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歯科の電話予約をAIに任せる|院長が損しない2026年費用の盲点

公開 2026.08.27 ・ 読了目安 約15分

歯科の受付では、「予約の電話が鳴るたびに、診療の手が止まる」という状態が1日に何度も繰り返されます。チェアサイドで器具を持ったまま受付を振り返る、アシスタントが1人抜けて受話器を取る、直前キャンセルの1本を受けて午後の枠を組み直す。1件あたりは2分から5分の話です。ただ、それが1日に15件から20件積み上がり、月20診療日ぶん重なると、院長にも受付にも「今日は診療以外のことばかりしていた」という感覚だけが残ります。電話に出ないという選択肢はなく、出れば診療が止まる。この二者択一が毎日続くのが、歯科の受付が抱えている構造です。

歯科の電話予約をAIに任せるかどうかを判断するとき、先に決めるべきなのは費用の大小ではありません。どの工程まで機械に渡してよく、どこから先を医院が持ち続けるのか、その線をどこに引くかです。なお、本文に出てくる件数・分数は、断りのない限りすべて記事内で仮に置いた目安であり、実績値ではありません。この記事では、受付電話に取られている時間を1日75分・月1,500分という仮の内訳に分解したうえで、AIに渡してよい範囲と医院が持ち続ける判断の線引き、費用が積み上がる5つの内訳、そして院内だけで組もうとしたときに突き当たる4つの限界を、比較表とビフォーアフターで整理します。

30-SECOND SUMMARY忙しい方へ|この記事の結論
  1. 受付電話は1本2分から5分でも、仮に1日75分・月20診療日で月1,500分(約25時間)に積み上がる。予約対応900分・時間外の折り返し240分・初診の問い合わせ360分という内訳で分解すると、どこが重いかが見える(すべて仮に置い…
  2. AIに渡せるのは定型応答と一次受けまで。緊急性の判断、ユニットと時間の割り当て、個別の費用説明、患者情報をどこまで取得するかの4点は医院が持ち続ける(境目は3つ)
  3. 費用は総額でなく5つの内訳(初期設計・電話回線・月額固定・通話従量・保守と院内教育)と7項目で比べる。全国の歯科診療所は65,213施設・前月比77施設減(厚生労働省「医療施設動態調査」令和8年3月末概数)

歯科の予約電話が、院長と受付の時間を確実に削っていく構造

最初に、受付電話に取られている時間を分数で置き直します。歯科の予約電話は1本あたり2分から5分と短く、1本ずつ見れば大した負荷には見えません。だからこそ帳簿にも日報にも残らず、「なんとなく忙しい」で処理されてきました。しかし1日15件から20件、月20診療日で300件から400件という単位で積み上がると、常勤スタッフ1人ぶんの時間に匹敵する規模になります。まずここを数字にしないと、任せるべきかどうかの判断そのものができません。

鳴った電話1本が、チェア1台の進行を止める

歯科の受付電話が重いのは、分数の合計だけが原因ではありません。鳴るタイミングを医院側が選べないことが本体です。9時00分の診療開始から18時30分の最終枠まで、電話は診療の都合とは無関係に鳴ります。ユニットが3台あって3台とも稼働している時間帯に1本鳴れば、受付が対応するか、アシスタントが1人抜けるかのどちらかです。アシスタントが抜けた30秒から90秒は、そのままチェア1台の進行が止まる時間になります。

さらに、電話は1本で終わりません。予約変更の1本は、カルテと予約表を突き合わせ、空き枠を探し、必要なら他の患者の枠をずらし、最後に確認を返すという4工程を含みます。2分で終わる電話と、8分かかる電話の差はここにあります。受付の負荷を「1件2分」で見積もった時点で、実態の半分しか見えていないことになります。

昼休みの1時間と、18時30分以降の時間帯も同じです。診療していない時間に鳴った電話は留守電に落ち、翌日の朝に5件から10件まとめて確認して折り返すことになります。折り返しは1件あたり通話3分に加えて、つながらなかった場合の再架電が1回から2回。この再架電が、朝の準備時間を静かに削っていきます。

