たとえば、月次の営業会議で先月の失注12件の一覧を開いた場面を考えます。理由の欄には「価格」「時期」「他社に決定」が並び、件数は数えられても、来月の商談で何を変えるかは誰も言えないまま会議が終わる。失注の理由が一言で残っている会社で起きやすい止まり方です。
失注分析でAIに任せられるのは、商談メモを読んで理由を分類することと、受注した商談との差を洗い出すところまでです。商談メモのどこを伏せてAIに入れるか、原因をどれと確定するか、次の商談で変える場面をどれにするかの3つは、営業責任者が決めます。この分担にすると、理由を数えて終わっていた会議が、来月の商談で変えることを1つ決める場に変わります。以下、7つの工程の分担表、受注との比べ方、次の商談への反映の順に整理します。
- AIの持ち分は、商談メモの要約、理由の分類、受注との差の洗い出しまで。原因の確定は人がします
- 失注理由は選択肢1つとメモ1〜2文のセットで残すと、AIが「価格」の裏の事情まで読めます
- 分析のあとに変えるのは、次の四半期(90日)に1つの商談場面だけ。複数を同時に変えると、どれが効いたか分からなくなります
目次
失注分析とは?「価格で負けた」の一言では次の商談が変わらない
失注分析とは、受注に至らなかった商談の理由を複数件まとめて分類し、受注した商談との差から、次の商談で変えることを決める作業です。1件ずつの反省会とは違い、同じ負け方が何件続いているかを見ます。
一言の理由は、裏にある事情を隠してしまう
「価格」と記録された失注でも、裏の事情は1つではありません。予算を組む時期と提案の時期がずれていた、比べる相手が別の種類の商品だった、決裁者に効果が伝わらず高く見えた。どれなのかで、次の商談で変えることはまったく違います。下の表は、よく出る一言と、その裏にありうる事情を並べた例です。
| 記録された理由 | 裏にありうる事情(例) | 担当者に確かめる問い |
|---|---|---|
| 価格 | 決裁者に導入の効果が伝わらず、金額だけで比べられた | 金額の話が出たのは、誰が同席した回だったか |
| 時期 | 先方の予算を組む時期を過ぎてから提案した | 先方の予算が決まる月を、初回に聞いていたか |
| 他社に決定 | 比べる土台(範囲・条件)を他社に先に決められていた | 比較表を作ったのは先方か、他社か |
| 見送り | 先方の社内に、導入を進める担当者がいなかった | 先方で社内説明をする人は誰だったか |
一言の理由を数えるだけでは、この表の左の列しか見えません。AIを入れる意味は、右の2列を埋めるための材料(商談メモ・メール・議事録)を、人が全部読み返さなくても整理できる点にあります。
分析が止まる3つの状態
| 状態 | 具体的な様子 | 起きること |
|---|---|---|
| 記録が無い | 商談の結果がメールやチャットに散らばり、一覧になっていない | 分析の対象そのものが集まらない |
| 理由が一言 | 失注理由が「価格」「時期」の一語で終わっている | 裏の事情が読めず、分類が表面で止まる |
| 振り返りの場が無い | 失注した案件は終わったこととして誰も見返さない | 同じ負け方が続いても気づけない |
今の状態から、どの工程で始めるか
始める場所は、今の記録の状態で決まります。失注理由を書く欄そのものが無いなら、次の節の工程1(記録の型を決める)から。欄はあるが一言しか書かれていないなら、工程2(直近90日の失注にメモを足して集める)から。メモは残っているが集計していないなら、工程3(AIによる分類)から始められます。営業の仕事全体のどこにAIを入れるかの全体像は、営業DXに生成AIを入れる順番をまとめた全体ロードマップで扱っています。
AIで失注分析を行うための準備(必要データと整理方法)
準備は2つです。失注理由を「選択肢1つとメモ1〜2文」のセットで残す型を決めること。商談メモをAIに入れる前に、顧客の氏名や連絡先を伏せる線を決めること。高価な分析ツールは、この2つが決まってからで足ります。
失注理由のカテゴリ分類とタグ付け
選択肢は6つ程度に絞ります。多すぎると担当者が選ぶのに迷い、「その他」が増えます。
| カテゴリ | 具体例 | メモに書くこと |
|---|---|---|
| 価格 | 予算を超えた、他社より高いと言われた | 金額の話が出た回と、その場にいた先方の役職 |
| 機能・仕様 | 必要な機能が無い、合わせ込みができない | 足りなかった機能の名前 |
| 時期 | 予算の時期がずれた、導入時期が合わない | 先方の予算が決まる月と、再度声をかけてよい時期 |
