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AI推進担当者が最初にやるべき5つのこと|失敗しない進め方

公開 2026.01.29 ・ 最終更新 2026.09.28 ・ 読了目安 約12分

たとえば、総務課長が月曜の朝に社長から「今日からAI推進もお願い」と言われた場面を考えます。本業はそのまま、予算も時間も決まっていない。ここでツールの比較か勉強から始めると、1か月後に経営層へ見せるものが何も無い状態になりがちです。

AI推進担当者が最初にやることは5つです。業務の棚卸し、候補業務を1つに絞る、運用ルール案をつくる、1部署で小さく試す、経営層へ報告する。この順に進め、各段で自分が作るものと、自分では決めずに経営や管理部門へ上げる判断を分けておけば、30日後には報告1枚と次に広げる範囲が手元に残ります。以下、5つの段で作るものと上げる判断の線を、表と30日の割り振りで整理します。

30-SECOND SUMMARY忙しい方へ|この記事の結論
  1. 最初の5つは、棚卸し→候補業務を1つ→運用ルール案→1部署で試す→報告1枚。ツールの比較はこの途中で必要になった分だけです
  2. 担当者が決めてよいのは進め方と案まで。対象範囲・個人情報の扱い・自分の時間の配分は、経営や管理部門に決めてもらいます
  3. 30日目の報告は、課題・目標・施策・結果の4行。数字は試した前後5件ずつを自社で測った値だけを書きます

AI推進担当者とは?役割と求められるスキル

AI推進担当者とは、経営が決めた範囲の中で、自社の業務とAIの接点を見つけ、小さく試し、結果を経営層に報告する役割です。社内で一番AIに詳しい人である必要はありません。求められるのは、どの業務から始めるかを経営と合意し、その記録を残すことです。

担当者が決めてよいこと、上に上げること

任命されたばかりの担当者が迷うのは、どこまで自分で決めてよいかです。線は次の表のとおりに引きます。担当者が決めるのは進め方と案まで。お金・責任・法令が絡むものは、案を添えて上に上げます。

決めること 担当者の持ち分 決める人 上に上げる理由
棚卸しの進め方 決めてよい 担当者 各部署の聞き取りの段取りなので、担当者の裁量で足りる
候補業務の第1候補 案を出す 経営と部門責任者 その部署の業務時間を試行に回すことになる
入力してはいけない情報 案を出す 経営と管理部門 個人情報や取引先の機密の扱いは、会社としての義務と契約に関わる
推進に使う自分の時間 決めない 上司 兼任の場合、本業との配分は評価と責任の問題になる
契約するツールとプラン 候補を出す 経営 費用の支出と、入力したデータの扱いの条件を伴う

この線を任命の直後に上司と確認しておくと、後で「そこまで頼んでいない」と言われる事態を防げます。確認の場は10分で足ります。

推進役が決まっていない会社は、まだ少なくない

令和8年版情報通信白書(2026年7月公表)では、生成AIの活用について「組織的な取組はない」と答えた日本企業が27.0%でした。米国・ドイツ・中国より顕著に高く、企業規模別では中小企業で特に高い傾向です。同じ調査で、他の3か国では「取組を推進する部署や責任者が明確になっている」との回答も目立ちました。

任命されたこと自体が、社内では一歩目です。この数字は、推進役を置いた会社がまだ多数派ではないことを示しているだけで、担当者の成果を約束するものではありません。だからこそ最初の30日で、合意の記録を残す意味があります。担当者を置かないまま進めたときに何が起きるかは、推進担当者がいないままAI導入を進めたときの問題で扱っています。

求められるスキルは3つ。中でも業務の理解が先

求められるのは、業務理解力、生成AIを自分で触れる程度のITリテラシー、経営層と現場の間を往復するコミュニケーション力の3つです。プログラミングの知識は最初の30日では要りません。

3つのうち先に効くのは業務理解力です。どの作業に誰の時間が消えているかを知らなければ、候補業務を選べないからです。3つのスキルをどう伸ばすかと、内製で進めるときの壁は推進担当者に必要なスキルと内製の壁を扱った記事にまとめています。

推進担当者はどこでつまずく?やりがちな3つの進め方

3つの失敗は、どれも5つの順番のどこかを飛ばしたときに起きます。一番重いのは1つ目です。

つまずき①:ツール選定から始める

ChatGPT、Gemini、Claudeの比較表を作り、機能と料金を並べ、社内説明の資料まで用意する。ところが「で、どの業務に使うのか」と社長に聞かれて答えられない。任命直後にいちばん起きやすい止まり方です。

比較から入ると、判断の軸が機能と料金しか無くなります。業務が決まっていれば、「議事録ならこれ、社内規程の要約ならこれ」と候補は1つか2つに絞れます。ツールの比較は、5つの順番の2段目で候補業務が決まってから、その業務に必要な分だけやれば足ります。

