7日を切っている品番」「180日以上出荷が0件の品番」といった条件での抽出と一覧化。素材さえそろっていれば、人が1行目から並べ直すより短い時間で片づきます。

もう1つ相性がいいのが、出てきた一覧に説明をつける作業です。滞留上位30件を並べただけの表は、会議に出しても議論が進みません。「この15件は季節性で、次のシーズンまで6か月ある」「この8件は代替品が入ったあとの残り」といった分類の下書きまで出せると、会議の議題が1つずつ前に進みます。ただしその分類が正しいかどうかを確かめるのは、あくまで人の側です。

仕入れ条件と取引先との関係は、人しか決められない

生成AIは、その会社の仕入条件を知りません。最低ロットが12本なのか48本なのか、リードタイムが3日なのか30日なのか、この仕入先には月内にあと何本まで頼めるのか。知らないまま、もっともらしい数量を書きます。ここが最大の危険で、「安全在庫は平均出荷の1.5か月分が一般的です」といった文章が出てきたとき、それは自社を調べた結果ではなく、統計的にありそうな並びを出力しただけです。

卸売の発注が難しいのは、数量が在庫だけで決まらないからでもあります。長く付き合っている仕入先から「今期はこの数量でお願いしたい」と言われたとき、その1件を断ることが、来年の割り当てや納期の優先順位にどう返ってくるか。得意先の棚を守るために、採算が薄い品番をあえて持つ判断もあります。この種の重みづけは、過去の出荷データのどこにも書かれていません。

したがって、発注数量・仕入条件・仕入先の与信枠・処分の可否という4項目は、生成AIが出した数字を「たたき台」として扱い、人が実数に置き換える工程を必ず挟みます。ここは規模にかかわらず省略しないほうがよい、というのが私の考えです。責任を負うのは発注した本人であって、出力した道具ではないからです。

任せる範囲と決める範囲の比較表

導入を検討する前に、この線引きを1枚に書き出しておくことをおすすめします。口頭の合意だけだと、繁忙期の1週間で境目が必ず溶けるからです。下の6行は、卸売の発注まわりでよく境目になる工程を並べたものです。

工程 生成AIに任せられる 人が決める
発注のための数字集め 4系統の数字の突き合わせ・表記ゆれの統一 どのデータを正とするかの基準
異常品番の洗い出し 在庫日数7日未満・滞留180日超などの条件抽出 抽出条件そのものが妥当かどうか
需要の見立て 過去24か月の出荷傾向を整理した素案 来月の催事・商談・天候を織り込んだ最終数量
発注量の確定 判断できない ロット12本刻み・リードタイム・仕入先の与信枠を踏まえた確定
仕入先との条件交渉 想定問答のたたき台づくり 条件の落としどころと関係の重みづけ
滞留在庫の処分 滞留日数順・金額順の一覧化 値引き・返品・廃棄の意思決定

この表の右側が1つでも空欄のまま運用が始まると、必ずあとから作り直しになります。逆に右側さえ埋まっていれば、左側は道具が変わっても引き継げます。3年後に別のシステムへ乗り換えても、残るのは右側だからです。

For Executives · 毎月限定5社

「AI、何から始めるか」を、
御社の事業に当てはめた戦略提案書

業界事例・ROI試算・3ヶ月導入ロードマップを含む全15章から、御社が今いちばん知りたい5章を選んで編集。代表 吉元が監修して3〜5営業日でPDFお届け。完全無料。

経営者・役員・部門長・AI推進ご担当者の方限定。御社の事業に当てはめた個別作成のため、立場が判断できない方への配信はお断りしております。

公的データが示す「欠品と過剰在庫は両立して減らせる」

ここまで読んで、「理屈は分かるが、本当に両方とも減るのか」と思われた方も多いはずです。この点については、社内の感覚ではなく官公庁が公開している一次資料に当たるのが確実です。参照できる資料は3本あります。

資料 示されている内容 卸売の在庫に引き寄せると
中小企業庁「2026年版 中小企業白書」概要 部門別の内訳で、製造・生産管理・物流部門は「活用している」57.2% AIが実際に使われている部門の上位
消費者庁「食品ロス削減関係参考資料」 欠品防止と在庫削減の両立を目指す協働の枠組み(CPFR) 両立は目標として置かれている
総務省「令和8年版 情報通信白書」 何らかの業務で生成AIを利用している企業 日本86.4% 使っているかどうかは、もう差にならない