仮に置いた月1,500分——受付電話の内訳を分数で並べる

ここから示す数字は、すべて記事内で仮に置いた目安であり、実績値ではありません。医院の規模、ユニット台数、標榜する診療内容、自費の比率によって大きく変わります。それでも、分解の型そのものは自院の実測にそのまま使えます。月20診療日を前提に、受付電話を3つに分けます。

1つ目が、予約の受付・変更・キャンセル対応です。仮に1日45分とすると、月900分になります。3つの中で最も重く、全体の6割を占めます。2つ目が、診療時間外の留守電確認と折り返しです。仮に1日12分とすると、月240分。3つ目が、初診の費用・保険・診療内容に関する問い合わせで、仮に1日18分とすると月360分です。1件あたり5分から10分と長くなりやすく、答える人によって説明がぶれやすい領域でもあります。

合計すると1日75分、月1,500分。時間に直すと月25時間です。年間では300時間、1日8時間換算でおよそ37日ぶんに相当します。なお、この240分は留守電の確認と折り返しの通話ぶんだけを置いた数字で、つながらなかったときの再架電や、他のスタッフへの取次ぎにかかる時間は含めていません。この25時間は、診療報酬にも自費売上にも直接ひもづかない時間でありながら、削ることも外注することも簡単ではない時間です。繰り返しますが、この1,500分という数字は仮に置いたものです。自院で測るなら、20診療日ぶん、受話器を取った時刻と切った時刻をメモするだけで十分な材料になります。

65,213施設・前月比77施設減という前提の中で受付が回っている

この負荷は、1院だけの事情ではありません。厚生労働省「医療施設動態調査(令和8年3月末概数)」(2026年8月確認・令和8年5月29日公表)によれば、全国の歯科診療所は65,213施設で、前月に比べて77施設の減少となっています。1ヶ月で77施設という減少幅は、単純に12ヶ月ぶんに引き延ばせば900施設超の規模です。

65,213施設という母数の中で、患者は複数の医院を比較したうえで1本の電話をかけます。かけた先が3コールで出るのか、2分待たされるのか、そもそもつながらないのか。この差が、そのまま来院につながるかどうかを分けます。前月比77施設減という数字は、経営環境の厳しさを示すと同時に、電話1本の取りこぼしが持つ重みが以前より増していることも示しています。

電話に出られなかった1本は、集計にも記録にも残らない

受付電話でいちばん怖いのは、月1,500分という「かかった時間」ではなく、記録に残らない取りこぼしのほうです。診療中に鳴って出られなかった電話、留守電にメッセージを残さず切れた電話、3コール以内に出られず切られた電話。これらはレセプトにもカルテにも予約表にも残りません。1日に2件から3件あったとしても、月20診療日で40件から60件、その事実に誰も気づかないまま過ぎていきます。

自院がどれだけ取りこぼしているかは、着信履歴と予約表を20営業日ぶん突き合わせれば、おおよその輪郭が見えます。着信が1日18件あって予約表に紐づくのが14件なら、差の4件がどこへ行ったのかを確認する価値があります。仮にそのうち1件が初診の問い合わせだったなら、月20診療日で20件ぶんの機会に相当します。この確認を1回もしないまま「うちは電話くらい回っている」と判断してしまうのが、いちばん損の大きい状態です。

歯科医院の受付電話にかかる月あたり時間を、予約の受付・変更・キャンセル、診療時間外の折り返し、初診の費用や保険の問い合わせの3つに分けて、AI活用前後で仮定計算により比較した横棒グラフ
予約対応900分・時間外の折り返し240分・初診の問い合わせ360分の合計1,500分(25時間)が、仕組みに寄せると月700分から900分の規模へ。すべて「仮に」で置いた目安であり実績値ではない