比較に時間を使った担当者ほど、その資料を無駄にしたくなくて順番を戻せなくなります。資料は保存しておき、2段目のあとで読み返す、と割り切ってください。

つまずき②:業務可視化を怠る

棚卸しを飛ばして「とりあえず全社で使ってみよう」と配ると、使う人と使わない人に分かれ、効果を比べる土台が作れません。担当者の手元に、どの業務でどれだけ時間がかかっていたかの記録が無いからです。部署が1つだけの会社なら、その部署の週次の作業を書き出すだけでも棚卸しになります。

つまずき③:一人で抱え込む

情報収集も試行も報告も一人で抱えると、現場の協力が得られず孤立します。各部署に1人ずつ、話を聞ける相手を先に決めておくことです。反対の声が出たときの巻き込み方は社内でAI導入を進めるときに反対の声をテストに変える記事で扱っています。

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AI推進担当者が任命後にやるべき5つのこと

答えは、①業務の棚卸し→②候補業務を1つに絞る→③運用ルール案をつくる→④1部署で小さく試す→⑤経営層への報告、の順です。各段は「手元に残すもの」ができた時点で終わりにして、次の段へ進みます。30日の割り振りは下の図のように置けますが、週の割り当ては目安として置いたもので、会社の規模で前後します。

AI推進担当者が第1週の業務の棚卸しから第4週末の経営層への報告まで、5つの段で棚卸し表、第1候補、入力ルール案、前後5件の記録、報告1枚を残す流れ図
各段の終わりは作業の完了ではなく、次の人に渡せる成果物ができたかどうかで判断します

30日の割り振りと、各段の終わりの目安

日数は、兼任の担当者が本業の合間に進める前提で目安として置いたものです。部署が1つの会社なら①は3日で終わりますし、承認に時間がかかる会社では③が延びます。

期間(目安) 段 担当者の動き 終わりの目安
1〜7日目 ①棚卸し 2〜3部署に7欄のシートを配り、5日分の実際の作業を書いてもらう 3部署分のシートが回収できた
8〜10日目 ②候補業務 棚卸し表から候補を3件挙げ、3つの条件で1件に絞る 第1候補1件と理由3行
11〜14日目 ③ルール案 入力してはいけない情報と確認者を1枚にまとめ、管理部門と30分で確認する 承認者の了承1件
15〜28日目 ④試行 1〜2名が14日間、使う前の5件と使った後の5件を記録する 記録10件がそろった
29〜30日目 ⑤報告 4行の報告を1枚にまとめ、経営層と15分で話す 次に広げる範囲1つが決まった

各段の担当・入力・出力と、人が判断することを1つの表にすると次のようになります。

段 入力 担当者が作る出力 人が判断すること
①業務の棚卸し 各部署の聞き取り、週次の作業一覧 業務名・担当・頻度・所要(自社で測る)の棚卸し表 聞き取りに協力する部署(部門責任者)
②候補業務を1つ 棚卸し表 第1候補と、選んだ理由の3行 その部署の時間を試行に回すか(経営)
③運用ルール案 候補業務で扱う書類の種類 入力してはいけない情報と、出力の確認者を書いた案 個人情報・取引先の機密の線(経営と管理部門)
④1部署で試す 承認済みのルール、試す人1〜2名 AIを使う前と後の5件ずつの記録 社外に出す前の最終確認(その業務の担当者)
⑤経営層への報告 ④の記録 課題・目標・施策・結果の報告1枚 次に広げる範囲と予算(経営)

1. 現状把握(業務の棚卸し)

最初の週は、2〜3部署の担当者に同じシートを配り、日常の業務を書き出してもらいます。欄は業務名、担当、発生のきっかけ、頻度、1回あたりの所要、使っている書類やシステム、例外が起きたときの対応、の7つで足ります。所要は本人の感覚ではなく、今週の実際の作業を1回ずつ測ってもらうのが確実です。

集まったシートを1枚の表にまとめるときに、生成AIを使ってもかまいません。ただし社員の氏名や顧客名が入ったシートをそのまま入力しない。③のルールがまだ無い段階なので、氏名の列を消してから使います。

2. AI活用に適した業務の選定

棚卸し表から第1候補を1つだけ選びます。条件は3つあります。毎週必ず発生すること、文章が中心であること、AIの出力が間違っていても社外に出る前に担当者が直せること。

令和8年版情報通信白書では、業務類型のうち「議事録・メール作成補助」で活用している割合が約7割と最も高く、導入効果を実感した割合も約7割で他の類型より顕著に高い結果でした。候補に迷ったら、この類型から検討する理由になります。

反対に、見積金額の計算、契約書の条文、採用の合否のように、間違いがそのまま金額や責任に結びつく業務は第1候補にしません。確認にかかる手間が大きく、効果を測る前に止まりやすいからです。

3. 運用ルール案の作成

ルールは長い規程から作りません。候補業務で扱う書類に合わせて、入力してはいけない情報と、出力を誰が確認するかを1枚にまとめた案を作ります。案を作るのは担当者、承認するのは経営と管理部門です。

同じ白書では、企業が懸念するリスクとして「社内情報の漏洩などのセキュリティリスク」が最も多く挙がり、不適切な利用を防ぐ取組では「全社的な指針やガイドラインを整備している」が41.1%で最も高い回答でした。ルールを整えている会社でも半数に届いていない、ということです。