モノの流れを扱う部門は、AI導入の主戦場になっている

中小企業庁「2026年版 中小企業白書・小規模企業白書の概要」p.21(2026年9月確認)によれば、全体(n=5,645)で「AI活用に取り組んだ」と答えた中小企業は30.3%、「取り組んでいない」が69.7%でした。全体で見ればまだ3社に1社です。そのうえで、同じp.21には「どの部門で使われているか」という別のグラフも載っています。

同じp.21で、製造・生産管理・物流部門(n=1,210)のうち「活用している」と答えた割合は57.2%。営業・販売・顧客対応部門(n=1,605)が68.2%、バックオフィス部門(n=1,577)が73.4%です。ここで注意したいのは、この部門別の割合と、先ほどの全体30.3%は、同じ母数の数字ではないことです。部門別のグラフは、AIが実際にどの部門で使われているかを示したもので、中小企業全体の57.2%が物流部門でAIを使っている、という意味ではありません。読み取れるのは、取り組んでいる会社の中では、モノの流れを扱う部門が確かに対象になっているという事実です。

もう1つ目を引くのが、同じ製造・生産管理・物流部門の内訳で「必要性を認識しているが、活用には至っていない」が31.2%あることです。57.2%と31.2%を足すと88.4%。同じグラフの中では、必要性まで含めれば9割近くがこの領域を視野に入れており、残っているのは「やるかどうか」ではなく「どこから、どう組むか」の差だと読めます。1年後にこの31.2%がどちら側へ移るかは、そのまま同業との差になります。

官公庁の資料が示す「欠品防止と在庫削減の両立」

欠品と過剰在庫がトレードオフではないことを、行政資料の中で最も直接的に書いているのが消費者庁「食品ロス削減関係参考資料(令和8年1月14日版)」p.57・p.59(2026年9月確認)です。ここで紹介されているCPFRという枠組みは、「メーカー(製)、卸売事業者(配)、小売事業者(販)が相互に協力して、『商品の企画・販売計画』、『需要予測』、『在庫補充』を協働して行い、欠品防止と在庫削減を両立させることを目指す」ものと定義されています。両立は、行政資料の中で明確に目標として置かれているわけです。

同資料のp.59では、経済産業省と日本気象協会による需要予測プロジェクトの成果も紹介されています。平成28年度の取組では「欠品することなく豆腐の食品ロスがほぼゼロとなる効果を確認」とされています。冷やし中華つゆについても、出典の記載をそのまま引くと、150mlは最終在庫を約20%削減(平成26年比)、翌年はさらに約35%削減(平成27年比)、360ml商品では約90%削減(平成27年比)です(いずれも同資料p.59の出典表記による)。欠品を出さずに在庫だけを減らした、という結果です。

ただし、ここは正確に受け取る必要があります。これらはいずれも食品分野の事例であり、他業種にそのまま当てはまる数字ではありません。同じp.57では、常温流通の加工食品における1/3ルールから納品期限1/2への緩和も紹介されており(納品期限の見直しに取り組む事業者は令和6年10月時点で339事業者、賞味期限表示の大括り化350事業者、賞味期限の延長269社)、商慣習そのものを動かす取組と一体で成果が出ています。読み取るべきは削減率の数字ではなく、「欠品と在庫は、片方を諦める対象ではなく、両方に効かせにいく対象として設計されている」という考え方の側です。

使っている企業は86.4%、けれど在庫の判断に効いているかは別

総務省「令和8年版 情報通信白書」(図表Ⅰ-2-1-6、2026年9月確認)では、「わが社の何らかの業務で生成AIを利用している」と回答した企業の割合が、日本において86.4%と示されています。数年前であれば「使っているかどうか」が話題になりましたが、9割近くが使っている状況では、それ自体はもう差になりません。

ここで先ほどの中小企業白書と重ねると、輪郭がはっきりします。ただし2つは調査主体も対象も設問も違うため、割合を引き算して差を出すことはできません。並べて読み取れるのは、何らかの業務で生成AIを使うところまでは広く行き渡った一方で、白書の側では「必要性は認識しているが、活用には至っていない」がなお3割残っている、という温度差です。つまり、文章を書く、要約する、翻訳するといった用途では入っていても、モノと金が動く判断の手前まで届いているかどうかで、はっきり分かれています。