電話予約をAIに任せてよい範囲と、医院が持ち続ける判断の線引き

ここからが本題です。歯科の電話予約にAIを入れるとき、最初に決めるべきなのは製品名ではなく「どこまで渡すか」です。線を引かずに導入すると、便利さに引きずられて医院が負うべき判断まで機械に渡すか、逆に怖くて何も渡せずに3ヶ月で使われなくなるかの、どちらかになります。私は、AI導入では道具選びより先にこの線引きを決めることを重視しています。工程ごとに整理すると、境目は次の表のように引けます。

工程 AIに渡してよい範囲 人が必ず持ち続ける判断
診療時間・休診日・アクセスの案内 公開情報にもとづく定型の一次応答(24時間) 案内内容を最新に保つ責任と、変更時の反映
予約の新規受付 空き枠の読み上げと、枠の仮押さえまで 診療内容に合うユニット・時間・担当の割り当て
予約の変更・キャンセル 変更受付と、空いた枠の開放 直前キャンセルで空いた1枠をどう埋めるかの判断
時間外・昼休みの一次受け 用件の要点整理と、翌朝の折り返しリスト化 折り返しの優先順位づけと、実際に話すこと
痛み・腫れ・出血などの訴え 受けた内容をそのまま記録し、即座に人へ取り次ぐ 緊急性の判断と、当日対応の可否(歯科医師)
初診の費用・保険の問い合わせ すでに公開している範囲の一般的な案内 個別の治療計画にひもづく費用・自費の説明
患者情報の受け取り 予約に必要な最小限の項目のみ受け取る 何をどこまで取得・保存してよいかの取り決め
歯科の電話予約でAIに渡せるのは定型応答と一次受けまで。緊急性の判断、ユニットと時間の割り当て、個別の費用説明、患者情報をどこまで取得するかは医院が持ち続ける

表の右列は、どれも「間違えると診療そのものに跳ね返る」判断です。左列は、間違っても患者に届く前の段階で気づけるものが中心です。この見分け方を、3つの境目として言い直します。

境目1:受け答えの定型はAI、診療の可否は歯科医師と院内が決める

1つ目の境目は、定型応答と診療判断の間に引きます。「木曜と日曜は休診」「駐車場は3台」「予約の変更は前日までに連絡が必要」といった案内は、答えが1つに定まる定型です。ここは24時間365日、同じ精度で返せるほうが患者にとっても医院にとっても得です。1日18件の着信のうち、こうした定型で完結するものが3件から5件あるなら、その3件から5件は最初から機械が受けてよい領域になります。

一方で「この症状で今日中に診てもらえるか」は診療判断です。歯科医師が持つべき判断であり、当日の予約状況、担当の在席、必要な処置時間が20分なのか60分なのかによって答えが変わります。生成AIは、材料が足りなくてもそれらしい答えを自信のある文体で返します。だからこそ、症状の訴えが出た時点で人に渡す設計にしておかないと、「AIが大丈夫と言った」で来院しない患者が生まれる事故が起きます。

境目2:一次受けはAI、痛みや腫れの訴えは人が必ず引き取る

2つ目は、一次受けと引き取りの間の境目です。時間外や昼休みの1時間、診療で手が離せない時間帯の着信を一次受けさせるのは合理的です。仮に時間外の留守電確認と折り返しに月240分かかっているなら、用件が整理された状態で朝を迎えるだけで、この240分は半分近くまで下がる余地があります。

ただし、痛み・腫れ・出血・外傷・術後の不調が出てきた瞬間に、人が引き取る設計が必要です。ここでの引き取りは「あとで折り返す」ではなく、その場で人につなぐか、遅くとも当日中に必ず電話をかけると決めておくことを指します。緊急性のある1件を24時間放置することの重さと、定型案内を24時間受けられることの便利さは、まったく別の話として設計します。

実務では、引き取りの条件を医院で5語から10語のキーワードとして決めておくのが確実です。何を条件にするかは診療内容によって変わるので、これは医院が決める領域です。決めごとが1枚の紙にまとまっていれば、受付が3人いても同じ線で運用できます。

