月曜の朝、提案資料を開いたまま手が止まります。「先に中身を考えたいのに、レイアウトの調整だけで30分が溶ける」——スライド1本に3時間、4時間とかかり、木曜の夜に体裁を直しているうちに、肝心の提案の中身を練る時間が15分しか残っていない。少人数の企画チームでは、この逆転が起きること自体が珍しくありません。しかも溶けているのは作業時間だけではなく、たたき台が出てこないあいだに止まっている案件の時間も含まれます。
この記事では、Geminiを資料づくりに組み込んだときに社内スライド1本の流れがどこまで変わるのか、逆に人が最後まで握ったほうがよい部分はどこかを、工程ごとの時間の目安と比較表で整理します。
- 提案スライド1本の3〜4時間は、書く時間ではなく、構成に迷う時間と体裁を整える時間に消えている
- Geminiが効くのは前半の工程で、構成案づくりは40〜60分から5〜10分、初稿の文章は60〜90分から15〜25分が目安
- BoostXが自社で計測している水準では、資料作成は月8時間から月4時間、提案書の下書きは月10時間から月3時間の水準へ移っている
目次
提案スライドの「たたき台待ち」で溶けている時間
資料づくりが遅いのは、書く速度の問題ではありません。たたき台が出てくるまでの待ち時間と、出てきたあとの直しに、時間が二重にかかっているだけです。まずは社内スライド1本の3〜4時間がどこへ消えているのかを、工程に分けて見ていきます。
資料1本にかかる3〜4時間の中身
提案資料を1本仕上げるまでの時間を工程で割ると、文章を書いている時間は意外に短いことが分かります。一般的な目安として、構成をどうするか迷っている時間が40〜60分、初稿の文章を書く時間が60〜90分、図解の下書きに30〜40分、レイアウトの微調整に30〜45分、社内レビューの反映に40〜60分、最終チェックに15〜20分といった配分になることが珍しくありません。合計すると、休憩を挟まなくても3時間を超えます。
この中で本当に付加価値を生んでいるのは、何を提案するかを決める40〜60分と、相手の状況に合わせて言い回しを詰める20〜30分くらいです。残りの2時間前後は、体裁を整える作業と、指摘を反映する作業に消えていきます。1週間に2本作れば4時間、1か月に8本なら16時間がここに乗ります。年間で見れば190時間を超える規模です。
提案が1件、たたき台待ちで3日止まる
見えにくいもう一つの損失は、資料が出てこないあいだ案件そのものが止まることです。商談で「では簡単な資料をお送りします」と言ってから、実際に送るまで2日、3日と空くのは珍しくありません。日が空くほど、相手の温度感は下がりやすくなります。1件あたり3日の遅れが1か月に5件あれば、15日ぶんの機会が後ろへずれていきます。
資料づくりにAIを組み込む動きは、すでに一般的な選択肢になりつつあります。総務省の令和7年版 情報通信白書によると、「メール・議事録・資料作成の補助」で生成AIを利用している企業の割合は47.3%とされています。2社に1社に近い水準で、資料まわりに何らかの形でAIが入り始めている、ということです。
体裁を整える時間が、考える時間を押し出す
スライドは、1枚あたりの情報量が決まっているぶん、体裁の影響を強く受けます。20枚の資料なら、フォント・余白・図の位置を揃えるだけで40〜60分。ここに手を入れない限り、1本3時間の壁は動きません。文章だけ速く書けるようになっても、合計時間が2時間30分になるだけです。
しかも、この40〜60分は疲れている時間帯に回されがちです。1週間に3度繰り返せば45分、1年なら36時間規模になります。私が支援した企業でも、効き目が大きかったのは新しいツールを増やすことではなく、体裁に触る時間を1本あたり20分以内に抑える約束を先に作ることでした。時間の使い方を決めないままツールだけ入れると、浮いた30分がそのまま別の作業に吸われ、1か月経っても手応えが残りません。
Geminiにどこまで任せられて、どこからが人の仕事か

任せる範囲を決めないままGeminiを開くと、期待値がぶれます。5分で終わる仕事と、2時間かけても人がやるべき仕事が混ざったまま指示を出すことになるからです。ここでは資料づくりの工程を「任せやすい」「任せにくい」で分け、線をどこに引くかを整理します。
任せやすいのは「0から1」より「1から8」
Geminiが力を発揮するのは、白紙から独創的な提案を生むことではなく、すでにある材料を並べ替えて8割の形にすることです。過去の提案書3本、議事録2本、商品資料1本をまとめて渡せば、構成案は5〜10分で出てきます。人が40〜60分迷っていた部分が、材料を渡す10分と待つ5〜10分に置き換わります。