在庫の話で差がつくのは、この「判断の手前まで届いているか」の側です。ツールを契約した日ではなく、発注前の数字を1つの表にそろえ、誰がどの数字を見て何を決めるかを取り決めた日から、動き始めます。逆に言えば、契約だけしてこの取り決めを飛ばすと、86.4%の中の1社にはなっても、在庫の振れ幅は1件も変わりません。

自前でAIに任せたときに危ない3つの盲点

ここからが本題です。方向が見えてくると、次に起きるのは「まず社内でやってみよう」という判断です。それ自体は健全ですが、卸売の在庫については、自社だけで進めたときに高い確率で踏む場所が3つあります。厄介なのは、いずれも手を抜いたから起きるのではなく、真面目に進めたからこそ踏む種類の盲点だという点です。

盲点1:マスタが揃っていない状態で予測に走る

最初に出てくる発想は、たいてい需要予測です。過去36か月の出荷実績を読ませて来月の数量を出す、という絵は分かりやすく、社内でも通しやすい。ところが着手して2週間ほどで、ほぼ必ず同じ壁に当たります。読ませるデータの側が揃っていないという壁です。

卸売のマスタは、長く商売を続けているほど積み重なりが複雑になります。同じ商品なのにメーカー変更で品番が2つある、入数違いで3コードに分かれている、5年前に廃番になったコードが受注データにだけ残っている、単位が「本」と「箱」と「ケース」で混在している。この状態で1,200件を読ませると、出てくるのは予測ではなく、もっともらしい数字が並んだ表です。しかも見た目には正しく見えるので、間違いに気づくのは在庫が動いた3か月後になります。

順番が逆なのです。予測の前に、どの品番とどの品番が同じ商品なのか、単位は何に統一するのか、廃番の扱いをどうするのかを決める必要があります。地味で、社内では評価されにくく、しかも1〜2か月かかる工程です。ここを飛ばした導入は、精度が出ないまま「AIは使えない」という結論で終わります。原因は道具ではなく、順番の側にあります。

盲点2:欠品率だけを指標に置くと過剰在庫が増える

2つ目は、指標の置き方です。在庫を良くしようとするとき、最初に置かれる数字は、たいてい欠品率です。分かりやすく、営業からの要望とも一致し、月次で追いやすい。ところがこの1つだけを置くと、section1で見た非対称性が、そのまま数値目標として制度化されます。

欠品率を下げる最も確実な方法は、全品番を多めに持つことです。担当者は評価される数字に向かって動きますから、迷ったときは必ず多い側に倒します。半年後、欠品率は3分の1に下がり、その同じ期間に滞留180日超の品番が300件から420件へ増えている——数字を仮に置くと、こういう形で表面化します。片方の指標だけを見ていると、この120件の増加は誰の視界にも入りません。

最低限、欠品側と滞留側を対で置くこと。そのうえで、両方を同時に見るのは誰なのかを決めることです。欠品を営業が見て滞留を仕入が見る、という分担にすると、2つの数字は永久に別の会議で報告され続けます。指標を2つ置くこと自体より、1人が同じ画面で両方を見る状態を作れるかどうかが分かれ目になります。

盲点3:出てきた数字を誰が承認するか決めていない

3つ目が、最も静かに効いてくる盲点です。仕組みが動き出して、毎週月曜の朝に「発注推奨リスト」が出るようになったとします。1,200件のうち今週の対象が140件。ここまでは順調です。問題は、その140件を誰が承認するのかが決まっていないと、翌週から何も進まなくなることです。

現場の担当者から見ると、出てきた数字をそのまま発注するのは怖い。外れたときに責任を負うのは自分だからです。かといって140件すべてを1件ずつ検証すると、1件2分でも280分——4時間40分かかり、導入前より時間が増えます。結果として起きるのが、リストは毎週出ているのに、実際の発注は今までどおり人が決めている、という空回りです。半年後に「結局、使っていない」となるのは、たいていこの形で止まっているからです。

