Blog 生成AI伴走顧問導入ガイド

DX内製化 支援の要否、AI導入16.6%の中小が損する境目

公開 2026.09.18 ・ 最終更新 2026.09.21 ・ 読了目安 約15分

求人サイトに「DX推進担当」の募集を出してから、応募はゼロではないものの、来るのはツールの営業経験が長い方ばかりで、面接のたびに「うちの業務を分かったうえでDXを進められる人」ではないと気づかされる。社内にはDXもAIも専任がおらず、管理部門長が総務と経理の合間にベンダーのデモを見て、比較資料を読み、社長に報告する。ベンダーに任せれば動くが、任せた分だけ社内には何も残らない。それが嫌で「内製化」と言い始めたのに、内製化の話はいつの間にか「誰を採るか」「誰を育てるか」の話に変わり、採れないから進まない。「結局、採れないなら自分でやるしかないのか」と管理部門長がつぶやく夕方、机の上には読みかけの比較資料と、返事を待っているベンダーのメールが残っています。DX内製化の支援を検索している会社の1週間は、この場面が繰り返される形になりがちです。減らないのは調べる時間で、進まないのは決める話のほうです。

先に結論をお伝えします。DX内製化に外の支援が要るかどうかは、社内に「できる人」を置けるかではなく、社内に「決める型」を残せるかで分かれます。人を採る・育てる前提の内製化は止まり、外に出す3つと社内に残す3つを先に線引きした会社は、自社で回せます。この記事では、線を引いたときに社内の1ヶ月から何時間が外れるかを試算しますが、これは実績ではなく前提を置いたモデル計算です。DX内製化支援の効果を測った公的統計は存在しません。代わりに使えるのは、人材と導入の構造を示す統計です。IPA「DX動向2026調査のポイント」(2026年9月確認)によると、DXを推進する人材の量について「やや不足している」と「大幅に不足している」を合わせた回答は85.5%で、2024年度・2023年度とほぼ同じ水準が続いています。同じ調査で、従業員101人以下の企業のAI導入割合は16.6%です。この調査は2026年4月から6月12日にかけて国内企業の経営層・情報システム部門・DX推進部門などを対象に行われ、1,799社から回収されたもので、DX内製化支援サービスの利用実態を測ったものではありません。それでも、推進する人材が足りないという答えがこの3年で減っていないのなら、「採れるまで待つ」でも「まるごと外に出す」でもなく、どこまでを外に出し、どこからを社内に残すかを先に決めてから進め方を選ぶのが要点だと私は考えています。この記事では、外に出してよい3つと社内に残す3つ、月18時間が8時間40分になる内訳、支援を入れても止まる3つの境目、3つの進め方の比較と外部の支援が要らない会社の3条件を整理します。

30-SECOND SUMMARY忙しい方へ|この記事の結論
  1. IPAのDX動向2026調査では、DXを推進する人材の量が不足していると答えた企業が85.5%で3年ほぼ横ばい、従業員101人以下の企業のAI導入は16.6%です。商工中金の2026年1月調査では、導入を検討する段階の課題の最多が「導入を推進する人材がいない」32.0%でした。DX内製化を「社内にできる人を採る・育てる」と読み替えた瞬間に、その前提そのものが成り立たなくなります。
  2. DX内製化で社内に残すのは人ではなく「決める型」です。外の支援に出してよいのは、調べて形にする下ごしらえ・手順と型の設計・立ち上げの運転の3つ。社内が持ち続けるのは、どの業務をやめるかの決定・データと情報の線引き・続けるかやめるかの判断の3つです。支援の成果物は下書きで止め、社内に通す前の最終判断は必ず社内の人が持ちます。
  3. 前提を置いたモデル計算では、DX・AI関連の「調べて・たたき台を作って・社内に説明する」仕事が週2件・1件135分(調べる60分+たたき台45分+説明30分)・月4週の会社で、線を引くと週270分が130分に、月18時間が8時間40分に、3ヶ月で28時間が外れます。「社内に説明する」30分×2件=週60分・月4時間はそのまま残ります。これは実績ではなく前提を置いたモデル計算で、DX内製化支援の効果を測った公的統計は存在しません。
  4. 商工中金の調査では個人任せが64.9%で、会社として導入した企業は個人登録の利用推奨より経営へのプラス効果を感じる割合が10%pt以上高く(36.6%対26.0%)、総務省の令和7年版情報通信白書では中小企業の約半数が方針を定めておらず、懸念の最多は「効果的な活用方法がわからない」でした。決めるのは道具でも人数でもなく、任せる場面・渡さない情報・決める役を書いた線引きの1枚です。
  5. 進め方は、自社だけで進める・まるごと外に出す・線引きから伴走の3つに分かれます。社長以外に決める役を1人置ける・最初に任せる場面が1つに絞れている・線引き1枚を書く60分を確保できる、の3条件が揃う会社に外部の支援は要りません。揃わない会社には、線引きの1枚から始める伴走が選択肢になります。

「内製化したい」が止まるのは、人を採る話にすり替わったとき

DX内製化という言葉には、「ベンダーに任せきりにせず、自分たちで動かせる状態にしたい」という素直な動機があります。ところが、この動機が会議に上がると、議題は「誰がやるのか」に置き換わります。DX推進担当を採用するのか、若手をスクールに通わせるのか、情報システム担当を兼務で置くのか。どれも人の話です。そして人の話は、採れない・育つまで時間がかかる・辞めたら振り出し、の3つで止まります。この章では、なぜ人の話に置き換えた内製化が止まるのかを、DX推進人材の不足、導入を検討する段階の課題、全体で最も多い課題の3つの統計から整理します。

DX推進人材の量が「不足」85.5%・従業員101人以下のAI導入16.6%|採用で埋める前提が成り立たない

最初に押さえたいのは、採用市場の構造です。IPAのDX動向2026調査によると、DXを推進する人材の量について「やや不足している」と「大幅に不足している」を合わせた回答は85.5%で、2024年度・2023年度とほぼ同じ水準です。つまり、DXを進められる人が足りないという状態は、この3年で改善していません。回答しているのは国内企業の経営層・情報システム部門・DX推進部門などで、その大半が「うちにも足りない」と答えている市場で、DX・AIの専任がいない中小企業が同じ人材を採りに行く形になります。

