「また同じ薬が出ない」。棚の前で卸のサイトを開き、他銘柄を探し、処方元へ電話し、待っている患者さんに頭を下げる——調剤薬局で発注と在庫を任されている側では、この一連が定番の負荷になりがちです。
結論から言えば、在庫発注AIで軽くなるのは「予測の精度」ではなく、欠品が起きたあとの探す・照らす・拾い出すという段取りの部分です。日本保険薬局協会「保険薬局における医薬品安定供給に係る実態調査 調査報告書」(2025年8月・回答4,877薬局)(2026年9月確認)によると、医薬品供給の課題により生じる業務の1日あたり平均対応時間は6.33時間、総労働時間に占める割合は13.44%、月あたりの平均欠品数は48.7件と試算されています。この記事では、その6.33時間と48.7件がどの工程で発生しているのか、在庫発注AIに任せられる範囲と薬剤師が持ち続けるべき判断はどこで分かれるのか、そして手書き台帳とレセコン標準機能のまま続ける・在庫管理システム単体を入れる・運用設計込みでAIを入れる、という3つの進め方を費用相場とあわせて比較しながら解説します。
- 医薬品供給の課題で1日6.33時間、総労働時間の13.44%が消えている。内訳は医薬品調達1.76時間・在庫管理1.67時間・患者対応1.55時間・薬学的管理1.33時間
- 1薬局あたりの平均在庫品目数は1,420.7品目で過去最多。平均欠品数は月48.7件、欠品率10%以上の薬局も362軒(7.4%)ある。これは薬局側の段取りの問題ではなく供給側の構造から来ている
- AIに寄せられるのは集計・下ごしらえ・見張りの3工程。採用の可否、代替薬の選択、患者への説明は薬剤師に残す。目安モデルでは欠品1件15分が5分になれば月8.1時間、年およそ97時間の差
目次
1日6.33時間が溶けているのは、薬局の段取りが悪いからではない
在庫と発注が重いという話は、たいてい「うちの管理が甘いから」で終わります。ところが公表されている数字を分解すると、管理の巧拙では説明のつかない部分が大きく残ります。前掲の日本保険薬局協会の実態調査(回答4,877薬局・調査期間2025年6月〜7月11日/2026年9月確認)が示しているのは、供給側の事情によって発生した作業が、薬局の労働時間の13.44%を占めているという事実です。
6.33時間の内訳は、調達1.76時間・在庫管理1.67時間・患者対応1.55時間
同調査のp.20では、医薬品供給の課題により生じる業務の1日あたり平均対応時間6.33時間(約6時間20分)の内訳が、患者対応1.55時間、医薬品調達1.76時間、在庫管理1.67時間、薬学的管理1.33時間と示されています。この4つはいずれも、処方箋を受けて調剤するという本来の仕事とは別枠で積み上がっている時間です。
調達と在庫管理の2つを足すと1日3.43時間。月20営業日で換算すれば月68.6時間、年で約823時間になります。複数の職員が関与している場合の合計時間として設計された設問なので、1人分の労働時間ではありません。ただし薬局全体で見れば、常勤1人分の労働時間の半分近くが、薬を仕入れて棚に置いて数えるという工程に張り付いている計算になります。
p.21の労働時間比率のヒストグラムでは、平均値13.44%に対して中央値は9.38%、標準偏差は11.77%。外れ値を除いた4,533軒のうち、20%以上と答えた薬局が858軒、50%以上も114軒あります。平均だけを見て「うちは違う」と判断せず、自分の薬局が分布のどこにいるかを一度測ることのほうが実務では先です。
平均1,420.7品目——覚えきれない棚を、記憶で回している
同調査のp.13によれば、回答4,877薬局の全医療用医薬品の平均在庫品目数は1,420.7品目で、これは過去最多の水準です。中央値は1,200〜1,400品目未満の階級にあり、1,200〜1,400品目未満と答えた薬局が1,900軒(39.0%)で最も多く、2,000品目以上も580軒、3,000品目以上を抱える薬局も71軒あります。
