生成AIの効果は、社員教育にお金と時間をかけると変わるのか。令和8年版の労働経済白書の見方は「変わる」です。会社の訓練と社員の自己学習の両方があったAI利用者は、どちらも無い利用者より、仕事の成果が改善したと答えた割合が37.0ポイント高く、白書はAI投資と人的資本投資を両方進めることが重要だとまとめています。来期の予算では、ツール代と同じ枠に、訓練・学ぶ時間・社内ルール・導入時の話し合いの4つを入れて検討します。
- 白書は、AIの導入効果はAI関連の人的資本投資で高まるとしています。根拠の一つが、訓練と自己学習の両方があった利用者の37.0ポイントの差です。
- 会社からAIの訓練を受けたAI利用者は、日本は金融・保険業で26.9%、製造業で33.3%。米国・英国・ドイツより20〜30ポイントほど低い水準です。
- この差は比較であって因果ではありません。社長には「両方あった人ほど改善したと答えている」と伝え、「研修すれば上がる」とは言わないのが正確です。
目次
生成AIの効果は、社員教育で変わるのか
生成AIの効果は教育で変わる、というのが白書の見方です。ツール代と同じ予算に、訓練と学ぶ時間を入れて考えるべきだと読めます。
令和8年版労働経済白書では、会社の訓練と社員の自己学習の両方があったAI利用者は、どちらも無いAI利用者より「仕事のパフォーマンス」が改善したと答えた割合が37.0ポイント高くなっています。同じ比較で、「身体の健康と職場における安全性」が改善したと答えた割合も46.2ポイント高いという結果です。
厚生労働省は2026年9月にこの白書を公表し、主なポイントとして、経営戦略と人材戦略を連携させ、AI投資と人的資本投資の双方を進めることが重要だとしています。白書の概要でも、AIの導入効果はAI関連の人的資本投資によって高まる、と整理されています。
37.0ポイントは、OECDの分析を厚労省が引いた値
この37.0ポイントは、厚労省が独自に調べた数字ではありません。OECD(経済協力開発機構)が日本のAIと労働市場についてまとめた報告書の値を、厚労省が白書の中で引用し、図にしたものです。「改善した」と「少し改善した」を合わせた割合で比べています。社内資料に引くときは「OECDの分析を労働経済白書が紹介した値」と書いておくと、出どころを聞かれても困りません。
ツール代と教育費は、別々に見積もられやすい
生成AIの法人プランは1人あたりの月額で見積もりが出るため、予算の席では「人数×月額」の1行で話が進みがちです。一方、訓練は研修費、社員が試す時間は人件費や残業の枠に入り、同じ表に並びません。白書の比較は「両方そろった利用者」と「どちらも無い利用者」の差なので、ツール代だけを比べて決めると、この差を生んだ側の費用が予算から抜け落ちます。
日本の会社は、AIの訓練をどれだけしているのか
会社からAIの訓練提供等があったAI利用者は、日本は金融・保険業で26.9%、製造業で33.3%です。米国の60.5%・62.7%と比べると半分前後で、英国・ドイツと比べても20〜30ポイントほど低くなっています。
| 業種 | 日本 | 米国 |
|---|---|---|
| 金融・保険業 | 26.9% | 60.5% |
| 製造業 | 33.3% | 62.7% |
英国・ドイツも両業種とも5割を超えており、日本はどちらと比べても低い側にあります。表の値は、AI利用者のうち、AIと協働するための訓練提供等を会社から受けた人の割合です。白書が示しているのはこの2業種だけで、全産業の値ではありません。卸売や小売、建設、サービス業の会社が「うちも3割程度だろう」と当てはめることはできません。
自社の割合は、利用者を数えれば分かる
自社が少ないのかどうかは、白書の数字を当てはめるより、自社のAI利用者のうち会社の訓練を受けた人が何人いるかを数えるほうが確かです。法人プランの管理画面で利用者の一覧を出し、研修の受講記録と突き合わせれば割合が出ます。個人で無料版を使っている社員がいる場合は、その人数も分けて数えておくと、訓練が届いていない人がどこにいるかが見えます。