同じ調査では、AIの導入状況を従業員規模別に見ると、1,001人以上の企業では8割近くが導入しているのに対し、101人以下の企業では16.6%にとどまります。この2つの数字を並べると、DX内製化を「採る・育てる」で進めようとする会社の置かれた場所が見えてきます。推進する人材は市場全体で足りない。101人以下の会社でAIを会社として入れているのは16.6%と少ない。つまり、経験者を採ろうにも競合は大企業を含めた全社で、社内で育てようにも「これを使ってこの業務をこう変えた」という自社の実例がまだ無い会社が大半です。

採用が悪いという話ではありません。採用できる会社は採用すればよく、育つ人がいる会社は育てればよい。ただ、「採れたら始める」「育ったら始める」を前提に置いたDX内製化は、85.5%が不足と答える市場では、始まる日が来ないまま終わりやすい構造だということです。DX内製化の支援を検討する前に、まずこの前提を外すことが先だと私は考えています。なお、この統計は人材と導入の構造を示すもので、DX内製化支援サービスの効果を測ったものではありません。

導入検討フェーズの最多課題は「導入を推進する人材がいない」32.0%|人がいないのは事実、答えが採用とは限らない

2つ目は、導入を検討する段階で何が止めているかです。商工中金「中小企業の生成AIの利用にかかる調査(2026年1月調査)」(2026年9月確認)によると、導入・推進における課題のうち、導入を検討する段階の課題で最も多かったのは「導入を推進する人材がいない」で32.0%でした。この調査は中小企業設備投資動向調査の付帯調査として行われたもので、中小企業全般を対象にしており、DXの内製化に取り組む会社だけを抜き出した調査ではありません。

32.0%という数字は、「内製化したいのに人がいないから進まない」という実感を裏づけています。ただ、同じ群の中で、支援先や相談相手に関する課題を挙げた回答は11.5%にとどまります。推進する人がいないことは3割超が挙げ、相談する相手がいないことは1割強しか挙げていない。この差が示しているのは、外の支援先が見つからないから止まっているのではなく、外の支援があっても、社内で推進する役が空いていれば止まる、という構造です。

ここで大事なのは、「推進する人材」を「DXができる人材」と読み替えないことです。推進する役に必要なのは、ツールを組める技術ではなく、「この業務からやる」「これはやめる」「この情報は外に出さない」を決めて、社内に通す役割です。技術の下ごしらえは外に出せますが、決めて通す役は外に出せません。人がいないという課題の答えは、技術者の採用ではなく、社内に決める役を1人置くことだと私は考えています。この読み替えを間違えると、DX内製化の支援を入れても、支援先の成果物が社内で止まる形になります。

全体最多は「具体的な活用場面が不明」35.6%|先に足りないのは人ではなく「場面」

3つ目は、課題全体で見たときに何が最も多いかです。同じ商工中金の調査で、導入以前・導入検討・導入後・その他の4つの群を通じて最も多かった課題は「具体的な活用場面が不明」で35.6%でした。これは導入以前の課題の群に入っていて、導入を検討する段階の「導入を推進する人材がいない」32.0%より多い値です。つまり、人がいないと答える前の段階で、何に使うのかが決まっていない会社のほうが多い、というのがこの調査の形です。

DX内製化に置き換えると、順番が逆になっている会社が出てきます。「内製化するにはDX人材が要る」から採用の話を始めるのですが、採用しても「何をやってもらうか」が決まっていなければ、採った人の最初の仕事は「何をやるかを探すこと」になります。85.5%が不足と答える市場で採った人に、場面探しから始めてもらうのは、内製化の順番として損だと私は考えています。先に決めるべきは人ではなく、最初にDX・AIを当てる場面を1つに絞ることです。

場面が1つに絞れていれば、その場面の下ごしらえを外に出すか社内でやるかの判断が付きます。絞れていなければ、支援を入れても「何から手をつけますか」から始まり、支援先が場面探しを代わりにやることになります。支援先に払う費用の一部が、本来社内で決めるべきことに使われる形です。次の章では、DX内製化で社内に残すべきものが「人」ではなく「型」だという線引きを、外に出してよい3つと社内に残す3つに分けて示します。

DX内製化で社内に残すのは、人ではなく3つの型

DX内製化で外の支援に任せられる範囲(調べて形にする下ごしらえ・手順と型の設計・立ち上げの運転)と、社内が持ち続ける範囲(どの業務をやめるかの決定・データと情報の線引き・続けるかやめるかの判断)を並べた整理図
DX内製化で外の支援に任せられる3つと、社内が持ち続ける3つの境目

DX内製化とは、ここでは、社内にDX・AIの専任がいない会社が、業務の見直しと生成AI・自動化の活用を、ベンダー任せにせず自社で回し続けられる状態にすることを指します。特定のツールや開発手法の名前ではありません。この定義に立つと、社内に残すべきものの答えは先に決まります。残すのは「できる人」ではなく、「決める型」です。外の支援に出してよいのは「調べて形にする下ごしらえ」「手順と型の設計」「立ち上げの運転」の3つ。社内が持ち続けるのは「どの業務をやめるかの決定」「データと情報の線引き」「続けるかやめるかの判断」の3つです。図の左右がそのまま線になります。そして、外に出す3つについても、成果物は下書きで止め、社内に通す前の最終判断は必ず社内の人が持ちます。

外に出してよい3つ|調べて形にする下ごしらえ・手順と型の設計・立ち上げの運転

1つ目は、調べて形にする下ごしらえです。「この業務に使えるツールは何があるか」「他社はどの業務から手をつけているか」「この作業を生成AIに任せると何が変わるか」。こうした調べものと、それをたたき台にまとめる作業は、公開情報と社内の業務の説明があれば外でもできます。IPAのDX動向2026調査では、AIの利用用途で割合が高いのは「文書・音声の要約・翻訳・校正」82.5%、「文書・レポートの作成」80.5%、「情報検索・収集・分析・レポーティング」77.0%です。調べる・まとめる・書くは、いまのAI活用の中心にあり、外の支援に出しても社内に残る型を損なわない部分です。