1,420.7品目という数は、規格違いをそれぞれ1品目として数えた値です。同じ成分でも5mgと10mg、錠剤とOD錠、10錠包装と100錠包装が別々に棚を占めます。人間の記憶で「あれはまだあったはず」を1,400通り維持するのは、能力の問題ではなく単純に無理があります。発注量が勘に寄るのは、担当者の慎重さが足りないからではなく、記憶で回せる規模を棚のほうが超えているからです。
さらに、最小包装単位あたりの薬価が10万円以上の高額医薬品を在庫している薬局は65.3%(3,187軒)、平均在庫品目数は4.19品目とされています(p.16)。1品目でも期限を切らせば、10万円単位の損失がそのまま出ます。1,420.7品目の中に、間違えたときの金額が2桁違う品目が数品目まぎれている——この構造が、在庫管理の緊張感を上げています。
月48.7件の欠品は、薬局が起こしたものではない
同調査のp.22では、医薬品供給の課題により生じる欠品率の平均は3.62%、受付回数に基づく試算で平均欠品数は月48.7件(中央値22.5件)とされています。欠品率10%以上と回答した薬局は362軒、全体の7.4%です。1ヶ月20営業日なら、平均的な薬局で1日あたり2件以上、患者さんに「今日はお渡しできません」と伝える場面が発生している計算になります。
この48.7件は薬局に起因するものではありません。厚生労働省「医療用医薬品供給状況報告」(令和8年9月1日現在)(2026年9月確認)で公表されている供給状況一覧表を集計すると、掲載16,389品目のうち通常出荷は14,502品目にとどまり、限定出荷が978品目(自社の事情492品目・他社品の影響415品目・その他71品目)、供給停止が909品目。通常出荷でない品目は合計1,887品目で、全体の11.5%にあたります。
つまり、9品目に1品目以上が普通には手に入らない状態が続いているということです。この状況で欠品ゼロを目指すのは現実的ではありません。実務で意味があるのは、欠品を起こさないことではなく、起きた1件をどれだけ短い手数で着地させるかです。同調査のp.17でも、高額医薬品の取扱いにおける負担として「個別受発注管理」2,341軒(73.5%)、「期限管理」2,335軒(73.3%)、「不動在庫の対処」2,206軒(69.2%)、「廃棄及び廃棄リスク」2,149軒(67.4%)が上位に並び、「薬価改定による在庫評価損」も1,146軒(36.0%)が挙げています。負担の中身は、判断そのものより手数のほうに寄っています。
この時間は調剤報酬の外側で積み上がっている
見落とされやすいのは、ここまでの1日6.33時間が、処方箋1枚あたりの報酬に反映されない工程だという点です。欠品した1件を探し、他銘柄を確認し、処方元に照会し、患者さんに説明する。この4つを丁寧にやるほど時間は増えますが、収入は増えません。同調査でも、欠品は薬局に起因するものではないにもかかわらず対応の労力とコストが発生している、と整理されています。
だからこそ、この領域は「頑張って回す」の対象ではなく、手数そのものを減らす対象になります。月48.7件のうち何件かをゼロにする話ではなく、48.7件それぞれの1件あたりの分数を短くする話です。ここを取り違えると、供給側の事情に振り回され続けることになります。
在庫発注AIに任せられる3工程と、薬剤師が持ち続ける3つの判断

「在庫発注AI」と一言で呼ばれていますが、中身は分解できます。私は、任せていい部分と持ち続けるべき部分の線を先に引くことが、この領域では一番効くと考えています。線を引かずに道具から入ると、期待した精度が出ずに使われなくなるか、逆に判断まで機械に預けて事故になるかのどちらかに寄ります。
任せられるのは「集計」「下ごしらえ」「見張り」の3工程