| 競合 | 他社に決まった、今の取引先を続ける | 決まった相手と、先方が挙げた決め手 |
| 信頼 | 実績が足りない、担当者の印象 | 先方が口にした懸念の言葉そのもの |
| 先方の社内事情 | 決裁者が替わった、計画が止まった | いつ、何が変わったか |
選択肢は「メインの理由」を1つだけ選び、ほかの事情はメモに書きます。メインを1つに絞らないと、集計したときに同じ案件が何重にも数えられます。メモは先方の言葉をそのまま書くのが一番役に立ちます。1件あたり2分で書ける長さに収め、失注が決まった日から3日以内に記録する、と決めておくと抜けが減ります。AIが言い換えを読み取り、「価格」に入った案件の中の違いを拾えるからです。
商談データの記録項目
記録は、SFAが無ければ表計算ソフトで十分です。受注した商談も同じ項目で残します。比べる相手がいないと、失注の特徴なのか、全部の商談に共通する特徴なのかが分からないからです。
| まとまり | 記録する項目 | 分析での使い道 |
|---|---|---|
| 基本 | 業種、規模、商談金額の帯、流入経路 | どんな相手で負けやすいかを見る |
| 進め方 | 商談の回数、期間、決裁者が同席した回、提案書を出した回 | 受注との差がいちばん出やすい列 |
| 提案 | 提案の要約、導入効果を数字で示したか、比べられた相手 | 提案の中身の差を見る |
| 結果 | 受注・失注、メインの理由、メモ1〜2文 | AIに分類させる本体 |
過去の失注に理由が残っていない場合は、当時のメールや商談メモをAIに読ませて理由を推定させることもできます。ただし推定は推定です。一覧には「推定」と印を付け、担当者が覚えている範囲で直してから集計に入れます。商談の記録をAIで残す方法は、商談の議事録をAIで作るときの選び方の記事で扱っています。
商談メモをAIに入れる前に伏せるもの
商談メモには、先方の担当者の氏名、連絡先、未公開の計画や金額が入っています。そのままAIに貼り付けてよいかは、担当者の判断に任せず、営業責任者と管理部門で線を引きます。
個人情報保護委員会は2023年6月の注意喚起で、事業者が生成AIサービスに個人情報を含む指示を入力する場合、利用目的の達成に必要な範囲内かを十分に確認するよう求めています。失注分析に先方担当者の氏名は要りません。氏名と連絡先の列は消し、会社名は「顧客001」のような番号に置き換えてから入れれば、分析の中身は変わりません。
令和8年版情報通信白書でも、生成AIの活用で日本企業が懸念するリスクは「社内情報の漏洩などのセキュリティリスク」が最も多い回答でした。どの情報をどのサービスに入れてよいかの決め方は、会社の情報を生成AIに入れてよいかを判断するルールの記事にまとめています。
失注分析のどこをAIに任せるか:7つの工程と人の判断
AIに任せるのは工程2〜4の、要約・分類・差の洗い出しです。工程5〜7の、原因を確かめて次の商談で変えることを決める部分は人が持ちます。工程1の記録の型も、何を知りたいかを決める作業なので人が決めます。

| 工程 | 入力 | 出力 | AIの持ち分 | 人の判断 |
|---|---|---|---|---|
| 1. 記録の型を決める | 今の商談記録 | 理由の選択肢とメモ欄 | 項目案の下書き | 何を知りたいか、選択肢の数(営業責任者) |
| 2. 集めて伏せる | 直近90日の失注・受注の記録、メール | 1件1行の一覧 | メールや議事録からの要約 | 氏名・連絡先を伏せる線(営業責任者と管理部門) |
| 3. 理由を分類する | 一覧のメモ欄 | 6分類と、分類の根拠の一文 | メモを読んで分類し、根拠を添える | 分類の妥当性の抜き取り確認 |
| 4. 受注と比べる | 受注と失注の一覧 | 差が大きい項目の候補 | 3つの軸で差を並べる | 比べる期間と対象の範囲 |
| 5. 原因の仮説を立てる | 工程4の候補 | 仮説2〜3個 | 仮説の案を出す | どの仮説を確かめるか(営業責任者) |
| 6. 担当者に確かめる | 仮説と該当案件 | 確かめた仮説1つ | 確認用の質問の下書き | 当時の事情を知る担当者への聞き取り(1人15分程度) |
| 7. 変える場面を決める | 確かめた仮説 | 次の四半期に変える場面1つ | トークや確認項目の下書き | 変える場面と、見る数字(営業責任者) |
AIの持ち分が工程2〜4に集まるのは、どれも文章を読んで要約し、並べ替える作業だからです。令和8年版情報通信白書では、生成AIの業務類型のうち「議事録・メール作成補助」で活用している企業が約7割と最も高く、導入効果を実感した割合も約7割でした。商談メモの要約と分類は、この類型に近い作業です。
