Blog 活用ノウハウ

売上増でも利益率が下がる事務のムダ、AIと人の1件単価の比較表

公開 2026.09.30 ・ 読了目安 約14分

たとえば、月次の会議で経営者から「売上は前年より伸びているのに、営業利益率が下がった。どこが悪いのか」と聞かれた経理責任者がいるとします。損益計算書を見れば、外注費と残業代が増えていることは分かります。ところが、受注の処理、請求書の発行、入金の消込、問い合わせへの対応のうち、どれが利益を押し下げたのかは答えられません。手元にあるのは費目ごとの月額で、処理の件数とは結び付いていないからです。

先に答えを書きます。事務費は総額で見ると「売上が増えたから増えた」で説明がついてしまいます。処理ごとに1件あたりへ直すと、件数に比例して増える外注費、件数が一定を超えると割高になる残業代、件数に関係なく出ていく固定の費用のどれで1件あたりが上がったのかが分かります。1件あたりが前年より上がった処理が、利益率を押し下げている処理です。事務費を件数に対する増え方で分けた比較表と、処理どうしを並べるときの分母と分子のそろえ方、AIに置き換えた場合に1件あたりに残る費用までを整理します。

30-SECOND SUMMARY忙しい方へ|この記事の結論
  1. 売上が伸びて利益率が下がったら、事務費は総額ではなく処理1件あたりで前年と比べます。総額の増加は売上増で説明できてしまい、押し下げている処理が見えません。
  2. 外注費は件数に比例して増え、外の値上げがそのまま乗ります。残業代は所定の時間に収まらなくなった件数から割高になります。件数が増えた月だけ1件あたりが跳ねるなら残業代、件数と関係なく上がるなら外注の値上げです。
  3. AIに置き換えた処理の1件あたりは、利用料よりも人が出力を確かめる時間で決まります。候補は、出力の確認に時間がかからない処理です。

売上が伸びて利益率が下がるとき、事務費は1件あたりで前年と比べる

売上が伸びて営業利益率が下がったときは、事務費を総額ではなく、処理ごとの1件あたりで前年と比べます。1件あたりが上がった処理が、利益率を押し下げている処理です。

事務費の1件単価とは、ある処理にかかった人の時間・外注費・ツールやAIの利用料を、同じ期間の処理件数で割った金額です。

売上が増えれば、受注も請求書も入金も問い合わせも増えます。事務費が増えること自体は不自然ではありません。問題になるのは、件数の伸び以上に費用が伸びた処理があるときです。それを見分けるには、費用を件数で割るしかありません。

事務費は、件数に対する増え方で3つに分かれる

事務費は、件数が増えたときの増え方で分けると3つの型になります。件数にほぼ比例して増える費用、件数が一定を超えたところから割高になる費用、件数に関係なく毎月同じだけ出ていく費用です。外注や派遣は1つ目、残業代は2つ目、ツールの月額や所定内の人件費は3つ目に入ります。

この3つの型に、AIに置き換えた場合の費用を足して並べたのが次の表です。

事務費は件数に対する増え方で分けると、1件あたりが上がる場所が見える
7つの費用のうち、件数が増えても1件あたりが下がるのは固定の2行です。件数が増えた月に1件あたりが上がるのは残業代で、件数比例の行は外の値上げや単価の改定で1件あたりが上がります。

表の2列目が、売上増のときに何が起きるかを決めます。固定の費用は件数が増えるほど1件あたりが下がるので、売上が伸びた年には利益率を押し上げる側に働きます。それでも利益率が下がったなら、件数比例か閾値で割高になる行のどこかで、1件あたりが上がっています。

総額の増加は、売上増で説明できてしまう

費目ごとの総額と前年比だけを見ていると、外注費が増えたのも残業代が増えたのも「売上が増えたから」で片づきます。説明としては間違っていません。ただ、その説明では、件数の伸びに見合った増え方なのか、1件あたりが高くなった増え方なのかが区別できません。

前者なら手を打つ必要は小さく、後者なら打つべき処理があります。総額のままでは、この2つが同じ数字に見えます。

自社の利益率の下がり方を、法人企業統計の平均と並べて確かめる

財務省が2026年9月に公表した法人企業統計(令和7年度)では、全産業(金融業、保険業を除く)の売上高営業利益率は5.4%で、資本金1,000万円〜1億円の企業は3.4%、1,000万円未満の企業は2.3%でした。規模が小さいほど低い並びです。

この領域でつまずきやすいのは、ツール選定よりも「業務の中のどこに組み込むか」の設計です。BoostXのAI顧問は、業務ヒアリングから設計・定着支援までをサービス対応範囲としてカバーできる領域です。