1つ目は集計です。直近1ヶ月・3ヶ月の払出実績を品目ごとに同じ形で出す。規格違いを名寄せし、包装単位をそろえ、月ごとの使用ペースを数字にする。ここは人がやっても機械がやっても答えが変わらない工程で、しかも毎月同じ手間がかかります。
2つ目は下ごしらえです。使用ペースと現在庫、リードタイムから発注候補を並べる。卸の限定出荷情報と突き合わせて、通常出荷でない品目には印を付けておく。「これを何個」と決めるのは人ですが、その前段の候補リストを作る工程は寄せられます。
3つ目は見張りです。期限が90日以内に来る品目を毎週拾い出す。3ヶ月動いていない品目を不動在庫の候補として上げる。薬価改定が近い時期には、在庫評価損の影響が大きい品目を先に並べる。この3つはいずれも、忙しい週に真っ先に飛ばされる作業です。人が飛ばしても機械は飛ばしません。
薬剤師に残すのは「採用の可否」「代替薬の選択」「患者への説明」
逆に、渡してはいけない判断が3つあります。1つ目は品目の採用可否。処方元との関係、地域の処方傾向、後発品の変更調剤の方針を踏まえた判断で、過去の払出データだけからは出ません。2つ目は代替薬の選択。同一成分でも製剤特性や患者さんの服薬状況で選べない場合があり、疑義照会の要否を含めて薬剤師の職能そのものです。3つ目は患者さんへの説明。なぜ今日渡せないのか、いつ届くのか、その間どうするのかを伝える部分は、機械が肩代わりできる領域ではありません。
この線引きを表に整理すると、次のようになります。
| 工程 | 担い手 | 頻度の目安 | 飛ばしたときに起きること |
|---|---|---|---|
| 払出実績の集計・名寄せ・単位そろえ | 仕組みに寄せる | 毎日または週1回 | 使用ペースが出ず、発注量が記憶と勘に戻る |
| 発注候補リストの作成(現在庫・リードタイム反映) | 仕組みに寄せる | 発注のたび | 棚を1,420品目分見て回る時間が毎回発生する |
| 期限90日以内・3ヶ月不動の抽出 | 仕組みに寄せる | 毎週 | 期限切れが棚卸まで見つからず、廃棄で確定する |
| 品目の採用可否・在庫を持つかの決定 | 薬剤師が持つ | 随時 | 処方元の実態と合わない在庫構成になる |
| 代替薬の選択・疑義照会の要否 | 薬剤師が持つ | 欠品のたび | 製剤特性や患者状況を外した提案になる |
| 患者への説明・入荷見込みの案内 | 薬剤師が持つ | 欠品のたび | 説明が不十分なまま不信につながる |
予測の精度より先に効くのは、数え方をそろえること
在庫発注AIというと需要予測を思い浮かべる方が多いのですが、実務で先に効くのは予測ではありません。中小企業基盤整備機構「中小企業のAI等の利活用に係る実態調査」(2026年3月公表・有効回答1,647社)(2026年9月確認)では、AIを導入済みの企業が使っているAIは生成AIが82.6%で最多、画像認識は11.2%にとどまります。導入目的の1位は「業務効率化/作業時間の短縮」で87.0%、2位の「品質向上」32.3%とは50ポイント以上の差がついています。
この差が示しているのは、現場が先に価値を感じているのは「文章と数字を整える側」だということです。在庫と発注の領域でも同じで、予測モデルの精度を1%上げる前に、1ヶ月の使用量が毎月同じ形で出てくること。規格違いが同じルールで名寄せされること。順番としては、こちらが先に来ます。数え方がそろっていない状態でどんな予測を乗せても、出てくる数字は信用できません。
手書き台帳・在庫管理システム単体・運用設計込みでAIを入れる|3つの進め方と費用相場の比較表
ここまでの内容を、実際に選べる3つの進め方として並べます。7項目で横に置くと、差がどこに出るかがはっきりします。
| 比較項目 | 手書き台帳とレセコン標準機能のまま | 在庫管理システム単体を入れる | 運用設計込みでAIを入れる |
|---|---|---|---|