避けるには、承認の設計を先に決めておくことです。推奨と実績の差が10%以内なら自動で通す、差が10%を超えた品番だけ人が見る、金額が50万円以上の発注は必ず責任者が確認する——といった線をあらかじめ引いておく。140件のうち人が見るのが20件で済めば、確認は40分に収まります。この設計は道具の設定ではなく、社内のルールづくりです。戦略の整理から運用の定着まで継続して見てほしい場合は、月額の伴走という選び方もあります。

ビフォーアフター:卸売の在庫の見方がここまで変わる

ここで、取扱いが1,200件の品番、週1回の定期発注、月の出荷が6,000件という規模の卸売を仮に置いて、時間の使い方がどう変わるのかを見てみます。以下はあくまで目安のモデル計算であり、実績値ではありません。

BEFORE

現状の苦しい1か月

発注前の数字集めに1回240分と置きます。内訳はたとえば、在庫と受注残の突き合わせに90分、入荷予定の反映に45分、営業からの見込み情報の集約に60分、最終の一覧づくりに45分。これが週1回、月4回で960分——16時間です。しかもこの16時間は、通常の受発注をこなした後ろにしか置けません。

これに加わるのが欠品の後追いです。月12件の欠品が起き、1件あたり謝罪・代替品の提案・緊急手配で30分と置くと360分、6時間。さらに月1回の滞留在庫の棚卸しと処分判断に120分、2時間。合計すると月24時間が、在庫の振れ幅そのものではなく、振れたあとの後始末に消えている計算になります。

やっかいなのは、この24時間が均等に散らばらないことです。連休前と月末に集中し、その週だけで8時間が夜に積み上がる。翌週は落ち着いて、忘れたころにまた重なる。予定として確保できないので、改善の検討はいつも「来月やろう」で先送りされます。

AFTER

整えたあとの1か月

同じ規模を、工程を切り分けた形に変えます。数字集めと異常品番の抽出を自動化側に寄せて1回45分、月4回で180分——3時間。発注量を確定させる判断には1回60分をきちんと残し、月4回で240分——4時間。判断の時間は削りません。

欠品の後追いは、発注前に在庫日数7日未満の品番が毎週一覧で見えるようになる分、仮に月12件から月7件へ減ると置くと210分、3.5時間。棚卸しと処分判断は、滞留日数順の一覧が常時ある状態なら月60分、1時間。合計は3+4+3.5+1で11.5時間です。

差は月12.5時間、12か月で年150時間に相当します。ただし、この数字の中身をよく見てください。減っているのは数字集め(16時間→3時間)と後始末(8時間→4.5時間)であって、判断の時間はむしろ、後始末に紛れていた状態から、月4時間の独立した工程として確保される形に変わっています。ここが重要な点です。判断まで削ると、盲点3で見た空回りに戻ります。

違いを生んでいるのはツールではなく運用設計

Beforeの24時間とAfterの11.5時間を分けているのは、道具の性能差ではありません。分けているのは3つの設計です。1つ目は、品番のマスタと単位が1つに統一されていること。2つ目は、欠品側と滞留側の2つの指標を、1人が同じ画面で見る状態になっていること。3つ目は、推奨と実績の差が何%を超えたら人が見るのか、金額がいくら以上なら責任者が確認するのかという承認の線が、頭の中ではなく1枚の紙に書かれていることです。

この3つがないまま道具だけ入れると、一覧は45分で出てくるのに、そのあと「この数字を信じてよいのか」を毎週1から考え直すことになり、合計時間はほとんど変わりません。つまずくとすれば、まずここです。速くなったのは集める工程だけで、判断の負荷は1分も減っていないからです。

うちはまだBefore寄りだと感じた方は、まず1か月だけ、発注前の数字集めに何分かかっているか、欠品の後追いが月に何件発生しているかを書き出してみてください。この2つの数字が出た時点で、任せる範囲と人が決める範囲の線は、かなりはっきり見えてきます。

よくある質問

Q欠品を減らそうとすれば在庫は増えるものではないのですか?

A同じ発注ルールのままなら、そのとおりトレードオフになります。ただし消費者庁の食品ロス削減関係参考資料p.59では、メーカー・卸売・小売が需要予測と在庫補充を協働して行い、欠品防止と在庫削減を両立させることを目指す枠組み(CPFR)が紹介されています。両立は行政資料の中で目標として置かれている考え方です。なお同資料で示されている削減率は食品分野の事例であり、他業種にそのまま当てはまる数字ではありません。読み取るべきは、片方を諦める前に発注の前提そのものを組み替える対象がある、という点です。

Q需要予測のAIを導入すれば解決しますか?

