たとえば、年間の退職者が12人いる会社で、年度末に人事担当が1年分の退職面談シート12件を集めて役員会の資料を作るとします。理由の欄を数えると、「一身上の都合」「家庭の事情」「その他」に丸がついたシートばかりが並びます。面談では部署の忙しさや上司との話も出ていたはずなのに、シートに残っているのは選択肢の丸だけで、どの部署の何を直せばよいかを1行も書けません。
退職面談の記録をAIで分析しても役に立たないのは、記録が選択肢1つで閉じている、読む件数が少なすぎる、病歴のような扱いに注意が要る情報を含んだまま渡している、のどれかに当たるときです。専用の退職面談ソフトを入れるか、手元の生成AIで足りるかを選ぶ前に、記録の型・読む単位・情報の扱いの3条件を決めておく必要があります。以下、面談から報告までを7段階に分け、AIに任せる範囲と人が読む範囲を整理します。
- 退職理由を選択肢1つで記録している限り、AIで分類し直しても「その他」の中身は出てきません。本人の言葉と面談者の要約を分けた自由記述欄が、分析の前提です
- AIに渡すのは、氏名や病歴などを外した本人の言葉の欄だけ。タグの確定、部署に返すかどうか、何を直すかの3つは人が決めます
- 専用ソフトは、拠点や面談者が多く、記録を人の手で読み込ませるのが回らない会社で比べる価値があります。記録の型が決まっていない段階で入れると、ソフトの型に合わせるだけになります
目次
退職面談の記録は、なぜ組織改善に使われないまま残るのか
退職面談の記録が使われないのは、面談で聞いた中身が、記録に書き写す段階で選択肢の丸に置き換わって消えるためです。AIを入れる前に、この消え方を押さえておきます。
退職面談(エグジットインタビュー)で残る記録とは
退職面談(エグジットインタビュー)とは、退職が決まった社員に人事や上司が辞めるまでの経緯と、職場で変えられたことを聞き、記録に残す面談のことです。残る記録は、多くの場合、面談者が書いた要約です。本人が話した言葉そのものではありません。
記録の形は会社によって3通りに分かれます。選択肢に丸をつけるシートだけの形、選択肢に一言の備考を添える形、面談のメモをそのまま文章で残す形です。AIが読めるのは文章になっている部分だけで、丸だけのシートからは件数以上のことは出てきません。
「その他の個人的理由」が最も多い欄になる
厚生労働省の令和6年(2024年)雇用動向調査で、転職した人が前職を辞めた理由を見ると、男性で最も多いのは「その他の個人的理由」の20.2%、女性でも「その他の個人的理由」が24.3%で最多でした。その次に来る項目は、男性が「定年・契約期間の満了」14.1%と「給料等収入が少なかった」10.1%、女性が「労働時間、休日等の労働条件が悪かった」12.8%と「職場の人間関係が好ましくなかった」11.7%です。
この調査は退職面談の記録を集めたものではありません。それでも、決まった選択肢で理由を分けると、いちばん大きな塊が「その他」になるという形は、社内の退職面談シートでも同じように起きます。会社が手を打てるのは、この塊の中に混ざっている仕事量、上司、評価、働き方の話です。選択肢の丸からは、その中身は読めません。
離職率の数字だけでは、どの部署の何が効いたか分からない
同じ調査で、令和6年1年間の離職率は14.2%、令和7年(2025年)上半期の1〜6月は8.1%でした。自社の離職率を並べて比べることはできますが、離職率は結果の数字です。どの部署の、どの時期の、何が辞める判断に効いたのかは、退職面談の記録を読まないと分かりません。
人事の仕事全体でどこから生成AIを入れるかは人事DXが進まない構造を整理した記事で扱っています。ここでは退職面談の記録に絞ります。
AIに渡す前に決める、退職面談の記録の型と聞き方
AIに渡す前に決めるのは、記録シートにどの欄を置き、どの欄をAIに渡し、どの欄を渡さないかです。ここが決まっていれば、専用ソフトでも汎用の生成AIでも、読み込ませる中身は同じになります。
選択肢1つで閉じない:記録シートに置く6つの欄
選択肢の欄は残してかまいません。件数を数えるには便利です。足すのは、本人の言葉と面談者の解釈を分けた自由記述の欄と、AIに渡さない情報を書く欄です。
| 欄 | 書く中身 | 書く人 | AIに渡すか |
|---|---|---|---|
| 基本の欄 | 所属部署、在籍年数、職種、面談日、面談者 | 人事 | 部署と在籍年数だけ渡す。氏名と社員番号は渡さない |
| 理由の選択肢 | いまの選択肢のまま(1人が複数を挙げてよい) | 面談者 | 渡す(件数の集計用) |