境目3:予約枠の提示はAI、ユニットと時間の割り当ては医院が確定させる

3つ目は、枠の提示と確定の間です。空いている枠を3案提示するところまでは機械に渡せます。しかし、その患者に必要な処置時間が30分なのか60分なのか、ユニット3台のうちどれを使うのか、滅菌サイクルが間に合うのか、担当は誰かという割り当ては、医院が確定させる領域です。

ここを機械任せにすると、予約表の上では埋まっているのに現場が回らない、という状態が起きます。1日の予約が28件入っていても、60分処置が5件重なれば午後は破綻します。逆に、確定を人が持ったまま提示だけを渡せば、受付は「空き枠を探して読み上げる」作業から解放され、「この患者にどの枠が適切か」という判断だけに集中できます。時間を減らすことより、判断以外を手放すことのほうが、受付の負荷には効きます。

この3つの境目は、どれも導入前に決めることです。A4で1枚、右列に何を残すかを書き出しておけば、道具は身の丈に合ったもので十分に機能します。逆に、線引きが決まっていない状態でどれだけ高機能な製品を選んでも、運用は3ヶ月で止まります。

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歯科の電話予約AIにかかる費用は、どこで積み上がるか

費用の話に移ります。先に断っておくと、この分野の「相場はいくら」という数字を私は断定しません。電話回線の構成、受ける時間帯が診療時間内だけか24時間か、予約システムとつなぐかどうかで、同じ「電話予約AI」という言葉でも中身が2倍から5倍違うからです。相場を1つの数字で示す記事は、比較の役に立ちません。代わりに、費用がどこで積み上がるのかを5つに分解します。この5つを見積書の上で並べられれば、2社3社の見積を同じ土俵で比べられます。

費用項目 何に対して発生するか 見積で確認すること
初期設計・初期構築 診療時間・予約枠・電話の分岐・引き取り条件を最初に1回決める作業 設計は誰が担うか。医院側の作業が何時間発生するか
電話回線まわり 番号の扱い、転送、既存回線との接続 今の番号をそのまま使えるか。転送料が別か
月額の固定費 仕組みを動かし続けるための基本料 最低契約期間が3ヶ月か12ヶ月か。停止時の条件
通話ぶんの従量 着信件数・通話分数に応じて増える部分 月300件から400件の想定で試算した金額が出ているか
保守・改善と院内教育 応答内容の見直し、休診日の反映、受付3人への説明 月1回の見直しが料金に含まれるか、都度費用か

初期設計:診療時間・予約枠・分岐を決める最初の1回

見落とされやすいのが初期設計です。何を何と答えるかを決める作業は、実際には医院の側にしか答えがありません。診療時間、休診日、対応できる診療内容、初診で伝えるべき持ち物、予約1枠の長さが15分なのか30分なのか。この20項目から30項目を書き出す作業が、導入作業の実質7割を占めます。

ここを外部に丸投げすると、当たり障りのない一般的な応答しか出てきません。逆に、この20項目から30項目が言語化されていれば、道具が何であってもある程度は機能します。見積を見るときは、初期設計に何時間ぶんの工数が積まれているか、医院側は何時間拘束されるのかを必ず確認してください。初期費用が安い見積は、設計を医院側に全部投げているだけ、という場合があります。

月額と通話ぶんの費用は、固定と従量の2階建てで見る

月額は、固定部分と従量部分の2階建てで見ます。固定だけを見て「月1万円台なら安い」と判断すると、着信が月300件から400件あった月に想定の2倍から3倍になることがあります。逆に従量が主体の設計なら、繁忙期と閑散期の差がそのまま費用に出ます。どちらが良い悪いではなく、自院の着信件数を20営業日ぶん数えてから比べるのが唯一の確実な方法です。

参考として、BoostXの料金は公開しています。AI伴走顧問はライトが月額110,000円(税込)、ベーシックが月額330,000円(税込)で、最低契約期間は3ヶ月です。仕組みそのものを作る業務自動化ツール開発は、初期330,000円から1,100,000円、月額33,000円から110,000円(いずれも税込・最低3ヶ月)です。これは相場ではなくBoostXの価格ですが、初期と月額が2階建てで示されているかどうか、最低契約期間が明記されているかどうかを見る物差しにはなります。