AIの分類結果を人が確かめる3つの問い
同じ白書では、生成AIの懸念としてセキュリティに次いで「出力結果の精度に問題がある」が挙がっています。分類の結果は、そのまま会議に出さず、次の3つの問いで確かめます。
- 件数の問い:その分類に入った案件は何件か。2件か3件しかない分類は、割合ではなく案件名で見ます
- 言い換えの問い:「価格」に分類された案件のメモを3件読み直し、裏の事情が同じかを見ます。違えば分類を分けます
- 因果の問い:差が出た項目は、失注の原因か、同時に起きていた別の事情か。たとえば決裁者の同席が少ないのは、原因ではなく、そもそも優先度の低い案件だった結果かもしれません
3つ目の問いは、AIには答えられません。当時の商談を知っている担当者に聞く工程6が、ここで必要になります。
SFAが無い会社、失注が少ない会社はどこから任せるか
SFAが無くても、工程2の要約から任せられます。過去90日の失注について、当時のメールと商談メモを1件ずつAIに読ませ、「理由の候補を1つと、根拠になった文」を書き出させれば、1件1行の一覧の下書きになります。失注が月に5件未満の会社は、工程4の比較を急がず、工程3の分類を毎月続けて一覧をためることを先にします。
道具は工程で選ぶ
使う道具は、どの工程を任せるかで決まります。表計算ファイルを読み込んで集計できる生成AIは工程3と4に、長い議事録やメールをまとめるのが得意なAIは工程2に向きます。すでにSFAを使っているなら、SFAに付いている分析機能で工程4まで済む場合もあります。どれを選ぶ場合も、工程2の伏せる線を先に決めておくことは変わりません。
勝ち筋を特定する比較分析フレームワーク
勝ち筋は、受注した商談と失注した商談を、同じ3つの軸で並べたときの差から見つけます。軸は、進め方、提案の中身、顧客の条件です。失注だけを眺めても、それが負けた商談だけの特徴なのかは分かりません。
| 軸 | 比べる項目 | 受注した商談 | 失注した商談 |
|---|---|---|---|
| 進め方 | 決裁者が同席した回があるか、商談の回数、初回から提案までの期間 | 自社で数える | 自社で数える |
| 提案の中身 | 導入効果を数字で示したか、先方の課題を数字で聞けていたか | 自社で数える | 自社で数える |
| 顧客の条件 | 業種、規模、流入経路、比べられた相手 | 自社で数える | 自社で数える |
表の数字の欄は、自社の記録から数えた値だけを入れます。他社の平均値を当てはめると、自社の負け方ではなく一般論になってしまいます。
件数が少ないときの読み方
受注が5件しかなければ、1件の違いで割合は2割も動きます。件数が少ないうちは割合で比べず、「決裁者が同席しなかった失注は、この4件」のように案件名で見て、担当者と1件ずつ当時を振り返る方が確かです。件数がたまるまで待つより、今ある記録で仮説を1つ立て、次の四半期に確かめる方が早く前に進みます。
差が出なかったときに見直すこと
受注と失注を並べても目立つ差が出ないときは、分析のやり方より、記録している項目が足りないことを疑います。多いのは、進め方の列(決裁者が同席した回、提案書を出した回)が空欄のまま残っている場合です。次の90日は、空欄の多い列を1つ選んで必ず埋める約束を営業担当者と交わし、その列がたまってからもう一度比べます。
AIに差を出させるときに渡すもの
AIに比べさせるときは、4つを渡します。自社の商材と主な顧客の説明を2〜3行、伏せ字を済ませた受注と失注の一覧、比べる3つの軸、出力の形です。出力は「差が大きい順に3つ、それぞれ該当する案件の番号を添えて」と指定すると、工程6で担当者に確かめる案件がそのまま手に入ります。競合との比べ方まで広げたい場合は、生成AIで競合を分析して営業戦略に落とす記事が参考になります。
分析結果を次の商談に効かせる方法
分析のあとに変えるのは、次の四半期に1つの商談場面だけです。初回のヒアリング、決裁者への提案、見積の提示など、差が出た場面を1つ選び、そこで使うトークか確認項目を変えます。複数を同時に変えると、90日後にどれが効いたのかが分からなくなります。
見えた差から、変える場面を1つに絞る
| 見えた差(例) | 変える場面 | 変えるもの | 翌四半期に見る数字 |
|---|---|---|---|
| 失注では決裁者が同席した回が無い | 2回目の商談の設定 | 2回目に決裁者の同席をお願いする一言と、その理由の説明 | 決裁者が同席した商談の件数(自社で数える) |
| 失注では導入効果を数字で示していない | 提案書の提出 | 先方の数字を使った効果の試算の1枚 | 効果の試算を出した提案の件数と、その後の結果 |