2つ目は、手順と型の設計です。最初の1場面を決めたあと、「誰が、どの入力を、どの形で渡し、出てきたものを誰が確かめるか」を1枚の手順にする作業です。これは経験がある人がやれば速く、初めての人がやれば試行錯誤で時間がかかります。型を作る作業そのものは外に出してよく、出来上がった型を会社の資産として社内に置くことが内製化の中身です。型を外に出すのではなく、型を作る作業を外に出す。この違いが、内製化とベンダー任せの分かれ目です。

3つ目は、立ち上げの運転です。型ができてから社内で回り始めるまでの期間、最初の入力を一緒に作り、出てきたものを一緒に確かめ、詰まったところを直す運転の部分です。ここは、自転車の後ろを持つ役に近く、社内の人が回せるようになった時点で手を離す前提で外に出します。運転をずっと外に置き続けると、それはDX内製化ではなくベンダー任せに戻ります。出す期間を「社内の人が1人で回せるまで」と最初から決めておくことが要点です。

社内に残す3つ|どの業務をやめるかの決定・データと情報の線引き・続けるかやめるかの判断

社内に残す1つ目は、どの業務をやめるかの決定です。DXは何かを足す作業に見えて、実際には「この転記をやめる」「この確認の往復をやめる」「この報告書を作るのをやめる」という引き算から始まります。何をやめてよいかを知っているのは、その業務の意味と、やめたときに誰が困るかを分かっている社内の人だけです。外の支援は「この作業は自動化できます」とは言えますが、「この作業をやめてよい」とは言えません。IPAの調査でも、AIの利用用途のうち「自社製品・サービスの高度化」は10.9%、「生産・物流・サービス提供の計画支援」は6.0%にとどまります。AIの活用は、決める側にはまだ届いていません。

2つ目は、データと情報の線引きです。顧客の情報、取引先との契約の中身、従業員の個人情報、まだ公表していない数字を、外部のAIサービスや支援先にどこまで渡すか。この線は、支援先が引くものではなく、社内が引くものです。支援先の側からは「この情報があれば精度が上がります」という提案が出ますが、それに応じるかどうかは社内の判断です。線が引かれていない会社では、便利さが先に走り、後から線を引こうとしたときには渡した情報を取り戻せません。

3つ目は、続けるかやめるかの判断です。最初の1場面を動かして、手応えがあれば次の場面に進み、無ければ止める。この判断は、社内で使っている人の実感と、それにかかっている費用と、社内の他の優先順位を並べて決めるもので、外の支援先には決められません。支援先に「続けるべきですか」と聞けば、続ける方向の答えが返りやすいのは構造上当然です。私は、中小企業のAI導入で最も動かしてはいけない線は、この「やめる」と言える役を社内に置くことだと考えています。

成果物は下書きで止め、社内に通す前の最終判断は必ず社内の人が持つ

線引きの3つ目の柱は、外の支援が出す成果物を「決定」ではなく「下書き」で止め、社内に通す前の判断を必ず社内の人が持つことです。支援先が作った手順書を、そのまま全社に配れば手間はゼロに見えます。ところが、その手順書が現場の例外を1つ見落としていたとき、配った後に止める人がいません。「この手順で経理の締めが回らない」と分かるのは、配ってからです。

社内の人が下書きを読み、自社の業務に当てはめて確かめ、通すか戻すかを決める。この記事のモデル計算では、この「社内に説明する」時間を1件30分と置き、外の支援を入れても減らさない前提にしています。この30分を惜しんで全部を外に通すと、社内には型が残らず、支援が終わった日に元に戻ります。私は、中小企業のAI導入では「最後の判断を社内が持つ」ことを、効率より先に決めるべき項目だと考えています。効率は線を引いた後で積み上げれば十分に出ます。

整理すると、外に出すのは「下ごしらえ」「型の設計」「立ち上げの運転」の3つ、社内が持つのは「やめる決定」「情報の線引き」「続けるかやめるかの判断」の3つ、そして最後の判断は必ず社内の人。この6項目と1つの原則が1枚に書かれていれば、DX内製化の支援をどこまで使うかで迷うことはなくなります。次の章では、この線を会社として決めた場合と、個人任せのままの場合で何が変わるかを、統計とモデル計算で見ます。

会社として決めた会社と、個人任せの会社で何が変わるか

線引きの1枚を会社として決めるかどうかで、同じ道具・同じ人数でも結果が変わる。これは、この記事の主張であると同時に、企業の調査に形が出ている話でもあります。この章では、商工中金と総務省の調査から会社として決めた会社と個人任せの会社の違いを見たあと、前提を置いたモデル計算で、線を引いたときに社内の1ヶ月から何時間が外れるかを計算します。

個人任せ64.9%と、会社導入36.6%対個人登録26.0%の10%pt以上の開き

商工中金の2026年1月調査によると、中小企業の生成AIの導入状況で最も割合が高いのは「会社での導入はなく、使用は個人の判断に任せている」で64.9%でした。6割超の会社で、AIは会社の道具ではなく、個々の従業員が自分の判断で使っている状態です。一方、「会社主導で導入」と「会社導入なしだが個人利用を推奨」を合わせた生成AI積極活用層は31.1%、約3割です。

注目したいのは、この積極活用層の中の差です。同じ調査で、「会社による導入」(n=592)は「個人登録AIの利用推奨」(n=534)より、経営へのプラス効果を感じている割合が10%pt以上高いという結果が出ています。内訳は、会社導入が36.6%、個人登録の利用推奨が26.0%です。どちらも「会社として使うことを認めている」点は同じで、違うのは、会社が入れたか、個人の登録に任せたかだけです。使っているAIの性能が違うわけではありません。

DX内製化に置き換えると、この差は「型を会社に置いたか、人に置いたか」の差です。個人登録のまま推奨する形では、使い方も、渡してよい情報も、確かめる手順も、その人の中にあります。会社として導入する形では、それが会社の1枚に書かれます。この記事のモデル計算で月9時間20分が外れるのも、線引きを会社として決めた場合の数字です。個人任せの64.9%側に居たまま同じ結果は出ないと私は考えています。