保守・改善と院内教育に、月30分から60分の枠を置けるか

3つ目が保守・改善です。応答内容は1回作って終わりではありません。年末年始や学会参加による休診、担当の交代、診療内容の追加。こうした変更が反映されないまま3ヶ月放置されると、機械が古い情報を24時間流し続けることになります。これは「便利な道具」ではなく「間違いを自動で配る仕組み」です。

加えて院内教育です。受付が3人いれば、3人とも同じ運用ができる状態にしないと、1人が休んだ週に元の手作業へ戻ります。月30分から60分でよいので、応答内容の見直しと運用の確認をする枠を、誰かの担当として置けるかどうか。この枠を置けないなら、そもそも仕組みを入れないほうがよい、というくらいの基準で私は考えています。

見積書で必ず確認したい7項目

2社3社を比べるときに、金額の総額だけを並べても判断できません。確認すべきは次の7項目です。1つ目、初期費用に初期設計の工数が含まれているか、含まれるなら何時間か。2つ目、医院側の作業が合計何時間発生するか。3つ目、月額の固定部分と従量部分がそれぞれいくらか。4つ目、月300件から400件の着信で試算した金額が出ているか。

5つ目、最低契約期間が3ヶ月なのか12ヶ月なのか、途中停止の条件はどうか。6つ目、応答内容の見直しが月1回まで料金に含まれるのか、1回ごとに追加費用が発生するのか。7つ目、患者から受け取った情報がどこに保存され、誰が閲覧でき、いつ削除されるのか。この7項目を同じ様式で2社3社に出してもらうだけで、総額が近い見積の中身がまったく違うことが見えてきます。

なお、費用に対する不安は歯科に限った話ではありません。総務省「令和7年版 情報通信白書」(2026年8月確認)では、企業が生成AIを導入する際の懸念事項として「効果的な活用方法がわからない」が最多で、次いで「社内情報の漏えい等のセキュリティリスク」「ランニングコストがかかる」「初期コストがかかる」が挙げられています。上位4つのうち2つがコストです。だからこそ、総額ではなく5つの内訳と7項目で比べる必要があります。

院内だけで組もうとしたときに突き当たる限界

ここまで読んで「これなら院内でも組めそうだ」と感じた方に、あえて限界の話をします。実際、定型応答を試すだけなら1人が30分もあればできます。問題は、それが患者に届く本番の窓口になった瞬間に、質の違う4つの壁が立つことです。1つずつ見ていきます。

患者の病歴は要配慮個人情報——取得と取り扱いの線が先にある

1つ目が、扱う情報の性質です。個人情報保護委員会と厚生労働省の「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス」(2026年8月確認)は、平成29年4月14日に公表され、令和8年4月に一部が改正されています。このガイダンスでは、診療所が対象事業者に明示的に含まれており、病歴等は要配慮個人情報として、取得には原則として本人の同意が必要と整理されています(法令にもとづく場合等の例外あり)。

電話で受け取る情報のうち、どこからが要配慮個人情報にあたるのかを、院内の感覚で線引きしないことが重要です。氏名と連絡先だけを受け取る設計と、症状の内容まで機械に話してもらう設計とでは、扱いの重さがまったく違います。ガイダンスの本文にあたって確認し、判断に迷う部分は専門家に確認する。この順番を飛ばして「便利だから」と先に運用を始めてしまうのが、いちばん起きやすい事故です。

併せて、保存場所と閲覧権限も先に決める領域です。受け取った内容がどのサービスの、どこに、何日間残るのか。閲覧できるのは院長1人か、受付3人を含むのか。削除依頼が来たときにどう対応するのか。この3点が決まっていないまま本番の窓口に立てると、後から止めるほうが大変になります。

誤案内の1件が、そのまま来院トラブルに変わる

2つ目が、誤案内の重さです。一般的な問い合わせ窓口であれば、間違った案内をしても「訂正のご連絡」で済むことが多いはずです。歯科の予約は違います。休診日を間違えて案内すれば患者は無駄足を踏みますし、予約が取れたと思って来院したのに枠が押さえられていなければ、待合室で30分待たせたうえで断ることになります。