この数字は合格線ではありません。自社の利益率の下がり方が、世の中の流れに沿ったものか、自社に固有のものかを見分けるための物差しです。

全体では、売上も利益も伸びた年度だった

同じ統計で、金融業・保険業を除く全産業の令和7年度の売上高は前年度比1.6%増、経常利益は8.8%増で、どちらも過去最高の金額でした。全体としては、売上の伸びより利益の伸びのほうが大きい年度です。

経常利益は営業利益とは別の段階の利益なので、そのまま自社の営業利益率と比べることはできません。それでも、全体が上向いた年度に自社だけ営業利益率が下がったなら、景気や業界全体の動きだけでは説明しにくくなります。

平均と並べて決まるのは、原因を探す場所

平均と並べて分かるのは、探す場所です。全体が上向く中で自社だけ下がっているなら、外部の要因より、社内の費用の構造を先に疑います。事務費を1件あたりに直す作業は、その疑いを処理の単位まで絞るためのものです。

ここで1つ、決めきれない点があります。業種によって利益率の水準も費用の構成も違うため、全産業や規模別の値と比べても、業種の差を取り除いたことにはなりません。業種別の目安は別の統計にありますが、私は、自社の前年と比べる1件あたりの動きのほうを先に見るべきだと考えています。平均との比較は、社内を探すべきかどうかを決めるところまでに留めます。

残業代と外注費は、件数が増えたときの増え方が違う

外注費は処理件数にほぼ比例して増え、外の値上げがそのまま乗ります。残業代は所定の時間に収まらなくなった件数から割増がつくため、件数が一定を超えた月に1件あたりが跳ねます。同じ「事務費が増えた」でも、増え方の形が違います。

外注費と派遣は件数に比例し、外の値上げがそのまま乗る

外注や派遣は、件数か時間に応じて請求されます。件数が増えた割合とほぼ同じ割合で、費用も増えます。ここまでは売上増で説明できる範囲です。

説明できないのは、外の値段そのものが上がった分です。日本銀行の企業向けサービス価格指数は、2026年8月の速報で総平均が前年比3.7%上昇しました。企業が外に払うサービスの値段が上がっているので、同じ件数を外注しても1件あたりは上がります。外注先の単価の改定は請求書の単価の欄に出るので、件数と単価を分けて持っていれば、どちらで増えたかが分かります。

残業代は、所定の時間に収まらなくなった件数から割高になる

社員が所定の時間内で処理している間は、件数が増えても人件費は変わりません。所定の時間に収まらなくなった件数から残業になり、割増がつきます。件数と費用の関係は、ある件数を境に傾きが急になる形です。

人の時間の単価の下限も上がっています。令和8年度の地域別最低賃金の答申は、全国加重平均で1,177円でした。昨年度の1,121円から56円の引上げで、都道府県ごとに順次発効する予定の額です。処理にかかる時間が同じでも、時間の単価が上がれば1件あたりは上がります。

外注費と残業代、どちらが効いているのか

件数が増えた月だけ1件あたりが上がるなら残業代、件数に関係なく少しずつ上がるなら外注の値上げが効いています。月ごとの件数と1件あたりを横に並べると、どちらの形かが見えます。

両方が同時に起きている処理もあります。その場合は、残業代の行と外注の行を別々に1件あたりへ直します。混ぜたまま割ると、件数の山で割高になった分と外の値上げの分が区別できず、打つ手が決まりません。

For Executives · 毎月限定5社

「AI、何から始めるか」を、
御社の事業に当てはめた戦略提案書。

業界事例・ROI試算・3ヶ月導入ロードマップを含む全15章から、御社が今いちばん知りたい5章を選んで編集。代表 吉元が監修して3〜5営業日でPDFお届け。完全無料。

経営者・役員・部門長・AI推進ご担当者の方限定。御社の事業に当てはめた個別作成のため、立場が判断できない方への配信はお断りしております。

処理どうしを比べるには、件数の数え方と費用の含め方を先にそろえる

1件あたりの費用は、分母の件数と分子の費用をどう決めるかで大きく変わります。計算の細かさより先に、この2つを処理ごとにそろえることが、比べられるかどうかを決めます。

件数の単位は、処理ごとに1つに決める

請求書の発行を例にとると、件数を「受注1件」で数えるか、「請求書1枚」で数えるか、「明細1行」で数えるかで、1件あたりの金額は大きく変わります。どれが正しいということはありません。前年と今年で同じ単位を使い、処理ごとに1つに決めてあれば比べられます。