中小企業の約半数が方針未定・懸念の最多は「効果的な活用方法がわからない」

同じ形は、企業全般を対象にした白書にも出ています。総務省「令和7年版 情報通信白書」(2026年9月確認)によると、日本で何らかの業務に生成AIを利用している企業は55.2%、用途で最も割合が高いのは「メールや議事録、資料作成等の補助」で47.3%です。「積極的に活用する方針」または「活用する領域を限定して利用する方針」を定めている企業は49.7%で、2023年度調査の42.7%から増えています。ただし、日本の中小企業では「方針を明確に定めていない」との回答が約半数を占めます。この白書は日本・米国・ドイツ・中国の企業全般を対象にした調査で、DX内製化に取り組む会社だけの調査ではありません。

導入に際しての懸念で最も多いのは「効果的な活用方法がわからない」で、次いで「社内情報の漏えい等のセキュリティリスク」「ランニングコストがかかる」「初期コストがかかる」が続きます。方針を定めていない会社が約半数、そして懸念の最多が「活用方法がわからない」。この2つを並べると、会社として「何に使い、何に使わないか」を決めていないから、効果的な使い方が分からないという順番が見えてきます。道具の性能の話ではなく、線引きの不在の話です。

なお、生成AIの活用推進による自社への影響として、日本で最も多かった回答は「業務効率化や人員不足の解消につながる」でした。人員不足の解消を期待しているのに、方針を定めておらず、活用方法が分からない。この状態でDX内製化の支援を探すと、支援先に「活用方法を教えてもらう」形になりがちです。ただ、教わった活用方法は、誰が何を決めるかが社内で決まっていなければ、教わった人の中にしか残りません。DX内製化の支援に出すべきは活用方法の講義ではなく、線引きの1枚を一緒に作る作業だと私は考えています。

前提を置いたモデル計算|月18時間が8時間40分になる内訳

ここからは数字です。繰り返しになりますが、これは実績ではなく前提を置いたモデル計算です。DX内製化支援の効果を測った公的統計は存在しません。前提を全部書き出しますので、自社の件数に置き換えて読み直してください。前提が変われば結果も変わります。

前提は5つです。1つ目、社内にDX・AIの専任がいない中小企業。2つ目、DX・AI関連で「調べて・たたき台を作って・社内に説明する」仕事が週2件。ベンダーの提案の比較、補助金や制度の確認、この業務にAIが使えるかの検討、といった仕事です。3つ目、1件あたり調べるのに60分、たたき台を作るのに45分、社内に説明するのに30分、合計135分。4つ目、月は4週で数える。5つ目、外の支援で減るのは「調べる」と「たたき台を作る」だけで、「社内に説明する」30分は減らさない。前の章で社内に残すとした「決めて通す」役が、この30分にあたります。

Beforeを計算します。1件135分×週2件で週270分、4時間30分です。月4週なら1,080分、18時間。この18時間は、まとまった時間ではなく、総務や経理の本来の仕事の合間に、1件135分ずつ散らばって発生します。管理部門長が本来の仕事を止めて資料を読む時間が、月に18時間ある形です。

Afterを計算します。前提は同じで、前の章の線引きだけを入れます。「調べる」の60分は、外の支援が下ごしらえを済ませた状態から始まるので、社内の人はそれを確かめて読む20分に。「たたき台を作る」の45分は、型に沿って出てきた下書きを自社に合わせて直す15分に。「社内に説明する」の30分は変えません。1件20分+15分+30分=65分。週2件で130分、2時間10分。月4週なら520分、8時間40分です。

差は、1件あたり135分-65分=70分、週270分-130分=140分(2時間20分)、月1,080分-520分=560分(9時間20分)、3ヶ月で560分×3=1,680分、28時間です。減った分はすべて「調べる」と「たたき台を作る」から出ています。「社内に説明する」30分×2件=週60分、月240分の4時間は1分も減っていません。ここが重要で、線引きをしても、下書きを自社に当てはめて確かめ、社内に通す仕事は社内の仕事のまま残ります。減らせるのは、もともと社内でなくてもできた部分だけです。逆に言えば、社内でなくてもできる下ごしらえを、決める仕事と混ぜたまま管理部門長が全部やっていたことが、これまでの18時間の正体です。

費用との対比も書いておきます。AI顧問Lightは 月額110,000円(税込)です。月に外れる560分で割ると1分あたり約196円、1時間あたり約11,800円にあたります。この金額をどう見るかは会社ごとの判断です。管理部門長の1時間の価値と比べる会社もあれば、DX推進担当を1人採用したときの人件費と比べる会社もあります。数字を出した理由は判断の材料を揃えるためで、割安だと言うためではありません。なお、他社のDX内製化支援やDXコンサルティングの金額は各社の契約により異なるため、ここでは示しません。

For Executives · 毎月限定5社

「AI、何から始めるか」を、
御社の事業に当てはめた戦略提案書

業界事例・ROI試算・3ヶ月導入ロードマップを含む全15章から、御社が今いちばん知りたい5章を選んで編集。代表 吉元が監修して3〜5営業日でPDFお届け。完全無料。

経営者・役員・部門長・AI推進ご担当者の方限定。御社の事業に当てはめた個別作成のため、立場が判断できない方への配信はお断りしております。

支援を入れてもDX内製化が止まる3つの境目

線引きを決めて外の支援を入れた後にも、止まりやすい境目が3つあります。ここで挙げるのは特定の会社の話ではなく、社内にDX・AIの専任がいない中小企業が進めた場合に、構造上こうなりがちだという整理です。3つとも、支援先の力量や道具の性能とは無関係に、社内の決めごとの側で起きます。先に知っておくと、境目に来たときに慌てずに済みます。

境目1|最初に任せる場面を1つに絞れず、全部を同時に立ち上げる

最初の境目は、始める前に来ます。「せっかく支援を入れるのだから」と、経理の転記、営業の報告書、総務の問い合わせ対応、採用の書類確認を同時に立ち上げようとする形です。商工中金の調査で全体最多の課題が「具体的な活用場面が不明」35.6%だったことを思い出すと、場面が決まっていない会社ほど、決められないまま全部を並べやすい構造にあります。