さらに重いのが、症状に関する案内です。緊急性のある訴えを定型応答で受け流してしまうと、来院が3日遅れる、という形で患者側に不利益が出ます。だからこそ、先に挙げた2つ目の境目のとおり、症状が出た瞬間に人が引き取る設計が要ります。院内で作った仕組みは、この「引き取り」の設計が甘くなりがちです。作った本人は前提を分かっているので、想定外の言い回しで来た1件を試さないまま本番に出してしまうからです。

本番に出す前に、実際に想定される言い回しを30パターンから50パターン用意して試す。これは手間の話ではなく、誤案内が患者に届く確率を下げるための作業です。この検証を診療の合間の空き時間だけで回そうとすると、途中で止まりやすくなります。

中小企業では「方針を明確に定めていない」が約半数、という現実

3つ目は、そもそも会社として方針が決まっていないことです。前掲の総務省「令和7年版 情報通信白書」によれば、日本企業で生成AIの活用方針(積極的に活用する方針、または活用する領域を限定して利用する方針)を定めている比率は2024年度調査で49.7%にとどまります。2023年度の42.7%から7.0ポイント上がってはいますが、半数近くはこの2つの方針のどちらも定めていない側にいることになります。さらに企業規模別に見ると、中小企業では「方針を明確に定めていない」との回答が約半数を占めると示されています。

歯科医院の多くは、規模でいえばこの中小企業の側に入ります。方針が決まっていない状態で導入すると、判断が1件ごとに変わります。今日は症状の訴えも機械に受けさせ、明日は不安になって全部人が出る。この揺れが3ヶ月続けば、受付は「結局どっちなんですか」と聞くのをやめ、元の運用に戻ります。使ってよい範囲を広げる前に、使ってはいけない範囲を1枚の紙で決める。この順番でしか定着しません。

同じ白書で懸念事項の最多が「効果的な活用方法がわからない」だったことも、同じ根から来ています。使い方が分からないのではなく、自院の中で何を任せるかが決まっていないから、使い道が見えない。順番を逆にすると、導入から3ヶ月で止まります。

作った1人しか直せない状態で、更新が止まる

4つ目が、属人化です。院内で組んだ場合、応答内容を編集できるのが院長1人、あるいは詳しい受付1人だけ、という状態になりがちです。その状態でも最初の1ヶ月は回ります。止まるのは、休診日が変わったとき、担当が交代したとき、その1人が長期休暇に入ったときです。

古い情報を24時間流し続ける窓口は、無いほうがましな場合すらあります。前掲のとおり全国の歯科診療所は65,213施設あり、患者は比較したうえで1本かけてきます。3コールで正しく答える窓口と、24時間つながるが先月の休診日を案内する窓口とでは、後者のほうが失うものが大きい場面があります。

院内で完結させるか、外部と組むかを分けるのは、費用の大小ではありません。20項目から30項目の言語化を誰がやるのか、30パターンから50パターンの検証を誰が回すのか、月1回の見直しを誰の担当として置くのか。この3つに名前を入れられるなら院内で組めます。入れられないなら、設計と定着の部分だけでも外部と組んだほうが、結果として安く済みます。

ビフォーアフター:歯科の予約電話まわりがここまで変わる

ここまでの話を、診療1日という単位で並べ直します。数字はすべて記事内で仮に置いた目安であり実績値ではありませんが、自院がどちら寄りかを測る物差しとしては使えます。

BEFORE

受付電話に1日75分を取られる1日

8時40分、スタッフが出勤して最初にすることが留守電の確認です。前夜から朝までに3件から5件。用件を聞き取ってメモに書き写し、9時00分の診療開始までに折り返せるのは2件から3件。残りは午前の診療中に、手が空いたタイミングを探して電話します。つながらなければ再架電が1回から2回。この時点で朝の準備が10分から15分押しています。