| 欠品1件の処理 | 卸のサイトと電話で1件ずつ探す。他銘柄の在庫確認まで含めて手数が読めない | 自局の残数は画面に出るが、他銘柄の可否や入荷見込みは結局個別に確認する | 通常出荷でない品目に事前に印が付き、代替候補と手持ちが並んだ状態から判断に入れる |
| 発注1回にかかる時間 | 棚を見て回り、記憶と照らして決める。1,420品目分の勘が担当者の頭の中にある | 残数は出るが入力が追いつかず、結局棚を確認しに行くため短縮は限定的 | 使用ペースと残数から候補が並ぶため、確認と修正が中心の作業に変わる |
| 期限切れの見つかり方 | 棚卸で偶然見つかる。忙しい月に点検を飛ばすと翌月へ持ち越す | 期限を登録した品目だけ通知される。登録漏れの分は従来どおり見つからない | 期限90日以内と3ヶ月不動の品目を毎週まとめて拾い出す |
| 高額医薬品の扱い | 担当者が個別に覚えている。65.3%の薬局が抱える平均4.19品目が属人管理になる | 在庫数は見えるが、期限と受注のひも付けは手作業のまま残りやすい | 個別受発注管理と期限管理を同じリストに載せ、抜けを構造的に減らす |
| 担当者が代わったとき | 発注の勘が引き継がれず、しばらくは多めに買う方向へ振れやすい | 操作は引き継げるが、何を何箱持つかの基準は口伝のまま残る | 安全在庫の考え方と発注の型が文書で残り、短期間で同じ判断へ戻せる |
| 初期にかかる費用 | 0円。ただし1日6.33時間と月48.7件の欠品対応はそのまま続く | 利用料は製品により幅がある。初期の品目登録に薬局側の手間がまとまって発生する | 初期330,000円〜1,100,000円+月額33,000円〜110,000円(税込・最低3ヶ月)が目安 |
| 向いている薬局 | 在庫品目が少なく、管理薬剤師が全部を把握できている | 登録と操作を担える担当を1名、専任に近い形で置ける | 在庫1,000品目超で、人を増やさず欠品対応の手数を下げたい |
3列の差は「気づく速さ」と「続く前提」に出る
表を縦に読むと、変わっているのは2点です。1つは足りない・余っているに気づくまでの速さ、もう1つは忙しい月でも続く前提があるかどうか。手書き台帳とレセコン標準機能のままなら、1日3.43時間の調達・在庫管理が来年も同じ形で乗り続けます。在庫管理システム単体では残数が見えるようになりますが、「あと何日もつか」と「この品目はいま通常出荷か」が出ないため、欠品対応の手数はほとんど変わりません。
3列目が「AIを導入した状態」ではなく「運用設計をした状態」である点が要点です。アカウントを作っただけなら、2列目とほとんど変わりません。道具選びから入ると、はじめは触っても次第に開かれなくなる——定着しない導入の典型的な形がこれです。逆に、集計の型と毎週何分使うかを先に決めておけば、道具の善し悪しより先に運用が立ち上がります。
高額医薬品を抱える65.3%の薬局では、差が金額で出る
時間の差だけを見ていると、投資の判断がつきにくくなります。高額医薬品を在庫している薬局は65.3%、平均4.19品目という数字を横に置くと、話は金額に変わります。最小包装単位あたり薬価10万円以上の品目を4品目持っていて、そのうち1品目が期限切れで廃棄になれば、それだけで10万円を超える損失です。同調査のp.17で「廃棄及び廃棄リスク」を負担として挙げた薬局が2,149軒(67.4%)にのぼるのは、この金額が現実に効いているからです。
在庫評価損も同じ構造です。「薬価改定による在庫評価損」を挙げた薬局は1,146軒(36.0%)。改定前に在庫を厚く持てば評価損が出て、薄く持てば欠品が増える。この綱引きを勘で処理している限り、どちらに振れても損が出ます。使用ペースと改定対象品目が同じ画面に並ぶだけで、判断の材料は変わります。
投資判断は「時間の金額換算」と「廃棄1件の金額」の2本で見る