Google公式ヘルプ「Gemini in Google スライドでスライドを生成する」でも、プロンプトからスライドを生成・編集できること、別ファイルを@で参照して内容を作れることが案内されています。2026年8月時点の情報のため、条件は着手前に公式ページで最新を確認してください。
この「別ファイルを参照させる」が効きます。自社の言い回し、価格の書き方、よく使う図の並び——これらが入った資料を2〜3本渡すだけで、初稿の手直しが30分前後まで下がることがあります。逆に何も渡さなければ、誰にでも当てはまる一般論が20枚出てきて、書き直しに1時間かかります。渡す10分を惜しむと、1時間が返ってくる構図です。
指示に混ぜる素材で、初稿の精度が変わる
指示文の長さより、渡す素材の質が結果を決めます。300字かけて丁寧に書いた指示より、実際に受注した提案書1本を添えるほうが効きます。1年前の資料でも構いません。型が入っていれば十分に働きます。
渡す素材は3種類に整理すると迷いません。1つ目は型(過去の提案書2〜3本)、2つ目は事実(数字・日付・条件が入ったメモ1本)、3つ目は制約(1枚あたり3行まで、専門用語は5語以内といった社内の決めごと)。この3点を用意する時間は10分ほどですが、後工程で1時間前後の差になって返ってきます。
人が最後まで握るべき2つの領域
1つは、誰に何を売るのかという設計です。相手の予算感、決裁の順番、過去の商談で出た懸念——ここはAIが知りようがありません。10分でも人が先に考えたほうが、資料全体の精度が上がります。この10分を飛ばすと、あとで60分かけて作り直すことになります。
もう1つは、事実の確認です。日付、金額、機能の有無、契約の条件。ここを1件でも間違えると、資料1本の信頼が消えます。速く出せるようになるほど確認の重要度は上がるため、最終チェックの15〜20分は削らずに残す運用にしておくと安全です。
手戻りが消えると、資料1本あたり何が変わるか
効果を語るときに大事なのは、合計時間より「どの工程が短くなるか」です。工程ごとに並べると、短くなる場所と、変わらない場所がはっきり分かれます。以下は社内スライド1本を作るときの一般的な目安で、条件によって前後します。
| 資料づくりの工程 | いまのやり方でかかる時間の目安 | Geminiを組み込んだ後の目安 | 手戻りが起きる原因 |
|---|---|---|---|
| 構成案づくり | 40〜60分 | 5〜10分 | 過去資料を渡さず、白紙から考えさせている |
| 初稿の文章 | 60〜90分 | 15〜25分 | 相手の状況を1行も伝えていない |
| 図解の下書き | 30〜40分 | 10〜15分 | 図にしたい関係を言葉で決めていない |
| レイアウト調整 | 30〜45分 | 20〜30分 | 1枚あたりの行数の決めごとがない |
| 社内レビュー反映 | 40〜60分 | 20〜30分 | 見る観点が人によって違う |
| 最終チェック | 15〜20分 | 15〜20分 | 数字と日付の突き合わせを省いている |
工程別に見ると、短くなるのは前半
表から読み取れるのは、短くなるのが前半の工程だという点です。構成案づくりが40〜60分から5〜10分へ、初稿の文章が60〜90分から15〜25分へ。この2工程だけで、1本あたり1時間30分前後の差が出ます。1か月に8本作るなら、ここだけで12時間の余白が生まれる計算です。
一方、最終チェックの15〜20分は変わりません。むしろ初稿が速く出てくるぶん、確認の重要度は上がります。短くする工程と、あえて残す工程を分けて考えることが要点です。
BoostXが自社で計測している水準では、提案資料の作成が3〜4時間から30分〜1時間の水準に落ち着いています。ゼロになるわけではありません。考える時間は残り、手を動かす時間だけが小さくなる形です。1本あたり2時間前後の余白が、次の提案を組み立てる時間に変わります。
会議1回の性質が「作る場」から「決める場」に変わる
たたき台が会議の30分前ではなく前日の夕方に出ていると、会議の中身が変わります。60分の打ち合わせのうち、40分を「どう作るか」に使っていたものが、40分を「どこを直すか」に使えるようになります。同じ60分でも、持ち帰る宿題の数が違ってきます。
この差は1度では小さく見えますが、1回あたり20分ぶんの質の差でも、1か月では160分、1年では32時間規模になります。
資料作成そのものも、BoostXが自社で計測している水準では月8時間から月4時間の水準へ移っています。浮いた4時間をそのまま次の提案の設計に回せるかどうかが分かれ目で、ここを決めないまま始めると、4時間は別の細かい作業に吸われて手応えが残りません。
1か月あたりで見ると、考える時間が戻ってくる