午前中は着信が8件から10件。予約変更の1本ごとに、カルテと予約表を突き合わせて枠を探し、必要なら他の枠をずらします。1本2分で終わるものもあれば、8分かかるものもあります。その間、受付は目の前の患者の会計を止めているか、アシスタントが1人チェアから抜けています。昼休みの1時間にも4件から6件入りますが、誰も出られません。

午後は初診の問い合わせが1件から3件。費用と保険の説明に5分から10分かかり、答える人によって説明の幅が出ます。18時30分の最終患者を見送ったあと、その日の折り返し漏れが1件から2件残っているのに気づく。1日の受付電話は合計で仮に75分、月20診療日で1,500分、25時間。そして取りこぼした2件から3件は、どこにも記録されないまま消えます。

AFTER

1日35分から45分に収まり、判断だけが手元に残る1日

8時40分、出勤して最初に見るのは、用件が整理された折り返しリストです。前夜から朝までの3件から5件が、予約変更2件、初診の問い合わせ2件、症状の訴え1件というように分かれています。症状の訴え1件は最優先と分かるので、9時00分前に医院から電話します。聞き取りとメモの書き写しが不要になったぶん、朝の10分から15分の押しがなくなります。

日中の着信のうち、診療時間や休診日、駐車場といった定型で完結するものは、受付の手を止めません。1日18件のうち3件から5件がここで吸収されます。予約変更は空き枠3案の提示までが済んだ状態で受付に回るので、受付がするのは「この患者にこの枠でよいか」を確定させる作業だけです。1本8分かかっていた変更が、3分から4分になります。昼休みの1時間に入った4件から6件も、要点が整理された状態で13時に手元にあります。

午後の初診の問い合わせは、公開している範囲の一般的な案内までが済んだうえで、個別の費用相談だけが人に回ります。説明のぶれが減り、1件10分が5分から6分に収まります。1日の受付電話は仮に35分から45分、月20診療日で700分から900分、時間にしておよそ12時間から15時間です。Beforeの25時間との差は月600分から800分、およそ10時間から13時間。年間に直すと120時間から160時間です。

違いを生んでいるのはツールではなく運用設計

この差の10時間から13時間は、削るための時間ではありません。チェアサイドに戻す時間であり、患者への説明に使う時間です。1回の説明が10分だとすれば、月に60回から80回ぶんの説明時間が生まれる計算になります。自費の相談、メンテナンスの案内、術後の不安への対応。どれも受付電話に追われている間はできなかったことです。

そして、BeforeとAfterを分けているのは高価な製品ではありません。診療の事実を20項目から30項目書き出したこと、渡す範囲を3つの境目で線引きしたこと、症状の訴えを人が引き取る条件を5語から10語で決めたこと、月30分から60分の見直し枠を誰かの担当として置いたこと。この4点です。どれも導入前の設計であって、道具の性能の話ではありません。

設計をしないまま道具だけ入れると、Beforeの取りこぼしが、丁寧な言葉づかいで起きるようになるだけです。うちはまだBefore寄りだと感じた方は、まず20営業日ぶん、着信件数と受付電話の分数、そして予約表に紐づかなかった件数の3つを記録してみてください。3つの数字が出れば、どこから手を付けるべきかは自然に決まります。

よくある質問

Q歯科の電話予約AIは、結局いくらかかるのでしょうか。相場を教えてください。

A1つの数字で相場を示すことはしません。受ける時間帯が診療時間内だけか24時間か、既存の予約システムとつなぐかどうかで中身が2倍から5倍変わるためです。比べるべきは総額ではなく、初期設計・電話回線まわり・月額の固定・通話ぶんの従量・保守と院内教育という5つの内訳です。そのうえで本文の7項目、とくに「月300件から400件の着信で試算した金額が出ているか」「最低契約期間が3ヶ月か12ヶ月か」を2社3社に同じ様式で出してもらうと、総額が近くても中身がまったく違うことが見えてきます。参考までにBoostXのAI伴走顧問はライト月額110,000円(税込)、ベーシック月額330,000円(税込)、最低3ヶ月で公開しています。