全部を同時に立ち上げると、社内で確かめる役が同時に4つの下書きを読むことになります。この記事の前提では「社内に説明する」時間は1件30分で、外の支援を入れても減らない部分です。場面が4つになれば、社内に残る時間も4倍になります。支援先が下ごしらえを速くしても、社内の確かめる役が詰まれば、そこで全部が止まります。止まった状態が続くと、「支援を入れたのに進まない」という評価だけが残り、支援先の問題に見えてしまうのがこの境目の厄介なところです。

越え方は、最初の1場面を1つに絞り、社内の確かめる役が1人で回せる状態になってから2つ目に進むことです。どの場面を最初にするかの決め方は、効果が大きそうな場面ではなく、社内の確かめる役がその業務を一番よく分かっている場面から、というのが私の考えです。確かめられない場面から始めると、下書きを通すか戻すかの判断ができず、境目1で止まります。

境目2|データと情報をどこまで外に出すか決まらないまま始まる

2つ目の境目は、情報の線です。総務省の白書で導入時の懸念の2位に挙がっていた「社内情報の漏えい等のセキュリティリスク」は、DX・AIの専任がいない会社では「誰も線を引いていない」という形で現れます。商工中金の調査でも、導入後の課題で最も多いのは社内ルールや方針の整備に関する課題で25.1%、「その他」の群では情報管理やセキュリティに関する課題が21.0%挙がっています。導入してから、ルールが無いことに気づく会社が一定数いる、というのがこの数字の形です。

DX内製化の支援を入れると、支援先の側から「この業務のデータを見せていただければ、たたき台の精度が上がります」という提案が出ます。それ自体は誠実な提案です。問題は、それに応じてよいかを社内で決めていないことです。顧客の情報、取引先との契約、従業員の個人情報、未公表の数字。どれを支援先に渡し、どれを外部のAIサービスに入力し、どれは社内の人しか見ないのか。この線が無いまま始まると、便利さが先に走り、後から線を引こうとしたときには渡した情報を取り戻せません。

越え方は難しくありません。線引きの1枚に「渡さない情報」の項目を最初から置き、支援先との契約の前に埋めることです。渡す情報を固有名詞と金額を伏せた要点だけにしても、下ごしらえと型の設計は成り立ちます。「どこまで渡すか」は使い始める初日に決める項目で、後から決める項目ではありません。この項目が空欄のまま支援が始まっている会社は、境目2の手前に居ます。

境目3|判断の記録が人に残り、担当が代わると最初に戻る

3つ目の境目は、人の入れ替わりと記録の不在です。IPAのDX動向2026調査では、AI関連人材の充足状況を人材種別ごとに見ると、「不足している」との回答が過半数を占める種別が並んでいます。とくに「現場の知見と基礎的AI知識を持ち、自社へのAI導入を推進できる従業員」と「データマネジメントの知見があり、社内で企画、推進できる人材」は、不足の回答割合が高いままです。推進する役を1人置けても、その1人に依存しやすい構造です。

この統計は離職率を示すものではありません。ただ、DX内製化を管理部門長1人で進めている場合、「なぜこの業務からやると決めたのか」「この情報は渡さないと決めた理由は何か」「なぜあの場面はやめたのか」が、その人の頭の中と個人のメモにしか残らないことは珍しくありません。支援先との打ち合わせの記録も、支援先の側にはあっても、社内には残っていない。この状態で担当が代わると、次の人は同じ議論を最初からやり直します。3ヶ月かけて固めた型が、引き継ぎの1日で消える形です。

越え方は、判断の記録を「人」ではなく「会社」に置くことです。外に出す範囲と渡さない情報の線と決める役を1枚の文書にして、会社のアカウントで管理する。やめると決めた場面は、決めた日と理由を1行残す。新しい担当が来た初日にその1枚を読めば、同じ手順で回り、同じ判断の記録が辿れる状態にしておく。私は、中小企業のAI導入で最初にやるべきことは、賢い使い方を教えることではなく、担当が代わっても残る形にすることだと考えています。DX内製化の「内製」とは、人を社内に置くことではなく、型と記録を社内に置くことです。

比較|自社だけで進める・まるごと外に出す・線引きから伴走の3つ

進め方は大きく3つに分かれます。社内の管理部門長やDX担当が調べて決めて回す「自社だけで進める」方法、DXコンサルティングやシステム会社に要件の整理から構築・運用まで委ねる「まるごと外に出す」方法、そして最初に線引きの1枚を決めてから、下ごしらえ・型の設計・立ち上げの運転だけを外に出し、決める役を社内に置いて1場面ずつ動かす「線引きから伴走」の方法です。立ち上がりの早さ、社内の手が空くか、担当が代わっても残るか、費用の形の4軸で比較します。

比較の軸 自社だけで進める まるごと外に出す(DXコンサル・システム会社への委託) 線引きから伴走(AI顧問)
立ち上がりの早さ 決めた日から始められます。ただし場面を1つに絞る判断と情報の線引きを自社で先に済ませる必要があり、そこが空欄のままだと、調べる段階で止まったまま月日が過ぎる形になりやすいです。 契約と要件の整理を経てから動きます。動き出せば構築の速さは3つの中で最も期待できますが、何をやめるか・何を渡すかは委託先が決められないため、その部分の判断が社内に戻ってくる時点で止まりやすい形です。 初回で線引きの1枚を作ってから最初の1場面を動かすので、動き出すまでに決めごとの時間が要ります。ただし、動いた時点で、任せる場面・渡さない情報・決める役の3点まで揃っています。
社内の手が空くか 調べる・たたき台を作る・社内に説明するの3つを全部社内でやるので、モデル計算では月18時間がそのまま社内に残ります。DX・AIの専任がいなければ、管理部門長の本来の仕事の合間に散らばる形です。 調べる・作るは外に出るので、社内の手は最も空いて見えます。ただし、やめる決定・情報の線引き・続けるかやめるかの判断は社内に戻り、委託先の成果物を確かめて通す時間は残ります。ここを省くと、成果物は届いても社内で使われない形になります。 下ごしらえ・型の設計・立ち上げの運転を外に出し、確かめて通す役を社内に置く形が定着するので、モデル計算では月18時間が8時間40分に、3ヶ月で28時間が外れます。「社内に説明する」月4時間は社内が持ちます。
担当が代わっても残るか 進めている人の頭の中と個人のメモに判断の記録があるため、その人以外に引き継ぎにくい形です。やめると決めた理由も残らず、次の担当は場面探しから始めます。 要件と判断の経緯が委託先の側に蓄積します。契約が終わった日に、記録と型が一緒に外に出る形になりやすく、次に別の委託先を選ぶと、社内の事情を最初から説明し直します。 線引きの1枚と型を会社のアカウントで管理し、やめると決めた場面は日付と理由を1行残します。新しい担当が初日に読めば同じ手順で回る、人ではなく会社に残す設計です。
費用の形 外部費用は0円。ただし、月18時間の社内の時間と、線引きが無いまま進めた場合に情報の線を越えるリスク、担当交代で最初に戻るリスクが、費用の代わりに乗ります。 プロジェクト単位または月額。金額は各社の契約により異なるため、ここでは示しません。構築と運用の作業に払う形で、型を社内に残すことは契約の範囲に入らないことがあります。 AI顧問Light 月額110,000円(税込)、Standard 月額220,000円(税込)、Growth が月額330,000円(税込)。いずれも最低契約3ヶ月。線引きと定着の作業に払う形です。