途中で数え方を変えると、1件あたりが上がったように見えても、実は分母の単位が変わっただけ、ということが起こります。

人の時間は、所定内と残業を分けて持つ

人の時間を1本にまとめて割ると、残業代の割高な分が薄まります。所定内の時間と残業の時間を分けて持っておけば、件数の山で1件あたりが跳ねた処理を見つけられます。

難しいのは、残業がどの処理のものかです。勤怠の記録は部署単位で残ることが多く、請求書の発行で残ったのか、入金の消込で残ったのかは記録だけでは分かりません。

固定の費用は、上がった処理を探すときには分けて見る

ツールの月額のような固定の費用は、件数で割ると、件数が増えるほど1件あたりが下がります。変動する費用と足して割ると、固定の費用が1件あたりを下げる分だけ、変動する費用の上がり方が隠れます。1件あたりが上がった処理を探すときは、変動する費用だけで1件あたりを出し、固定の費用は別の行に置きます。

比べる材料は、社内の別々の手元にある

分母と分子の材料は、経理の手元に全部そろっているわけではありません。材料ごとに、担当と元になる記録が違います。

材料 担当 入力(元になる記録) 出力(1件あたりに直した後) 人が決めること 例外
処理の件数 各処理を持つ部署 受注台帳、請求書の発行記録、入金の明細、問い合わせの記録 処理ごとの月の件数 件数の単位をどれにするか 1件で何度も差し戻される処理
所定内の時間 総務・人事 勤怠の記録 処理ごとの所定内の時間 兼務の人の時間をどう分けるか 複数の処理を同じ人が持っている
残業の時間 総務・人事と各部署 勤怠の記録、残業の申請 処理ごとの残業の時間 どの処理の残業として数えるか 締めの日にまとめて残業した分
外注・派遣の請求 経理 外注先・派遣会社の請求書 処理ごとの件数と単価 複数の処理をまとめた請求の分け方 月額の定額契約になっている
ツールの月額 経理と情シス ツールの請求書 固定の費用の行 複数の処理で使うツールを分けるか 年払いの契約

表の「人が決めること」の列が埋まらない限り、割り算はできても処理どうしの比較は成り立ちません。自社の数字で線を引くところが、1件あたりの比較で最も手間のかかる部分です。

AIに置き換えた処理の1件あたりは、利用料より確認の時間で決まる

AIの利用料は処理量に比例するため、AIに置き換えた処理の1件あたり費用は、人が出力を確かめる時間と例外の手作業でほぼ決まります。置き換える候補は、この2つが小さく収まる処理です。

AIの利用料は、処理した量に比例して請求される

AnthropicはClaude APIを実際の月の利用量で請求し、支払いは米ドル建てとしています。料金は処理した量に比例するので、AIに任せた部分の費用は、最初から件数あたりで見える形です。

Anthropicは公式の料金ページ(2026年9月時点)で、問い合わせ1万件をClaude Haiku 4.5(入力100万トークンあたり1ドル)で処理する計算例を示し、合計を約37ドルとしています。これはAnthropic自身の計算例で、読者の会社の処理にかかる単価ではありません。それでも、利用料の桁が人の時間の単価とは離れていることは読み取れます。

残るのは、人が出力を確かめる時間と例外の手作業

AIに置き換えても、出力をそのまま外に出せる処理は限られます。請求書の金額、取引先への回答、入金と請求の突き合わせの結果は、人が確かめてから確定させます。この確認の時間が、置き換えた後の1件あたりの大半を占めます。

私は、次の確認はAIに渡さず人に残すべきだと考えています。金額の確定は、誤りがそのまま利益と取引先の信用に響くためです。取引先へ出す文面の最終判断は、契約や約束の中身を知っている人しか責任を持てないためです。AIが判断できずに戻した例外の処理も人に残します。戻ってきた理由を人が見ないと、同じ例外が翌月もまた戻ってきます。

確認の時間は、測らないと分かりません。置き換える前に、処理1件の確認に何分かかったかを自社で測る項目として決めておくと、置き換えた後の1件あたりを前年と同じ物差しで比べられます。

置き換える候補は、件数が多く確認が短く済む処理

利用料は件数に比例して小さく、確認の時間は処理によって長さが違います。件数が多く、1件の確認が短く済む処理ほど、置き換えた後の1件あたりが下がりやすくなります。反対に、1件ごとに人が中身を読み込まないと確定できない処理は、置き換えても確認の時間が残り、1件あたりはあまり下がりません。

置き換えた後に、AIの費用の総額が請求書の金額と合わなくなることがあります。その差がどこから来るのかは、AIの隠れ費用を請求書の内と外の3層に分けた記事で扱っています。

件数あたりの比較を自社だけで続けると、どこで止まるのか?