白書は、日本の企業では経営戦略と人材戦略の連携が弱いことがうかがえる、とも書いています。AIの導入は経営の判断で決まり、研修は人事の予算で決まる、という分かれ方がそのまま表れている、と読むこともできます。
会社の研修と社員の独学は、片方では足りないのか
白書の図でいう「労使ともに実施」とは、会社がAIと協働するための訓練や資金援助を出し、社員もリ・スキリング等に自分で取り組んでいる状態を指します。37.0ポイントの差は、この「両方あり」と「どちらも無し」を比べたものです。
白書の図は、両方あり・社員の学び直しだけ・会社の訓練等だけ・どちらも無し、の4つに分けて示しており、本文で数字を挙げて取り上げているのは、両方ありとどちらも無しの比較です。片方だけでどれくらい効果が出るかを、この記事では数字で言い切りません。ただ、白書が「両方」をそろえた状態を示している以上、予算でも片方に寄せない組み方が筋です。
研修だけを用意したときに抜けやすいもの
会社が研修を1回開き、そのあと社員が自分の仕事で試す時間を取らない場合、白書の区分では「会社の訓練等だけ」に近くなります。研修で覚えた使い方を自分の業務に当てはめるのは、受講した本人です。業務時間の中で試してよい時間を決めておかないと、忙しい部署ほど研修の翌週には元のやり方に戻ります。
独学に任せたときに抜けやすいもの
反対に、詳しい社員が自分で調べて使っていても、会社が訓練も資金援助もしていなければ「社員の学び直しだけ」です。この場合、使い方は人によってばらばらで、入力してよい情報の線引きも人任せになりがちです。会社が出すべきなのは、共通の使い方と、社内ルールに沿った使い方を教える場です。
研修のほかに、導入前に決めておく3つのこと
研修のほかに何を決めるのか。白書は脚注で、OECDの報告書が訓練のほかに重要だと指摘している3点を紹介しています。AI導入時の労使コミュニケーション、従業員がAIと協働するための社内ルールやガイドラインの策定、そして自社が導入したAIは安心で信頼できるという従業員の信頼感の醸成です。
導入時に、何に使い何に使わないかを話す
法人プランを配る前に、どの業務で使うのか、使わない業務はどれか、使った結果を評価にどう扱うのかを社員に説明する場を持ちます。社員がまず気にするのは、自分の仕事が無くなるのかどうかです。白書の概要は、AIが大きな雇用減少をもたらしている証左は確認されないとしつつ、職種によって影響が異なる可能性にも触れています。説明の場では、この両方をそのまま伝えるのが誠実です。
なお、AIの導入にあたって労働組合や従業員代表と話し合うことが法律上の義務になるかどうかは、就業規則の変更を伴うかなど会社ごとの事情で変わります。この点は社会保険労務士か弁護士に確かめてください。
AIと働く社内ルールを、研修の中身と合わせる
社内ルールには、入力してよい情報と、いけない情報、出力をそのまま使わずに確かめる手順、使った記録の残し方を書きます。ルールを作っても研修で触れなければ読まれず、研修で教えた使い方がルールと食い違えば現場が迷います。ルールの文面を研修の教材にそのまま組み込むのが、両方を無駄にしない方法です。社内ルールのひな形は生成AIの社内ガイドラインの作り方にまとめています。
社員の信頼は、説明とルールの積み重ねで生まれる
信頼感は予算の1行にはなりにくい項目です。ただ、導入時の説明と社内ルール、それに研修がそろって初めて、社員は「会社が認めた使い方の範囲」を知り、安心して使えます。3つ目は、前の2つと研修を実行した結果として育つものと考えておくと、予算の組み立てが分かりやすくなります。
生成AIの導入予算に入れる4項目の確認表
来期の予算に何を入れるか。白書の比較と脚注の3点を、予算の項目に置き換えると次の4つになります。ツール代の行の下に、この4行を並べて検討します。
| 予算の項目 | 白書が示す根拠 | 自社で決めること |
|---|---|---|