どの列を選ぶかを決めるとき、比べる軸は2本で足ります。1本目は時間の金額換算です。調達と在庫管理に1日3.43時間、月68.6時間かかっている状態で、そのうち何時間を対象にするのかを先に決める。対象時間に自局の人件費単価を掛ければ、月額費用と同じ土俵に乗ります。2本目は廃棄1件の金額です。最小包装単位あたり薬価10万円以上の品目を平均4.19品目持っている薬局では、期限切れ1件の損失が月額費用を上回る場合があります。
この2本で見ると、判断は「AIが好きかどうか」ではなくなります。月68.6時間のうち10時間分の人件費と、10万円級の廃棄が年に何件起きているか。この2つの数字が手元にあれば、3列のどれが自局に合うかは自分で決められます。逆に、この2つを測らずに製品比較から入ると、機能表の項目数で選ぶことになり、導入後に効果を判定できなくなります。
自前で組んだときに止まる4つの境目
ここまで読んで「Excelとスプレッドシートで組めそうだ」と感じた方もいると思います。実際、最初の1〜2ヶ月は自前でも動きます。止まるのはそのあとで、境目はだいたい4つに絞られます。
境目1:規格違いが1品目ずつ増えて、名寄せが追いつかなくなる
1,420.7品目という平均値は、規格違いをそれぞれ1品目として数えた結果です。同じ成分で5mgと10mg、錠剤とOD錠、PTP包装とバラ包装が別行になります。表記も卸ごと・レセコンごとに揺れます。全角と半角、括弧の有無、メーカー名の入り方。この揺れを人手で寄せているうちは、集計するたびに同じ品目が2行に分かれ、使用ペースが半分に見えます。名寄せルールを文書にして、新規採用のたびに同じルールで登録される状態を作らないと、3ヶ月で表が壊れます。
境目2:期限の記入欄がなく、期限管理が誰の担当でもなくなる
多くの薬局の在庫表には、数量の列はあっても期限の列がありません。期限は箱に書いてあるからです。ところが箱に書いてある情報は、棚の前に立った人にしか見えません。期限90日以内を毎週拾い出すには、入庫時に期限を記録する1手間が要ります。この1手間は、忙しい日に真っ先に省かれます。「入れる人」と「見る人」が違う設計にしないと、記録が虫食いになり、拾い出しの信頼性が落ちます。期限管理を負担と答えた薬局が2,335軒(73.3%)ある背景には、この設計の問題があります。
境目3:限定出荷と供給停止が動き、マスタが1ヶ月で古くなる
厚生労働省の供給状況一覧は更新され続けています。令和8年9月1日現在で通常出荷でない品目は1,887品目ありますが、この顔ぶれは固定ではありません。先月まで通常出荷だった品目が限定出荷に変わり、逆に解除される品目も出ます。自前で組んだ表に「この薬は出にくい」とメモを書き込む方式だと、そのメモが古くなったことに誰も気づけません。外部の公表情報を定期的に取り込んで、古い印を落とす仕組みまで含めないと、印そのものが信用されなくなります。
境目4:3ヶ月で開かれなくなり、更新が業務に乗っていない
これが一番多い止まり方です。作った当初は毎日開かれた表が、2ヶ月目に週1回になり、3ヶ月目に開かれなくなる。原因は表の出来ではなく、「誰が・いつ・何分使うか」が業務の型に入っていないことです。毎週水曜の朝10分、期限リストを2人で見る。この程度の枠が決まっていれば、担当が代わっても1〜2週で同じ形に戻せます。枠がないまま高機能な表を作ると、機能の数だけ更新の手間が増えて、早く止まります。
4つの境目に共通しているのは、いずれも技術の問題ではないという点です。名寄せルール、記録の分担、外部情報の取り込み、点検の枠。全部が運用設計の話で、ここを決めずに道具を入れても結果は変わりません。ここまでの4つのうち2つ以上に心当たりがあるなら、自前で進める前に一度、外から設計を見てもらったほうが早いです。
ビフォーアフター:欠品対応と在庫の回り方がここまで変わる
数字と設計の話が続いたので、1週間の動き方として並べ直します。平均的な薬局(在庫1,420.7品目・欠品月48.7件)を目安モデルとして置きます。