Q患者さんの症状や連絡先を、そのまま機械に受け取らせてよいのでしょうか。

A先にガイダンスを確認してください。個人情報保護委員会・厚生労働省の「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス」(平成29年4月14日公表・令和8年4月一部改正)では、診療所が対象事業者に明示的に含まれ、病歴等は要配慮個人情報として取得に原則として本人の同意が必要と整理されています(法令にもとづく場合等の例外あり)。氏名と連絡先だけを受け取る設計と、症状の内容まで受け取る設計では扱いの重さが違います。どこからが要配慮個人情報にあたるかを院内の感覚で線引きせず、ガイダンス本文を確認し、迷う部分は専門家に確認してから運用を始めるのが順序です。保存場所・閲覧できる人・削除の扱いの3点も、始める前に決めてください。

Q受付スタッフの仕事はどうなりますか。人を減らす前提の話でしょうか。

A減らす前提では設計しないほうが、結果として効果が出ます。仮の計算では月1,500分(約25時間)が月700分から900分(およそ12時間から15時間)の規模になりますが、差の10時間から13時間は空白になるわけではありません。空き枠を探して読み上げる作業がなくなり、「この患者にこの枠が適切か」を決める判断が手元に残ります。緊急性の判断、直前キャンセルで空いた1枠をどう埋めるか、自費の相談。どれも人にしかできず、しかも医院の売上に直結する仕事です。1回10分の説明に換算すれば、月60回から80回ぶんの時間が生まれる計算になります。

Q導入した効果を、院内でどう測ればよいですか。

A導入前に20営業日ぶん、3つだけ記録してください。1つ目は1日の着信件数、2つ目は受付電話に使った合計分数、3つ目は着信のうち予約表に紐づかなかった件数です。この3つがあれば、導入後に同じ物差しで比較できます。予約数や来院数だけで測ろうとすると、季節要因や近隣の状況と混ざって判断がつきません。まず工程の分数と件数で測り、次に初診の予約数や直前キャンセルの補填件数を見る、という順序が確実です。あわせて、時間外に受けた件数のうち翌日に来院へつながった件数を数えておくと、24時間受ける設計に費用をかける価値があるかどうかを、自院の数字で判断できます。

まとめ

  • 受付電話は1本2分から5分でも、仮に1日75分・月20診療日で月1,500分(約25時間)に積み上がる。予約対応900分・時間外の折り返し240分・初診の問い合わせ360分という内訳で分解すると、どこが重いかが見える(すべて仮に置いた目安で実績値ではない)
  • AIに渡せるのは定型応答と一次受けまで。緊急性の判断、ユニットと時間の割り当て、個別の費用説明、患者情報をどこまで取得するかの4点は医院が持ち続ける(境目は3つ)
  • 費用は総額でなく5つの内訳(初期設計・電話回線・月額固定・通話従量・保守と院内教育)と7項目で比べる。全国の歯科診療所は65,213施設・前月比77施設減(厚生労働省「医療施設動態調査」令和8年3月末概数)
  • 院内だけで組むときの壁は4つ。病歴等は要配慮個人情報で取得に原則同意が必要(個人情報保護委員会・厚生労働省ガイダンス)、誤案内が来院トラブルに直結する、生成AIの活用方針を定めている企業は49.7%にとどまり、中小企業では「方針を明確に定めていない」が約半数(総務省「令和7年版 情報通信白書」)、作った1人しか直せず更新が止まる
  • 仮定では月25時間が月12時間から15時間規模へ。差の10時間から13時間(年間120時間から160時間)は削るためではなく、チェアサイドと患者説明に戻す時間。まず20営業日ぶん、着信件数・受付電話の分数・予約表に紐づかなかった件数の3つを記録することから始める

監修者|生成AIの導入から定着まで伴走する専門家が確認しています

吉元大輝(よしもとひろき)

株式会社BoostX 代表取締役社長

中小企業の生成AI導入を支援する「生成AI伴走顧問」サービスを提供。業務可視化から定着支援まで、一気通貫で企業のAI活用を推進している。

公開日:2026年8月

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