| 本人の言葉 | 本人が話した言い回しをできるだけそのまま | 面談者 | 渡す(人名・取引先名は伏せる) |
| 会社が変えられたこと | 「何が違えば残ったか」への答え | 面談者 | 渡す |
| 面談者の見立て | 面談者がどう受け取ったか | 面談者 | 渡す(本人の言葉とは別の欄として) |
| 渡さない欄 | 体調・通院、家族の介護、ハラスメントの申告など | 人事 | 渡さない。閲覧できる人を人事の担当に限る |
本人の言葉と面談者の見立てを同じ欄に書くと、AIが集計するのは面談者の解釈になります。「上司と合わなかったようだ」という面談者の一文と、「相談しても返事が来なかった」という本人の一文は、同じ人間関係の話でも、直す場所が違います。
本音が出にくい聞き方、出やすい聞き方
面談者が直属の上司だと、本人は上司の話をしにくくなります。人事の担当が面談し、上司は同席しない形が基本です。時期も、退職の手続きが一通り済み、最終出社日が近づいてからの方が、引き止めの面談と区別がつきやすくなります。
聞き方は、辞める理由を1つに絞らせる問いより、「いつ頃から考え始めたか」「そのとき何があったか」「何が違えば残ったか」を順に聞く方が、記録に残る文が具体になります。在籍中の面談の質問の組み立ては1on1の質問設計を扱った記事にまとめています。退職面談では最後の「何が違えば残ったか」を必ず聞き、その答えを「会社が変えられたこと」の欄に書きます。
病歴のような要配慮個人情報が混ざる欄を先に分ける
退職面談では、体調の不良や通院、家族の介護の話が出ることがあります。個人情報保護法は、本人の病歴などを含む個人情報を要配慮個人情報と定め、法令に基づく場合などを除いて、あらかじめ本人の同意を得ないで取得してはならないとしています。個人情報を扱うときは利用目的をできる限り特定し、取得したら本人に通知か公表をすることも定められています。
個別の記録が同意の要る情報に当たるかは、欄ごとに専門家へ確かめる前提です。そのうえで社内でやることは3つです。退職面談の記録を何に使うかを、人事の規程か面談の案内文に書いて本人に伝えること。体調や介護の話は「渡さない欄」に分け、AIにも部署の報告にも出さないこと。記録の扱いに迷う欄があれば、顧問の社会保険労務士か弁護士に、欄の単位で確認することです。
生成AIに任せる範囲と人が読む範囲、退職面談の記録をどこで分けるか
AIに任せるのは、本人の言葉の欄を読み、テーマごとに分けて根拠の文を添える下書きまでです。タグを確定すること、部署に返すかどうか、何を直すかは人が決めます。
いまの流れ:面談から報告まで7段階
記録が選択肢の丸で閉じている会社の流れを7段階に分けると、次のようになります。所要時間は会社ごとに違うため、自社で測る前提で欄を空けています。
| 段階 | 担当 | 入力 | 出力 | 判断・例外 |
|---|---|---|---|---|
| 1 日程の調整 | 人事 | 退職届と最終出社日 | 面談の日時 | 誰が面談するか |
| 2 面談 | 人事か直属の上司 | 質問票 | 手書きのメモ | どこまで聞くか |
| 3 清書(消える1) | 面談者 | 手書きのメモ | 選択肢に丸をつけたシート | 理由をどの選択肢に丸めるか |
| 4 保管 | 人事 | シート | 紙のファイルか共有フォルダ | なし |
| 5 集計(消える2) | 人事の担当 | 1年分のシート | 理由別の件数表 | 「その他」を読むか。多くは読まない |
| 6 役員会への報告 | 人事の責任者 | 件数表 | 報告資料 | 何を直すと言うか |
| 7 部署への共有(止まる) | 人事の責任者→部門長 | 報告資料 | 口頭の共有 | 例外:退職者が1〜2人の部署は誰の話か分かる |
面談で聞いた中身が消えるのは段階3と段階5の2か所です。段階3で本人の話が選択肢に丸められ、段階5で「その他」の束が読まれないまま件数になります。段階7は、少ない人数の部署に結果を返すと誰の話かが分かってしまうため、共有そのものが止まります。
AIを入れた後の流れ(同じ段階番号)
段階番号は1〜7のままです。段階3の記録の欄が増え、段階5がAIの下書きと人の確認に分かれます。

| 段階 | 担当 | AIが受け取るもの・人の入力 | AIが返すもの・出力 | 人が確認すること |
|---|---|---|---|---|
| 1 日程の調整 | 人事 | 退職届と最終出社日 | 面談の日時と面談者(人事の担当) | 直属の上司を面談者にしていないか |
| 2 面談 | 人事の担当 | 順番を決めた質問票 | 本人の言葉を残したメモ | 「何が違えば残ったか」を聞いたか |