1件あたりの比較は、一度数字を出せば終わりではありません。前年と比べ続けるために毎月同じ材料をそろえる必要があり、そこで止まる場所が3つあります。

処理ごとの件数を毎月数える仕組みが無い

請求書の枚数は発行の記録から数えられても、問い合わせの件数や差し戻しの回数は、どこにも記録されていないことがあります。数える仕組みが無い処理は、分母が毎月の手作業になり、繁忙の月から数えなくなります。

残業がどの処理のものか、勤怠から切り出せない

勤怠の記録が部署単位のままだと、残業代を処理ごとに分ける根拠がありません。比べるたびに担当者に聞き取ることになり、答える側の記憶に頼った数字になります。

置き換えた後の確認の時間を測る担当がいない

AIに置き換えた処理は、利用料の明細が自動で届く一方で、確認の時間は誰も記録しません。利用料だけで1件あたりを出すと、置き換えた処理の1件あたりが実際より小さく見えます。

社内で回せている状態と、外の手を借りる境目

処理ごとの件数が毎月そろい、残業を処理ごとに分ける取り決めがあり、置き換えた処理の確認の時間が記録されているなら、社内で回せています。どれか1つでも欠けたまま締めを重ねているなら、件数の数え方と費用の分け方を、外の目を入れて一度決め直す段階です。

ビフォーアフター:月次の会議で出す事務費の数字が変わる

変わるのは費用の金額ではなく、会議に出す表の列です。

BEFORE

費目ごとの月額と前年比しか出せない会議

冒頭の仮の場面で経理責任者が持っていたのは、外注費、給与手当、支払手数料といった費目ごとの月額と、その前年比でした。外注費が何%増えた、残業代が何%増えたとは言えても、どの処理の分かは言えません。経営者の問いには「売上が増えたので」と答えるしかなく、次に何を見直すかは会議で決まりません。

AFTER

処理ごとの1件あたりの前年比が並ぶ会議

表の行が費目から処理に変わります。受注の処理、請求書の発行、入金の消込、問い合わせへの対応が1行ずつ並び、列には件数、所定内の1件あたり、残業の1件あたり、外注の1件あたり、その前年比が入ります。1件あたりが上がった行を指して、上がった理由が残業なのか、外の値上げなのか、件数の数え方なのかを答えられます。

AIに置き換える候補も、同じ表から選べます。件数が多く、残業と外注の1件あたりが上がっている行が、最初に確認の時間を測る対象になります。

違いを生んでいるのは集計の手間ではなく、件数の数え方の取り決め

BeforeとAfterの差は、表計算の腕前ではありません。処理ごとに件数の単位を決め、残業をどの処理の分として数えるかを決め、固定の費用を別の行に置く、という取り決めがあるかどうかです。取り決めが先にあれば、毎月の集計は同じ列を埋める作業になります。

この記事のまとめ

  • 次の月次の締めで最初に手を付けるのは、事務の処理を5〜7本に分け、各処理の件数の単位を1つずつ決めることです。単位が決まらない処理は、その時点で比較の対象から外しておきます。
  • 前年同月の件数と費用を同じ単位で出し直し、変動する費用だけで1件あたりの前年比を並べます。上がった行から、残業・外の値上げ・数え方の変更のどれかを切り分けます。
  • AIへの置き換えを検討する処理は、置き換える前に1件の確認にかかる分数を測っておきます。利用料の見積もりより先に、この数字をそろえます。
  • 経営者への報告は、1件あたりが上がった処理の名前と、上がった理由の2つで返します。費目ごとの前年比は補足に回します。

監修者|生成AIの導入から定着まで伴走する専門家が確認しています

吉元大輝(よしもとひろき)

株式会社BoostX 代表取締役社長

中小企業の生成AI導入を支援する「生成AI伴走顧問」サービスを提供。業務可視化から定着支援まで、一気通貫で企業のAI活用を推進している。

公開日:2026年9月

この記事をシェア

読んで終わりにしないために

「自社の場合は、どうすれば?」
その答えを、最大45分で持ち帰る。

記事で分かるのは、一般論まで。AI導入を専門に見ている担当が、貴社の業務に当てはめて“次の一手”だけを一緒に整理します。

この相談で持ち帰れるもの

  1. 01

    自社業務に当てはめたAI活用マップ

  2. 02

    投資対効果(ROI)のシミュレーション

  3. 03

    いまの悩み・疑問への、その場の個別回答

COMPANY PROFILE / PDF 全46ページ

BoostXの考え方・7つのサービス・料金を、1冊に。

社内でAI活用を検討されるときの資料として、そのままご共有いただけます。入力は3項目、送信後すぐにダウンロードできます。

会社案内を無料でダウンロード