A予測は手段の1つですが、順番としては後ろです。同じ商品が品番2つに分かれている、入数違いで3コードある、単位が本と箱で混在している——といった状態のまま1,200件を読ませると、出てくるのはもっともらしい数字の表で、間違いに気づくのは3か月後になります。先に着手すべきは品番と単位の統一、そして出てきた数字を誰がどこまで承認するかの線引きです。この2つが済んでいれば、予測の精度は後から積み増せます。

Q在庫をエクセルで管理しているのですが、そこからでも始められますか?

A始められます。判断の分かれ目はシステムの種類ではなく、数字の粒度がそろっているかどうかです。1品番につき1行で、現在庫・受注残・入荷予定・直近12か月の出荷が同じ単位で並んでいれば、エクセルでも十分に出発点になります。逆に、部署ごとに別々のファイルが4つあって集計方法が違う場合は、システムを入れ替えても同じ問題がそのまま移ります。まずファイルが何個あり、単位が何通り混在しているかを数えるところからです。

Q1,200件の品番がありますが、どこから手を付けるべきですか?

A全件を一度に対象にしないことをおすすめします。効果が見えやすいのは、直近6か月で欠品の後追いが発生した品番と、滞留が180日を超えている品番の2群です。本文で置いたモデルなら、この2つで対象は300件から400件ほどになります。さらに金額の大きい順に絞れば、最初に着手するのは100件前後です。そこで運用の型と承認の線を固めてから、残りへ広げる進め方が現実的です。最初から1,200件を1件2分で確認すると2,400分——40時間かかる計算になり、続きません。

Q社内にIT担当がいなくても進められますか?

A進められますが、担当がいない場合ほど、承認の設計を先に決めておく必要があります。中小企業庁「2026年版 中小企業白書」概要p.21では、製造・生産管理・物流部門で「必要性を認識しているが、活用には至っていない」が31.2%を占めています。止まっている会社の多くは、道具が分からないのではなく、出てきた数字を誰が引き受けるのかが決まっていない段階で足踏みしています。推奨と実績の差が10%を超えた品番だけ人が見る、といった線を先に引いておけば、専任のIT担当がいなくても運用に乗せられます。

まとめ

  • 欠品と過剰在庫が同時に起きるのは、発注の補正が担当者1人の頭の中にしか残らず、欠品の痛みだけが記録に残るという非対称性が、発注量を構造的に上振れさせるため
  • 生成AIが速いのは4系統の数字の突き合わせと異常品番の抽出で、発注数量・仕入条件・与信・処分の4項目は人が実数で確定させる
  • 中小企業白書2026概要p.21では製造・生産管理・物流部門の57.2%が「活用している」、31.2%が必要性を認識しつつ未着手。情報通信白書では生成AI利用企業が日本で86.4%と、使っているかどうかはもう差にならない
  • 自社だけで進めると踏みやすいのは、マスタ未整備のまま予測に走る・欠品率だけを指標に置く・承認者を決めていない、の3つの盲点
  • 月24時間から11.5時間へ、年150時間の差を生むのは道具ではなく、マスタ統一・2つの指標・承認の線という運用設計(目安のモデル計算)

監修者|生成AIの導入から定着まで伴走する専門家が確認しています

吉元大輝(よしもとひろき)

株式会社BoostX 代表取締役社長

中小企業の生成AI導入を支援する「生成AI伴走顧問」サービスを提供。業務可視化から定着支援まで、一気通貫で企業のAI活用を推進している。

公開日:2026年9月

この記事をシェア

読んで終わりにしないために

「自社の場合は、どうすれば?」
その答えを、30分で持ち帰る。

記事で分かるのは、一般論まで。現役の生成AI伴走顧問が、貴社の業務に当てはめて“次の一手”だけを一緒に整理します。

この30分で持ち帰れるもの

  1. 01

    自社業務に当てはめたAI活用マップ

  2. 02

    投資対効果(ROI)のシミュレーション

  3. 03

    いまの悩み・疑問への、その場の個別回答