4軸の中身|立ち上がりの早さ・社内の手が空くか・担当が代わっても残るか・費用の形

1つ目の軸は立ち上がりの早さです。自社だけなら決めた日から、まるごと外に出すなら契約と要件の整理を経てから、伴走は線引きの1枚を作ってから動かします。早さだけなら自社だけが最も早い。ただし、早く始まった分だけ、場面が絞れていない・情報の線が無い状態で調べる時間が続くことになります。調べているのに何も決まらない、というのが起きやすい形です。

2つ目は社内の手が空くかです。ここは3つで差が出ます。自社だけは月18時間がそのまま残ります。まるごと外に出すのは最も手が空いて見えますが、やめる決定と情報の線引きと続けるかの判断が戻ってくるうえ、成果物を確かめる時間を省くと社内で使われません。線引きから入る方法は、下ごしらえと型の設計と立ち上げの運転を外に出し、確かめて通す役を社内に置く形を定着させるので、月9時間20分が外れます。なお、型の設計と立ち上げの運転を、支援先の作業ではなく自社のAI環境そのものとして組み込みたい場合には、Claude Code構築支援のように、線引きをそのまま自社で動く仕組みに置き換える選択肢もあります。最短2週間で稼働し、費用は個別見積です。

3つ目は担当が代わっても残るかです。前の章の境目3にあたります。自社だけは進めている人に、まるごと外に出すのは委託先に、伴走は会社の1枚に残ります。DX推進人材が不足していると答える企業が85.5%という構造を考えると、この軸を軽く見ないほうがよいと私は考えています。3年後に同じ人が社内にいるかどうかは、どの会社でも分かりません。

4つ目は費用の形です。0円、各社の契約による金額、月額110,000円(税込)から。金額の大小だけでなく、何にお金を払っているかが違います。自社だけは社内の時間に、まるごと外に出すのは構築と運用の作業に、伴走は線引きと定着の作業に払う形です。DX内製化という目的に照らすと、払った先に型が社内に残るかどうかが、金額より先に見るべき点です。

比較表の読み方|「どこまでやってくれるか」の行で選ばない

比較表を見るとき、「どこまでやってくれるか」や「何を代わりにやってくれるか」で選ぶのは避けたいところです。理由は2つあります。1つ目は、やってくれる範囲が広いほど、社内に残るものが少なくなることです。全部をやってくれる支援は、やめる決定も情報の線も続けるかの判断も代わりに引き受けようとしますが、それはDX内製化の反対の方向です。範囲の広さは、内製化にとっては長所ではなく、型が外に出ていく量です。

2つ目は、やってくれる範囲は「調べる・作る」の時間を測る軸で、社内に残る型を測る軸ではないことです。この記事が問題にしているのは、支援が終わった日に社内に何が残るかであり、それを決めるのは支援の範囲ではなく線引きです。表を読むときは、「担当が代わっても残るか」と「社内の手が空くか」の2行を先に見て、費用の行は最後に見ることをすすめます。

また、3つの方法は排他ではありません。すでにシステム会社と付き合いがある会社なら、契約を変える必要はなく、その会社に出す前に社内で「やめる業務」と「渡さない情報」を決める線引きの1枚を1つ作るだけで、委託の形が内製化に寄ると私は考えています。人を増やす前に、決めごとを1枚増やすほうが先です。

自社だけで進めてよい会社の3条件|決める役1人・任せる場面1つ・線引き1枚を書く60分

正直に書きます。次の3つが揃っている会社は外部の支援は要りません。社内だけで進めて十分にDX内製化ができます。

1つ目は、社長以外に決める役を1人置けることです。管理部門長でも、現場の主任でも、「この業務はやめてよい」「この下書きは社内に通してよい」を社長に聞かずに決める人が1人いること。社長が全部決める形のままでは、支援を入れても社長の机に戻る件数は減りません。DX推進人材が不足85.5%という構造の中で、技術者ではなく決める役を1人置けるかどうかが最初の分かれ目です。

2つ目は、最初に任せる場面が1つに絞れていることです。経理の転記、営業の報告書、総務の問い合わせ対応のどれか1つ。全体最多の課題が「具体的な活用場面が不明」35.6%だった調査を思い出すと、ここが絞れているだけで、課題の最多項目を越えていることになります。1つを1ヶ月動かし、確かめる役の手順が定着してから2つ目に進む。この順番を自分たちで守れるなら問題ありません。

3つ目は、線引き1枚を書く60分を確保できることです。外に出す範囲、渡さない情報、決める役。この3点を1枚に書くのに、必要な時間は60分です。この60分を、ベンダーのメールが来た夕方ではなく、予定として取れるかどうか。取れるなら、その1枚が会社に残り、担当が代わっても続きます。

逆に、この3つのうち1つでも欠けている会社では、自社だけで進めると3つの境目のどこかで止まりやすくなります。その場合に、線引きの1枚を一緒に作り、1ヶ月1場面ずつ動かす伴走が選択肢になります。DX内製化の支援が要る会社と要らない会社は、3条件ではっきり分かれる、というのが私の考えです。