現状の苦しい1週間
月曜。処方箋を受けて、棚にないことに気づく。卸のサイトで在庫を確認し、出ないと分かって他銘柄を探す。処方元へ疑義照会の電話を入れ、変更の可否を確認する。患者さんに事情を説明し、後日お渡しの手配をする。ここまでで1件あたり15分前後。週12件なら3時間が、調剤の合間から抜けていきます。
火曜から木曜。発注のたびに棚を見て回ります。1,420品目のうちどれが減っているかは、レセコンの残数と実物の記憶を突き合わせて判断します。多めに頼めば期限が心配になり、絞れば来週切らす。判断の根拠が「なんとなく」なので、あとから検証もできません。
金曜。棚卸の予定は今月も流れます。奥から期限切れが3箱出てきますが、いつ発見できたはずかは分かりません。高額医薬品の1品目は期限まで残り2ヶ月。使う見込みが立たないまま、廃棄になるかどうかを毎週気にし続けます。1日3.43時間・月68.6時間の調達と在庫管理は、この形のまま来月も続きます。
導入後の楽な1週間
月曜。処方箋を受ける前に、通常出荷でない品目には印が付いています。棚にない場面でも、代替候補と自局の手持ちが並んだ状態から判断に入るので、探す工程がありません。疑義照会と患者さんへの説明は変わらず薬剤師が行いますが、その手前の調べ物が減るため、1件あたり5分前後で着地します。週12件で1時間。差は週2時間です。
火曜から木曜。発注は候補リストの確認から始まります。使用ペースと現在庫から並んだ候補に対して、処方元の動向を知っている人が数量を直す。棚を見て回る工程ではなく、数字を直す工程に変わります。判断の根拠が残るので、翌月に「なぜこの数だったか」を見返せます。
金曜。期限90日以内のリストと、3ヶ月動いていない品目のリストが毎週出ています。高額医薬品の4.19品目は個別に印が付いていて、期限が近づけば先に上がってきます。棚卸を待たずに手を打てるので、廃棄で確定する前に譲渡や返品の相談ができます。
目安モデルとして数字を置くと、欠品1件の処理が15分から5分になれば、月48.7件で12.2時間が4.1時間になり、差は月8.1時間、年でおよそ97時間です。これは1件あたりの処理時間を仮に置いた計算であって、約束できる削減率ではありません。実際の値は、最初の2週間で自局の1件あたりの分数を実測してから決めるものです。
違いを生んでいるのはツールではなく運用設計
BeforeとAfterで変わっているのは、道具の性能ではありません。名寄せのルールが決まっていること、入庫時に期限が記録されること、外部の供給情報が毎週取り込まれること、毎週10分の点検枠が業務の型に入っていること。この4つがそろっているかどうかだけです。同じ在庫管理システムを入れても、この4つを決めなかった薬局はBeforeの動きのまま残ります。
逆に言えば、いま使っているレセコンやExcelを捨てる必要はありません。変えるのは置き場所ではなく、数え方・記録の分担・点検の枠という型のほうです。「うちはまだBefore寄りだ」「Afterの1週間に近づけたい」と感じた方は、次の項目を見てから、どこから手をつけるかを考えてみてください。
よくある質問
Q在庫と発注にAIを入れる場合、費用はどのくらいが目安ですか?
A初期費用と月額費用を分けて見てください。BoostXの業務自動化ツール開発は初期330,000円〜1,100,000円(税込)、月額33,000円〜110,000円(税込・最低3ヶ月)が目安です。幅が出るのは、名寄せの対象品目数と、レセコンから実績を取り出せる形式によります。判断のしかたとしては、いま調達と在庫管理に月68.6時間(1日3.43時間×20日の平均値換算)かかっているうち、何時間分を対象にするかを先に決めて、その時間の人件費と並べるのが実務的です。方向性の相談だけなら、月額110,000円(税込)のAI伴走顧問ライトプランから始める形もあります。
QAIを入れれば欠品はなくなりますか?