提案書の下書きも同じ動き方をします。BoostXが自社で計測している水準では、月10時間かかっていた下書きが月3時間の水準へ移っています。差の7時間は消えてなくなるのではなく、誰に出すかを決める時間や、通らなかった案件を見直す時間に振り替わります。
この振り替えができないと、資料が速くなっただけで終わります。1本30分で作れるようになった結果、内容の薄い資料を1か月に20本送るようになり、返信率が下がる——という逆転も起こり得ます。速さは手段で、目的は1件あたりの通る確率です。20本送って2件返るより、8本送って4件返るほうが、使った時間は半分で結果は倍になります。
浮いた時間の行き先を、始める前に決めておく
だからこそ、時間が浮いた翌月に何をするかまで決めてから始めるほうが安全です。浮く見込みが月4時間なら、そのうち2時間を提案先の選定、1時間を過去案件の振り返り、1時間を資料の型の更新に充てる。この配分を先に紙へ書いておくだけで、3か所の使い道が最後まで残ります。
自前で回そうとすると止まる3つの壁
ここまで読むと、明日から自分たちで回せそうに見えます。ただ、自前で始めた企画チームが90日後にどうなっているかを想像すると、止まりやすい場所は3か所に絞られます。どれも技術の壁ではなく、条件と運用の壁です。
壁1:使える条件がそもそも揃っていない
1つ目は環境の条件です。先ほどのGoogle公式ヘルプでは、スライド生成の機能を使うには対象のGoogle WorkspaceまたはGoogle AIプランが必要とされています。加えて2026年8月時点では英語・パソコンのみでの提供とされ、一度に生成できるスライドは1つのみとされています。
つまり、日本語で20枚を一括生成して終わり、という絵は描けません。1枚ずつ組み立てるか、文章と構成をGeminiで作り、スライドへの落とし込みは別の進め方にするかの選択になります。ここを知らずに着手すると、30分で終わると思っていた作業に2時間かかり、初日で「使えない」と結論づけてしまいます。
条件は数週間から数か月の単位で変わります。1年前の記事を根拠に判断すると、使えるはずの機能が使えない、ということが起こります。着手前に5分だけ公式ページを見る習慣があるかどうかで、無駄になる2時間が防げます。
壁2:出力が安定せず、直しに時間が戻る
2つ目は品質のばらつきです。同じような指示でも、渡す素材や言い回しが少し違うだけで、初稿の使える割合が変わります。日によって直しにかかる時間が大きく振れる状態では、資料づくりを前提にした段取りが組めません。
振れ幅を小さくするには、指示の型を固定し、渡す素材を3種類に決め、出力を見る観点を5行のチェックリストに絞る、といった取り決めが要ります。ただ、この取り決めを1人で作ると、その1人が休んだ日に止まります。作るには20〜30時間ほどかかり、更新も月1時間ほど発生する仕事です。
私は、ここは時間をかけて型を作る場所だと考えています。着手から2週間で型を固め、次の4週間で全員が同じ手順を踏めるようにする。この6週間を飛ばして機能だけ配ると、90日後には元のやり方に戻っていて、残るのは「試したけれど合わなかった」という感触だけになります。
壁3:1人の得意技で終わり、翌月には誰も触っていない
3つ目が、いちばん起きやすい止まり方です。詳しい1人が上手に使い、その人の資料だけが速くなる。ほかのメンバーは自分のやり方を変えないまま、いつのまにか同じツールを開かなくなります。1人だけ速く、残りは元の時間のままという状態です。
これは意欲の問題ではなく、置き場所の問題です。指示の型がチャットの履歴の中にしかなければ、他の人は探せません。共有の場所に1本のドキュメントとして置き、15分の見直しを1か月に1度カレンダーへ入れておくだけで、定着の度合いが変わります。
3つの壁は、機能ではなく段取りで潰す
私が伴走で入るときは、この3か所を先に潰す設計から始めます。機能の説明に30分使うより、条件の確認・型づくり・置き場所の3点に6週間を充てたほうが、結果として1本あたりの時間が下がります。戦略の整理から実装・定着まで一度に見てほしい場合は、生成AIコンサルティングのようなプロジェクト型でまとめて組み立てる進め方もあります。
ビフォーアフター:社内スライド1本の流れがここまで変わる
たたき台が出てこない1週間
月曜の10時、商談で「来週までに提案資料を」と約束します。火曜は別件が入り、資料に触れません。水曜の19時、ようやく開いて構成に40分悩み、20分書いたところで力尽きます。木曜は会議が3件入り、1行も進みません。金曜の17時にまとまった2時間を確保して初稿を書き上げ、20時に上長へ共有。土日を挟んで月曜の9時にレビューが返り、修正に45分。提出は火曜の午後になり、約束から8日が経っています。