個人情報の線は、担当者だけで決めないでください。個人情報保護委員会は2023年6月の注意喚起で、事業者が生成AIサービスに個人情報を含む指示を入力する場合、利用目的の達成に必要な範囲内かを十分に確認するよう求めています。顧客名簿を扱う業務を候補にするなら、どの欄を伏せてから入れるかを管理部門と決め、判断に迷う点は弁護士など専門家に確認する前提で進めます。入力ルールの詳しい作り方は会社の情報を生成AIに入れてよいかを判断するルールの記事にあります。

4. 小さくトライアル(POC)

試すのは、候補業務を持つ1部署の1〜2名です。期間は2週間を目安として置き、AIを使う前の5件と、使った後の5件で、1件あたりの作業時間と、社外に出す前に直した箇所の数を記録します。測るのは試す本人、集めるのは担当者です。

出力は、そのまま社外に出しません。下書きとして受け取り、人が確認して直してから出す。この運用を守れない業務なら、②に戻って候補を入れ替えます。2週間の週ごとの動き方は生成AI導入の最初の1ヶ月を週ごとに書いた記事が参考になります。

5. 経営層への報告

30日目の報告は1枚、4行で書きます。数字の欄には、④で自社で測った値だけを入れます。

行 書くこと 書き方の例
課題 選んだ業務と、困っていたこと 営業部の会議議事録の清書に、担当者の時間が毎週取られている
目標 試行で確かめたかったこと 清書の1件あたりの時間を減らせるか、直す箇所が増えないか
施策 誰が、何を、どのルールで試したか 営業部の2名が2週間、承認済みの入力ルールで下書きに使った
結果 前後5件ずつの記録と、次の提案 1件あたりの時間と直した箇所の数(自社で測った値)、次に広げる部署の案

報告で経営層に決めてもらうのは、次に広げる範囲と、そのための時間と予算です。結果が思わしくなかった場合も、同じ4行で報告します。候補業務を入れ替える判断材料になるからです。社内に広げる段階の準備は生成AIの社内展開で最初にやる準備作業の記事で扱っています。

成果を出す推進担当者の3つの共通点

続けられる担当者は、特別な才能より、止まったときの動き方が違います。

共通点①:止まった理由を1週間以内に上へ伝えている

部署が協力してくれない、ルールの承認が下りない。止まる理由の多くは担当者の権限の外にあります。推進力とは、自分で抱えて押し切ることではなく、止まった理由を言葉にして、決められる人に1週間以内に渡すことです。

共通点②:月に1回、使っているツールの変更点を確かめている

生成AIのツールは、料金、機能、入力したデータの扱いの条件が変わります。月に1回、使っているツールの公式の更新情報を読み、ルール案に影響があれば経営と管理部門に知らせる。学び直しは、この確認から始めれば十分です。

共通点③:課題→目標→施策→結果の順で報告している

報告の順番が毎回同じだと、経営層は前回との違いだけを見れば判断できます。

決めきれない点:専任にするか、兼任で続けるか

最初の30日は兼任で回せます。ただ、試す部署が2つ、3つと増えたときに兼任のままでよいかは、会社の規模と本業の繁閑によって分かれます。担当者から言い出しにくい話なので、30日目の報告の最後に「次の30日で推進に使う時間」を1行足し、上司に決めてもらうのが現実的だと考えています。

社内だけで決めると止まりやすい境目

社内だけで進めて詰まりやすいのは2つの場面です。部署ごとに候補業務が割れて1つに絞れないとき。顧客の個人情報を扱う業務を候補にしたいのに、入力の線を判断できる人が社内にいないとき。どちらかに当たるなら、外部の専門家と一緒に線を引く方が早く進みます。試した業務を社内に根づかせる段階は生成AIを社内に定着させる段階ごとのガイドにまとめています。

ビフォーアフター:任命から30日で、担当者の手元に残るもの

5つを進める前:比較資料だけが増えている

  • ツールの比較表はあるが、どの業務に使うかを経営と話していない
  • 自分の時間をどれだけ推進に使ってよいか分からず、本業の合間に調べている
  • 社員が個人のアカウントで何を入力しているか、誰も把握していない

30日後:合意の記録と次の範囲がある

  • 2〜3部署の棚卸し表と、第1候補を選んだ理由が残っている
  • 経営と管理部門が承認した入力ルールがある
  • 前後5件ずつの記録をもとに、次に広げる部署と時間を経営が決めている

違いを生むのは担当者のAIの知識ではなく、順番と、上に上げる判断を分けたことです。

この記事のまとめ

  • 今週やるのは2つです。棚卸しシートを配る部署を決めること、上司と「自分の時間・対象範囲・ルールの承認者」の3点を確認すること
  • 30日目の報告で数字にするのは、試した業務の1件あたりの時間と、社外に出す前に直した箇所の数の2つです

監修者|生成AIの導入から定着まで伴走する専門家が確認しています

吉元大輝(よしもとひろき)

株式会社BoostX 代表取締役社長

中小企業の生成AI導入を支援する「生成AI伴走顧問」サービスを提供。業務可視化から定着支援まで、一気通貫で企業のAI活用を推進している。

2026年9月

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