Aなくなりません。厚生労働省の供給状況一覧(令和8年9月1日現在)を集計すると、16,389品目のうち限定出荷978品目・供給停止909品目で、通常出荷でない品目が11.5%を占めています。供給側の事情で出ない薬は、発注を工夫しても出ません。実務で変えられるのは、起きた欠品1件あたりの手数のほうです。通常出荷でない品目に事前に印が付き、代替候補と手持ちが並んだ状態から判断に入れるかどうかで、1件の処理時間は変わります。欠品ゼロを目標に置くと必ず失敗するので、目標は手数のほうに置いてください。
Qいま使っているレセコンや在庫管理システムは入れ替えが必要ですか?
A入れ替えを前提にはしません。既存のレセコン出力、Excel、スプレッドシート、Gmailをそのまま活かした形で設計できます。変えるのはファイルの置き場所ではなく、規格違いの名寄せルール、入庫時に期限を記録する分担、毎週の点検枠という3つの型です。この3つがそろえば、いまの表のままでも1ヶ月の使用ペースが正しく集計でき、期限90日以内の品目も毎週拾えるようになります。乗り換えを伴わない分だけ薬局内の抵抗も小さく、少人数の体制でも運用に乗せやすくなります。
Q1店舗だけの小さな薬局でも意味はありますか?
A在庫品目数と、かけている時間の両方で判断してください。日本保険薬局協会の調査では平均在庫品目数1,420.7品目、中央値は1,200〜1,400品目未満の階級です。ご自身の薬局がそれより小さければ、戻る時間も小さくなります。ただし小規模なほど効くのは時間のほうです。管理薬剤師1人が発注も期限管理も抱えている場合、その時間はそのまま調剤か閉局後から出ています。まずは1ヶ月の欠品件数と、1件あたりにかけている分数を数えるところからで十分です。分数が読めないうちは、どんな道具を選んでも効果を判定できません。
Q薬局の中では誰が担当することになりますか?
A新しく人を採る前提ではありません。いま発注をされている方が、そのまま担当で問題ないです。変わるのは中身で、棚を見て回って思い出す工程が、候補リストの数字を直す工程に置き換わります。決めていただきたいのは担当者名ではなく、毎週何分・誰が確認するかという枠のほうです。期限チェックを毎週10分と決めておけば、担当が代わっても1〜2週で同じ形に戻せます。品目の採用可否、代替薬の選択、患者さんへの説明という3つの判断は、引き続き薬剤師の側で持っていただく設計にします。
まとめ
- 医薬品供給の課題で1日6.33時間、総労働時間の13.44%が消えている。内訳は調達1.76時間・在庫管理1.67時間・患者対応1.55時間・薬学的管理1.33時間で、調達と在庫管理だけで月68.6時間
- 平均在庫品目数は1,420.7品目で過去最多。高額医薬品を持つ薬局は65.3%、平均4.19品目。1,400通りの残数を記憶で維持するのは能力の問題ではなく規模の問題
- 月48.7件の欠品は薬局側の要因ではない。厚労省の供給状況一覧を集計すると16,389品目中1,887品目(11.5%)が通常出荷でない。目標は欠品ゼロではなく1件あたりの手数
- AIに寄せるのは集計・下ごしらえ・見張りの3工程まで。品目の採用可否、代替薬の選択、患者への説明は薬剤師に残す。自前で止まる境目は名寄せ・期限記録・外部情報の鮮度・点検枠の4つ
- 目安モデルでは欠品1件15分が5分になれば月48.7件で12.2時間が4.1時間、差は月8.1時間・年およそ97時間。差を生むのはツールではなく運用設計
公開日:2026年9月
読んで終わりにしないために
「自社の場合は、どうすれば?」
その答えを、30分で持ち帰る。
記事で分かるのは、一般論まで。現役の生成AI伴走顧問が、貴社の業務に当てはめて“次の一手”だけを一緒に整理します。
この30分で持ち帰れるもの
- 01
自社業務に当てはめたAI活用マップ
- 02
投資対効果(ROI)のシミュレーション
- 03
いまの悩み・疑問への、その場の個別回答