| 会社の訓練 | 訓練と自己学習の両方があった利用者は、改善したと答えた割合が37.0ポイント高い。日本は訓練を受けた利用者が米英独より少ない | 誰に・どの業務を題材に・いつまでに受けてもらうか。研修費をどの予算の枠に入れるか |
| 社員が学ぶ時間 | 比較の「両方」には、社員自身のリ・スキリング等が含まれる | 業務時間内に試してよい時間を月に何時間とするか。書籍や講座の費用を補助するか |
| AIと働く社内ルール | OECDの指摘として、AIと協働するための社内ルールやガイドラインの策定を挙げる | 入力してよい情報、出力を確かめる手順、記録の残し方。研修の教材に組み込むか |
| 導入時の話し合い | OECDの指摘として、AI導入時の労使コミュニケーションと従業員の信頼感の醸成を挙げる | 配る前の説明の場をいつ・誰に開くか。法的な扱いは社労士・弁護士に確かめる |

この表は、白書の本文と脚注をもとに、予算を組む立場から並べ直したものです。白書や厚労省が決めた区分ではありません。
金額より先に、4行が空欄でないかを見る
予算の案を確かめるときは、金額の大小より先に、4行のどれかが空欄になっていないかを見ます。研修費が入っていても学ぶ時間が0なら「会社の訓練等だけ」に、社員の自主的な利用に任せていれば「学び直しだけ」に寄ります。社内ルールと説明の場は費用が小さくても、担当者と期日が決まっていなければ後回しになります。
効果を見る指標も、予算と一緒に決めておく
白書の比較は「仕事の成果が改善したと答えた割合」です。自社でも、導入から数か月後に利用者へ同じ問いを聞けば、研修を受けた人と受けていない人で答えがどう分かれるかを確かめられます。あわせて、法人プランの管理画面で利用者ごとの利用頻度を見ておくと、配ったのに使われていないアカウントも分かります。
この数字で社長に言えること、言えないこと
社長に伝えてよいのは、「会社の訓練と社員の自己学習の両方があったAI利用者は、どちらも無い利用者より、仕事の成果が改善したと答えた割合が37.0ポイント高い。白書はAI投資と人的資本投資を両方進めることが重要だとしている」までです。
言えないことは3つあります。1つ目は因果です。両方そろった人ほど改善したと答えている、という比較であって、研修をすれば成果が37.0ポイント上がるという意味ではありません。もともと意欲の高い社員ほど学び、会社も訓練を出している、という可能性もこの比較からは除けません。2つ目は調査の規模です。何人に聞いた結果なのか、いつの調査なのかは白書の本文に書かれておらず、白書だけでは確かめられません。3つ目は業種です。訓練を受けた利用者の割合は金融・保険業と製造業の数字で、自社の業種にそのまま当てはまるとは言えません。
もう1点、白書はAIで人を減らせるとは書いていません。教育への投資を「人件費を下げるための投資」と説明すると、白書の内容とも、社員への説明の場とも食い違います。白書の言葉どおり、AIの導入効果を高めるための投資として扱うのが正確です。
関連: コンプラ研修の資料を生成AIで作成/生成AI研修(サービス)
この記事のまとめ
- 法人プランの管理画面から利用者の一覧を出し、研修の受講記録と突き合わせて、訓練を受けた人の割合を自社の数字として出す。
- 来期の予算案に、ツール代の行の下へ4項目の行を足し、空欄の行が無いかを確かめてから社長に出す。
- 社内ルールの担当者と、法人プランを配る前の説明の場の日程を、予算と同時に決める。
- 労働組合や従業員代表との話し合いの扱いを、社会保険労務士か弁護士に確かめる。
公開日:2026年10月
読んで終わりにしないために
「自社の場合は、どうすれば?」
その答えを、最大45分で持ち帰る。
記事で分かるのは、一般論まで。AI導入を専門に見ている担当が、貴社の業務に当てはめて“次の一手”だけを一緒に整理します。
この相談で持ち帰れるもの
- 01
自社業務に当てはめたAI活用マップ
- 02
投資対効果(ROI)のシミュレーション
- 03
いまの悩み・疑問への、その場の個別回答