| 「時期」の失注が予算の決まる月の後に集中 | 初回のヒアリング | 初回で予算が決まる月を聞く確認項目 | 初回で予算の月を聞けた件数 |
選ぶ基準は、差の大きさよりも、営業担当者が次の商談ですぐ変えられるかどうかです。顧客の条件(業種や規模)の差は、商談の中では変えられません。その場合は、営業が変える場面ではなく、どの相手に時間を使うかの判断として経営や営業企画に渡します。
トークと商談前の確認項目に反映する
変える場面が決まったら、その場面のトークの下書きと、商談の1日前に見る確認項目をAIに作らせ、営業責任者が直して配ります。確認項目は3つまでにします。多いと商談の前に誰も見なくなります。トークの作り直しは、営業トークをAIで作るときに入れる要素をまとめた記事で扱っています。
四半期ごとの回し方
| 時期 | やること | 担当 |
|---|---|---|
| 毎月 | 失注・受注ともに、選択肢1つとメモ1〜2文を記録する。月次会議で先月分の分類結果を5分だけ見る | 営業担当者/営業責任者 |
| 四半期末 | 3か月分の一覧をAIで分類・比較し、仮説を2〜3個出す。担当者に確かめて1つに絞る | 営業企画か営業責任者 |
| 四半期の初め | 変える場面を1つ決め、トークと確認項目を配る | 営業責任者 |
| 次の四半期末 | 変えた場面の数字を見て、続けるか戻すかを決める | 営業責任者 |
規模の感覚をつかむために、営業担当者5人・失注が月に10件前後のチームを仮に置くと、1四半期の負担は次のくらいに収まります。数字は運用の条件として置いた目安で、効果を約束するものではありません。
| 場面 | 仮に置いた条件 | かかる手間の目安 |
|---|---|---|
| 日々の記録 | 失注・受注とも1件ごとに、決まった日から3日以内 | 1件2分、1人あたり月に6件前後 |
| 月次会議 | 先月分の分類結果を見るだけ | 毎月5分 |
| 四半期末の分析 | 90日分の失注30件前後と受注を並べる | 伏せ字と確認に2時間、担当者2人への聞き取りに各15分 |
| 四半期の初め | 確認項目3つとトークの下書きを配る | 営業責任者の手直しに1時間 |
| 次の四半期末 | 変えた場面の件数を数える | 30分 |
失注した顧客へのもう一度の提案は、別の判断
失注分析で見えるのは、次の別の商談で何を変えるかです。失注した同じ顧客に、いつ、どんな内容でもう一度提案するかは、顧客ごとの事情で決まる別の判断になります。その進め方は失注した顧客への再提案をAIで下書きする記事で扱っています。
社内だけで決めると止まりやすい境目
社内だけで進めて詰まりやすいのは2つの場面です。営業担当者ごとに記録の書き方が揃わず、工程3の分類が毎回ぶれるとき。商談メモに先方の個人情報や未公開の計画が多く、どこまで伏せればAIに入れてよいかを社内で判断できないとき。どちらかに当たるなら、外部の目を入れて線を引く方が早く進みます。営業の課題ごとに打ち手を整理したページは営業をもっと強くしたい会社向けの課題別ページです。
ビフォーアフター:失注分析をAIと分担すると、月次会議で決まること
分担を決める前:理由を数えて終わる
- 失注理由は「価格」「時期」の一言で、裏の事情は担当者の記憶の中にしかない
- 集計はできても、来月の商談で何を変えるかが決まらない
- 商談メモを個人の判断でAIに貼り付けている人がいるかもしれない
分担を決めた後:変える場面が1つ決まる
- 選択肢とメモのセットで記録され、AIが分類の根拠まで添えて並べる
- 毎月5分の確認と、担当者に確かめた仮説1つから、次の四半期に変える商談場面が決まっている
- 伏せる情報の線が決まり、商談メモを安心してAIに渡せる
違いを生むのはAIの性能ではなく、AIに渡す工程と人が持つ判断を分けたことです。
この記事のまとめ
- 今週やるのは2つです。失注理由の選択肢6つとメモ欄を決めること、商談メモから消す列(氏名・連絡先)を管理部門と決めること
- 四半期末に人が決めるのは、確かめる仮説1つと、次の90日で変える商談場面1つです
2026年9月
読んで終わりにしないために
「自社の場合は、どうすれば?」
その答えを、最大45分で持ち帰る。
記事で分かるのは、一般論まで。AI導入を専門に見ている担当が、貴社の業務に当てはめて“次の一手”だけを一緒に整理します。
この相談で持ち帰れるもの
- 01
自社業務に当てはめたAI活用マップ
- 02
投資対効果(ROI)のシミュレーション
- 03
いまの悩み・疑問への、その場の個別回答