ビフォーアフター:DX内製化の1ヶ月がこう変わる

最後に、線を引く前と後の1ヶ月を並べます。数字は前の章の前提(週2件・1件135分=調べる60分+たたき台45分+社内に説明する30分・月4週)をそのまま使います。これは実績ではなく前提を置いたモデル計算です。DX内製化支援の効果を測った公的統計は存在しません。自社の件数に置き換えて読んでください。

BEFORE

現状の苦しい1ヶ月

第1週。月曜にベンダーから業務システムの追加提案が届き、同じ週に社長から「補助金でAIを入れられないか調べておいて」と頼まれます。2件です。管理部門長は総務の合間に提案書を読み、用語を調べ、補助金の要件を確認するのに1件60分。それを社長に見せられる形のたたき台にまとめるのに45分。社長に説明して「で、どうする?」と聞かれて30分。1件135分、2件で270分、4時間30分が、本来の仕事の合間に散らばります。

第2週から第3週。同じ形で週2件、週270分が続きます。AIは使っています。提案書を貼れば要約は返る。ただ、要約の先で「うちの業務にこれが要るのか」「この情報を渡してよいのか」が決まらず、毎回そこで止まります。調べるところから毎回自分で始めるので、調べる60分は減っていません。第3週の終わりには、社長への説明を先送りした案件が1件。「来週まとめて報告します」と伝えます。

第4週。通常どおり週2件で270分。第3週から先送りした1件の「社内に説明する」30分は、この週に寄ってきますが、これは第3週の270分の中にもともと含まれていた時間が後ろにずれただけで、加算ではありません。月の合計は変わらず、270分×4週=1,080分、18時間です。ずれた分だけ、社長の判断が遅れた日数が増えています。しかも、どの案件をなぜそう決めたか、なぜやめたかは、管理部門長のメモにしか残っていません。「毎回、調べるところから始めているのはなぜか」という思いが、この週に一番強くなります。

AFTER

線を引いた後の1ヶ月

第1週。月曜に届いた追加提案は、固有名詞と金額を伏せた要点だけを外の支援に渡し、用語の整理と「書かれていない前提」の下ごしらえが済んだ状態から始まります。管理部門長がやるのは、それを確かめて読む20分、型に沿って出た下書きを自社の業務に合わせて直す15分、社長に説明して決める30分。1件65分。同じ週の補助金の件も同じ形で、週130分、2時間10分。社長への説明は同じ週のうちに終わります。

第2週から第3週。週2件、週130分が続きます。変わったのは道具ではなく、管理部門長が手を付ける前に「調べる」と「たたき台」が終わっている状態から始まることです。下書きは1度決めた型で毎回同じ形で出るので、0からまとめ直すことがありません。社内に説明する30分×2件=週60分は変わらず社内が持ちます。ここは減らすものではなく、社内が持ち続けるものです。

第4週。先送りの案件はありません。週2件を週130分で処理し、月の合計は130分×4週=520分、8時間40分。減ったのは1,080分-520分=560分、9時間20分です。減っていないのは「社内に説明する」の月240分、4時間で、これはそのまま残っています。そして、やめると決めた案件は、決めた日と理由が1行、会社の1枚に残っています。3ヶ月で28時間が外れ、3ヶ月分の判断の記録が会社に残る。この2つが同時に起きるのがAfterです。

違いを生んでいるのはツールではなく線引き

BeforeとAfterで、使っている道具はほとんど同じです。AIも、付き合っているベンダーも、社内の人数も変わっていません。DX推進担当を採用してもいません。変わったのは3つだけです。外に出す範囲を下ごしらえ・型の設計・立ち上げの運転の3つに絞ったこと、渡さない情報を決めたこと、社内に通す前に決める役を置いたこと。

この3つは、人を採る作業でもツールを入れる作業でもなく、線を引く作業です。線引きに必要なのは1枚の文書と、それを会社として決める60分。そして最初の1場面を1ヶ月かけて動かし、定着したら次に進む順番です。この順番を自分たちで守れる会社は社内だけで、守りにくい会社は伴走で。どちらを選んでも、採れるまで待つ選択と、線を引かないまままるごと外に出す選択だけは避けたいところです。

うちはまだBefore寄りだ「Afterに近づけたいが、線引きの1枚を誰が書くかで止まっている」と感じた方は、次の枠で、線引きから始める伴走の中身を確認してみてください。

よくある質問

QDX内製化に外部の支援は本当に必要ですか?自社だけで進められる会社の条件はありますか?

A3つの条件が揃っている会社に外部の支援は要りません。社長以外に決める役を1人置けること、最初に任せる場面が1つに絞れていること、線引き1枚を書く60分を確保できることです。この3つが揃えば、外に出す範囲・渡さない情報・決める役を自社で決め、1場面ずつ動かせます。逆に1つでも欠けていると、場面を絞れず全部を同時に立ち上げる・情報の線が無いまま始まる・判断の記録が人に残って担当交代で戻る、の3つの境目のどこかで止まりやすくなります。IPAのDX動向2026調査ではDX推進人材の量が不足と答えた企業が85.5%で、「採れたら始める」を前提にした内製化は始まる日が来にくい構造です。要る・要らないは、人を採れるかではなく、決める型を社内に置けるかで分かれます。

QDX人材を採用したり、社内で育てたりするのと、支援を使うのはどちらが先ですか?

Aどちらより先に、最初にDX・AIを当てる場面を1つに絞り、外に出す範囲と渡さない情報を1枚に書くことをすすめます。商工中金の2026年1月調査では、導入・推進の課題の全体最多が「具体的な活用場面が不明」35.6%で、導入を検討する段階の最多が「導入を推進する人材がいない」32.0%でした。場面が決まっていない状態で人を採ると、採った人の最初の仕事が場面探しになります。DX推進人材の不足が85.5%で3年ほぼ横ばいの市場で採った人に、場面探しから始めてもらうのは順番として損です。採用や育成が悪いわけではなく、場面と線引きが先にあれば、採った人も育てた人も初日から型に沿って動けます。「推進する人材」に必要なのは技術ではなく、やめる・通す・止めるを決めて社内に通す役割です。

QDX内製化を外に出すと、結局ベンダー任せと同じになりませんか?