実作業だけを足せば1本3〜4時間ですが、カレンダーの上では8日ぶん引っ張られています。この1週間で失っているのは、時間そのものより順番です。いちばん頭を使うべき「何を提案するか」が、金曜の17時という1週間でもっとも頭の回らない時間帯へ押し込まれています。
初稿が朝に出ている1週間
月曜の10時に商談が終わり、その日の16時に過去の提案書2本と商談メモ1本を渡して構成案を作ります。ここまで15分。火曜の9時、出社してすぐ初稿を確認し、相手の状況に合わせて20分で直します。水曜は図の下書きに15分、レイアウトに25分。木曜の10時にレビューへ回し、返ってきた指摘の反映が30分。金曜の10時には提出できています。約束から4日、実作業は合計1時間45分前後です。
Beforeの8日・3〜4時間と並べると、日数も作業時間も半分前後まで下がっている計算になります。差が出たのは新しい機能を覚えたからではなく、初稿が「朝、すでにある」状態を先に作ったからです。人が向き合うのが白紙ではなく8割の原稿になった、というだけの違いです。
違いを生んでいるのはツールではなく運用設計
AfterのチームがBeforeより優秀なわけではありません。違いは3か所です。1つ目、渡す素材を3本に決めてある。2つ目、体裁に触る時間を1本20分以内と決めてある。3つ目、見る観点が5行のチェックリストになっている。どれも機能ではなく取り決めです。
だから、同じGeminiを使っても、取り決めのないチームは1本3時間のままです。逆に取り決めさえあれば、ツールが入れ替わっても1時間前後の水準は保てます。私は、投資すべきはツールではなく、この取り決めを作る20〜30時間だと考えています。1度作れば、更新は月1時間ほどで足ります。
うちはまだBefore寄りだと感じた方は、今週作った資料1本にかかった時間と、直しが何度発生したかを数えてみてください。この2つの数字が分かると、90日でどこまで動かせるかの見通しが立ちます。
よくある質問
QGeminiを入れれば、資料づくりの時間はゼロになりますか。
Aゼロにはなりません。BoostXが自社で計測している水準でも、提案資料の作成は3〜4時間から30分〜1時間の水準へ移る形で、考える時間は残ります。短くなるのは構成案づくりと初稿の文章という前半の工程で、最終チェックの15〜20分はむしろ重要度が上がります。1本あたり2時間前後の余白が生まれる、という捉え方が実態に近いです。
Q英語・パソコンのみという制限があるなら、日本語の社内資料には使えませんか。
A2026年8月時点でGoogle公式ヘルプが案内している制限は、スライド生成の機能に関するものです。構成案づくりや文章の下書きは別の進め方で組み込めるため、前半の工程を任せる形は取れます。条件は変わっていくので、着手前に5分ほど公式ページで最新を確認する運用にしておくと安全です。
Q3人しかいない少人数のチームでも定着しますか。
A人数より、取り決めが共有の場所に置いてあるかどうかで決まります。3人であれば、指示の型を1本のドキュメントにまとめ、15分の見直しを1か月に1度入れるところから始められます。詳しい1人のチャット履歴の中だけに型がある状態が、60日で元へ戻るいちばん大きな要素です。
Qどのくらいの期間で変化が見えますか。
A型を固めるまでに2週間、全員が同じ手順を踏めるようになるまでに4週間、合わせて6週間ほどが目安です。1本あたりの時間が半分前後に近づくのはそのあとで、90日で見て初めて1か月あたりの差がはっきりしてきます。1週間で結果を求めると、型が固まる前に元のやり方へ戻りがちです。
まとめ
- 提案スライド1本の3〜4時間は、書く時間ではなく、構成に迷う時間と体裁を整える時間に消えている
- Geminiが効くのは前半の工程で、構成案づくりは40〜60分から5〜10分、初稿の文章は60〜90分から15〜25分が目安
- BoostXが自社で計測している水準では、資料作成は月8時間から月4時間、提案書の下書きは月10時間から月3時間の水準へ移っている
- 自前で止まるのは「条件」「ばらつき」「1人の得意技」の3か所。2026年8月時点では英語・パソコンのみ、一度に生成できるスライドは1つのみという条件がある
- 差を生むのはツールではなく、渡す素材を3本に決め、体裁に触る時間を20分以内にする取り決め。型が固まるまで6週間は見ておく
公開日:2026年8月
読んで終わりにしないために
「自社の場合は、どうすれば?」
その答えを、30分で持ち帰る。
記事で分かるのは、一般論まで。現役の生成AI伴走顧問が、貴社の業務に当てはめて“次の一手”だけを一緒に整理します。
この30分で持ち帰れるもの
- 01
自社業務に当てはめたAI活用マップ
- 02
投資対効果(ROI)のシミュレーション
- 03
いまの悩み・疑問への、その場の個別回答