| 3 記録(欄が増える) | 面談者 | メモから氏名・病歴などを外した文 | 本人の言葉の欄と要約の下書き | 要約が本人の言い回しから離れていないか。渡さない欄に分けたか |
| 4 保管 | 人事 | シート | AIに渡す欄と渡さない欄を別のファイルに | 渡さない欄の閲覧者が限られているか |
| 5 分類(下書きと確認に分かれる) | 人事の担当 | 半期分の本人の言葉の欄 | テーマのタグと、根拠にした文の抜き出し | タグが本文の言葉から外れていないかを1件ずつ |
| 6 役員会への報告 | 人事の責任者 | 確定したタグの件数と根拠の文 | 半期の傾向と、直す候補 | 何を直すかを決める |
| 7 部署への共有 | 人事の責任者→部門長 | 部署別の件数 | 部署ごとの返し方 | 件数の少ない部署は全社の集計に入れる |
AIに頼むときは、分けるテーマを先に渡しておきます。仕事量と勤務時間、上司と職場の関係、評価と給与、仕事の内容と将来、家庭や通勤の事情、の5つ程度から始め、どれにも入らない文は「分類できない」として返させます。無理に既存のテーマへ押し込ませると、「その他」の束が形を変えて残るだけです。
人に残す判断4つと、その根拠
- 渡さない欄への仕分け:体調や介護の話は要配慮個人情報に当たり得るため、法令と社内の規程に沿って人が分ける
- タグの確定:本人の言葉と面談者の解釈を取り違えると、直す場所を間違えるため、人事の担当が1件ずつ確かめる
- 部署に返すかどうか:件数が少ない部署に返すと、話した本人が特定されるおそれがあるため、人事の責任者が決める
- 何を直すか:配置や評価の見直しは予算と人事権を伴い、会社としての責任が生じるため、役員と部門長が決める
分析の結果を、部署の責任者が動ける形にして返す
結果は、部門長が次の半期に手を打てる形で返します。返すのは件数とテーマで、本人の言葉をそのまま引用して部署に回すことはしません。
退職者が少ない部署の結果は、そのまま返さない
部署の退職者が半期で1〜2人なら、「上司との関係」のタグが1件ついただけで、誰の話かは部署の中で分かってしまいます。こうした部署の結果は全社の集計に入れ、部署単位では返しません。部署に返すのは、同じテーマのタグが複数人から出た場合に限ります。
決めきれない点が1つあります。何人以上なら部署に返すか、その線を数字で置くかどうかです。数字で置けば判断は速くなりますが、部署の人数や職種の偏りで特定のしやすさは変わります。はじめは数字を置かず、人事の責任者が「この件数と在籍年数の組み合わせで、部署の中の誰かが本人を推測できるか」を1部署ずつ見て決める方が無難だと考えています。
部門長に渡す1枚の中身
- 半期のうちに部署から出た退職者の人数と、確定したタグの件数
- 全社の同じ時期のタグの件数(比べるため)
- 人事の責任者が選んだ、次の半期に手を打つ候補1つと、その候補を選んだ根拠
候補は1つに絞ります。3つ並べると、部門長はいちばん手をつけやすいものから選び、件数の多いテーマが後回しになるためです。在籍している社員の変化を見る仕組みは別に持っておく方がよく、勤怠の記録から予兆を見る方法は勤怠データで離職の予兆を見る記事で扱っています。
導入前に測る指標3つ
記録の型を変える前に、過去1年分のシートで次の3つを数えておきます。半年後に同じ数え方で比べるためです。
| 指標 | 単位 | 数える人 | 半年後に見ること |
|---|---|---|---|
| 理由が「その他」「一身上の都合」だけの件数 | 件/半期 | 人事の担当 | 減っているか(記録が開いたか) |
| AIのタグを人が直した件数 | 件/半期 | 人事の担当 | テーマの決め方が合っているか |
| 部署に返した候補のうち、手を打った件数 | 件/半期 | 人事の責任者 | 分析が部署の動きにつながったか |
3つ目の指標を入れるのは、分析の出来ではなく、部署が動いたかを見るためです。タグの精度が上がっても、部署に返した候補が1件も実行されていなければ、退職面談の記録は役員会の資料で止まっています。
退職面談ソフトを入れるか、生成AIで足りるか、社内だけで決めきれない境目
1年間の退職者が数十人までで、面談を人事の担当が行い、記録が文章で残っているなら、法人向けの生成AIと表計算で足ります。拠点が多く面談者が何人もいて、記録を人の手で読み込ませるのが回らないなら、専用の退職面談ソフトを比べる価値があります。
専用の退職面談ソフトと、汎用の生成AI+表計算の比較
| 比べる点 | 専用の退職面談ソフト | 汎用の生成AI+表計算 |