A出す範囲を決めなければ同じになります。違いを作るのは2点です。1つ目は、外に出すのを「調べて形にする下ごしらえ」「手順と型の設計」「立ち上げの運転」の3つに限り、「どの業務をやめるかの決定」「データと情報の線引き」「続けるかやめるかの判断」を社内に残すこと。2つ目は、成果物を下書きで止め、社内に通す前の判断を社内の人が持つことです。とくに「立ち上げの運転」は、社内の人が1人で回せるようになった時点で手を離す前提で出します。運転をずっと外に置き続けると、それはDX内製化ではなくベンダー任せに戻ります。出来上がった型と判断の記録が会社のアカウントに残っているかどうかが、内製化とベンダー任せの分かれ目です。

Q社内の情報を支援先や外部のAIにどこまで渡してよいですか?

A渡す範囲は支援先ではなく社内が決める項目で、使い始める初日に線引きの1枚へ書くことをすすめます。総務省の令和7年版情報通信白書では、生成AI導入の懸念の最多が「効果的な活用方法がわからない」で、次いで「社内情報の漏えい等のセキュリティリスク」が挙がっています。商工中金の調査でも、導入後の課題の最多は社内ルールや方針の整備に関する課題で25.1%でした。導入してからルールが無いことに気づく形が一定数ある、ということです。下ごしらえと型の設計は、固有名詞と金額を伏せた要点だけでも成り立ちます。顧客の情報・取引先との契約の中身・従業員の個人情報・未公表の数字は、渡す前に「渡さない情報」の項目で個別に決めてください。支援先から「この情報があれば精度が上がります」という提案が出たときに、応じるかどうかを決める線が先にあることが要点です。

Q費用はどれくらいかかりますか?

A自社だけで進める場合は、線引き1枚を書く60分と、社長以外に決める役を1人置く体制が費用にあたり、外部費用は0円です。DXコンサルティングやシステム会社にまるごと出す場合の費用は各社の契約により異なるため、ここでは示しません。伴走を使う場合、AI顧問はLightが 月額110,000円(税込)、Standardが 月額220,000円(税込)、Growth が月額330,000円(税込)で、最低契約は3ヶ月です。この記事のモデル計算では月560分(9時間20分)が外れる想定なので、ライトなら1分あたり約196円、1時間あたり約11,800円にあたります。この金額をどう見るかは会社ごとの判断です。型の設計と運転を自社のAI環境そのものとして組み込む場合はClaude Code構築支援(目安110万円・税込)、特定の業務の自動化ツールを作る場合はAIエージェント開発(規模により個別お見積もり(PoC→本番導入→拡張))が別の選択肢になります。

まとめ

  • IPA「DX動向2026調査のポイント」では、DXを推進する人材の量が不足していると答えた企業が85.5%で、2024年度・2023年度とほぼ同じ水準です。従業員101人以下の企業のAI導入は16.6%にとどまります。商工中金「中小企業の生成AIの利用にかかる調査(2026年1月調査)」では、導入を検討する段階の課題の最多が「導入を推進する人材がいない」32.0%、課題全体の最多が「具体的な活用場面が不明」35.6%でした。DX内製化を「採る・育てる」と読み替えた瞬間に、その前提そのものが成り立たなくなります。
  • DX内製化で社内に残すのは人ではなく「決める型」です。外の支援に出してよいのは、調べて形にする下ごしらえ・手順と型の設計・立ち上げの運転の3つ。社内が持ち続けるのは、どの業務をやめるかの決定・データと情報の線引き・続けるかやめるかの判断の3つで、成果物は下書きで止め、社内に通す前の最終判断は必ず社内の人が持ちます。他社のDX内製化支援・DXコンサルティングの費用は各社の契約により異なるため、この記事では示していません。
  • 前提を置いたモデル計算では、週2件・1件135分(調べる60分+たたき台45分+社内に説明する30分)・月4週の会社で、線を引くと週270分が130分に、月18時間が8時間40分に、3ヶ月で28時間が外れます。「社内に説明する」月4時間は減りません。DX内製化支援の効果を測った公的統計は存在せず、これは実績ではありません。AI顧問Light 月額110,000円(税込)なら1時間あたり約11,800円にあたり、どう見るかは会社ごとの判断です。
  • 商工中金の調査では個人任せが64.9%で、会社として導入した企業(36.6%)は個人登録の利用推奨(26.0%)より経営へのプラス効果を感じる割合が10%pt以上高い結果でした。総務省「令和7年版 情報通信白書」では中小企業の約半数が方針を定めておらず、懸念の最多は「効果的な活用方法がわからない」、次いでセキュリティです。決めるのは道具でも人数でもなく、線引きの1枚です。
  • 支援を入れても止まる境目は、場面を1つに絞れず全部を同時に立ち上げる・情報の線が無いまま始まる・判断の記録が人に残って担当交代で最初に戻る、の3つです。進め方は自社だけ・まるごと外に出す・線引きから伴走の3つに分かれ、社長以外に決める役1人・任せる場面1つ・線引き1枚を書く60分が揃う会社に外部の支援は要りません。揃わない会社には、線引きの1枚から始めて1ヶ月1場面ずつ動かす伴走が選択肢になります。

監修者|生成AIの導入から定着まで伴走する専門家が確認しています

吉元大輝(よしもとひろき)

株式会社BoostX 代表取締役社長

AI顧問・FDE型AI伴走支援・AIエージェント開発など、生成AIの相談から構築・現場定着までを一社で支援。業務可視化から効果測定まで、企業のAI活用を実務レベルで前に進めている。

公開日:2026年9月

この記事をシェア

読んで終わりにしないために

「自社の場合は、どうすれば?」
その答えを、30分で持ち帰る。

記事で分かるのは、一般論まで。現役の生成AI伴走顧問が、貴社の業務に当てはめて“次の一手”だけを一緒に整理します。

この30分で持ち帰れるもの

  1. 01

    自社業務に当てはめたAI活用マップ

  2. 02

    投資対効果(ROI)のシミュレーション

  3. 03

    いまの悩み・疑問への、その場の個別回答