|---|---|---|
| 記録の集め方 | 退職者本人がフォームやAIとの対話で答える形を選べる | 面談者が書いたシートの欄を読み込ませる |
| 面談の実施者 | 人が面談しない形も取れる | 人が面談する前提 |
| 向く件数と体制 | 拠点・面談者が多く、件数も多い | 1年間の件数が少なく、人事の担当が読める範囲 |
| 社外に出る範囲 | ベンダーの環境に保存される。保存場所・学習への利用・削除の方法を契約で確かめる | 法人向けプランで入力が学習に使われない設定か確かめ、渡さない欄を外してから入れる |
| 費用の見方 | 月額や利用人数で課金。各社の料金表で確かめる | 契約中の法人プランの範囲で始められる |
| 向かない会社 | 記録の型が決まっていない会社(ソフトの型に合わせるだけになる) | 半期ごとの読み込みと確認を担う人がいない会社 |
本人が面談者を介さずに答える形の強みと弱み
専用ソフトの利点は、本人が面談者を介さずに答えられる点です。上司にも人事にも話しにくい内容を残せる可能性があります。一方で、面談者がいない分、「何が違えば残ったか」を重ねて聞く場面はソフトの設計に委ねることになります。どちらを選ぶ場合も、2章で決めた欄の型を先に持っておけば、ソフトの設問をその欄に対応させて比べられます。
分析を始めない方がよい条件
退職面談の記録を何に使うかを本人に伝えていない会社は、分析より先に案内文と規程を整えます。渡さない欄を分けていない記録を、そのまま生成AIに入れることもしません。また、1年間の退職者が数人の会社では、テーマの件数を数えても傾向と呼べる形にはなりにくく、人事の責任者が全件を読む方が早く正確です。在籍中の社員の声を広く集めたい場合は、退職面談ではなく従業員アンケートの自由記述をAIで読む方法を比べた記事の範囲になります。
社内だけで決めきれない境目
社内だけで進めると、つまずきやすい境目が3つあります。重いのはテーマの決め方です。人事が思いつくテーマだけで分けると、人事が普段から気にしている話にタグが寄り、現場の言葉で出ている話が「分類できない」に積まれます。次に、渡さない欄の線引きは、法務や社会保険労務士の確認と、面談の案内文の書き換えが同時に要ります。もう1つは、部署に返す判断を人事の責任者1人で抱えることです。部門長との関係があるほど、返しにくい結果が手元に残ります。
3つのうち2つに当てはまるなら、テーマの初期設計と欄の線引きだけを社外の目を入れて決め、面談・記録・部署への返却は社内に残す分け方があります。人事と労務の仕事を広く見直す場合は人事・労務の効率化の全体像から入る方が、退職面談だけを先に作り込むより順番を誤りにくくなります。
ビフォーアフター:記録の型を決めてから分析すると、半年後の報告はこう変わる
選択肢の丸だけで記録している場合
- 年度末に12人分のシートを数え、「その他」と「一身上の都合」が上位に並ぶ
- 面談で聞いた部署の忙しさや上司の話は、清書の段階で消えている
- 役員会の資料には件数表だけが載り、何を直すかは書けない
- 少人数の部署には結果を返せず、共有が止まる
記録の型を決めてから分析した場合
- 本人の言葉と会社が変えられたことの欄が残り、半期ごとにAIがテーマの下書きを作り、人事の担当が1件ずつ確かめる
- 部門長には件数と候補1つを渡し、少人数の部署は全社の集計に入れて返す
面談をする人も、聞く時間も変わりません。変わるのは、段階3で残す欄と、段階5で「その他」の束を読むかどうかの2点です。役員会への報告は件数の読み上げから、次の半期に手を打つ候補1つを決める場に変わります。何を直すかの最終判断は、どちらの場合も役員と部門長に残ります。
この記事のまとめ
- 今週やるのは、過去1年分の退職面談シートで、理由が「その他」「一身上の都合」だけの件数を部署別に数えることです。ソフトの比較はその後で足ります
- 次の面談から、本人の言葉・会社が変えられたこと・渡さない欄の3つを記録シートに足し、記録を何に使うかを面談の案内文で本人に伝えます
- 専用ソフトを比べるのは、面談者が複数いて半期ごとの読み込みが回らなくなってからで間に合います
2026年10月
読んで終わりにしないために
「自社の場合は、どうすれば?」
その答えを、最大45分で持ち帰る。
記事で分かるのは、一般論まで。AI導入を専門に見ている担当が、貴社の業務に当てはめて“次の一手”だけを一緒に整理します。
この相談で持ち帰れるもの
- 01
自社業務に当てはめたAI活用マップ
- 02
投資対効果(ROI)のシミュレーション
- 03
いまの悩み・疑問への、その場の個別回答


